家庭科の授業で習った記憶があります。さ・し・す・せ・そ。砂糖、塩、酢、醤油、味噌。けれど、なぜその順番なのかまでは、教わらなかった方が多いのではないでしょうか。

そのため、多くの方がこう感じています。順番を守っても、味が劇的に変わった実感はない。レシピによっては、まるで違う順で入れている。結局これは、語呂がいいだけの言い伝えではないのか。

半分は、その通りです。そして半分は、違います。

さしすせその並びには、食材の中で起きている物理現象が反映されています。理由が分かると、守るべき場面と、気にしなくてよい場面の区別がつくようになります。手元のレシピが「さしすせそ通りでない」ときにも、迷わずに済みます。

この記事では、5つの理由をひとつずつ分解したうえで、洋食の現場でこの原則がどう使われているのかまでをお話しします。

SUMMARY

結論:料理のさしすせそとは、砂糖・塩・酢・醤油・味噌を加える順番の覚え方です。 分子の大きい砂糖は食材に染み込むのが遅いため先に、香りが熱で飛びやすい酢・醤油・味噌は後に入れる、という理由に基づいています。 つまりこれは語呂合わせではなく、「入りにくいものから先に、飛んでしまうものを最後に」という時間軸の設計です。 洋食にこの型はありませんが、同じ原則は使われています。塩から入って味わいを重ね、香りと酸は終盤に置く、という形で。

塩をどれだけ使うかは塩と旨味の関係で、レシピから離れて判断する方法は料理の五つの基本で紹介しています。

結論|さしすせそは「染み込みの速さ」と「熱への弱さ」で決まった順番

先に答えをお伝えします。さしすせその順番を決めているのは、次の2つの軸です。

  • 染み込みの速さ:食材の中に入っていくのに、時間がかかるかどうか
  • 熱への弱さ:加熱している間に、香りや酸味が飛んでしまうかどうか

前半の「さ・し」、つまり砂糖と塩は、染み込みの速さで並んでいます。染み込むのが遅いものから先に入れる。だから砂糖が先です。

後半の「す・せ・そ」、すなわち酢・醤油・味噌は、熱への弱さで並んでいます。香りが失われやすいものほど、後に入れる。だから味噌が最後です。

ここで気づいていただきたいのは、さしすせその真ん中で基準が一度切り替わっていることです。前半は「入れる」ための順番、後半は「残す」ための順番です。ひとつの原則が5つを貫いているわけではありません。ここを知らないまま丸暗記すると、応用が効かなくなります。

さしすせその5つと、それぞれの理由

調味と盛り付けで料理を仕上げる手元
調味料は名前の順ではなく、染み込みと香りの残り方を見て加えます。

ひとつずつ見ていきます。

さ・砂糖|いちばん染み込みにくいから、先

砂糖の主成分であるショ糖は、分子が大きいという特徴があります。一方の塩は、水に溶けるとナトリウムと塩化物の小さなイオンに分かれます。大きさの差は、かなりのものです。

食材の細胞に入り込むとき、この差がそのまま速さの差になります。小さいものはすっと入り、大きいものは時間がかかる。だから砂糖には、先に入れて時間を与える必要があります。

後から加えた砂糖は、食材の表面に留まりがちです。かじった瞬間だけ甘く、中は素っ気ない。煮物で「味が入っていない」と感じるときの正体は、しばしばこれです。

し・塩|水を抜く力があるから、砂糖の後

塩は染み込むのが速い。それなら先でもよさそうですが、そうはいきません。塩にはもうひとつ、食材から水分を引き出す働きがあるためです。

塩を先に打つと、食材の水分が抜け、組織が締まります。締まったところへ、ただでさえ入りにくい砂糖を送り込むのは、無理があります。順番が逆になると、甘味だけが取り残されるのです。

す・酢|酸味も香りも熱で飛ぶから、後半

酢の酸味と香りは、加熱している間に少しずつ失われていきます。煮込むほどにとがりが取れ、丸くなる。

これは弱点であると同時に、使える性質でもあります。角のない酸味がほしいなら早めに、輪郭のある酸味を残したいなら終盤に。酢だけは、入れる時期で仕上がりの表情が変わります。

同じ量の酢でも、煮始めに加えれば味の土台の丸みになり、火を止める間際に加えれば料理の輪郭になります。量を変えずに印象を変えられる調味料は、そう多くありません。

せ・醤油|「せうゆ」の名残。香りを残すために終盤

「せ」が醤油なのは、旧仮名づかいで「せうゆ」と書いたためです。少し無理のある語呂ですが、位置そのものには理由があります。

醤油の魅力の多くは、あの立ちのぼる香りにあります。そして香りは、加熱に弱い。早く入れるほど、残るのは塩気と色だけになっていきます。

そのため、煮物では醤油を2回に分けることがあります。味を含ませるための醤油を早めに、香りを立てるための醤油を火を止める直前に。同じ調味料でも、担う仕事が違うわけです。

