ワインの棚の前で、手が止まることがあります。ブルゴーニュの一角です。ジュヴレ・シャンベルタン、ピュリニー・モンラッシェ。長い地名が並んでいて、どれがぶどうの名前で、どれが場所の名前なのかが分かりません。値段も3,000円から数万円まで開いていて、その幅の理由も見えてきません。

ブルゴーニュワインは、覚えることの多い産地だと思われがちです。けれども、順番を変えると景色が変わります。この産地では、ぶどうの品種はほとんど決まっているからです。決まっていないのは、畑のほうです。

SUMMARY

結論:ブルゴーニュワインは、フランス東部で造られる、赤はピノ・ノワール、白はシャルドネを中心としたワインです。 品種がほぼ決まっているため、味わいを分けているのは畑のほうです。格付けも、地方名・村名・一級畑・特級畑という畑の単位で決まります。 ボルドーがシャトーという造り手の名前で選ぶのに対して、ブルゴーニュは村と畑の名前で選ぶ産地です。 この記事では、5つの地区の地図、4段階の格付け、ラベルに並ぶ村名の読み方までを、料理人の視点で整理します。

あわせて、シャブリとシャルドネの関係とピノ・ノワールと料理もご覧ください。

ブルゴーニュワインとは フランス東部の、畑で選ぶワイン

ブルゴーニュは、フランス東部にある産地です。パリの南東、ディジョンの街からリヨンの手前まで、細長く南北に伸びています。

造られるワインの中心は、二つの品種です。赤はピノ・ノワール、白はシャルドネ。この二つで、地方の生産のほとんどが占められます。

ピノ・ノワールは「赤ワインの宝石」と呼ばれる品種です。繊細で優雅、樹液感のある味わいが特徴で、冷涼な土地ほど品質が上がる性質を持っています。シャルドネは樽の有無で香りが大きく変わる品種で、冷涼地ではレモンやリンゴ、温暖地ではバターやトロピカルフルーツの方向に寄ります。

ブルゴーニュは、冷涼な気候です。その気候が、繊細で酸の高いワインを生みます。同じピノ・ノワールでも、カリフォルニアで育てば肉厚な果実感が前に出ます。同じDNAが、地球の二点で別の音楽を奏でているようなものです。品種は、産地とセットで初めて意味を持ちます。

ここから、この産地の特殊な事情が生まれます。品種が決まっているのなら、味わいの違いを生んでいるものは何か。畑です。 土壌の成分、斜面の向き、水はけ。数百メートル離れただけの二つの区画が、別のワインを生みます。

だからブルゴーニュでは、格付けも畑の単位で決まります。ラベルに大きく書かれているのも、ぶどうの名前ではなく、村と畑の名前です。

5つの地区 シャブリからマコネまでを一枚の地図にする

肉料理と野菜に黒トリュフを削る実写の調理風景
肉と香りのある食材は、ブルゴーニュの赤を考える入口になります。

北から南へ、主な地区は5つです。

地区中心となる色と品種味わいの方向
シャブリ白(シャルドネ)石灰質の土壌から来る、塩気を思わせる透明な酸
コート・ド・ニュイ赤(ピノ・ノワール)骨格があり、長く置ける繊細さ
コート・ド・ボーヌ白と赤の両方厚みのある白と、軽やかな赤
コート・シャロネーズ赤と白の両方果実味が親しみやすく、価格も手が届きやすい
マコネ白(シャルドネ)南寄りの気候から来る、丸みのある果実感

中心にあるのが、コート・ドールと呼ばれる細い帯です。「黄金の丘」という意味で、北半分がコート・ド・ニュイ、南半分がコート・ド・ボーヌにあたります。特級畑の多くは、この帯の斜面に集中しています。ニュイは赤、ボーヌは白の名声が高い、と覚えておくと整理しやすくなります。

南のコート・シャロネーズとマコネは、価格が落ち着いています。コート・ドールの名前に手が届かないとき、最初に探していただきたい場所が、この二つです。

さらに南にはボージョレがあります。行政の区分ではブルゴーニュに含めて扱われることもありますが、主な品種はガメイで、造り方も異なります。地図の上では続いていても、味わいは別の系統だと考えるほうが分かりやすくなります。

4段階の格付け 地方名・村名・一級畑・特級畑

ブルゴーニュの格付けは、4段階です。上に行くほど、名乗れる畑の範囲が狭くなります。

格付けラベルの表記畑の範囲価格の目安
地方名Bourgogne(ブルゴーニュ)地方全体3,000円前後から
村名村の名前(ジュヴレ・シャンベルタンなど)ひとつの村6,000円前後から
一級畑村の名前+1er Cru+畑の名前村の中の特定の区画12,000円前後から
特級畑畑の名前だけ限られた単一の畑25,000円前後から

