「ソムリエをお呼びしましょうか」。レストランでそう言われて、少し身構えたことはないでしょうか。

来てくださるのはありがたい。ただ、何を聞けばいいのかが分かりません。知識を試されるような気がして、「大丈夫です」と答えてしまう。そういう夜を過ごした方は、少なくないと思います。

ソムリエとは、そもそもどこまでを担う人なのか。資格はどれくらい難しいのか。ワインエキスパートとは何が違うのか。日本ソムリエ協会が公表している一次資料をもとに、その輪郭を整理していきます。

なお、野菜ソムリエと温泉ソムリエは、それぞれ別の団体が認定する別の資格です。この記事では扱いません。

SUMMARY

結論:ソムリエとは、飲食店でワインの仕入れ・保管・提案・サービスを担う専門職です。 日本では一般社団法人日本ソムリエ協会(JSA)が認定しています。受験には飲食の実務経験が要り、経験のない方は「ワインエキスパート」という別の資格を受験します。 2025年の合格率は、ソムリエが19.9%、ワインエキスパートが26.4%でした。 なお「ソムリエ」の名称使用を制限する法律はなく、資格がなくても名乗ること自体は禁じられていません。

関連する考え方は、ワイン会の流れ会の目的を見分ける視点でも紹介しています。

結論|ソムリエとは、飲食店でワインを担う専門職です

ソムリエとは、飲食店でワインの仕入れ・保管・提案・サービスを担う専門職です。日本では、一般社団法人日本ソムリエ協会(JSA)が「J.S.A.ソムリエ」を認定しています。

JSAはこれを「呼称資格」と呼んでいます。国家資格ではなく、協会が名乗ることを認める資格、という位置づけです。

受験には飲食の実務経験が要ります。経験のない方が受けるのは「ワインエキスパート」という別の資格で、ここがソムリエ資格をめぐって最も誤解されている一点だと感じています。

ソムリエの仕事は、注ぐ前にほとんど終わっている

料理とワインを囲むNa Team Labのテーブル
記事のテーマを、Na Team Labの実際の料理とワインから考えます。

JSAは、受験資格の要件として〈ソムリエの職務〉の範囲を定めています。挙げられているのは、次の四つです。

  • 酒類・飲料を提供する飲食サービス
  • 酒類・飲料の管理・仕入れ、輸出入、流通・卸、販売、製造
  • 酒類・飲料に携わる教育機関講師
  • 酒類・飲料に関するコンサルタント

協会自身が、ソムリエの仕事を「注ぐこと」に限定していません。整理すると、日々の仕事は仕入れ・保管・提案・サービス・教育の五つに分かれます。このうちお客さまの目に触れるのは、提案とサービスの二つだけです。

Na Team Lab の八席の夜を例に、注ぐ側の時間割を並べてみます。

時間卓の上で起きていること注ぐ側がしていること
開店前その夜のコースに合わせて本数と順番を決める
開店前ワインを飲み頃の温度まで持っていく
19:00ご来店・ウェルカム最初の一杯を注ぐ
19:15アミューズ皿とグラスの進み方を見る
20:10魚料理白の温度が上がりすぎていないか確かめる
20:40肉料理飲むペースを見て、追加を注ぐ
21:35王のティラミスデザートまでグラスを空のままにしない

上の二行は、お客さまが到着する前の仕事です。ワインの温度は、注ぐ瞬間に決まるものではありません。

保管と温度は、当日より前から始まっている

Na Team Lab では出張料理も承っていて、その場合はワインを保冷した状態で運びます。着いてすぐには注ぎません。現地の冷蔵庫を使いながら飲み頃まで持っていき、グラスも必要であれば人数分を持参します。

ソムリエ資格の種類 ― JSAの四つと、それ以外

JSAが認定するワインの呼称資格は、いま四つあります。

呼称主な受験資格実務経験2025年の合格率
J.S.A.ソムリエ満20歳以上必要(一般3年/会員2年)19.9%
J.S.A.ワインエキスパート満20歳以上不要26.4%
J.S.A.ソムリエ・エクセレンスソムリエ認定後3年目以降通算10年以上12.8%
J.S.A.ワインエキスパート・エクセレンス満30歳以上/認定後5年目以降不要12.6%

「シニアソムリエ」は、いまはない呼称です

「シニアソムリエ」という言葉によく行き当たりますが、これは現行の呼称ではありません。

JSAは1987年から上位資格として「シニア呼称」を実施してきましたが、2019年に「エクセレンス呼称」へ名称を変更しています。試験の呼び方も「一次・二次」から「筆記」「テイスティング」「実技/論述」へ改められました。

