結論:クリュ・ボジョレーは、ボジョレー地区で特に優れた10の村だけが名乗れる、格付けの最上位のワインです。 ラベルには「ボジョレー」ではなく、モルゴンやフルーリーといった村の名前が大きく書かれます。 軽やかで花の香りが立つ村から、何年も置ける力強い村まで、10の村で個性が違います。 新酒は認められていないため、ヌーヴォーとは別の棚で探すワインです。 10の村とは、サン・タムールからコート・ド・ブルイィまで、地区北部に並ぶ村々です。
あわせて、モルゴンは、ガメイが熟成で化ける村とボジョレー・ヴィラージュは、「村」で一段上がるボジョレーもご覧ください。

ボジョレーには、新酒以外のワインがあります。そう聞いて売り場に行くと、今度は別の壁に当たります。
棚に並んでいるのは、「ムーラン・ア・ヴァン」「フルーリー」「ブルイィ」といった、聞いたことのない名前です。どこにも「ボジョレー」とは書かれていません。それがクリュ・ボジョレーです。
クリュ・ボジョレーは、ボジョレーの格付けで最上位にあたります。そして10ある村は、それぞれ違う顔をしています。軽やかな村もあれば、10年置ける村もある。名前を知らないまま棚の前に立つと、選べないのは当然です。
この記事では、「クリュ」という言葉の意味、ラベルの見方、10の村の特徴を一覧で、最初に選ぶならどれか、そして「ヌーヴォーはまずい」という評判の正体まで、順に整理します。
クリュ・ボジョレーとは 「クリュ」が意味するもの
まず、言葉の整理から始めます。
クリュ(cru)は、フランス語で「育ったもの」を語源とする言葉です。ワインの文脈では、特定の土地と、そこから生まれるワインの格を指して使われます。
ややこしいのは、産地によって指す単位が違うことです。
- ブルゴーニュ … 村の中の「畑」を指します(グラン・クリュ=特級畑、プルミエ・クリュ=1級畑)
- ボルドー … 「シャトー(生産者)」の格を指します(グラン・クリュ・クラッセなど)
- ボジョレー … 「村」を指します
ボジョレーでは、クリュは村の単位です。 村そのものが格付けの対象になっていて、その村で収穫されたぶどうから造られたワインが、村の名前を名乗れます。
ボジョレーの格付けは3段です。
- ボジョレー … 地区全体(72の村)のぶどうで造る
- ボジョレー・ヴィラージュ … 北側の38の村のぶどうで造る
- クリュ・ボジョレー … 特に優れた10の村のいずれかの名前を名乗る
呼称の総数は12(ボジョレー、ボジョレー・ヴィラージュ、10のクリュ)です。段が上がるほど、名乗れる土地が狭くなります。ヴィラージュの仕組みはボジョレー・ヴィラージュの記事にまとめました。
10のクリュは、いずれもボジョレー地区の北部に集まっています。花崗岩や片岩といった古い岩が崩れた、やせて水はけのよい斜面です。ヴィラージュの38村は、この10のクリュを外側から取り囲むように分布しています。
ラベルの見方 「ボジョレー」の文字が消える
クリュを見分けるのは、意外に簡単です。ラベルで、いちばん大きく書かれているのが村の名前かどうかを見ます。
| ラベルの表記 | 格付け |
|---|---|
| Beaujolais が大きい | ボジョレー |
| Beaujolais-Villages が大きい | ボジョレー・ヴィラージュ |
| Morgon、Fleurie など村名が大きい | クリュ・ボジョレー |
クリュのボトルでは、「Beaujolais」の文字が小さく添えられているか、まったく書かれていないことがあります。「Appellation Morgon Contrôlée」のように、村の名前が呼称そのものとして記されます。
ここに、売り場での落とし穴があります。ボジョレーを探している方が、クリュのボトルを見落とします。 棚に「ボジョレー」のコーナーがあっても、クリュは別の場所に置かれていたり、「フランス・その他」にまとめられていたりします。村の名前を10個覚えておくと、この見落としがなくなります。
もうひとつ。ラベルに「クリュ・ボジョレー」や「クリュ・デュ・ボジョレー」と書かれているわけではありません。これは10の呼称をまとめて呼ぶための総称で、ボトルの上に印刷される言葉ではないのが普通です。ラベルの読み方全般はワインラベルの読み方の記事で詳しくお伝えしています。