そ・味噌|香りがいちばん脆いから、火を止める直前

味噌は、5つのなかで最も香りが飛びやすい調味料です。味噌汁を煮立たせてはいけない、と言われるのはこのためです。沸騰させた瞬間、香りの多くが湯気になって逃げていきます。

だから味噌は最後。火を止める直前、あるいは止めてから溶き入れる。順番というより、引き際の話に近いかもしれません。

調味料位置を決めている理由入れる位置
砂糖分子が大きく、染み込むのに時間がかかる最初
塩水分を引き出すため、砂糖より先だと甘味が入らない砂糖の後
酢酸味と香りが加熱で飛ぶ。狙いによって前後する後半
醤油香りが加熱で失われる。含ませる分と香らせる分に分けられる終盤
味噌香りが最も脆く、煮立てると失われる火を止める直前

本当に守るべき順番と、守らなくてよい順番

ここまでを踏まえると、5つがすべて同じ重さではないことが見えてきます。

守る意味が大きいのは、砂糖と塩の前後関係です。 これは好みの問題ではなく、食材の中で実際に起きている現象に基づいています。煮物や煮浸しのように、味を「含ませる」料理では、逆にすると結果が変わります。

一方、酢・醤油・味噌の三つの並びは、厳密な序列ではありません。 これらはすべて「香りが熱で飛ぶ」という同じひとつの理由で後半に置かれています。ですから酢と醤油の前後が入れ替わっても、料理が崩れるわけではありません。大事なのは順序そのものではなく、香りを残したいものを最後に置くという考え方のほうです。

もうひとつ、前提の話をしておきます。さしすせそは、煮物を念頭に置いた型です。時間をかけて味を含ませる料理だからこそ、染み込みの速さが問題になります。

短時間で仕上げる炒め物では、そもそも染み込む時間がありません。和え物なら、加熱による香りの損失を心配する必要もありません。前提が変われば、型も変わります。レシピがさしすせそ通りでないとき、それは間違いではなく、別の前提で組まれた手順だと考えてよいと思います。

洋食に、さしすせそはあるのか

私はフレンチとイタリアンを軸に料理をしています。よく聞かれるのですが、洋食に「さしすせそ」に相当する型はありません。覚え方としての並びは、和食の中で育ったものです。

では順番の概念がないのかというと、そうではありません。むしろ起点が逆だと言ったほうが正確です。

洋食では、まず塩を振ります。下味で塩味を効かせ、素材の輪郭を立てる。そこから徐々に味わいを重ねていきます。そして最終的なところで乳化させ、ソースとしてまとめる。これが基本の流れです。

和食のさしすせそが甘味から入って塩味へ向かうのに対し、洋食は塩味から入って味わいを積み上げる。入り口が違います。

なぜ塩から始めるのか。塩は、それ自体が味であると同時に、ほかの味の輪郭を立ち上げる触媒だからです。土台を先に整えておかないと、あとから重ねた味わいがどこにも留まりません。和食が「時間をかけて含ませる」ことを起点に組まれているのに対し、洋食は「輪郭を先に立てる」ことを起点にしている。目的が違えば、入り口も変わります。

けれど、貫いている原則は同じです。

共通する原則洋食での現れ方
入りにくいものは先に置く下味の塩を最初に打ち、素材の輪郭を立ててから味わいを重ねる
熱で飛ぶものは後に置く酸や香草は、火から下ろす近くで加える
最後にひとつにまとめる火を落としたところで乳化させ、ソースとして束ねる

乳化とは、本来混ざり合わない油分と水分を、ひとつの状態に結びつける工程のことです。強い火に当てたままでは分離しやすいため、火を落としたところで仕上げます。これも「熱で壊れるものは最後に」という同じ原則の上にあります。

言い方を変えれば、さしすせそは和食の言葉で書かれた原則であって、原則そのものは国境を持っていません。

塩は、一度で決めない

洋食の話をもう少し続けます。順番の話でいちばん実用的なのは、実は塩の扱いだからです。

私は塩を、下味・中間・仕上げの三点に分けて打っています。仕上げの塩を打たないと決める場面は、ほとんどありません。

考え方はこうです。その料理に必要な塩の総量を、仮に10とします。大事なのは、その10をどの段階で10にするかです。私は味見をする段階で8か9の状態にしておき、そこから残りを足して10へ持っていきます。

なぜ最初から10にしないのか。一度過剰になった塩は、戻せないからです。8か9で止めておけば、まだ判断の余地が残ります。逆に最初に10を入れてしまうと、味見は「確認」にしかならず、「調整」ができません。