2012年以前に合格された方は、いまもシニアソムリエとして名前が残っています(累計2,517名)。呼称としては残り、入口は閉じている。そういう状態です。

JSA以外の資格 ― ANSAとWSET

ANSA(全日本ソムリエ連盟)は、日本酒サービス研究会が運営する団体で、「ワインコーディネーター/ソムリエ」を認定しています。JSAが実務経験を求めるのに対して、ANSAは実務経験を要件としません。

WSETは、イギリスに本部を置く酒類教育機関です。ワインの資格はレベル1から4までの四段階で、最上位のディプロマは修了までに18か月から3年かかります。JSAとの大きな違いは、WSETがすべてのレベルで認定校の講座受講を受験の条件にしている点です。JSAは、受講を一切要件にしていません。

ソムリエとワインエキスパートの違いは、実務経験があるかどうか

この二つを分けているのは、知識量ではありません。受験の時点で、飲食の実務経験があるかどうかです。

ソムリエを受けるには、実働で月90時間以上の勤務を、一般の方なら通算3年以上、JSA会員(会員歴2年以上)なら通算2年以上続けている状態が求められます。

見落とされがちな要件が、もうひとつあります。JSAの募集要項にはこうあります。

「ソムリエの職務が本職(主たる職業・職務)であり、全収入の60%以上をソムリエの職務により得ていることが必須条件となります。」

年数だけではなく、収入の構成まで問われます。副業として飲食に関わっている状態では、要件を満たしません。

一方のワインエキスパートは、満20歳以上であれば職種も経験も問われません。JSA自身が「プロフェッショナルな資格ではないので職業は問わず、むしろ愛好家が主な対象となる」と定義しています。

飲食業に就いていない方が受けるのは、ワインエキスパートのほうです。そしてもうひとつ、ワインエキスパートに三次試験はありません。サービス実技が課されるのは、ソムリエだけです。

ソムリエ試験の中身と難易度

一次はCBT、120問を70分で

一次試験は、パソコンで解答するCBT方式です。120問を70分。全国およそ340か所の指定会場から、受験日と会場を自分で予約します。

一次は、1人あたり最大2回まで受けられます。ただし受験回数は出願時に決めるため、1回目で合格しても2回分の差額は戻りません。

二次はテイスティング。ソムリエには論述が加わる

二次試験はテイスティングです。ソムリエはテイスティング40分に論述20分が加わり、ワインエキスパートはテイスティング50分。この論述は、三次試験の審査対象として扱われます。

使うグラスは、国際規格テイスティンググラスと決まっています。会場は札幌から那覇まで、全国16都市です。

三次はサービス実技と書類審査(ソムリエのみ)

三次試験は、ワインの開栓とデカンタージュを含むサービス実技です。加えて職務経歴書などの書類審査があり、ここを通って初めて最終合格になります。

知識、感覚、所作、経歴。ソムリエ資格は、この四つを積み上げた構造をしています。

合格率は、この五年で大きく動いています

ソムリエワインエキスパート
2021年42.1%40.7%
2022年30.1%32.9%
2023年17.7%41.9%
2024年29.2%41.4%
2025年19.9%26.4%

ソムリエは2021年の42.1%から2025年の19.9%へ落ちました。年ごとの振れ幅が大きいので、ソムリエの合格率を語るときは年とセットで見るほうが安全です。

費用も押さえておきます。一次から1回受験する場合、受験料は会員23,700円、一般32,900円(税込)。教本代と二次・三次の受験料が含まれます。

ここで見落としやすいのが、最終合格後に納める認定登録料20,950円です。一般の方が一次1回で合格した場合、総額は53,850円。受験料だけを見ていると、2万円ほど見積もりがずれます。

資格がなくても「ソムリエ」を名乗れるのか

結論から書きます。「ソムリエ」という名称の使用を制限する法律は、日本にはありません

医師や栄養士のように、法律で名称の使用が守られている職業があります。ソムリエは、そこに含まれていません。ワインを提供するために法律上の資格が要るわけでもなく、資格を持たずに「ソムリエ」と名乗ること自体は禁じられていないことになります。

ただ、区別が要る点がひとつあります。

JSAは「J.S.A.ソムリエ」といった資格名称とロゴマークを、登録商標として管理しています。一般名詞としての「ソムリエ」を名乗ることと、「J.S.A.ソムリエ」「JSA認定ソムリエ」と称することは別の話で、後者は詐称にあたります。

協会は、認定バッジについても注意を呼びかけています。

「インターネットオークション等で取得したソムリエ等の認定バッジをもとに、資格保持者と偽って求人に応募する者がいるとの情報を得ております。」

バッジはJSAからの貸与品で、所有権は協会にあります。転売した出品者に対して協会は提訴し、損害金519,096円の支払いを命じる判決を得ています。名乗ることは開かれていても、認定を騙るのは別の問題。そういう線の引き方です。

