「今夜は、どちらにしましょうか」

東京出張の夕方、そう聞かれて、手帳の隅に書き留めてある店をいくつか思い浮かべる。前に使って悪くなかった店。紹介されたまま、まだ一度も外していない店。会食の場所を決めるという作業は、たいてい、その記憶の引き出しを開けるところから始まります。

SUMMARY

結論:会食の場所には、借りる場所と自分の場所の二種類があります。 店がどれほど格式の高い個室でも、借り物であることは変わりません。一方、自分の拠点に招いた食事は、それ自体が「あなたのために場を用意した」というメッセージになります。 東京に滞在用の拠点をお持ちの経営者の方であれば、その部屋は迎賓の場に変えられます。特別な設備は要りません。 この記事では、会食の場所を「外」から「内」へ移すという発想と、その現実的な条件を整理します。

会食の場所には、借りる場所と自分の場所があります

会食の場所には、二種類あります。借りる場所と、自分の場所です。

店がどれほど格式の高い個室でも、借り物であることは変わりません。予約の時間が来れば席が用意され、時間が過ぎれば返す。そこに管理の責任はありませんが、同時に、あなたの意思も残りません。

一方、自分の拠点に招いた食事は、それ自体が「あなたのために場を用意した」というメッセージになります。料理の内容より前に、場所の選択そのものが先に伝わる。

この違いは、料理の質とは関係がありません。同じシェフが同じコースを出したとしても、店で出すのと、あなたの部屋で出すのとでは、相手が受け取る意味が変わります。場所は料理の背景ではなく、それ自体がメッセージだからです。

会食の場所選びを「どの店にするか」から「どこに招くか」に変えると、相手との関係の深さが変わります。この記事は、その変え方についての話です。

地方の経営者にとって、東京の夜はいつも借り物でした

黒い手袋をした手が、サーモンのフィレを包丁で切り分けている
その場で仕立てるので、皿の温度が動きません。

地方に本社を置き、月に何度か東京へ来る。そんな経営者の方の一夜は、たいてい似た形をしています。

昼過ぎの便で羽田に着き、打ち合わせを二つ三つ重ねる。夕方、ホテルに荷物を置く。夜は、紹介された店へ。個室を取り、二時間ほど卓を囲み、タクシーで戻る。翌朝の便で発つ。

この一夜に、悪いところはひとつもありません。店は良い店です。料理も申し分ない。相手も満足して帰られます。

ただ、この形を何年か続けていると、あることに気づきます。店は毎回変わる。相手も変わる。手元に残るのは領収書だけで、その夜が「どこで」行われたかは、どちらの記憶にも残っていない。

社長という立場で会食を重ねるほど、この積み重ならなさが効いてきます。年に何十回と卓を囲んでいるのに、そのすべてが借りた場所で行われていて、自分の側には何ひとつ蓄積されない。

そして多くの場合、その方は東京に部屋を持っています。滞在用のレジデンス、あるいは以前に求めた戸建て。月に数日しか灯りのつかないその場所が、会食の候補に入ったことは、一度もありません。

東京にいる夜、その部屋の前を通ることさえないまま、ホテルにチェックインする。家具は入っていて、掃除も行き届いている。それでも、灯りはつかない。会食の場所を店から探すという習慣は、この状態を疑わせません。場所は外にあって探すものだ、という前提が、最初に置かれているからです。

自分の場所に招くと、なぜ相手の記憶に残るのか

東京で会食の個室を押さえるという行為が相手に伝えるのは、「予算をかけた」「手配をした」という情報です。これは十分な敬意の表明であり、軽んじられるものではありません。

ただ、そこで伝わる情報には上限があります。どれほど良い個室でも、それは、どなたでも借りられる場所だからです。相手が同じ店を使ったことがある、という可能性も常に残ります。