塩を分けて打つことの本質は、回数ではありません。最後の1か2を、自分の舌のために残しておくことです。

下味の塩を、あえて打たないとき

型を破る場面についても、お話ししておきます。

下味の塩には、二つの働きがあります。ひとつは味を入れること。もうひとつは、水分を引き出し、その水分と一緒に臭みを抜くことです。

つまり下味の塩を打たなければ、水分は残りますが、臭みも残ります。この二つは、表と裏の関係にあります。

だからこそ、素材の質がよく、抜くべき臭みがない場合には、あえて下味を打たないという選択ができます。水分を食材の中に残したまま、最後の味を決めるところで塩を使う。仕上がりの潤いが変わってきます。

味が決まらない人に共通しているのは、順番ではありません

料理教室や出張の現場で、たくさんの方の手元を見てきました。「味が決まらない」とおっしゃる方には、共通点があります。

順番ではなく、塩の量が足りていないのです。

これは腕の問題ではありません。塩を入れすぎることへの恐れが、手を止めさせているのだと思います。少しずつ、慎重に足していく。その結果、ピークの手前で終わってしまう。

ここに落とし穴があります。上限を知らないまま少しずつ足しても、どこがピークなのか分からないのです。基準がないので、「もう少し足せる」のか「もう十分」なのかを判断できません。

ですから私は、一度だけ試してみることをおすすめしています。練習として一皿だけ、思い切って塩辛いところまで振ってみるのです。

そこまで行くと、はっきり分かります。ああ、これが塩辛いということか、と。その一度で、自分の中に上限の目盛りができます。あとは、そこから戻ってくればいい。次からは少しずつ塩を加えながら味見をして、自分の中で味を決めていけるようになります。

ひとつだけ、お願いがあります。これは本番の料理でやらないでください。 一度過剰になった塩は戻せません。人にお出しする一皿ではなく、練習の一皿で試してみてください。

味見は、味を確かめる作業ではありません。味を決める作業です。決めるためには、決める余地を残しておく必要があります。塩を三点に分ける理由も、結局はここに行き着きます。

順番を、体で覚える

ここまで、理由をひとつずつ言葉にしてきました。けれど正直に申し上げると、文字で読んだ順番と、手が覚えている順番のあいだには、まだ距離があります。

「味が入っていない」「香りが飛んでいる」「あと少し足りない」。こうした言葉は、実際に自分の舌で確かめた瞬間に、はじめて意味を持ちます。さしすせそは、覚えるものではなく、手が覚えているものです。

Na Team Lab では、恵比寿のレストランや出張料理のほか、料理教室も行っています。教室では、塩をどこで打つか、香りをどこで残すかといった判断を、実際に手を動かしながらお伝えしています。理由から入る学び方なので、レシピを離れても応用が効きます。

Na Team Lab のレストラン・出張料理・料理教室の詳細については、公式LINEにてご案内しています。

まとめ

料理のさしすせそについて、理由から整理してきました。要点を振り返ります。

  • さしすせそは、砂糖・塩・酢・醤油・味噌を加える順番の覚え方。語呂合わせの裏に、食材の中で起きている現象がある
  • 前半の砂糖と塩は「染み込みの速さ」で並ぶ。分子の大きい砂糖は入るのに時間がかかり、塩は水分を引き出して組織を締める
  • 後半の酢・醤油・味噌は「熱への弱さ」で並ぶ。香りが飛びやすいものほど後に置く
  • 守る意味が大きいのは砂糖と塩の前後関係。酢・醤油・味噌の三つの並びは厳密な序列ではない
  • さしすせそは煮物を前提にした型。炒め物や和え物では前提そのものが変わる
  • 洋食にこの型はないが、原則は共通している。塩から入って味わいを重ね、熱で壊れるものを最後に置く
  • 塩は下味・中間・仕上げに分け、味見の段階では8か9に留めておく。最後の一つまみを、自分の舌のために残す

明日の台所で、ひとつだけ試してみてください。いつも一度で入れている塩を、二度に分けてみる。 それだけで、味見が「確認」から「決定」に変わります。

よくある質問

みりんと酒は、さしすせそのどこに入りますか?

さしすせそには含まれていません。目的によって位置が変わるためです。酒はアルコールを飛ばし、臭みを抜く目的で使うことが多いため、早めに加えます。みりんは、味を含ませたいなら早めに、照りと香りを立てたいなら終盤に。ここでも軸は「染み込ませるのか、残すのか」です。

レシピの順番がさしすせそと違うときは、どちらに従うべきですか?

レシピを優先してよいと考えています。さしすせそは煮物を前提にした型であり、炒め物や和え物では前提が変わるためです。短時間で仕上げる料理には、そもそも染み込む時間がありません。ご自身が作ろうとしている料理が「含ませる料理」かどうかを、判断の目安にしてみてください。

減塩したいときも、この順番でよいですか?

塩を分けて打つ考え方は、減塩とも相性がよいと感じています。仕上げに打った塩は食材の表面に残るため、少量でも塩味を感じやすいためです。総量を控えたい場合ほど、最後の一つまみを残しておく意味があります。塩の量そのものの考え方は、塩と旨味の記事もあわせてご覧ください。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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