「今日も作らなきゃ」と思った瞬間に、少し気持ちが重くなる。冷蔵庫を開ける前から、もう疲れている。料理がめんどくさいと感じるとき、その重さは台所に立つ前に生まれていることがほとんどです。
私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。毎日料理を作る仕事をしていますが、それでも自分ひとりのために作る料理は、正直あまり面白くありません。料理めんどくさいという感覚は、私にもよく分かります。
この記事では、その「めんどくさい」がどこから来ているのかを分解します。そのうえで、下げ方を三つお伝えします。腕を上げる話ではありません。ハードルを下げる話です。
結論:料理がめんどくさいのは、腕の問題ではなく、ハードルと工程の数の問題です。 献立を決め、買い物に行き、下ごしらえをして、火を入れ、片付ける。料理は一度に多くの判断を求めます。だからまず、まな板を使わない・フライパン一つで作るところまでハードルを下げることが先です。 味が決まらないのは、塩・醤油・味噌を合わせた塩味の総量を見ていないから。火入れが決まらないのは、強火だけで通そうとしているからです。 そして最も効くのは、誰かのために作ること。喜ぶ顔があると、同じ工程が苦ではなくなります。
まず覚えたい判断は料理の五つの基本で、味がぼやける理由は塩と旨味の関係で整理しています。
料理がめんどくさいのは、ハードルが高いからです
料理がめんどくさいのは、意志が弱いからではありません。ハードルが高いところに置かれたままだからです。
多くの場合、料理は「一式そろえてやるもの」として始まります。まな板を出し、包丁を出し、鍋とフライパンを出し、レシピ通りに材料を切る。この時点で、まだ一口も食べていないのに、洗い物の予定だけが増えていきます。
ですから最初にやることは、上手くなろうとすることではありません。ハードルを下げることです。
- まな板を使わない料理
- フライパン一つで終わる料理
このあたりから始めて、まずは「料理をするのは楽しい」というところに戻る。順序としては、これが先です。
そして面白いのは、そこから先は自分でハードルを上げ始めるということです。フライパン一つだったものが、いつのまにか二つになる。包丁で切るようになる。やがて、自分でお肉をさばきたい、魚をさばきたいと思うようになります。
これは知的好奇心と、成長していきたいという気持ちが芽生えた状態です。そこまで来ると、料理はどんどん楽しくなっていきます。
大事なのは順序です。下げる、楽しむ、好奇心が生まれる、自分で上げる。 最初から上げようとするから、続かないのだと思います。
めんどくさいの中身は、献立と買い物に集まっています

では、料理のどこが重いのか。工程に分けて並べてみます。
| 工程 | 求められること | 重さ |
|---|---|---|
| 献立を決める | 食べたいもの・作れるもの・家にあるものを同時に考える | 重い |
| 買い物に行く | 移動と選択。時間そのものが取られる | 重い |
| 下ごしらえ | 道具を出す。食べる前に洗い物が増える | 中 |
| 火を入れる | 火加減と、止める時点の判断 | 中 |
| 味を決める | 塩の量。戻せない判断が含まれる | 中 |
| 片付ける | 使った道具の数に比例する | 軽〜中 |
こうして並べると、いちばん重い二つが、調理より前に来ていることが分かります。
献立を作る、買い物に行く。この工程の多さが、やはり大変なのだと思います。ここで力を使い切ってしまうと、台所に立つ前に一日が終わります。「料理がめんどくさい」の正体は、フライパンの前ではなく、この手前にあることが少なくありません。
この二つは、減らすより人とつなぐ
献立と買い物は、工程そのものを消すのが難しい部分です。ですから私は、減らすのではなく人とつなぐことをおすすめしています。
献立なら、「これ今日食べたいから作って」と言われたものを作る。決める仕事を、いったん手放してしまうということです。買い物なら、その人と一緒に行ってしまう。移動の時間が、そのまま人と過ごす時間に変わります。