自分の拠点に招くと、伝わる情報の質が変わります。

まず、その場所は借りられません。相手がその部屋に入れるのは、あなたが招いたからです。次に、場を用意するという手間が可視化されます。店なら電話一本で済むことを、あなたは自分の空間を開くという形で行った。そして最後に、その夜は場所の名前ではなく、あなたの名前で記憶されます。「あの日の店」ではなく、「あの社長の東京の家」として残るのです。

招かれた側から見ると、この違いはもっとはっきりしています。店の個室に通されるのは、予約の結果です。誰かの部屋に通されるのは、関係の結果です。前者は席次の話ですが、後者は、その方の生活の内側に一歩入れてもらったという話になります。

どちらが上ということではありません。ただ、後者は再現できません。同じ店にはどなたでも予約が取れますが、同じ部屋には、招かれた人しか入れないからです。

ある社長が「自分の専属シェフ」と呼んだ夜

私が印象に残っているのは、ある不動産会社の社長からのご依頼です。

その方は、ご自身のショールームに取引先をお招きして会食をされていました。理由は二つあったと伺っています。ひとつは、飲食店を貸し切るには人数が合わなかったこと。もうひとつは、ショールームまで足を運んでいただく理由をつくりたかったことです。

私が興味深く感じたのは、その方が私たちを「自分の専属のシェフ」という言い方で紹介されたことでした。招かれた側にとって、それは店の名前よりも覚えやすい情報です。場所も、料理も、その方の側にある。会が終わったあとに残ったのは、店への評価ではなく、その方への印象でした。

もうひとつ、その方が気にされていたのが、話の中身でした。込み入った内容に触れる会食では、席のまわりに誰がいるかが気になります。私たちが伺うときにその場にいるのは、招いた方と、招かれた方と、私たちだけです。私は料理を出すために伺っているので、話の内容には立ち入りません。それだけのことですが、場所が自分の側にあるというのは、そういう静けさを含んでいます。

会食の場所を自分の側に持つというのは、そういうことだと思っています。

東京の拠点が迎賓の場に変わる、三つの条件

では、実際にその部屋を迎賓の場に変えるには、何が要るのか。ご相談をいただくときに私たちが最初に確認する点を、順にお話しします。

設備は、ほとんど要りません

最も多くいただく質問は、キッチンについてです。取引先をお招きするのだから、それなりの設備が要るのではないか、と。

答えを先に申し上げると、IH一口があれば、最低限のスタートはできます。器も食材も調理器具も、私たちが持ち込みます。現地に必要なのは、火をひとつ入ることだけです。

もうひとつ、できれば食器を洗える場所がほしいです。これもない場合は要相談になりますが、対応することはできます。

設備を理由に諦めていただく必要は、ほとんどありません。

場所は、選びません

これまでに伺ったのは、大きく三つの形です。

  • タワーレジデンスのプライベートサロンで卓を囲む形
  • 住戸内、つまりお部屋の中でお迎えする形
  • 戸建てのダイニングに招かれる形

どの形でも、会は成立しています。分譲か賃貸か、広いか狭いかで、こちらからお断りすることはありません。

マンションの制約についても、そこまで厳しいことは多くありません。共用部のサロンを使う場合に、利用時間の制限がある程度です。この点だけは、事前に管理規約をご確認いただけると、設計が早く進みます。

経理を通せる形で受けられます

法人としてお支払いになる場合、書類の形が整うかどうかは実務上の大きな論点です。

見積書と請求書の発行ができます。インボイスにも対応しています。

税務上どう扱うかは、お客様の状況によって異なります。そこは顧問の税理士の方にご確認ください。私たちからお伝えできるのは、書類は整えられる、という事実までです。

招く側が当日することは、ほとんどありません

「自分の場所でやるとなると、当日は忙しいのではないか」

これも、よくいただくご懸念です。実際には逆で、招く側が当日にすることは、ほとんどありません。むしろ、何もしないでいられるように場を組むことが、私たちの仕事です。

配膳も、下げも、洗い物も、基本的にどの現場でも私たちが行っています。 ゴミについては、持ち帰ってほしいというご要望があれば、持ち帰ります。終われば片付けて、静かに引き上げる。翌朝の部屋は、前日と同じ姿に戻っています。

