お菓子のレシピに「無塩バター 100g」と書いてある。けれど冷蔵庫にあるのは、いつも使っている有塩バターだけ。これで作ったら、どうなるのだろう。そう思って手が止まった経験は、料理をする方なら一度はあるのではないでしょうか。
私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。厨房には有塩バターと無塩バターの両方があり、毎日その日の用途で使い分けています。この記事では、有塩バターと無塩バターの違いを整理したうえで、代用するときに何グラムの塩を引けばよいかまで、具体的にお伝えします。
結論:有塩バターと無塩バターの違いは、製造時に約1.5%前後の食塩を加えるかどうかだけです。 乳脂肪分やつくり方そのものに大きな差はなく、加わっているのは塩と、それに伴うわずかな日持ちの差です。 製菓では配合の塩分を自分で決めたいので無塩を、料理では最後に塩を足すことを前提に有塩を選ぶ。この分け方が実務的です。 大切なのは、有塩を使うときにバターの塩を「勘定に入れる」こと。そのぶん仕上げの塩を引けば、塩辛くなりすぎません。 この記事では、成分の違いと用途別の使い分け、有塩で代用するときの塩の引き算を、分量別に整理します。
関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れと塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。
結論|違いは、塩分1.5%前後の有無だけ
有塩バターと無塩バターの違いは、製造の最後に食塩を加えるかどうかです。
加える量は、およそ1.5%前後。商品によって幅がありますが、大きくは外れません。バター100gに1.5g程度の塩が入っている、と考えてください。無塩バターは「食塩不使用」と表示されることが多く、ゼロではないものの、含まれるナトリウムは原料乳に由来するごく微量です。
押さえておきたいのは、それ以外に大きな差はないということです。乳脂肪分もつくり方も原料も、基本は同じ。つまりこれは素材の違いではなく、調味の違いです。だから使い分けも、素材選びではなく味の設計として考えることになります。
成分の違いを、数字で並べる

違いが塩だけだとしても、その塩が周辺に差を生みます。
| 項目 | 有塩バター | 無塩バター |
|---|---|---|
| 食塩 | 約1.5%前後を添加 | 添加なし(乳由来の微量のみ) |
| 賞味期限 | 比較的長め | 短めに設定されることが多い |
| 価格・流通 | 安価で入手しやすい | やや高く、置いていない店もある |
| 風味 | 塩味があり、輪郭がはっきりする | 乳の甘みと香りが素直に出る |
日持ちの差は、塩に保存性があることから来ています。ただし冷凍してしまえば、この差は実務上ほとんど問題になりません。「無塩は傷みやすいから避ける」という判断は、必要ないと思います。
風味の差は、思っているより大きく出ます。無塩をそのまま口に入れると乳の甘さがはっきり分かり、有塩にはその手前に塩の輪郭があります。同じ素材なのに、印象がまったく違う。
どちらを使うか、用途で決める
では、どちらを使えばよいのか。用途で決めるのがいちばん簡単です。
| 用途 | どちらを選ぶか | 理由 |
|---|---|---|
| お菓子・パン(製菓) | 無塩 | 配合の塩分を自分で決められる |
| 仕上げのソース | 有塩でも可 | 最後に塩を足す前提なら、勘定に入れれば済む |
| 炒め物・ソテー | どちらでも | 有塩のほうが手数が減る |
| 焦がしバター | どちらでも | 香りが主役。塩は勘定に入れる |
| パンに塗る | 有塩 | 塩味があるほうが、素直においしい |
製菓で無塩が指定されるのは、塩を入れたくないからではありません。お菓子にも塩は入ります。ただ、その量をレシピの側で決めておきたい。バターが持ち込む塩が読めないと、配合が設計できないのです。料理は最後に味を見て塩を足す前提で進むため、途中で入る塩はあとから引けます。引けるなら、有塩でも困りません。