10のクリュの一覧 軽い順に並べると
ここが、この記事の中心です。10の村を、軽やかな側から順に並べます。
最初に、大事な前置きをさせてください。この順序は、公式な序列ではありません。 ボジョレーワイン委員会は、クリュを味の強さで順位づけた表を公表していません。以下は、取引や解説の場で繰り返し語られてきた目安を整理したものです。資料によって、中ほどの順序は入れ替わります。
| 村 | 味の傾向 | 熟成の目安 | 合う料理 |
|---|---|---|---|
| シルーブル | 10村で最も軽やか。標高が高く、花の香りが立つ | 2〜4年 | 鶏、生ハム、若いチーズ |
| レニエ | 軽やかで、赤い果実がまっすぐ。10村で最も新しい呼称 | 2〜4年 | 豚、パテ、焼き鳥 |
| ブルイィ | 果実味が親しみやすい。10村で最も面積が広い | 3〜5年 | 豚のロースト、シャルキュトリー |
| サン・タムール | 軽やかで香りが華やか。名前の響きで贈り物にも | 3〜5年 | 鶏、サーモン、和食 |
| フルーリー | 中程度。すみれやばらの香り。「女王」と呼ばれる | 3〜6年 | 鴨、鶏のクリーム煮 |
| コート・ド・ブルイィ | ブルイィより骨格がある。丘の斜面の区画 | 4〜7年 | 牛の赤身、きのこ |
| ジュリエナ | しっかりした果実味と、スパイスの香り | 5〜8年 | 豚の塊肉、煮込み |
| シェナス | 力強く、硬質な輪郭。10村で最も面積が狭い | 5〜10年 | 鴨、ジビエ |
| モルゴン | 力強く、熟成で香りが大きく変わる | 5〜10年 | 鴨、きのこ、熟成チーズ |
| ムーラン・ア・ヴァン | 10村で最も骨格がある。「王」と呼ばれる | 10年以上の例も | 牛の煮込み、ジビエ |
※ 熟成の目安は、造り手と年によって大きく変わります。あくまで方向としてご覧ください。
この表を上から下へ読んでいただくと、ひとつの流れが見えます。上のほうは香りと軽やかさで語られ、下のほうは骨格と熟成で語られます。
比較的確かだと言えるのは、両端です。シルーブルが最も軽やか、ムーラン・ア・ヴァンが最も骨格があり、モルゴンがそれに次ぐ。この三つの位置は、どの資料でもほぼ変わりません。中ほどの順序は、造り手による差のほうが大きいと考えたほうが実際に近いはずです。

最初に選ぶなら 二つの入口
10の村を前にして、どこから始めるか。入口は二つあります。
軽やかな村から入る
ボジョレーの新酒に親しんでいて、その延長で一段上を試したい方には、軽やかな側をおすすめします。
- ブルイィ … 10村で最も面積が広く、流通量も多いので見つけやすい
- シルーブル … 標高が高く、10村で最も軽やか。花の香りが立ちます
- フルーリー … 名前が覚えやすく、香りの華やかさが分かりやすい
この三つは、新酒からの距離が近いぶん、違いも素直に感じられます。「新酒よりしっかりしているが、重すぎない」という感覚が、最初の基準になります。
力強い村から入る
ふだん渋みのある赤を飲んでいて、ガメイに半信半疑の方には、むしろ逆をおすすめします。
- ムーラン・ア・ヴァン … 10村で最も骨格がある。「ボジョレーの王」
- モルゴン … 力強く、数年置くと香りが大きく変わる
この二つは、ガメイに対する先入観をいちばん大きく外してくれる村です。「ボジョレーは軽い」という理解が、一杯で更新されます。 モルゴンの詳細はモルゴンの記事に、土壌と熟成を軸にまとめました。
できれば、軽い村と力強い村を1本ずつ、同じ日に開けてみてください。10の村の幅が、両端から分かります。
ムーラン・ア・ヴァン 「ボジョレーの王」と呼ばれる理由
10のクリュの中で、ムーラン・ア・ヴァンだけが特別な呼び名を持っています。「ボジョレーの王(King of Beaujolais)」です。
理由は、三つに整理できます。
- 骨格:10村の中で最も構造がしっかりしています
- 熟成する力:10年、良い年のものはそれ以上置けると語られます
- 土壌:マンガンと鉄を多く含んだ花崗岩質の土です
三つめが、残りの二つの原因になっています。マンガンを含む土はぶどうの木に負荷をかけ、収量を抑えます。そして風化した花崗岩は水はけがよく、木は水を求めて根を深く伸ばします。木が楽をできない土が、濃度のあるワインを生みます。