価格はあくまで目安です。造り手と年によって、上にも下にも大きく動きます。

この表で読み取っていただきたいのは、金額よりも範囲のほうです。地方名は地方全体のぶどうを使えます。村名はひとつの村に限られます。一級畑はその村の中の特定の区画、特級畑はさらに限られた単一の畑です。段が上がるごとに、名乗れる土地が狭くなっていきます。

ブルゴーニュのラベルが長くなりがちなのは、段が上がるほど、書き込むべき土地の情報が増えていくからです。興味深いのは、いちばん上の特級畑だけが、村の名前を落とすことです。ラベルに畑の名前だけが書かれているとき、それは「この畑には、説明が要らない」という意味になります。

上の段が、いつも口に合うとは限りません

段が上がれば、畑は狭くなり、造られる量も減ります。ただし、それが自分の好みに近いかどうかは、別の話です。若いうちに開けた特級畑より、飲み頃に入った村名のほうが心に残ることがあります。格付けは品質の保証書ではなく、土地の狭さを示す記号だと受け取るのが、私にはいちばんしっくりきます。

ラベルの読み方 村の名前を、二つか三つ覚える

初めての一本を手に取るとき、私が見るのは四つです。産地、品種、ビンテージ、アルコール度数。この四つで、味わいの方向性がある程度見えます。ブルゴーニュの場合は、産地の欄が格付けの欄を兼ねているところに特徴があります。

お客様とラベルの話をするときも、順番はだいたい決まっています。まず産地、品種、ビンテージ、度数。そのあとに、畑の名前が書いてあるという話になります。さらに格付けの話へ進み、グラン・クリュやプルミエ・クリュという区分の話にたどり着きます。ブルゴーニュは、この会話が最後まで一本につながる産地です。

村名を読むときの手がかりが、ひとつあります。ブルゴーニュの村名の多くは、元の村の名前に、その村でいちばん有名な畑の名前を足した形をしています。

  • ジュヴレ村 + シャンベルタンの畑 → ジュヴレ・シャンベルタン
  • ピュリニー村 + モンラッシェの畑 → ピュリニー・モンラッシェ
  • シャンボール村 + ミュジニーの畑 → シャンボール・ミュジニー

長い地名が覚えにくいのは、二つの名前が合体しているからです。そして後半の部分は、たいてい特級畑の名前です。村名を覚えることは、特級畑の名前を半分覚えることでもあります。

ボルドーとの違い シャトーで選ぶか、畑で選ぶか

フランスの二大産地として並べられることの多いブルゴーニュとボルドーですが、選び方の軸はまったく別のところにあります。

比べる軸ブルゴーニュボルドー
主な品種赤はピノ・ノワール、白はシャルドネ赤はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロー
格付けの単位畑(地方名・村名・一級畑・特級畑)造り手(シャトー)
ブレンド単一の品種で造ることが基本複数の品種を混ぜることが基本
ボトルの形なで肩いかり肩

ボルドーは温暖な気候で、パワフルな骨格のあるワインを生みます。カベルネ・ソーヴィニヨンは「赤ワインの王」と呼ばれる品種で、骨格が強く、長期熟成に向きます。メルローはタンニンが柔らかく、ブレンドの相手として優秀です。この二つを混ぜ、シャトーごとの配合で一本を組み立てます。格付けも、シャトーに付きます。

ブルゴーニュは冷涼で、繊細で酸の高いワインを生みます。混ぜず、単一の品種で造ります。格付けは、畑に付きます。

ボルドーは造り手の名前で選び、ブルゴーニュは土地の名前で選びます。 同じフランスワインでも、ラベルで探す場所が違うわけです。ボトルの形が違うのも、この文化の違いの表れといえます。ボルドーの側から見た選び方については、会食の席にボルドーを選ぶという話でお伝えしています。

ブルゴーニュワインに合う料理

赤のピノ・ノワールは、鴨、きのこ、鶏と相性のよい品種です。繊細さと力強さを両立させているため、肉料理に寄り添いながら、素材の香りを消しません。秋に鴨ときのこを合わせるとき、私がまず手に取るのも、この品種です。

白のシャルドネは、魚介とクリームの方向です。樽を使った厚みのある白なら、バターやクリームのソースに負けません。樽を使わない透明な白なら、生の魚介に静かに寄り添います。