有塩で代用するときの、塩の引き算
レシピに「無塩バター」とある。手元には有塩しかない。このとき、使ってはいけないということはありません。バターに含まれる塩のぶんだけ、レシピの塩を引けばよいだけです。
計算は単純です。有塩バターの重さ × 1.5% = 加わる塩の量。分量別に出しておきます。
| 有塩バターの分量 | 含まれる塩の目安 | レシピの塩から引く量 |
|---|---|---|
| 10g | 約0.15g | ほぼ誤差 |
| 20g | 約0.3g | ひとつまみ弱 |
| 50g | 約0.75g | 約0.75g |
| 100g | 約1.5g | 約1.5g |
| 200g | 約3g | 約3g |
食塩は小さじ1でおよそ6gです。100gのバターに含まれる1.5gは、小さじ4分の1程度。この換算を覚えておくと、台所で計算しやすくなります。
注意点が2つあります。ひとつは、引ききれない場合があること。レシピの塩がひとつまみしかないのに、バターから1.5g入る。塩をゼロにしても、まだ多いことになります。焼き菓子なら大きくは崩れませんが、繊細な生地では仕上がりが変わります。
もうひとつは、塩の位置が変わること。レシピの塩は生地全体に散りますが、バターの塩は油脂の中にあります。数字は目安として、最後は味で判断してください。
店では、スイーツに無塩・料理に有塩を使っています
私の厨房での使い分けは、はっきりしています。スイーツには無塩バター、料理には有塩バター。
スイーツに無塩を使うのは、多少の塩味でも、味わいに影響を与えるからです。デザートは砂糖と乳脂肪の甘さが土台にあり、そこに置く塩はごく少量。少ないぶん、わずかな差が輪郭を変えます。無塩なら、その一点を自分で決められます。
料理に有塩を使う理由は、その逆です。最終的に塩味を加えるのを前提に作っているので、バターにも塩味が入っているものを選びます。どうせ足すのなら、途中から入っていて構いません。
ただし、条件がひとつあります。有塩バターを使うときは、塩味のトータルバランスの中にバターを入れておくこと。バターを入れれば塩味が加わる、という認識を持っておく。それだけで、塩辛くなりすぎるのを防げます。
私はバターを、油脂としてだけ見ていません。塩味の一部として勘定に入れています。ソースに30gのバターを落とすなら、そこに0.5g弱の塩が入る。そのぶん、仕上げの塩は引く。この引き算をしているかどうかで、皿の上の塩味は変わります。
発酵バター・グラスフェッドバターとの違い
売り場には「発酵バター」「グラスフェッドバター」も並んでいます。発酵バターはクリームを乳酸菌で発酵させてからつくったもので、香りに酸味と厚みが出ます。グラスフェッドバターは牧草で育てた牛の乳からつくられ、色がやや黄みを帯びます。
大事なのは、これらと「塩の有無」は別の軸だということです。どちらにも有塩と無塩があります。売り場で迷ったら、まず塩の有無を決めてください。そのあとで、香りの好みを選ぶ。
バターの扱いで、味は変わる
同じバターでも、扱い方で仕上がりは変わります。店で意識していることを、2つだけお伝えします。
仕上げは、溶け始めで乳化させる
仕上げにバターを使う場面では、バターが溶け始めたタイミングくらいで乳化させて、ソースにすることが多くあります。完全に溶かしきってから混ぜるのではありません。溶け始めた、その途中で動かす。ここで乳化させるとソースにとろみと艶が出ますが、溶かしきると油が分離して浮いてきやすくなります。家庭でも、火を止めてから小さく切ったバターを落とし、鍋を揺らしながら溶かしていくと近づきます。急がないことが、いちばんのコツです。
焦がしバターは、焦げ始めで止める
焦がしバターは、意図してつくるだけのものでもありません。肉を火入れしていく中でバターを溶かし、肉にアロゼしていく。アロゼは、溶けたバターをスプーンで肉にかけながら火を入れていく手法です。その過程でバターが少しずつ焦げていき、結果的に焦がしバターになる。そしてその焦がしバターで、ソースを作ります。
