先週飲んだ一本と、今日開けた一本。どちらが好みだったかを思い出そうとして、うまく言葉にできなかったことはないでしょうか。おいしかった記憶は残っていても、何がどう違ったのかは、驚くほど早く消えていきます。

味の記憶は、そもそも保存に向いていません。香りも、酸の出方も、口に残る時間も、比べる相手が目の前にないと基準を持てないからです。ワインの飲み比べが有効なのは、この弱点を回避できるためです。同じ時刻、同じ体調、同じグラスで二杯を並べたとき、記憶に頼らずに差そのものを見ることができます。

ここでは、何を並べれば違いが分かるのかという設計の話から、ご家庭での手順、そして東京で飲み比べができる場所の種類までをお話しします。

SUMMARY

結論:ワインの飲み比べは、品種・産地・年代・価格・温度のうち「1つだけ変えた2〜3本」を同時に注いで比べるのが基本です。 1本ずつ別の日に飲んでも、違いは記憶に残りません。並べて比べることで初めて、自分の好みの軸が見えてきます。 グラスを揃え、温度を揃え、軽いものから順に注ぐ。変える条件を1つに絞るほど、違いは鮮明になります。 この記事では、飲み比べの5つの型と家庭での手順、東京で飲み比べができる場所の選び方をお話しします。

観察の順序は、ワインテイスティングのやり方で解説しています。初めてなら、品種・甘辛・ボディの三軸から始められます。

結論|ワインの飲み比べは「1つだけ変える」と違いが分かる

ワインの飲み比べで最も大切なのは、本数でも価格でもありません。2〜3本のあいだで、変える条件を1つに絞ることです。

品種だけを変える。産地だけを変える。年代だけを変える。共通点を残したまま、ひとつの条件だけをずらす。そうすると、目の前に現れた差は、その条件が生んだものだと分かります。逆に、産地も品種も年も価格もばらばらな三本を並べると、違いは確かに大きいのですが、何が理由なのかは最後まで掴めません。

私がワイン会のセレクトを組むときも、この考え方が軸になります。品種別、年代別、産地別といった共通点を作ってから並べると、「ここまで味わいが違うのか」という驚きが生まれます。その驚きは、差が大きいから生まれるのではありません。比べる軸がはっきりしているから、差が見えるのです。

もうひとつ、忘れられがちな条件があります。同時に注ぐことです。一杯を飲み終えてから次を開けるのでは、それは飲み比べではなく、単に二本を続けて飲んだことになります。並べたまま、行き来しながら飲む。この往復のなかにこそ、違いは立ち上がってきます。

飲み比べの5つの型 ― 何を変えると、何が分かるか

同じテーブルに並んだワインボトルとグラス
条件を一つだけ変えて並べると、味わいの違いが輪郭を持ちます。

では、具体的に何を変えればよいのでしょうか。実践しやすい型は5つあります。

変える条件並べ方の例分かること
品種同じ産地・近い価格で、シャルドネとソーヴィニヨン・ブラン品種そのものが持つ香りと骨格の違い
産地同じシャルドネで、フランスとニューワールド土壌と気候が味わいに与える影響
年代同じ造り手の同じ銘柄で、若い年と熟成した年時間が香りと質感をどう変えるか
価格同じ品種・近い産地で、価格帯の異なる2本価格差が実際にどこへ効いているか
温度同じ1本を、冷えた状態と少し戻した状態で温度が香りと酸の出方を変えること

品種・産地・年代 ― 共通点を作ってから、1つだけずらす

最初の3つは、いずれも「共通点を作る」ことが前提になります。品種を比べたいなら、産地と価格帯を近づける。産地を比べたいなら、品種と年代を揃える。この下準備を省くと、比べているつもりで、ただ違う二本を飲んでいる状態になります。

なかでも入口として分かりやすいのは、産地の比較です。同じ品種でも、育った土地が変わると、酸の輪郭も果実の熟し方も別のものになります。土壌と気候が味をつくるという話は、頭で読むより、二杯を往復するほうが早く腑に落ちます。

価格を比べるとき、差が出るのはどこか

価格の飲み比べは、少し扱いが難しい型です。高いほうがおいしいという結論を確かめる作業になりがちだからです。

私がおすすめしたいのは、どちらが好みかではなく、どこに差が出ているかを見るという向き合い方です。香りの層の数なのか、口に含んだときの密度なのか、飲み込んだあとに残る時間なのか。差の出どころが分かると、次に一本を選ぶとき、自分が何にお金を払いたいのかがはっきりします。価格の比較は、好みの順位付けではなく、判断の軸を手に入れるための型です。

温度 ― 同じ1本で、今日からできる飲み比べ

もう一本買い足さずにできる飲み比べもあります。温度です。

もうひとつの軸、樽の強弱

レストランのペアリングのなかで、私がよく並べる軸がもうひとつあります。樽の強いワインと、樽の弱いワインです。

同じ白でも、樽で寝かせた一本にはバニラやナッツのような香りが乗り、口当たりに丸みが出ます。樽を使わない一本は、果実と酸の輪郭がまっすぐに立ちます。この二杯を、同じ料理と一緒に往復していただくと、料理の側が求めている方向が見えてきます。ワインだけを比べるのではなく、料理と一緒に比べる。飲み比べの面白さは、ここからさらに一段深くなります。

