先週と同じ肉を買い、同じレシピを開き、書かれた通りに片面3分ずつ焼く。それなのに、今日のステーキは中まで火が入りすぎている。あるいは、切ってみたら中心がまだ冷たい。ステーキの焼き方でつまずくとき、原因は腕ではなく、「何分焼くか」で覚えていることにあります。
ミディアムレアが何分の結果なのかは、どなたにも答えられません。分数は、条件が変われば別の結果になるからです。
私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。毎晩、肉に火を入れながら考えているのは火加減ではありません。この一枚を、どこで止めるかということです。この記事では、焼き加減を中心温度で捉え直す方法と、断面と手応えでの見分け方をお伝えします。
結論:ステーキの焼き方は、焼く時間ではなく中心温度で決まります。 同じ「片面3分」でも、厚みと肉の温度が違えば、中心に届く熱はまったく変わります。 中心温度の基準は、厚生労働省が食肉の加熱条件として示している数値を使ってください。中心部75℃で1分間、これと同等の条件として65℃で15分までが示されています。 私はこの幅の中で、ミディアムレアを狙って仕上げています。火にかけると外すを繰り返し、中心へ静かに温度を運んでいく。確認するのは、いつも終盤です。 ご家庭では中心温度計をお使いください。弾力で判断できるようになるのは、そのあとです。
関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れと塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。
ステーキの焼き方は、時間ではなく中心温度で決まる
分数が当てにならないのは、時間が結果そのものではなく、結果にたどり着くまでの道のりでしかないからです。
同じ3分でも、厚さ2センチの肉と4センチの肉では、中心に届く熱がまるで違います。冷蔵庫から出したばかりの肉と、常温に戻した肉でも違います。フライパンの温まり方や火力が変われば、同じ3分は別の意味を持ちます。
時間は、厚み・肉の出発温度・火力という条件が揃って、はじめて意味を持つ数字です。レシピの分数は、書いた人の台所で成立した記録であって、あなたの台所の答えではありません。
だから、見るものを入れ替えます。何分焼いたかではなく、中心が何度になっているか。この軸に持ち替えると、ステーキの焼き方は再現できるものになります。レアもミディアムレアもミディアムも、時間の長短ではなく、中心温度をどこまで運んだかの違いとして並びます。
お店では、ミディアムレアを狙っています

私が提供しているステーキは、基本的にミディアムレアです。理由は単純で、それが一番美味しいと思っているからです。
焼き加減はお好みで選ぶもの、という言い方があります。それは正しいのですが、作り手の側は、どこかに着地点を決めていないと手が動きません。今日はここに置く、と先に決めるからこそ、そこへ向けて温度を運べます。
仕上がりの状態を先に決めて、そこから逆算して手順を組む。この設計という考え方が、Na Team の土台にあります。
ご家庭でも、フライパンを火にかける前に一度決めてみてください。今日は中心を赤く残したいのか、ロゼ色で止めたいのか、しっかり火を通したいのか。決めてから焼き始めた肉と、焼きながら考えた肉では、仕上がりの揃い方が変わります。
焼き加減の違いは、断面と手応えに出る
レア、ミディアムレア、ミディアム、ウェルダン。これらは温度の名前というより、断面がどう見えるかの段階を指す呼び名です。
- レア:中心に赤みがしっかり残り、色の変化が周囲だけにとどまっている状態
- ミディアムレア:中心が淡いロゼ色になり、その外側へ向かってゆるやかに色が変わっていく状態
- ミディアム:赤みが引き、中心にピンクの芯が残っている状態
- ウェルダン:断面全体が均一に色を変え、赤みもピンクも残っていない状態
押したときの返りも変わります。火が入るほど、指を押し返す力は強くなります。ただ、この手応えを一覧表にして覚えるのはおすすめしません。返りは肉質によって変わるからです。
