「赤は常温、白は冷やす」。ワインの温度について、多くの方がこの一行を覚えていらっしゃいます。そして、この一行は半分だけ正しく、半分は間違っています。

適温を調べようとすると、たいていは銘柄別・品種別の温度一覧表にたどり着きます。けれど、その表を見ても手が止まる。手元の一本が、表のどの行に当たるのかが分からないからです。温度計もない。ワインセラーもない。

この記事では、基本の温度帯をお伝えしたうえで、実務でもっとも役に立つ考え方をご紹介します。いま感じている違和感から、2℃単位で直すという方法です。覚えるのは一枚の表だけで、道具は氷水と手のひらしか使いません。

SUMMARY

結論:ワインの適温とは、銘柄ごとに暗記する固定値ではなく、いま感じている違和感から2℃単位で調整するものです。 温度を上げれば香り・甘み・厚みが出て、下げれば酸・タンニン・輪郭が立ちます。この一方向の関係さえ覚えていれば、どんな一本でも直せます。 目安はスパークリングが6〜8℃、白ワインが8〜13℃、赤ワインが13〜18℃。ただしこれは出発点にすぎません。 重いと感じたら2℃下げる。痩せたと感じたら2℃上げる。温度計は要らず、氷水と手のひらだけで足ります。

ワインの適温とは、暗記する数字ではなく「調整するつまみ」

ワインの適温とは、銘柄ごとに暗記する固定値ではありません。いま口にして感じた違和感から逆算して、2℃単位で調整するものです。

温度が動くと、グラスの中では何が起きるのか。ここには、きれいな一方向の関係があります。

  • 温度を上げると、香り・甘み・厚みが前に出てきます
  • 温度を下げると、酸・タンニン・輪郭が立ってきます

たったこれだけです。この関係さえ頭に入っていれば、銘柄名を一つも知らなくても、目の前の一本を直せます。逆に、この関係を知らないまま一覧表だけを暗記しても、表に載っていないワインの前で立ち往生してしまいます。

温度は、三つの調整手段のなかで最も小回りが利く

食事の途中でワインの表情を変える手段は、大きく三つあります。それぞれ、効き始めるまでの時間が違います。

手段効くまでの時間性格
グラスを替える即時変化が大きく、後戻りしにくい
温度を2℃動かす10〜15分変化が穏やかで、微調整が利く
デキャンタージュ30分〜2時間効果は深いが、食事の途中では間に合わない

デキャンタージュは、空気に触れさせてワインをほどく作業です。効き目は確かですが、遅い。グラスの交換は即座に効きますが、振れ幅が大きく、行き過ぎたときに戻せません。

そのあいだにあるのが温度です。10〜15分という、料理が一皿進むあいだにちょうど効いてくる速さ。しかも2℃という単位で刻めます。三つのなかで、もっとも小回りの利くつまみだと私は考えています。

赤・白・泡の基本温度帯 ― これは正解ではなく、出発点です

赤と白ワインのグラスが手前にあり、奥でバーテンダーが働く様子
グラスの向こうで、静かにワインがサーブされています。

では、どこから始めればよいのか。おおよその目安を先にお伝えします。

ただし、先に一つだけ申し添えます。この表は正解ではありません。出発点です。ここに書かれた数字に合わせることがゴールなのではなく、ここから症状に応じて動かしていくための、最初の立ち位置にすぎません。

タイプ目安の温度覚え方
スパークリング6〜8℃泡と酸を立たせる。しっかり冷やす
軽い白(甲州、ソアーヴェなど)8〜10℃冷蔵庫から出してすぐ
厚みのある白(樽を使ったシャルドネなど)10〜13℃冷やしすぎると香りが出ない
軽い赤(ガメイ、軽めのピノ・ノワールなど)13〜15℃「少し冷やす赤」がある
しっかりした赤(カベルネ、ネッビオーロなど)16〜18℃「常温」は昔の欧州の室温

この表で目を引くのは、おそらく下から二行目でしょう。軽い赤ワインには、少し冷やすという選択肢があるという一行です。

「赤は常温」が、いつのまにかずれてしまった理由

「赤ワインは常温で」という言い方は、間違った教えではありません。問題は、その言葉が生まれた場所の室温を一緒に引き継がなかったことにあります。

この言葉が使われはじめた頃のヨーロッパの室内は、せいぜい16〜18℃です。暖房のない石造りの家。そこで言う「常温」は、いま私たちが暮らす部屋の温度とはまるで違います。

日本の夏を思い浮かべてみてください。28℃の部屋に置かれていた赤ワインは、目安の温度を10℃も超えていることになります。アルコールが立ち、渋みが野暮ったく広がり、果実味は輪郭を失う。「この赤、なんだか重い」と感じる原因の多くは、ワインそのものではなく、置かれていた場所にあります。

