売り場に並ぶオリーブオイルの前で、立ち止まったことはないでしょうか。同じ「エキストラバージン」の表示なのに、数百円のものと数千円のものが隣り合っている。差の理由が分からないまま、結局は真ん中あたりの価格帯に手を伸ばす。多くの方が、そうしていると思います。

私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。オリーブオイルの選び方で鍵になるのは、価格でも産地でもありません。その1本を「いつ使うか」です。

SUMMARY

結論:オリーブオイルの選び方は「良い1本を選ぶ」ことではなく、火入れ用と仕上げ用の2本に分けることから始まります。 「エキストラバージン」という表示は、日本のJAS規格には定義そのものが存在せず、それだけで品質を判断することはできません。 売り場で使える手がかりは容器です。ペットボトルや紙パックは酸化しやすく火入れ向き、瓶詰めは酸化を抑えられるため仕上げ向きと考えられます。 価値のあるオイルほど、火を止めてから使います。加熱すると、そのオイルの価値であるフレッシュな香りが落ちてしまうからです。

関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れ塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。

オリーブオイルの選び方は、2本に分けるところから始まります

多くの方は、オリーブオイルを「良いものを1本」買おうとします。予算の許すかぎり質の高いものを選び、それをすべての料理に使う。自然な考え方です。

けれど、厨房のオイルははじめから2本に分けて置いてあります。火を入れるためのものと、火を止めてから使うためのものです。

理由は単純です。オリーブオイルを火にかけると、フレッシュな香りがどうしても落ちてしまいます。高価なオイルの価値は、まさにその香りにあります。つまり高いオイルを加熱に使うことは、その1本のいちばん価値のある部分を、料理が始まる前に飛ばしてしまうことにほかなりません。

逆に、くっつき防止のために鍋肌へ回すオイルに、高い香りは要りません。どのみち、火の中で消えていくからです。

1本ですべてを兼ねようとすると、どこかで無理が出ます。だから、2本に分けます。

「エキストラバージン」の表示は、日本では品質を保証していません

仕上げにオリーブオイルを使う料理人の手元
香りを生かすオイルは、火を止めてから料理へ加えます。

とはいえ、売り場で最初に目に入るのは容器ではなく、ラベルの「エキストラバージン」の文字です。この表示が何を意味しているのかを整理しておきます。

JAS規格にある区分は、2つだけです

  • オリーブ油(酸価2.0以下、オリーブ特有の香味を有し、おおむね清澄であること)
  • 精製オリーブ油(酸価0.60以下、おおむね清澄で、香味良好であること)

規格の全文を確認しても、「エキストラバージン」「バージン」という語は一度も出てきません。 一般社団法人日本植物油協会も、この規格について「極めて単純な規格で、実際の流通には利用されていないのが現実です」と記しています。

表示そのものが無意味だという話ではありません。ただ、その4文字だけを頼りに品質を判断することはできない、ということです。

国際規格が定めるエキストラバージンの条件

  • 遊離酸度(オレイン酸換算)が100gあたり0.80g以下であること
  • 官能検査において、欠陥の中央値が0.0であること
  • 官能検査において、果実味の中央値が0.0を上回ること

数値だけの基準ではない、という点が重要です。エキストラバージンとは、専門の検査員が味わって、欠点がひとつも認められず、果実味があると認定されたものを指します。本来は、かなり厳密な等級です。ただし、その認定を国内で確かめる手立てが、買う側にはありません。

等級の意味 ― 酸度と製法で分かれます

国際オリーブ協会の規格では、オリーブオイルは製法と酸度によって段階的に分けられています。前提として、バージンオリーブオイルとは、オリーブの果実から機械的または物理的な手段だけで搾られた油です。溶剤を使ったり、油そのものを変質させる熱を加えたりしたものは、この区分に入りません。

等級製法遊離酸度の上限位置づけ
エキストラバージン機械的・物理的手段のみ0.80g以下そのまま食用にできる最上の区分
バージン機械的・物理的手段のみ2.0g以下そのまま食用にできる
ランパンテバージン機械的・物理的手段のみ3.3g超食用不可。精製用または工業用
精製オリーブオイルバージンオイルを精製0.30g以下香味成分は失われる
オリーブオイル(調合)精製+バージンの調合1.00g以下いわゆる「ピュア」
オリーブポマースオイル搾りかすを処理・精製し調合1.00g以下別区分

興味深いのは、酸度の低さが等級の高さと一致していない点です。精製オリーブオイルの酸度上限は0.30gで、エキストラバージンの0.80gより低い数値です。けれど精製の工程で、香味成分は失われています。酸度は品質の一面でしかない、ということです。

なお規格では、ポマースオイル(搾りかすから得られた油)を「オリーブオイル」の名称で販売することは認められていません。

容器を見れば、そのオイルの役割が分かります

私が一つの目安にしているのは、ラベルではなく容器です。

ペットボトルや紙パックに入ったオイルは、どうしても酸化しやすくなります。そのため、この容器が選ばれているものは、価格帯としても手に取りやすいものが多くなります。一方、瓶に詰められたオイルは酸化を最小限に抑えられます。作り手が香りを守ろうとしている、という意思表示でもあります。

容器酸化価格帯の傾向向いている役割
ペットボトル・紙パックしやすい手に取りやすいものが多い火入れ用
瓶詰め抑えられる品質の高いものが多い仕上げ用

一つの指標として、紙やペットボトルのオイルは火入れ用、瓶詰めは仕上げ用と覚えておくと、売り場での迷いが減ります。例外はありますが、表示の文字を読み比べるより、はるかに早く役割の見当がつきます。

