レシピ通りに作ったのに、なんとなく物足りない。塩を足してみても、しょっぱくなるだけで、求めていた深さは出てこない。そんな経験はないでしょうか。

このとき足りていないのは、多くの場合、塩ではありません。旨味の重なりです。

旨味とは、甘味・塩味・酸味・苦味と並ぶ5番目の基本味のことです。ここでお話しするのは旨味調味料の是非ではなく、舌が感じ取る味覚としての旨味の話になります。

私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。フレンチとイタリアンを基軸にしたコースを組み立てながら、毎日考えているのは「この皿の旨味は、どこから来ているか」ということです。この記事では、旨味という味の正体と、料理でそれを重ねていく順番をお伝えします。

SUMMARY

結論:旨味とは、甘味・塩味・酸味・苦味と並ぶ5番目の基本味です。 グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸という3つの物質が、舌の受容体に結合することで感じられます。 この味の面白さは、単独で使うより、系統の違う旨味を重ねたときに強く立ち上がるところにあります。 昆布と鰹、トマトと肉。相性がよいとされてきた組み合わせの多くは、この重なりで説明できます。 料理が物足りないと感じるとき、足りていないのは塩ではなく、旨味の重なりであることが少なくありません。

関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れ塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。

旨味とは、甘味・塩味・酸味・苦味に並ぶ5番目の基本味

旨味とは、甘味・塩味・酸味・苦味と並ぶ、5つある基本味のひとつです。グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸といった物質が、舌にある受容体に結合することで感じられます。

基本味とは、他の味を混ぜてもつくり出せない、独立した味のことを指します。甘味と塩味を混ぜても酸味にはなりません。同じように、旨味も他の4つを組み合わせてつくることはできない。だから旨味は、5つ目の「基本」の味として数えられています。

Na Team Lab では、この5味のバランスを、料理の第一の原則に置いています。5つの味が交差して、ひとつの体験として束ねられたときに、美味しさが生まれると考えているからです。

味覚としての役割も、それぞれ違います。

  • 甘味:エネルギー源の合図
  • 塩味:必須ミネラルの合図。他の4つの味の輪郭を立ち上げる
  • 酸味:もとは警告信号。文明の中で快楽へと変わった
  • 苦味:もとは毒物の警報。成熟とともに奥行きへと変わる
  • 旨味:タンパク質の存在を知らせる合図。余韻を長く持続させる

この中で、旨味だけが担っている仕事があります。余韻です。

甘味も塩味も、口に入れた瞬間に立ち上がって、すぐ引いていきます。旨味は、飲み込んだあとも舌に残り続けます。「あとを引く」という感覚の正体は、たいていこれです。私たちが余韻を料理の余白と呼び、皿を置いたあとに残る時間を大切にしているのも、この性質があるからです。

なお、学術の分野では「うま味」とひらがなで表記されることが多く、国際的にも “umami” という言葉がそのまま通じます。この記事では読みやすさを優先して「旨味」と書きます。

旨味は、いつ「味」になったのか

複数の旨味を重ねて組み立てたコース料理
系統の異なる旨味を重ね、塩だけに頼らず味の厚みをつくります。

旨味が5番目の基本味として受け入れられるまでには、長い時間がかかりました。

きっかけは1908年、化学者の池田菊苗が昆布だしの味を調べ、その正体がグルタミン酸であることを突き止めたことだと言われています。昆布のだしには、甘い・しょっぱい・すっぱい・苦いのどれとも違う味がある。その「違う味」に名前をつけたのが、旨味という言葉の始まりです。

しかし、この発見がすぐに世界へ広まったわけではありません。長いあいだ基本味は4つだと考えられ、旨味は「4つの味が混ざってできる複合的な感覚だろう」と見なされていた時期が続きます。

流れが変わったのは、舌の上に旨味を受け取る専用の受容体が見つかってからだと言われています。混ざってできる感覚ではなく、独立した信号として脳に届いている。そのことが分かって、旨味は5番目の基本味として国際的にも受け入れられていきました。

日本の台所では、それよりずっと前から、昆布と鰹が当たり前に使われてきました。理屈より先に、手のほうが答えを知っていたということです。料理で起きていることは、たいていこの順番だと私は考えています。美味しいが先にあって、理由はあとから言葉になる。