家でワインを飲み比べるときの手順

ご自宅で試すときの手順を、順を追ってお話しします。

1. 2〜3本に絞る。それ以上は一杯あたりの量が減り、味の記憶も薄れます。

2. 同じ形のグラスを本数分そろえる。形が違うと、ワインの差なのかグラスの差なのか分からなくなります。

3. 温度を揃えてから注ぐ。片方だけが冷えていると、それが最大の差になってしまいます。

4. 全部を先に注ぐ。少量ずつで構いません。並べた状態を作ることが目的です。

5. 軽いものから順に口をつけ、そのあと自由に往復する。一巡したあとの行き来で、差はよりはっきりします。

もうひとつ、おすすめしたいことがあります。感じたことを一言だけ書き留めることです。専門的な言葉である必要はありません。「こちらのほうが尖っている」「こちらは重たく残る」で十分です。言葉にした瞬間、その感覚は自分のものになります。

東京でワインの飲み比べができる場所

自宅で試すのが難しい本数や年代を並べたいとき、東京にはいくつかの選択肢があります。それぞれに向き不向きがあります。

ワインバーのグラス飲み比べ

グラス売りのワインを複数扱う店であれば、その場で数種類を並べて注文できます。一人でも立ち寄れて、思い立った日に試せることが利点です。

一方で、その日に開いているボトルの中から選ぶことになるため、条件を1つだけ変えた組み合わせを作れるとは限りません。飲み比べたい軸がはっきりしている場合は、注文の前にスタッフへ「同じ品種で産地違いを並べたい」と伝えてみてください。意図が伝われば、店側も組みやすくなります。

ワインスクールの講座

体系立てて学びたい方には、ワインスクールの講座という道があります。品種や産地を順序立てて追いかけられるため、知識の地図を手に入れたい方に向いています。

少人数のワイン会

テーマを立てた少人数のワイン会は、飲み比べに最も向いた形だと私は考えています。主催者があらかじめ軸を設計してくれるため、条件を1つだけ変えた並びが、そのまま卓の上に用意されます。

料理が伴うことも、この形の利点です。同じ二杯でも、料理と一緒なら、どちらが寄り添うかという判断が加わります。ワインだけを比べるより、記憶に残りやすい体験になります。

飲み比べの会は、一度で何が分かるようになるか

Na Team Lab では、いくつかの場で飲み比べを行っています。恵比寿のレストランでは、コースのペアリングのなかで、樽の強い一本と弱い一本を並べてお出しすることがあります。料理教室のペアリングの回では、二種類を注いだうえで、目の前の料理にどちらが合うかをお客様ご自身に確かめていただきます。

自社で主催するワイン会では、毎月テーマを立てています。これまでシャンパーニュだけをお出しする会を開いてきましたし、ピノ・ノワールの回、シャルドネの会も企画しています。飲み比べができて、なおかつワインの知識にもつながるセレクトを、テーマを決める際の基本方針にしています。

会の規模に合わせて、1回あたり6本から15本ほどを開けます。料理はコース形式であれば7品ほど、ビュッフェ形式であれば10品ほどをご用意します。人数は会によって異なりますが、8名から30名ほどの規模で開くことが多いです。

ワインを持ち寄る会では、参加される方ご自身がコンセプトを絞って飲み比べを組まれることもあります。ブルゴーニュ縛りで並べるといった具合です。テーマが決まっていると、卓の会話も自然と一本ずつの違いに向かっていきます。

こうした会に一度参加すると、何が変わるのか。ワインの銘柄を覚えられるようになるわけではありません。変わるのは、自分が何を好きなのかを説明する言葉を持てるようになることです。樽が効いたものに惹かれるのか、酸がまっすぐなものが好きなのか。その軸が一つ手に入ると、次にお店でワインリストを開いたとき、選び方が変わります。

Na Team Lab のワイン会やペアリングについてのご案内は、公式LINEにて承っています。テーマや当日の流れをお伝えしますので、気になる回があればお声がけください。

まとめ

ワインの飲み比べは、たくさん飲むための行為ではありません。自分の好みの輪郭を、自分の言葉で掴むための方法です。

  • 品種・産地・年代・価格・温度のうち、変える条件は1つに絞ります。
  • 本数はご自宅なら2〜3本。同時に注ぎ、往復しながら飲みます。
  • グラスは同じ形で揃え、温度も揃えてから注ぎます。
  • 温度が違うなら、同じ1本で今日から試せます。
  • 東京で場所を探すなら、バー・スクール・少人数の会それぞれに向き不向きがあります。

一本ずつ順に飲んでいるかぎり、味の記憶は流れていきます。並べた瞬間に、違いは初めて輪郭を持ちます。次に二本を開ける機会があれば、片方を残したまま、もう一杯を注いでみてください。

よくある質問

ワインの飲み比べは何本が適量ですか?

ご自宅では2〜3本が扱いやすい本数です。本数が増えるほど一杯あたりの量が減り、味の記憶も薄れていきます。会として催す場合は、人数と料理の量に合わせて6本から15本ほどを組むこともあります。

ワインの飲み比べに向くグラスはありますか?

形の違うグラスを混ぜると、ワインの差なのかグラスの差なのかが分からなくなります。同じ形のものを本数分そろえることが第一です。中庸なボウル型を人数分ご用意できれば、ひとまず足ります。

ワインの飲み比べの会に、一人でも参加できますか?

一人での参加を受け入れている会は少なくありません。Na Team Lab のワイン会も、8名から30名ほどの規模でテーマを立てて開催しています。事前にテーマと当日の流れを確認しておくと、落ち着いて臨めます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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違いが分かる並べ方を、同じテーブルで。

テーマに沿ったワインを料理とともに飲み比べます。知識の量ではなく、感じた違いを言葉にする少人数の会です。

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