もうひとつ、産地そのものが手がかりになります。同じ土地で育つものは、自然に合うという考え方です。同じ気候と水が両者を育てているため、共通の酸や香りを分け合うことになります。ブルゴーニュの赤とブルゴーニュ産の牛肉、シャブリとカキ。この組み合わせが語り継がれてきたのは、偶然ではありません。

選び方と価格帯 3,000円の地方名から始める

最初の一本には、地方名をおすすめしています。3,000円前後から見つかる帯です。

理由は二つあります。ひとつは、選び損なったときの幅が小さいこと。もうひとつは、次の一本との差が分かりやすいことです。

地方名のブルゴーニュは、地方全体のぶどうを使えます。言い換えれば、その造り手の考え方がいちばん素直に出る一本でもあります。同じ造り手の地方名を先に飲んでおくと、次に村名を開けたときに、何が変わったのかが分かります。畑が狭くなると、味わいはどう変わるのか。その差を、一度ご自身の舌で確かめてみてください。棚で迷われたときは、同じ造り手の名前が地方名と村名の両方に並んでいないか、探してみるのもひとつの方法です。これが、ブルゴーニュをいちばん早く理解する道だと考えています。

年号については、注意点をひとつだけ。ビンテージは、その年の気象条件を記録したものです。寒い年は酸が強く、暖かい年は果実感が強くなる傾向があります。ただし、評価の高い年だから口に合う、とは限りません。難しい年でも、優れた造り手は素晴らしいワインを造ります。その年こそが造り手の腕前を測る試金石になる、という見方もあるほどです。年号は、味わいの方向を予想する手がかりとして使うにとどめてください。

会で飲むなら 同じ品種で、村を並べる

ブルゴーニュは、一本で理解するより、並べて理解するほうが早い産地です。品種が同じだからこそ、村の違いだけが浮かび上がってきます。

飲み比べには、設計の仕方があります。品種別、年代別、産地別。共通点をひとつ作り、そこだけを変えます。 すると「ここまで味わいが違うのか」という驚きが生まれます。ブルゴーニュの場合、共通点はすでに品種が引き受けてくれています。あとは、村を並べるだけです。

Na Team Lab では、毎月テーマを立ててワイン会を開いています。持ち寄りの会でブルゴーニュ縛りという回もありましたし、ピノ・ノワールやシャルドネに絞った会も企画してきました。形式は二つあります。コースとともに6杯をお出しする会と、10〜15本を並べて立食で楽しんでいただく会です。村の違いを並べて確かめるなら、前者がちょうどよいかもしれません。

まとめ

ブルゴーニュワインは、暗記する産地ではなく、読む産地です。

  • ブルゴーニュワインは、フランス東部で造られる、赤はピノ・ノワール、白はシャルドネが中心のワインです
  • 品種がほぼ決まっているため、味わいを分けているのは畑のほうです
  • 格付けは地方名・村名・一級畑・特級畑の4段階で、上に行くほど畑の範囲が狭くなります
  • 地区はシャブリ、コート・ド・ニュイ、コート・ド・ボーヌ、コート・シャロネーズ、マコネの5つです
  • ボルドーがシャトーで選ぶ産地なのに対して、ブルゴーニュは村と畑で選ぶ産地です

次にブルゴーニュの棚の前に立ったら、ラベルのその一行が地方名なのか村名なのか、そこだけ確かめてみてください。一行が読めれば、価格の幅の理由も見えてきます。

よくある質問

ブルゴーニュワインはなぜ高いのですか?

畑が細かく分かれていて、ひとつの区画から造れる量が限られているためです。特級畑は地方全体のごく一部にすぎません。加えて冷涼な気候のため、年によって収穫量が落ち込みます。希少さと気候の不安定さが、そのまま価格に表れています。

ブルゴーニュとボージョレの関係は何ですか?

ボージョレはブルゴーニュ地方の南の端に位置し、行政の区分ではブルゴーニュに含めて扱われることがあります。ただし主な品種はガメイで、造り方も異なります。ピノ・ノワールのブルゴーニュとは別の味わいとして考えるほうが、選ぶときに迷いません。

ブルゴーニュワインは何年目が飲み頃ですか?

格付けによって幅があります。地方名は若いうちから楽しめ、村名より上は数年置くと落ち着いてきます。ただし飲み頃は、年と造り手によって変わります。難しい年でも優れた造り手は良いワインを造りますので、年号だけで判断しないことをおすすめします。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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