中心温度の基準は、厚生労働省の数値を使う
ここからは、具体的な数値の話に入ります。使うのは、厚生労働省が示している公的な基準です。
厚生労働省の「食肉の加熱条件に関するQ&A」では、食肉による食中毒防止のための加熱条件として、中心部を75℃で1分間加熱することが示されています。そして大切なのは、これと同等の条件があわせて示されていることです。
| 中心温度 | 保持時間 |
|---|---|
| 75℃ | 1分 |
| 70℃ | 3分 |
| 69℃ | 4分 |
| 68℃ | 5分 |
| 67℃ | 8分 |
| 66℃ | 11分 |
| 65℃ | 15分 |
この表が語っているのは、低い温度で長く火を入れても、殺菌の条件としては同じだということです。65℃で15分保持することと、75℃で1分加熱することは、同じ意味を持ちます。
そして仕上がりは、同じではありません。強い火で一気に75℃まで持っていった肉は、水分が逃げてパサつきます。低い温度側を長く使った肉には、水分が残ります。安全か、美味しいかの二択ではなく、基準の中に、美味しく仕上げる幅がある。ステーキの焼き方を考えるとき、私はこの幅の中で着地点を探しています。
同じQ&Aには「中心温度計の適切な使用により、食肉の中心部の温度が目標とする温度を下回らないことを確認する」必要があるとも書かれています。ご家庭では、測ることを基本にしてください。
火入れは、冷蔵庫から出した時点で始まっている
私の中で、ステーキを焼く作業はフライパンに肉を乗せた瞬間に始まるものではありません。冷蔵庫から出したタイミングから、すでに始まっています。
お店では、次の順で進めています。
1. 冷蔵庫から出し、冷蔵の温度帯から常温にゆっくり戻す
2. ヒートランプを使い、徐々に中心の温度を上げていく
3. フライパンに移し、弱火で火を入れる
4. 中心まで火が入り始めたら、余熱と火入れを繰り返す
5. 終盤に、弾力と金串で火入れの状態を確かめる
一般的なレシピと見比べると、違いがはっきりします。レシピは「片面◯分焼く、裏返して◯分、外して休ませる」という一方通行の手順です。私がやっているのは、火にかけると外すの往復です。一度で決めようとせず、中心へ少しずつ温度を寄せていきます。
もう一つ、順番として大事なのは、確認は終盤に行うということです。序盤から何度も押したり刺したりはしません。徐々に温度を上げる工程を信じて、着地の手前でだけ確かめます。早い段階で触っても、まだ答えが出ていないからです。
家庭のコンロに置き換える
ヒートランプは業務用の設備で、ご家庭にはありません。代わりになるのは、弱火の時間と火からおろす判断です。
- 焼く前に、冷蔵庫から出して常温に戻す時間を取る
- フライパンでは弱火を基本にし、急いで温度を上げない
- 火が入り始めたら、いったん火からおろす。少し置いて、また戻す
- 触って確かめるのは、仕上がりが近づいてからにする
厚みで変わるのは、時間ではなく温度の上がり方
ステーキの焼き方を厚み別に説明した表を、よく見かけます。1.5センチなら片面何分、3センチなら何分、という形式です。私はこの形で覚えることをおすすめしていません。厚みが変えているのは時間ではなく、中心温度の上がり方だからです。
| 厚み | 中心温度の上がり方 | 意識すること |
|---|---|---|
| 分厚い肉 | 上がるまで時間がかかる | ゆっくり火を入れる |
| 薄い肉 | すぐに上がる | 火を入れすぎない |
分厚い肉は、中心まで温度が届くのに時間がかかります。だからこそ、急がずに運ぶ必要があります。表面だけを強火で追い立てても、中心は追いついてきません。
そして、意外に思われるのが、薄い肉のほうが難しいという点です。薄い肉は中心温度がすぐ上がります。上がり切って、そのまま通り過ぎてしまう。気づいたときには、狙った焼き加減を越えています。厚い肉には間に合わせる余地がありますが、薄い肉に残されているのは、行き過ぎない注意だけです。