実例は身の回りにもあります。野菜ソムリエも温泉ソムリエも、それぞれ別の協会が認定するもので、ワインのソムリエとは無関係です。

二次試験のテイスティングと、現場のテイスティング

ここからは、私自身の話を少し書かせてください。

私は、アカデミー・デュ・ヴァンというワインスクールに通っていたことがあります。通い始めたときは、品種も産地も分からない状態でした。

スクールで手に入れたものは、はっきりしています。三つです。

  • なぜワインの味わいが変わるのか、という全体像
  • 基本的なテイスティングの仕方
  • ペアリングの考え方

この三つを独学で組み上げるには、かなりの時間がかかります。順番に積み上がる設計であることが、スクールの価値だと思っています。

そのうえで、通ってみて感じたこともあります。ワインスクールでは、経験値を積むことはできない。結局は現場の数だ、と。

いま私は、仕入れの場でも、試飲会でも、インポーター経由でも、ワイン会でも、自社のイベントでも、レストランを回しているあいだも、ワインを口に含んでいます。年間およそ2,000種です。

そのとき考えているのは、ひとつだけです。この一杯を、何の料理に合わせるのか

二次試験のテイスティングは、グラスから品種や産地を言い当てる方向へ進みます。現場のテイスティングは、そのグラスをどの皿に着地させるかへ進みます。使っている感覚は近いのに、出口が逆を向いている。ここが、試験勉強と現場のあいだにある距離だと感じています。

ソムリエに聞くと、何が変わるか

レストランでソムリエに相談するとき、ワインの知識は要りません。伝えることは、三つで足ります。

1. その日の予算

2. これから食べるもの(コースならその旨)

3. 苦手なもの、または好みの方向

三つ目は、品種名でなくて構いません。「重くないもの」「酸が強すぎないもの」で十分に伝わります。

質問も、遠慮していただかなくて大丈夫です。「なぜこの料理に、このワインなのか」は、注ぐ側にとってありがたい問いかけです。設計を言葉にする機会になります。

卓のそばに、注ぐ人がいるという選択

Na Team Lab は、東京・恵比寿で一日ひと組・八席のプライベートレストランを営んでいます。コースに合わせたペアリング、またはフリーフローをお選びいただけます。

私はシェフとして皿を組みながら、そのコースに合わせるワインも自分で選んでいます。ひとつの頭で両方を持つと、皿とグラスの設計がずれません。ご自宅へ伺う出張料理でも、同じ考え方でお持ちします。

Na Team Lab の詳細やご相談は、公式LINEにてご案内しています。

まとめ

  • ソムリエとは:飲食店でワインの仕入れ・保管・提案・サービスを担う専門職。日本では日本ソムリエ協会(JSA)が認定する
  • 資格は四つ:ソムリエ/ワインエキスパート/それぞれのエクセレンス。「シニアソムリエ」は2019年に改称され、現行の呼称ではない
  • 違いは実務経験:ソムリエは実働月90時間以上で通算2〜3年、かつ全収入の60%以上が要件。経験のない方が受けるのはワインエキスパート
  • 難易度:2025年の合格率はソムリエ19.9%、ワインエキスパート26.4%。費用は一般で総額53,850円(認定登録料20,950円を含む)
  • 名乗ること自体は自由:名称使用を制限する法律はない。ただし「J.S.A.ソムリエ」を騙ることは別の問題

ソムリエとは、グラスを運ぶ人ではありません。その一杯が卓に届くまでに、選び、預かり、温度を合わせてきた人です。次に「ソムリエをお呼びしましょうか」と聞かれたら、頷いてみてください。聞ける相手が、そこにいます。

よくある質問

ソムリエの年収はどのくらいですか?

ソムリエ単独の公的な賃金統計は存在しません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、ソムリエはホール係と同じ「飲食物給仕従事者」の区分に含まれています。職業情報提供サイトにソムリエの職業ページはありますが、示される金額はこの広い区分に基づく数値です。

ソムリエ資格は独学で取れますか?

日本ソムリエ協会の受験資格に、スクールの受講や修了を求める条件はありません。一次試験から受験する方には協会教本が配布されるため、制度のうえでは独学での受験も可能です。ただし2025年の合格率は、ソムリエ19.9%、ワインエキスパート26.4%でした。

ソムリエナイフには、どんな意味がありますか?

てこの原理でコルクを引き上げる、折りたたみ式の抜栓具です。支点が一段のシングルアクションと、二段のダブルアクションがあります。合格者に交付される葡萄の房のバッジとは別のもので、バッジは協会からの貸与品として扱われています。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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