準備の面でも、招く側が動く場面はほとんどありません。アレルギーや苦手なものは、基本的に前日までにこちらから伺います。当日になって分かった場合も、できるかぎり対応します。相手の食の制約をあなたが覚えておいて厨房に伝える、という手間は発生しません。

会話への距離感も、ホストの側で決めていただけます。

会話が主になる会食では、私たちは無理に話に入りません。ホストから話を振られたときにお応えする、という距離を保ちます。料理の説明も同じです。必要であればお話ししますし、会話に集中したいというご要望であれば、省くこともできます。皿を置いて、下がる。それだけにすることもできます。

つまり、進行の主導権は最後までホストの側にあります。店では、料理の出るタイミングも説明の入るタイミングも、店側のリズムで決まる。自分の場所では、それがあなたの判断になります。

何もしなくていい、というのは手を抜くという意味ではありません。その夜の流れを決める権利が、招く側に戻ってくるということです。ひと夜のレストランを、あなたの側に置くと言い換えてもいいかもしれません。

まとめ

  • 会食の場所には、借りる場所と自分の場所の二種類があります
  • 店の個室が伝えられる情報には上限があります。自分の拠点に招いた夜は、場所の名前ではなく、あなたの名前で記憶されます
  • 東京の拠点を迎賓の場に変えるのに、特別な設備は要りません。IH一口と、できれば洗い場があれば始められます
  • タワーレジデンスのサロン、住戸内、戸建て。どの形でも会は成立します
  • 当日、招く側がすることはほとんどありません。戻ってくるのは、進行の主導権だけです

東京での会食の場所を、店の一覧から選ぶ必要はありません。月に数日しか灯りのつかないあの部屋も、候補のひとつです。

よくある質問

次のステップ

月に数日しか灯りのつかない東京の部屋が、取引先をお迎えする迎賓の場に変わります。器も料理も進行もこちらで持ち込み、終われば片付けて引き上げます。残るのは、「あの社長の東京の家で食事をした」という一晩の記憶です。

見積書・請求書でのお支払いにも対応しています。間取りと設備をお知らせいただければ、その場所で何ができるかをご相談できます。

Na Team Lab の出張料理と、会食の場の設計については、公式LINEにてご案内しています。

【記事本文】ここまで

取引先を自分の家に招くのは、失礼になりませんか?

会食の場所として自宅を選ぶことは、相手を軽んじる行為ではありません。むしろ、店を予約する以上の手間をかけて場を用意したという事実が伝わります。ご不安があれば、共用部のプライベートサロンを使うという中間の選択肢もあります。

費用は経費として処理できる形になりますか?

税務上の取り扱いはお客様の状況によって異なりますので、顧問の税理士の方にご確認ください。私たちからお出しできるのは、見積書と請求書です。インボイスにも対応していますので、法人としてお支払いいただく形は整えられます。

東京の滞在用に借りているマンションでも依頼できますか?

可能です。分譲・賃貸を問わず、住戸内でも戸建てでも対応しています。マンションの制約はそれほど厳しくないことが多く、共用部を使う場合に時間制限がある程度です。まずは間取りと設備をお知らせください。

川原壯太(Na Team Lab シェフ)
AUTHOR 川原 壯太 Na Team Lab シェフ

恵比寿のレストランを拠点に、年間200件を超える出張料理・会食を手がける。5味のバランスやペアリングなど「9つの原則」に基づいて食卓を設計し、料理教室・ワイン会も主宰。

Instagram @nateam.kawahara


借りるのをやめて、招く側になる。

東京の拠点に取引先をお招きする会食を、そのまま設計します。器もグラスもカトラリーも携えて伺いますので、滞在用に借りているマンションでも成立します。見積書の発行と請求書払いに対応していますので、稟議を通してからのご発注も可能です。当日、招く側にしていただくことは、ほとんどありません。

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