火入れ用と仕上げ用、それぞれの居場所

火を入れる前に使うオイル

手に取りやすい価格帯のオイルは、火を入れる料理で働きます。私が日常的に使っているのは、次のような場面です。

  • フライパンに食材がくっつかないようにするためのオイル
  • アヒージョ
  • ペペロンチーノ

いずれも、はじめから火入れを前提として使うオリーブオイルです。求められるのは繊細な香りではなく、量を惜しまず使えることです。

火を止めてから使うオイル

瓶詰めの、香りの立つオイル。これは火入れが終わったあとに使います。

場面使うオイル容器の目安
くっつき防止・炒める火入れ用ペットボトル・紙パック
アヒージョ・ペペロンチーノ火入れ用ペットボトル・紙パック
仕上げのひと筋・生の前菜仕上げ用瓶詰め

仕上げ用にも型があります ― 青さと、マイルドさ

仕上げ用のオイルと一口に言っても、実際には何種類もあります。私が厨房で使い分けているのは、大きく2つの型です。

種まで一緒に搾って、青さを出しているオイル。 そして、種を抜いてマイルドに仕上げているオイル。

同じ果実から搾られていても、種を含めるかどうかで印象が変わります。青さのあるオイルは香りに立ち上がりがあり、輪郭がはっきりします。種を抜いたものは角がなく、素材に寄り添う方向に働きます。

私はこれを、その日の食材や料理の内容によって選んでいます。どちらが優れているという話ではありません。皿の上で何を立たせたいかによって、選ぶ型が変わるということです。

保存は、早めに。ただし焦らなくて構いません

開封後の扱いについて、よくご質問をいただきます。

基本は、早めに使ったほうがよい。これは確かです。ただ、急激に酸化して味わいが落ちてしまうようなことは、あまり起こりません。 オリーブオイルの保存については「開封したら短期間で使い切るように」と急かされがちですが、厨房で扱っている感覚からすると、そこまで身構える必要はありません。

置き場所については、コンロのすぐ横のような、熱を受け続ける場所を避けておくと安心です。瓶詰めを選んでいるのであれば、容器の側がすでに酸化を抑える役割を果たしてくれています。

急いで使い切ろうとして、仕上げ用のオイルを炒め物に回してしまう。これがいちばんもったいない使い方です。

売り場で私が見ている3点

  • 容器を見る。瓶詰めか、ペットボトル・紙パックか。それだけで、そのオイルがどちらの役割に向いているかの見当がつきます
  • その1本を、火にかけるか決める。火にかけるつもりなら、香りに費用をかける必要はありません。火を止めてから使うなら、そこは惜しまない
  • 仕上げ用なら、青さかマイルドさか決める。種ごと搾ったものか、種を抜いたものか。合わせたい料理から逆算します

「エキストラバージン」の表示は、この3点の手前にあるものだと考えています。表示を確かめないという意味ではなく、表示だけでは最後まで決められないという意味です。

味の違いは、舌でしか分かりません

ここまでオリーブオイルの選び方を言葉で整理してきましたが、正直に申し上げると、青さとマイルドさの違いは、文字ではお伝えしきれません。 並べて舌にのせれば、数秒で分かります。

恵比寿のNa Team Labでは、八席のレストランをそのまま教室として使い、料理教室を開いています。デモンストレーション形式で、私が3品を実演します。回によっては、オリーブオイルの飲み比べのようなことをすることもあります。

  • 1回 6,000円(税込・ドリンク込み)
  • 入会金なし・1回完結
  • 8名限定・2時間
  • 土日の昼12時スタート、月替わりのレッスン
  • 場所:恵比寿 Na Team Lab

まとめ

  • オリーブオイルの選び方は「良い1本」を探すことではなく、火入れ用と仕上げ用の2本に分けることから始まります
  • 「エキストラバージン」の表示は、日本のJAS規格に定義そのものが存在しません。国際オリーブ協会の規格では、酸度0.80g以下に加え官能検査で欠点が認められないことが条件ですが、それを国内で確かめる手立てはありません
  • 売り場での手がかりは容器です。ペットボトル・紙パックは火入れ用、瓶詰めは仕上げ用が一つの目安になります
  • 高価なオイルを加熱に使うと、その価値であるフレッシュな香りが先に落ちてしまいます。火を止めてから使うのが理想的です
  • 仕上げ用には、種ごと搾った青さのあるものと、種を抜いたマイルドなものがあり、食材や料理の内容で使い分けます
  • 開封後は早めに使うのが基本ですが、急激に味わいが落ちることは少ないため、焦らずに使って構いません

よくある質問

高いオリーブオイルは、安いものと何が違うのですか?

大きな違いは香りのフレッシュさです。加熱すればその香りは落ちてしまうため、価格差が意味を持つのは仕上げに使うときになります。搾り方の違いもあり、種ごと搾ったものは青さが出て、種を抜いたものはマイルドに仕上がります。

オリーブオイルを加熱すると体に悪いのですか?

レストランでも、火入れ用のオリーブオイルを日常的に使っています。私たちが加熱用と仕上げ用を分けているのは、健康のためではなく香りのためです。加熱するとフレッシュな香りが飛んでしまうため、香りを活かしたいオイルは火を止めてから使います。

オリーブオイルが白く固まってしまいました。使えますか?

低い温度に置かれると、成分の一部が固まって白く濁ることがあります。これは品質の異常とはかぎりません。常温に戻せば元の状態に戻ります。冷蔵庫や冬場の寒い場所に置いていた場合に起こりやすいので、心配であれば香りを確かめてからお使いください。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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