だからこの記事では、こうお伝えしています。「赤は常温、白は冷やす」は、半分正しく、半分間違いです。正しいのは方向で、間違っているのは前提のほうです。

症状から直す ― 2℃の早見表

ここからが、この記事の中心です。

覚えていただきたいのは、次の表だけです。銘柄名は要りません。いま口にして感じていることを左の列から探し、真ん中の操作をするだけで、たいていの違和感は収まります。

いま感じている症状操作何が起きるか
料理に対してワインが重い2℃下げる酸とタンニンが立ち、輪郭が締まる
ワインが痩せて、水っぽく感じる2°C上げる甘みと厚みが出て、料理に並ぶ
タンニンが硬く、渋みが尖る2°C上げる渋みが溶けて、丸くなる
香りが出てこない2°C上げる(またはグラスを大きく)香りの立ち上がりが強くなる
アルコールが立って、熱く感じる2℃下げる甘みと熱が引っ込む
青臭さだけが残る(香りの強い白)2℃下げる上げすぎのサイン。ハーブの香りが締め直される

この表の使い方には、少しコツがあります。症状は一つに絞ってください。「重いし、渋いし、香りも出ていない」と三つ挙げてしまうと、操作の方向が逆を向いて動けなくなります。いちばん気になっている一つだけを選ぶ。それで十分に変わります。

最後の行の「青臭さだけが残る」は、上げすぎたときのサインです。香りの強い白ワインを温めすぎると、青いハーブの香りだけが浮き上がってきます。そうなったら、素直に2℃戻してください。

2℃を動かす、二つの手技

では、その2℃はどうやって動かすのか。道具は要りません。

  • 2℃下げる ― 氷水に3〜5分ほど浸けます。氷だけでは接する面が少ないので、水を張るのがコツです
  • 2℃上げる ― グラスの丸みを手のひらで包みます。または、ボトルを室温に10分ほど置きます

温度計は使いません。数字を測るより、口に含んで感じた違和感から直すほうが、はるかに速くて確実だからです。2℃の変化は、10〜15分ほどで表情に出てきます。一皿が進むあいだに、ワインは別の顔になっています。

料理と合わせるとき、温度は「強度合わせ」の道具になる

ここまでは、グラスの中だけの話でした。けれど温度がほんとうに効いてくるのは、皿の上に料理があるときです。

ペアリングの基本は、案外そっけないものです。ワインと料理のどちらを主役にするかを決め、従う側の味わいの総量を、ほんの少しだけ下げる。それだけです。両方が同じ強さで前に出ると、二つはぶつかります。どちらかが半歩下がったとき、初めて対話が始まります。

問題は、その「半歩」をどうやって作るかです。ワインを替えれば作れますが、ボトルは一晩に何本も開けられません。料理を作り直すこともできません。

温度は、この半歩を、ボトルを替えずに実行できる唯一の手段です。

  • 脂の乗った肉に対して、ワインが痩せて感じられたら ― 2℃上げて、厚みを足します
  • 繊細な白身魚に対して、ワインが勝ちすぎていたら ― 2℃下げて、輪郭だけを残します

同じ一本のまま、皿ごとに寄せ方を変えられるということです。この自由度は、想像よりずっと大きいものです。

温度差そのものが、味を立ち上げることもある

Na Team Lab では、ペアリングを二つの型で考えています。同じ方向のものを重ねて響かせる「同調」と、正反対のものを隣に置いて互いを際立たせる「対比」です。

温度は、このどちらにも使えます。

同調の側では、重さを揃えるために使います。軽い料理には軽やかな一杯を、骨太な肉料理には重心の低い一杯を。温度は、その重心を上下させるつまみになります。

対比の側では、温度差そのものが素材になります。焼きたてのアスパラガスに、冷たいヴィネグレットを合わせる。温かいものと冷たいものが隣り合うと、香りが立ち上がり、どちらもより強く感じられます。熱と冷は、それ自体が対比の一組なのです。

提供直前まで温度を追う ― 厨房で私が見ているもの

レストランでは、ワインは注がれる直前まで温度を管理されています。これは細やかさの問題ではなく、設計の問題です。

私たちのコースは、軽いものから重いものへと進みます。シャンパーニュと前菜で感覚を研ぎ澄まし、白ワインと魚料理で中程度の重さへ移り、赤ワインと肉料理でクライマックスを迎える。その階段を、温度も一緒に上がっていきます。6〜8℃から始まり、8〜13℃を経て、16〜18℃へ。三時間かけて、グラスの温度はゆっくりと十度の坂を上ります。

私が厨房で見ているのは、その坂の途中にある小さなずれのほうです。

たとえば、白ワインを開けるタイミング。抜栓してからグラスに注ぐまでに、季節によっては数度動きます。冬の室内と夏の室内では、同じ時間を置いても着地する温度が違う。だから、当日の部屋の温度をまず確かめます。冷やす時間ではなく、冷やしてから注ぐまでの時間を計算するのです。