気をつけているのは、止めどきです。焦げすぎると、香りが焦げの香りに支配されていきます。ナッツのような香ばしさは消え、苦みだけが残る。だから焦がしバターは、焦げ始めたタイミングで止めることが大事です。
塩を、自分で決められるようになる
有塩バターと無塩バターの違いは、覚えてしまえば数行で終わる話です。けれど「バターの塩を勘定に入れる」という感覚は、文字では伝わりきりません。0.5gの塩が皿の上でどう効くかは、舌でしか分からないからです。
恵比寿のNa Team Labでは、八席のレストランをそのまま教室として使い、料理教室を開いています。同じソースを、塩を引いたものと引かないもので比べていただくこともできます。
- 1回 6,000円(材料費を含む)
- 入会金なし・回数の縛りなし
- 8名限定・2時間
- 場所:恵比寿 Na Team Lab
有塩バターの塩分は何グラム? 換算の早見表
有塩バターの塩分は製品によって違いますが、おおむね100gあたり1.5〜2g前後です。正確な量は、パッケージの栄養成分表示の「食塩相当量」で確認できます。ここでは目安として、100gあたり1.5gで計算した表を載せます。
| 有塩バターの量 | 含まれる塩の目安(1.5%で計算) | 無塩バターで代用するとき足す塩 |
|---|---|---|
| 10g | 約0.15g | ひとつまみより少なめ |
| 20g | 約0.3g | ひとつまみ程度 |
| 50g | 約0.75g | 小さじ1/8強 |
| 100g | 約1.5g | 小さじ1/4程度 |
| 200g | 約3g | 小さじ1/2程度 |
逆に、無塩バター指定のお菓子を有塩バターで作るときは、レシピの塩を減らすか、省いてください。料理の場合は、仕上げの塩をいつもより控えめにして、味見してから足すのが確実です。
まとめ
- 有塩バターと無塩バターの違いは、約1.5%前後の食塩の有無だけ。乳脂肪分やつくり方に大きな差はありません
- 製菓で無塩が指定されるのは、配合の塩分をレシピの側で決めたいからです
- 料理で有塩を使えるのは、最後に塩を足す前提だから。ただしバターの塩を勘定に入れることが条件です
- 代用するときは、バターの重さ × 1.5% を、レシピの塩から引く。100gなら約1.5g、小さじ4分の1ほどです
- 焦がしバターは焦げ始めたタイミングで止める。焦げすぎると、香りが焦げの香りに支配されます
よくある質問
無塩バターは有塩バターより日持ちしないのですか?
塩には保存性があるため、無塩バターのほうが賞味期限は短めに設定されていることが多くあります。ただし使う分以外を冷凍しておけば、この差は実務上ほとんど気になりません。日持ちを理由に無塩を避ける必要はない、と考えています。
お菓子づくりで有塩バターを使うと、どうなりますか?
失敗するわけではありませんが、配合の塩分が読めなくなります。バター100gにつき約1.5gの塩が加わる計算になるため、レシピの塩をそのぶん引いてください。引ききれないほど塩の指定が少ない場合は、仕上がりの印象が変わることを見込んでおくと安心です。
バターはどう保存すればよいですか?
匂い移りと酸化を避けることが基本です。開封後は切り口を包み直し、密閉できる容器に入れてください。すぐに使わない分は、使いやすい大きさに切ってから冷凍しておくと扱いやすくなります。冷凍すれば、有塩と無塩の日持ちの差も気になりません。
有塩バター100gに塩は何グラム入っていますか?
製品によって違いますが、おおむね1.5〜2g前後です。正確な量は、パッケージの栄養成分表示の「食塩相当量」で確認できます。
無塩バターに塩を足して有塩バターの代わりにできますか?
できます。無塩バター100gに対して塩1.5g(小さじ1/4程度)が目安です。料理なら、仕上げで味見しながら調整すると失敗しません。
味が変わる瞬間を、恵比寿の八席で。
現役シェフの実演を見て、完成した料理を味わい、判断の理由まで質問できる少人数の料理教室です。