旨味をつくる3つの物質

旨味は、ひとつの物質でできているわけではありません。主に3つの物質が関わっています。

物質多く含む食材特徴
グルタミン酸昆布、わかめなどの海藻/トマト/チーズ/味噌/醤油/納豆植物性の旨味の代表。発酵・熟成でも増える。旨味の土台をつくる
イノシン酸かつお節、煮干し/肉/魚/貝類/チキンスープ、牛骨スープ動物性の旨味の代表。輪郭がはっきりしていて力強い
グアニル酸干し椎茸/乾燥きのこ類(ポルチーニ、モリーユなど)きのこを乾燥させる過程で生まれる。香りをともなった深い旨味

ざっくり分けると、グルタミン酸は植物、イノシン酸は動物、グアニル酸は乾いたきのこです。この3分類を覚えておくだけで、冷蔵庫の中の見え方が変わります。

グルタミン酸 ― 旨味の土台

昆布、トマト、チーズ、味噌、醤油。まったく別の食材に見えますが、旨味という軸で並べると同じ列に入ります。ここに気づくと、和食と洋食の境目が少し曖昧になってきます。トマトソースと昆布だしは、旨味の出どころが同じなのです。

グルタミン酸は、発酵や熟成でも増えていきます。味噌、醤油、チーズ、生ハムが深い味を持つのは、時間が旨味をつくっているからだと考えると分かりやすいと思います。

イノシン酸 ― 動物の旨味

かつお節、煮干し、肉、魚、貝。動物性の食材に多い旨味です。グルタミン酸に比べて輪郭がはっきりしていて、単独でも「味がある」と分かります。

肉を焼いたあとにフライパンに残る汁、魚のあら、鶏を煮た湯。捨てられがちなこれらは、イノシン酸の塊です。

グアニル酸 ― 乾いたきのこの旨味

生の椎茸には、グアニル酸はほとんどありません。乾燥させる過程で生まれます。干し椎茸やポルチーニの戻し汁が、あれほど濃い味を持つのはこのためです。

イタリアンで乾燥ポルチーニの戻し汁をソースに使うのは、香りのためだけではありません。旨味を足す作業でもあります。戻し汁を捨ててしまうのは、いちばんもったいない選択です。

重ねると増える ― 旨味の相乗効果

旨味という味の面白さは、ここからです。

系統の違う旨味物質を組み合わせると、それぞれを単独で使ったときの合計を大きく超える強さが生まれます。これが旨味の相乗効果です。グルタミン酸とイノシン酸の組み合わせでは、研究において最大で7倍という効果が示されています。

分子のレベルでは、イノシン酸が結合することでグルタミン酸の受容体への結合が安定し、信号が増幅される現象だと説明されています。

ただし、7倍という数字がいつでも出るわけではありません。組み合わせる量の比率や食材の状態によって変わります。数字そのものより、単独で足すより、系統を変えて重ねるほうが効率がよいという方向を覚えておいてください。

組み合わせ旨味物質効き方料理の例
昆布 × 鰹グルタミン酸 × イノシン酸相乗一番だし、味噌汁、煮物
トマト × 肉グルタミン酸 × イノシン酸相乗ボロネーゼ、煮込み、肉のソース
干し椎茸 × 鶏グアニル酸 × イノシン酸相乗中華のスープ、炊き込みご飯
昆布 × 干し椎茸グルタミン酸 × グアニル酸相乗精進だし
トマト × チーズグルタミン酸 × グルタミン酸積み上げピザ、パスタ、カプレーゼ

表のいちばん下だけ、効き方が違うことに注目してください。

トマトとチーズは、どちらもグルタミン酸です。同じ系統どうしなので、これは足し算になります。十分に強い組み合わせですが、掛け算にはなりません。だからマルゲリータにアンチョビや生ハムが加わると、味が一段変わります。動物性の旨味が入って、はじめて相乗効果が働くからです。

赤ワインの煮込みに、昆布を入れる

私が煮込みをつくるとき、赤ワインのベースに昆布を一緒に入れることがあります。フレンチの煮込みに昆布、と聞くと妙に思われるかもしれません。けれど旨味の軸で見れば、これは自然な選択です。

肉のイノシン酸に対して、野菜と昆布のグルタミン酸を重ねる。ソースの出どころは赤ワインでも、その下にある旨味のベースは、和食のだしとまったく同じ構造をしています。料理のジャンルは、旨味の設計とは関係がありません。

トマトと肉の組み合わせを意識するのも、同じ理由からです。ボロネーゼが世界中で愛されているのは、トマトのグルタミン酸と挽き肉のイノシン酸が、旨味として噛み合っているからだと私は考えています。