同じ工程でも、ひとりで背負うのと、誰かと分けるのとでは重さが違います。ここは後半でもう一度触れます。
ハードルを下げる一つめ ― まな板を使わない、フライパン一つで作る
具体的な下げ方の一つめは、道具です。
まな板を使わない。 これだけで、切るという判断と、洗う道具が同時に一つ減ります。豆腐は手で崩せますし、きのこは手で裂けます。葉物はちぎれますし、ミニトマトやウインナーは、そのまま入れて構いません。缶詰や冷凍の野菜も、切る工程を丸ごと省いてくれます。
フライパン一つで終わらせる。 鍋とフライパンを併用しないと決めるだけで、火を見る場所が一箇所になります。洗い物も一つです。順番に入れて、火を入れて、そのまま器に移す。それで一皿になります。
物足りないように思われるかもしれません。けれど、続かない一皿より、続く一皿のほうが料理としては上だと私は考えています。めんどくさい料理を我慢して続けるより、めんどくさくならない一皿を一つ持っているほうが確実です。
そして先ほどお話しした通り、ここは通過点です。フライパン一つに慣れると、多くの方が自分から二つめを出します。包丁を持ちたくなります。そのときには、めんどくさいという言葉はもう出てこないはずです。
ハードルを下げる二つめ ― 味が決まらないのは、塩味の総量を見ていないからです
味が決まらない、という悩みは非常に多く聞きます。ただ、ここには誤解があります。
食材の組み合わせは、レシピを見ればほとんど外しません。 塩と食材の相性は、ある程度分かっていれば失敗しづらいものです。レシピに載っている食材をそのまま選んで入れれば、大きくは外れません。
難しいのは、そこではなく塩加減です。
失敗は、二つの方向にしか起きない
塩の失敗は、足りないか、多いかのどちらかです。
- 塩味が低いとき:旨味が上がってきません。薄く、味のないような仕上がりになります
- 塩味が高いとき:しょっぱくなります。そこで水を入れて薄めると、今度はべちゃべちゃになります
厄介なのは後者です。しょっぱいから水を足す、という一手が、水っぽさという二つめの失敗を呼びます。一度過剰になった塩は、戻せません。
醤油も味噌も、塩味です
家庭の料理で味が決まらない最大の理由は、ここだと思っています。
醤油も味噌も、塩味を含んでいます。 ところが多くの場合、塩は塩、醤油は醤油、味噌は味噌として、別々に扱われています。だから、それぞれをレシピ通りに入れたのに全体としてしょっぱい、ということが起きます。
順序を逆にしてください。
1. その料理に入れる塩味の総量を、先に決める
2. そこから逆算して、塩・醤油・味噌の配分を割り振る
塩味だけで決めるのか、醤油も味噌も使ったうえで塩も使うのか。総量を意識した段階から逆算していくと、味は決まりやすくなります。塩は足すものではなく、旨味を彫るための道具です。
その次に見るのは、旨味のベースと、際立たせる味
塩を抑えられたら、次の二つを考えます。
一つめは、この料理の旨味のベースを何で補っているのか。出汁なのか、きのこなのか、トマトなのか、肉そのものなのか。ここが空いていると、塩をいくら足しても物足りなさが残ります。
二つめは、どの味を際立たせるかを一つだけ決めることです。酸味を立たせたい料理なら、酸味のある食材を中心に組み立てます。脂身のある食材が主役なら、脇役に酸味や苦味を用意します。どこを際立たせて、どこを逆に置くか。 この設計だけで、同じ材料でも味の輪郭は変わります。
ハードルを下げる三つめ ― 火入れは、強火だけでやらないことです
火の話は、一つだけ覚えれば十分です。強火だけでやらないこと。 これに尽きます。
私も最初はそうでした。早く作りたいし、めんどくさいから、強火だけで火を入れてしまう。気持ちはよく分かります。けれど、強火だけでできることには限界があります。
分かりやすいのは肉です。強火だけで焼くと、表面だけが焦げて、中に火が入りません。 中はレアなのに、外は焦げている。あの失敗の構造は、火加減が一段しかないことから来ています。