もうひとつ見ているのが、お客様の召し上がる速さです。話が弾んでグラスが長く置かれる夜と、静かに進む夜とでは、二杯目の出し方を変えます。ゆっくり進む席では、ボトルを最後まで冷やし場に戻します。速く進む席では、少し早めに出して、飲み頃で口に届くようにする。

これは出張先でも同じです。ご自宅やパーティールームに伺うときも、コースの構成とペアリング、そして提供温度までを一続きの設計として組み立てます。場所が変わっても、坂の傾きは変えません。

ご家庭で温度を管理する、三つの手順

ここまでの内容を、ご家庭でそのまま試せる形に畳んでおきます。手順は三つです。

1. 開ける前に、冷蔵庫から出す時刻を決める ― 軽い白は冷蔵庫から出してすぐ、厚みのある白は15分前、赤は夏なら30分ほど冷やしてから常温に戻します

2. 一口目で、症状を一つだけ読む ― 重い、痩せている、渋みが尖る、香りが出ない。いちばん気になる一つを選びます

3. 氷水か手のひらで2℃動かし、10〜15分待つ ― 待つあいだに、次の一皿を出してしまってかまいません

この三つを回すだけで、同じボトルが二度、三度と表情を変えます。ワインを選び直すのではなく、いま開いている一本を育てていくという感覚に近いかもしれません。

温度まで含めて、一皿は完成する

ワインの温度を、注がれる直前まで追いかけ続ける。ご家庭でそこまでなさるのは、正直なところ大変です。料理をしながら、氷水の中の一本を気にかけ続けるのは骨が折れます。

けれど、裏を返せばこういうことです。温度を管理する人がその場にいれば、家庭の食卓はレストランになります。

Na Team Lab の出張料理では、コースの進行に合わせて、ワインの温度と出すタイミングを追いながらお出ししています。ワインペアリング付きで、お一人 22,000円。6〜16名さまで承っており、グラスもこちらで持参します。ご自宅にセラーがあるかどうかは問いません。冷蔵庫と氷水だけで完結する設計にしてあります。

サービスの詳細は、出張料理のページにまとめています。

まとめ

ワインの適温について、暗記ではなく調整という視点から整理してきました。要点を振り返ります。

  • ワインの適温は固定値ではなく、いま感じる違和感から2℃単位で直すもの
  • 温度を上げれば香り・甘み・厚みが出て、下げれば酸・タンニン・輪郭が立つ
  • 目安はスパークリング6〜8℃、白8〜13℃、赤13〜18℃。ただし出発点にすぎない
  • 「赤は常温」は室温16〜18℃の欧州が前提。日本の夏の室温には当てはまらない
  • 重いなら2℃下げ、痩せているなら2℃上げる。温度計は要らず、氷水3〜5分と手のひらで足りる
  • 料理と合わせるときは、ボトルを替えずに強度を半歩ずらす手段として使う

次に一本を開けるとき、一口目で「なにか違う」と感じたら。その違和感は、たいてい2℃で直ります。銘柄を疑う前に、温度を疑ってみてください。

よくある質問

赤ワインは冷やしてはいけないのですか?

そんなことはありません。ガメイや軽めのピノ・ノワールのような軽い赤は、13〜15℃、つまり少し冷やしたほうが果実味が引き締まります。「赤は常温」は室温の低いヨーロッパを前提にした言葉で、日本の夏の室温には当てはまりません。

白ワインを冷やしすぎると、どうなりますか?

香りが閉じます。とくに樽で熟成した厚みのある白は、冷蔵庫の温度では香りがほとんど立ち上がりません。飲む15分ほど前に冷蔵庫から出しておくか、グラスの中で少し待つと、本来の表情が戻ってきます。

温度計がないと、ワインの適温は分かりませんか?

温度計はなくても足ります。口に含んで感じた違和感から直すほうが確実です。重いと感じたら氷水に3〜5分、痩せて感じたらグラスを手で包む。2℃の変化は10〜15分ほどで表情に出てきます。

川原壯太(Na Team Lab シェフ)
AUTHOR 川原 壯太 Na Team Lab シェフ

恵比寿のレストランを拠点に、年間200件を超える出張料理・会食を手がける。5味のバランスやペアリングなど「9つの原則」に基づいて食卓を設計し、料理教室・ワイン会も主宰。

Instagram @nateam.kawahara


提供直前まで、温度を追います。

温度は、注ぐ直前まで動き続けます。Na Team Lab の出張料理では、コースの進行に合わせてワインの温度と出すタイミングを追いながらお出しします。冷蔵庫と氷水だけで完結する設計ですので、ご自宅にセラーがあるかどうかは問いません。グラスもこちらで持参します。

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