旨味と塩の関係

旨味には、もうひとつ重要な相手がいます。塩です。

塩は、それ自体が塩味という基本味であると同時に、旨味を感じさせるための触媒として働きます。同じ量の旨味成分が入っていても、塩が足りなければ、その旨味は眠ったままになります。

  • 塩が足りない:旨味は眠ったまま。味が散漫で、のっぺりした印象になる
  • 塩がちょうどいい:旨味が一気に立ち上がる。素材の輪郭が見えてくる
  • 塩が過ぎた:旨味は塩の奥に消える。すべてが塩に支配される

このピークは、思っているより鋭い山を描きます。わずかな差で、料理は別のものになる。私たちが「塩は引き算で旨味を彫る」と言っているのは、塩が旨味を足す道具ではなく、すでにそこにある旨味を彫り出す道具だからです。

料理で旨味を重ねる順番

旨味は、思いつきで足すものではありません。下から順に積んでいくものです。私が料理を組み立てるときに使っている順番を、4段に整理します。

何をするか使うもの効き方
1. 出汁液体の土台をつくる昆布、かつお節、鶏がら、フォン、野菜のブイヨン全体の底を上げる。単独では目立たない
2. 食材素材そのものの旨味を引き出す肉、魚、貝、トマト、きのこ、玉ねぎ料理の主役。焼く・炒めるで濃くなる
3. 発酵調味料輪郭と複雑さを足す味噌、醤油、アンチョビ、ナンプラー、チーズ少量で効く。入れすぎると味が寄る
4. 熟成・仕上げ余韻を伸ばすパルミジャーノ、生ハム、バター、干しきのこの粉皿に乗せる直前。香りと一緒に立ち上がる

この順番には理由があります。下の段ほど、あとから足しにくいからです。

出汁は、料理が完成してから入れ直すことができません。反対に、パルミジャーノやバターは、皿に乗せる直前でも間に合います。取り返しのつかない順に先へ置く。これが、旨味を重ねるときの基本的な考え方です。

焼き付けは、旨味の工程でもある

2段目の「食材」で、焼く工程を軽く見ないでください。肉や野菜に焼き色をつけると、香ばしさが生まれます。これはメイラード反応という化学変化で、香りの成分がつくられていく過程です。

バター、チーズ、トマト

私が家庭でもおすすめしているのは、この3つを手札として持っておくことです。バターは脂とともに旨味の余韻を伸ばし、チーズはグルタミン酸を足し、トマトも同じくグルタミン酸を足します。どれも冷蔵庫に常備できて、少量で効きます。

肉を焼いたフライパンに、トマトを潰して入れ、最後にバターを落とす。それだけで、イノシン酸とグルタミン酸が重なったソースになります。特別な材料は要りません。

西洋料理にも、旨味はあります

旨味は日本で発見された概念なので、和食のものだと思われがちです。実際には、旨味の多い食材は世界中の料理にあります。名前がなかっただけで、使われてはいたのです。

食材主な旨味物質西洋料理での役割
フォン(仔牛・鶏の出汁)イノシン酸ソースの土台。フレンチの基礎
パルミジャーノ・レッジャーノグルタミン酸仕上げに削る。熟成が長いほど濃い
トマト(特に加熱・乾燥したもの)グルタミン酸イタリアンの旨味の中心
アンチョビグルタミン酸・イノシン酸少量で全体を締める。魚の発酵食品
生ハムグルタミン酸熟成が生んだ旨味。前菜の主役になる
乾燥ポルチーニグアニル酸戻し汁ごとソースへ

フォンは、フレンチのソースの土台です。仔牛の骨や鶏がらを、香味野菜とともに何時間も煮出してつくります。やっていることは、和食の一番だしと変わりません。抽出する相手が昆布と鰹か、骨と野菜かという違いだけです。

パルミジャーノは、熟成が長いものほど旨味の密度が変わってきます。パスタの仕上げに削るのは、味を足すためというより、余韻を伸ばすためだと私は捉えています。

アンチョビは、イタリアンでは姿を見せないまま使われることの多い食材です。ソースに1枚溶かすと、何が入っているか分からないまま、味の輪郭が締まります。日本料理における醤油に近い役割だと考えています。

こうして並べてみると、和食と洋食の違いは、旨味を使うかどうかではなく、どの食材から旨味を取るかの違いだと分かります。私が赤ワインの煮込みに昆布を入れるのも、この地続きの感覚からです。