ボジョレーワイン委員会も、ムーラン・ア・ヴァンを「構造のあるクリュ」の側に分類し、3年以上たったものは17℃で出すことを目安として示しています。軽い赤の扱いではありません。
なお、フルーリーは慣習的に「ボジョレーの女王」と呼ばれます。王と女王。どちらも公式な称号ではなく、長く語られてきた呼び名です。
ブルゴーニュの造り手が、ボジョレーで造るとき
ムーラン・ア・ヴァンには、もうひとつ興味深い動きがあります。ブルゴーニュの造り手が、この村に畑を持つようになったことです。
その代表格が、ティボー・リジェ・ベレールです。ブルゴーニュのニュイ・サン・ジョルジュを本拠とする造り手で、コート・ド・ニュイに畑を持ち、家は数百年にわたってぶどう栽培に携わってきたと伝えられています。
その彼が、2008年ごろにムーラン・ア・ヴァンへ入りました。古木の畑を手に入れ、ブルゴーニュで赤を造る手法をそのままガメイに持ち込みました。
これは、ガメイの歴史を知っていると、なかなか示唆的な出来事です。14世紀末、ブルゴーニュ公はガメイを布告で禁じ、コート・ドールからガメイの姿は消えました。そのブルゴーニュの造り手が、600年あまりを経て、南に残ったガメイを手がけている。ガメイそのものの歴史はガメイの品種解説に整理しました。
ブルゴーニュの格付けの考え方はブルゴーニュを畑の名前で選ぶという記事にまとめています。同じ「土地で選ぶ」という発想が、単位を村に変えてボジョレーにも通っていることが見えてきます。
「ヌーヴォーはまずい」は本当か
クリュの話をすると、よく出てくる問いがあります。「ではヌーヴォーは、やはり良くないのか」。
ここは短くお答えします。ヌーヴォーは、クリュと比べるためのワインではありません。
新酒は、その年のぶどうがどう実ったかを確かめるためのワインです。数週間で仕上げるため、渋みは穏やかで、赤い果実の香りがまっすぐ出ます。熟成した赤の尺度(骨格、複雑さ、余韻の長さ)で測れば、物足りなく感じるのは当然です。測る尺度が違います。
実際のところ、「おいしくない」と言われる場面には、別の原因もあります。提供温度が高すぎる、グラスが合っていない、開けてから時間が経ちすぎている。この三つで、新酒の印象はかなり変わります。詳しくはボジョレー・ヌーヴォーの記事に、理由ごとに整理しました。
そして、制度の面でも一点はっきりしています。10のクリュには、新酒が認められていません。 ボジョレーワイン委員会は、新酒を造れるのはボジョレーとボジョレー・ヴィラージュの2つの呼称だけだと明記しています。
つまり、「ボジョレーの頂点を新酒で飲む」ことは、制度上できません。 新酒の棚でいちばん上の段はヴィラージュのヌーヴォーであり、クリュは別の棚にあります。この構造が分かると、11月の売り場での選び方がはっきりします。

新酒と熟成したクリュを、同じ夜に並べる
10の村の名前を覚えました。軽い順の目安も頭に入りました。それでも、棚の前に立つと手が止まる。
そういうお話を、よくうかがいます。知識と体験の間には、まだ一歩あります。
その一歩を埋める方法は、ひとつです。並べて飲むことです。
新酒と熟成したクリュは、隣に並べると、同じ品種とは思えないほど違います。
片方は、果実の香りがまっすぐ立ち上がり、口の中を軽やかに通り抜けます。もう片方は、香りの中心がキルシュや干した果実、革のほうへ移り、骨格が舌の上に残ります。色も違います。新酒は青みを帯びた明るい紫、熟成したクリュは落ち着いた赤へ寄ります。
同じガメイ、同じボジョレー。変わったのは、村と、時間だけです。
飲み比べには設計があります。共通点をひとつ作り、そこだけを変える。ボジョレーでは、共通点を品種が引き受けてくれます。だから動かす方向は、村と年の二つに絞られます。
一杯ずつ別の日に飲んでいては、記憶の中で比べることになります。違いの輪郭は、そこでぼやけてしまいます。
ワインが先、料理が後
私は年間で約2,000種のワインを試飲し、その中から会ごとの一本を選んでいます。順番は、ワインが先、料理が後です。泡、白、ロゼ、赤、甘口というコースの流れを思い描いてワインを決め、それが確定してから皿を組みます。
ボジョレーの夜は、この順番が特に効きます。同じ品種でこれだけ幅があるのなら、流れそのものを時間の順に組めるからです。