薄い肉を焼くときほど、火からおろすタイミングを早めにしてください。止めるのは、狙いの手前です。火を止めたあとも、外側に蓄えられた熱は中心へ移動し続けます。
温度計を使わない判断は、経験の話です
親指と人差し指をくっつけたときの、手のひらの付け根の硬さ。それがレアの弾力で、指を変えていくとミディアムになる。この方法をご存じの方も多いと思います。
私の考えでは、それも一つの考え方として覚えておくとよいという程度のものです。否定はしません。ただ、決め手にはなりません。
理由は、先ほどお話しした通り、肉質によって弾力が変わるからです。手のひらの硬さは毎回同じでも、肉のほうが毎回違います。部位が変われば、脂の入り方が変われば、指に返ってくるものは変わります。固定の対応表にはならないのです。
では料理人は何を見ているのか。私の場合は、肉の弾力、そして金串です。中心に刺した金串に伝わった熱を、下唇のいちばん温度に敏感なところに当てて確かめます。フライパンの温度は、音で分かります。
けれどこれは、毎日繰り返して身についた感覚です。何度も焼いて、この弾力ならこの火入れ具合だ、と体で覚えていくしかありません。近道は、測ることです。数値と感覚を一致させていくうちに、測らない判断のほうが自然と身についていきます。順番が逆なのだと思います。
焼き加減は、断面で覚えるのがいちばん速い
ここまで温度と手順の話をしてきました。正直なところ、焼き加減は断面を一度見るのがいちばん速いと思っています。
中心をロゼ色で止める、と読んで頭で理解することと、その断面を目で見ることは、身につき方がまったく違います。火入れが足りない断面、狙い通りの断面、火が入りすぎた断面。この3つを並べて見た経験があるかどうかで、次に自分が焼くときの判断は変わります。
恵比寿のNa Team Labでは、八席のレストランをそのまま教室として使い、料理教室を開いています。私が実演し、参加者の皆さまには見て、味わっていただく形式です。切った断面をその場でお見せできるのは、この形だからできることだと思っています。
- 1回 6,000円(税込・ドリンク込み)
- 入会金なし・回数の縛りなし
- 8名限定・2時間
- 場所:恵比寿 Na Team Lab
まとめ
- ステーキの焼き方は、焼く時間ではなく中心温度で決まります。片面◯分は、厚みや火力が変われば別の結果になります
- 私はミディアムレアを狙って提供しています。作り手の側が着地点を先に決めることで、仕上がりが揃います
- レア・ミディアムレア・ミディアムの違いは、断面の色の段階として覚えてください。手応えは肉質で変わるため、対応表にはなりません
- 中心温度の基準は、厚生労働省が示す数値を使います。中心部75℃1分と同等の条件として、65℃15分までが示されています
- 厚い肉はゆっくり運び、薄い肉は入れすぎに注意する。難しいのは、通り過ぎやすい薄いほうです
よくある質問
ステーキのミディアムレアは、中心温度何度が目安ですか?
ご家庭では、厚生労働省が示す食肉の加熱条件を基準にしてください。中心部75℃で1分間、これと同等の条件として65℃で15分までが示されています。焼き加減は、この幅の中でどこに着地させるかという判断です。
温度計がなくても、ステーキの焼き加減は分かりますか?
手のひらの付け根の硬さと比べる方法は、一つの考え方として覚えておくとよいと思います。もっとも、肉質によって弾力は変わるため、決め手にはなりません。何度も焼いて、この弾力ならこの火入れ具合、と体で覚えていくものです。まずは測ることをおすすめします。
厚いステーキと薄いステーキ、難しいのはどちらですか?
薄いほうが難しいと感じています。厚い肉は中心温度が上がるまで時間がかかるので、ゆっくり火を入れれば追いつけます。薄い肉は中心温度がすぐ上がり、気づいたときには通り過ぎています。薄い肉ほど、火を入れすぎないことを意識してください。
味が変わる瞬間を、恵比寿の八席で。
現役シェフの実演を見て、完成した料理を味わい、判断の理由まで質問できる少人数の料理教室です。