旨味が足りないと感じたときに

ここからは、実際に「なんとなく物足りない」皿を前にしたときの話です。

私がまず確認するのは、次の2つです。

1. 食材の数が足りているか

2. 塩を十分に使って、旨味を引き出せているか

この2つを確かめてから、旨味を補填していきます。順番が逆になると、たいてい遠回りになります。

まず、食材の数を数える

玉ねぎだけのスープと、玉ねぎ・人参・セロリ・鶏を入れたスープでは、旨味の層の数が違います。物足りないと感じる皿は、単純に素材の種類が少ないことが少なくありません。

このとき足すべきは、同じ系統の食材ではありません。肉しか入っていないなら、トマトやきのこや昆布を。野菜だけなら、動物性の旨味を。系統の違うものを1つ加えるだけで、味は立体になります。

次に、塩が旨味を引き出せているか確かめる

食材が揃っているのに物足りないなら、次は塩を疑います。旨味成分は入っているのに、塩が足りずに眠っている状態かもしれません。

それでも足りないときに、補填する

2つを確認して、それでも足りないと感じたときに、はじめて旨味を足します。パルミジャーノを削る。アンチョビを1枚溶かす。干しきのこの戻し汁を加える。バターを落とす。

順番を守ると、足す量は驚くほど少なくて済みます。

そして、もうひとつ。素材そのものが良ければ、重ねる必要は少なくなります。

私は石垣島の山奥で育ちました。川の水を生活用水にして、近くの山で山菜を採り、畑で野菜を育て、海で釣りをしたり、電灯潜りで魚を突いたりしていました。採ったものを、その日のうちに食べる。家に電子レンジはなく、作り置きもせず、毎食つくっていました。

あのころ食べていたものに、複雑な設計はありません。それでも、深い味がしました。旨味を重ねる技術は、素材の状態が理想的でないときに、それを埋めるための知恵でもあるのです。

味の理屈を、舌で確かめる

料理教室で旨味の話をするとき、私は物質名から入りません。「この食材と、この食材は相性がいいですよ」という形でお伝えしています。

グルタミン酸とイノシン酸の説明をしても、その日の夕食は変わりません。けれど「肉を煮るときにトマトを入れてみてください」なら、その日の夜から試せます。理屈は、あとから分かればいい。手が先に覚えたことに名前がついていく順番のほうが、料理は身につくと考えています。

Na Team Lab では、9つの原則を6ヶ月かけて体得する料理&ワイン教室を開いています。月2回、最大8名の少人数制です。単発でのご受講もできます。

そして恵比寿には、一日ひと組・八席のプライベートレストランがあります。7皿のコースを通して、旨味がどこで立ち上がり、どこで引いていくかを、時間軸で設計しています。旨味という言葉を知ったあとで食べる一皿は、きっと違う味がするはずです。

まとめ

  • 旨味とは、甘味・塩味・酸味・苦味と並ぶ5番目の基本味です。グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸が舌の受容体に結合することで感じられます
  • 旨味は3つの物質に分けて考えると扱いやすくなります。グルタミン酸は植物、イノシン酸は動物、グアニル酸は乾いたきのこが基本の分類です
  • 系統の違う旨味を重ねると、単独の合計を超えて強くなります。グルタミン酸とイノシン酸では、最大で7倍という効果が研究で示されています
  • 旨味は塩がなければ立ち上がりません。塩は旨味を足す道具ではなく、すでにある旨味を彫り出す道具です
  • 物足りないと感じたら、旨味を足す前に食材の数と塩を確認してください。順番を守ると、足す量は少なくて済みます

よくある質問

旨味調味料を使うのはよくないことですか?

賛否のあるテーマですが、個々の価値観によるものだと考えています。使いたい方は使えばよいと思います。ただ、旨味調味料はグルタミン酸が単独で立つため、輪郭ははっきりする一方で、重ねたときの奥行きは出にくくなります。時間のある日は、食材で重ねてみてください。

旨味と「コク」は同じものですか?

別のものです。旨味は舌の受容体が感じ取る味そのものですが、コクは味・香り・脂・余韻の長さが重なった状態を指す言葉で、基本味のような定義はありません。旨味はコクを構成する要素のひとつ、という関係で捉えていただくと分かりやすいと思います。

子どもも旨味を感じますか?

感じます。旨味はタンパク質の存在を知らせる味で、苦味のように成長とともに受け入れていく味とは性質が異なります。だしの効いた汁物を小さな子どもが好むのは、そのためです。塩を控えたい食事ほど、旨味の重なりが助けになります。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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