恵比寿の八席で、ボジョレーの6種を並べる夜をご用意しています。乾杯はガメイの白い泡から。次にボジョレーで造られるシャルドネの白、ロゼの新酒、赤の新酒。そこから8年熟成(2018年)のクリュへ進み、最後は甘口のロゼで締めます。新酒は、解禁から4日後のものを2種お出しします。
同じ夜に、その年の新酒と8年前のクリュが並びます。 ボジョレーの時間が、一本の線になって卓に置かれる形です。目玉として、ブルゴーニュの名手ティボー・リジェ・ベレールが手がけるボジョレーも入ります。ブルゴーニュの造り手がガメイをどう扱うのか、という問いへの、ひとつの答えになるはずです。
料理は、ゲストシェフがつくります。6種それぞれに皿を合わせる、ペアリングのフルコースです。
まとめ
クリュ・ボジョレーは、村の名前で選ぶワインです。要点を整理します。
- クリュ・ボジョレーは、ボジョレーの格付けの最上位。10の村だけが名乗れます
- ボジョレーでの「クリュ」は村の単位です(ブルゴーニュは畑、ボルドーは生産者)
- ラベルでは村の名前が大きく、「ボジョレー」の文字は小さいか書かれていません
- 10の村は、サン・タムール、ジュリエナ、シェナス、ムーラン・ア・ヴァン、フルーリー、シルーブル、モルゴン、レニエ、ブルイィ、コート・ド・ブルイィ
- 軽い順の目安はありますが、公式な序列ではありません。確かなのはシルーブルが最も軽く、ムーラン・ア・ヴァンが最も骨格があるという両端です
- ムーラン・ア・ヴァンは「ボジョレーの王」。マンガンと鉄を含む花崗岩質の土が理由です
- 10のクリュには新酒が認められていません。ヌーヴォーとは別の棚で探します
- 提供温度の目安は15〜17℃。軽い赤と同じ温度では、骨格が閉じてしまいます
次にボジョレーを選ぶときは、軽い村と力強い村を1本ずつ用意してみてください。同じ品種、同じ産地で、村だけが違う。10の村の幅が、両端から分かります。
「ボジョレーは、新酒でしょ」と思っている方へ。恵比寿の八席で、ボジョレーの6種を料理とともにお出しする夜をご用意しました。ガメイの白い泡から、白、ロゼの新酒、赤の新酒、8年熟成のクリュ、甘口のロゼまで。着席8名、会費は16,500円、ご予約はTableCheckにて承っており、満席の回から締め切ります。開催7日前までなら、別の日に振り替えていただけます。
好みの方向がまだ定まっていない方は、無料のワイン診断から始めていただくこともできます。
よくある質問
ボジョレーの最高峰はどれですか?
格付けの上では、10の村が名乗るクリュ・ボジョレーが最上位です。その中でもムーラン・ア・ヴァンは「ボジョレーの王」と呼ばれ、骨格と熟成する力で語られます。ただし公式な村の序列はなく、どの村が頂点かは好みによって変わります。
「クリュ」とはどういう意味ですか?
フランス語で「育ったもの」を語源とし、特定の土地とそのワインの格を指します。指す単位は産地ごとに違い、ブルゴーニュでは畑、ボルドーでは生産者、ボジョレーでは村を意味します。クリュ・ボジョレーは、村そのものが格付けの対象です。
ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?
ワイン会はこれまで100回以上開いてきましたが、参加者の半数以上はおひとりでのご参加です。知識は要りません。席は8つだけで、一本ずつご説明しながら進めます。日程はワイン会のご案内にまとめています。
クリュ・ボジョレーにヌーヴォー(新酒)はありますか?
ありません。新酒を造れるのはボジョレーとボジョレー・ヴィラージュの2つの呼称だけで、10のクリュには新酒が認められていません。クリュはヌーヴォーとは別の棚で探すワインです。
クリュ・ボジョレーはラベルのどこで見分けますか?
ラベルでいちばん大きく書かれているのが、モルゴンやフルーリーといった村の名前かどうかを見ます。クリュのボトルでは「Beaujolais」の文字が小さく添えられているか、まったく書かれていないことがあります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
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