順序を入れ替えます。じっくり弱火で中心の温度を上げてから、最後に強火にして表面を香ばしくする。 これだけで、外が焦げて中が生、という失敗はほとんど起きなくなります。
つまり要点は、強火・中火・弱火という段階を持っていることではありません。なぜその火を使うのかを、自分で言えることです。火加減を調整できなければ、この順序は踏めません。
自分のために作る料理は、正直あまり面白くありません
ここまで、道具と塩と火の話をしてきました。けれど、いちばん効くのは技術ではないと思っています。
冒頭にも書きましたが、私自身、自分のために作る料理はあまり面白くありません。 毎日厨房に立っている人間が言うのですから、これは腕の問題ではないのだと思います。
作っても、食べるのは自分ひとり。感想を言う人もいない。それなら、めんどくさいからコンビニのお弁当でいい。そうなるのは、意志の弱さではなく、ごく自然な判断です。
けれど、友達に振る舞う。家族に振る舞う。誰かのために作る。 ここに変わった瞬間、同じ工程が別のものになります。めんどくさいことに変わりはありません。それでも、喜ぶ顔が見たいという理由が一つあるだけで、献立も買い物も苦ではなくなります。
だから私は、料理を続けたい方に、月に一度でも誰かに食べてもらう機会を作ることをおすすめしています。振る舞う相手がいる料理は、練習ではなく、その日一度きりの時間になります。前の章でお話しした「献立を人に決めてもらう」「買い物を一緒に行く」も、同じ考え方の延長です。
めんどくさいけれど、誰かのために作る。そこを少しずつ取り入れていくうちに、料理との向き合い方は静かに変わっていきます。
ハードルの下げ方は、読むより見たほうが速い
ここまで書いてきたことは、文章にすると理屈っぽくなります。実際には、一度見てしまえば終わる話でもあります。
塩味の総量をどう逆算しているのか。弱火から強火に切り替えるのは、どのタイミングなのか。これは読んで覚えるより、目の前で見て、その場で味わうほうがはるかに速いと感じています。
恵比寿のNa Team Labでは、八席のレストランをそのまま教室として使い、料理教室を開いています。私が実演し、参加者の皆さまには見て、味わっていただく形式です。
- 1回 6,000円(材料費・ワインを含む)
- 入会金なし・回数の縛りなし
- 8名限定・2時間
- 場所:恵比寿 Na Team Lab
まとめ
- 料理がめんどくさいのは、腕ではなくハードルの高さの問題です。下げる、楽しむ、好奇心が生まれる、自分で上げる。この順序が要点になります
- 重いのは献立と買い物。調理より前に来る工程なので、ここで力を使い切ると台所に立てません
- 道具のハードルは、まな板を使わない・フライパン一つまで下げてください
- 味が決まらないのは、醤油や味噌を含めた塩味の総量を見ていないからです。総量を先に決めて逆算します
- 火入れは強火だけでやらない。弱火で中心を温めてから、最後に強火で表面を香ばしくします
- そして最も効くのは、誰かのために作ることです
よくある質問
一人暮らしだと料理がめんどくさくて続きません。どうすればよいですか?
自分のためだけに作る料理は、料理人でもあまり面白いものではありません。まずはまな板を使わない、フライパン一つで終わる、というところまでハードルを下げてください。そのうえで月に一度でも誰かに振る舞う機会を作ると、同じ工程が苦ではなくなります。
料理がめんどくさい人は、どの工程から減らせばよいですか?
献立と買い物です。この二つは調理の前に来るため、ここで疲れると台所に立つ前に終わってしまいます。食べたいものを人に決めてもらう、買い物に一緒に行く。工程そのものを消すより、人とつなぐほうが軽くなります。
味が決まらないときは、何を見直せばよいですか?
塩味の総量です。醤油も味噌も塩味を含んでいます。何をどれだけ使うかを先に決め、そこから逆算して配分してください。足りないと旨味が立ち上がらず、入れすぎて水で薄めると水っぽくなります。戻せないのは、入れすぎたほうです。
面倒を減らす順番を、実際の一皿で。
一回完結の少人数クラスで、工程を増やさず味を決める考え方を持ち帰れます。

