「魚料理ができるようになりたい」と思ったとき、多くの方がまず「さばけるようになること」を目指します。動画で三枚おろしを見て、スーパーで丸ごと一尾を買い、まな板の上で身を崩し、そこで止まってしまう。

私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。毎日魚に火を入れながら思うのは、魚料理の腕は、さばけるかどうかでは決まらないということです。

この記事では、魚のさばき方を初心者がいつ覚えるべきかという順番の話と、その前に切り身で身につけたい3つをお伝えします。三枚おろしの手順も、後半にまとめました。

SUMMARY

結論:魚のさばき方は、初心者が最初に覚えることではありません。 先に身につけたいのは、切り身の段階でできる3つです。塩を「なぜ振るのか」を決めること、皮をパリッとさせたいときだけ皮目から焼くこと、そして火を入れすぎず、中心を余熱に預けること。 三枚おろしは、切れる包丁と平らなまな板、広い作業台、そして繰り返す回数が要る工程です。順番を入れ替えるだけで、魚料理は先に美味しくなります。 さばくのは、そのあとでも遅くありません。

魚の中心を余熱に預ける考え方は中心温度から考える火入れで、塩を振る目的は塩と旨味の関係で詳しく解説しています。

魚のさばき方より先に、切り身で覚えることがある

順番は、「さばく、それから焼く」ではありません。「焼く、それからさばく」です。

さばけるようになっても、焼き方が変わらなければ、食卓に並ぶ魚は同じままです。反対に、切り身の扱いが変われば、今日スーパーで買ってきた一切れから変わります。上達が速いのは、後者です。

切り身の段階で身につくのは、次の3つです。

  • 塩を「なぜ振るのか」を決めること
  • 皮をパリッとさせたいときだけ、皮目から焼くこと
  • 火を入れすぎず、中心を余熱に預けること

この3つは、丸ごと一尾を扱うようになってからも、そのまま使います。順番を入れ替えても、失うものはありません。

初心者が三枚おろしで挫折する、本当の理由

サーモンの皮を包丁で引く魚の下処理
さばく技術の前に、塩と火入れで切り身をおいしくする判断を覚えます。

三枚おろしが難しいのは、手先の器用さの問題ではありません。折れる場所は、だいたい決まっています。

身がボロボロになるのが、もったいない

最初の壁は、技術ではなく気持ちのほうにあります。

買ってきた魚の身が崩れていくのを見ると、手が止まります。もったいない、という感覚です。そこで慎重になり、包丁を寝かせすぎて、かえって身を削ってしまう。

けれど、最初からうまくできる人はいません。身がボロボロになってもいい、と思い込んで大胆にやっていく。これが、いちばん最初に要るものだと考えています。崩れた身は、そぼろにも、ムニエルにも、汁ものにもできます。無駄にはなりません。

さばきやすい状態を作らずに、さばこうとしている

二つめは、下ごしらえを飛ばしていることです。

鱗を落とす。背びれを切る。内臓を取って、洗う。頭を外す。この一つひとつは、料理の工程というより、三枚おろしをしやすい状態を作る工程です。

ここをしないまま包丁を入れると、鱗が刃に噛み、背びれが手に触り、腹の中の水が身を濡らします。やりにくい状態のまま作業することになるので、うまくいかないのは当然です。

包丁とまな板と、作業台の広さ

三つめは、環境です。魚の状態と同じくらい、手元の条件が結果を左右します。

  • 包丁の切れ味がよいこと
  • まな板が平らであること
  • 作業台が広く空いていること

切れない包丁は、身を切るのではなく潰します。反ったまな板では、包丁を中骨に沿わせにくくなります。狭い台だと、途中で置き場所を探すことになりがちです。まずは、いちばんやりやすい状態を作る。ここから押さえるほうが、手順を覚えるより先です。

難しい魚から始めている

四つめは、魚選びです。

三枚おろしでいちばん難しいのは、中骨を包丁で捉えることだと思います。身が柔らかい魚、中骨が柔らかい魚から始めると、骨を断ち切って、下の骨身まで刃が入ってしまいます。腕が悪いのではなく、条件が合っていないだけです。

切り身で先に覚える3つ

ここからが、今日から試せる部分です。丸ごと一尾ではなく、スーパーの切り身で確かめられます。

覚えること判断の軸やること
何のために振るのか目的によって、待つ時間を変える
皮目皮をパリッとさせたいかさせたいときだけ、皮目から焼く
水分を残せているか入れすぎず、中心は余熱に預ける

塩は「なぜ振るのか」を先に決める

「塩は焼く何分前に振るのか」は、よくいただく質問です。ただ、この問いに時間で答えることはできません。なぜ塩を振るのかによって、待つ時間が変わるからです。

臭みを抜きたい、あるいは水分を抜いて熟成に耐えられる状態にしたい。その目的なら、水分が出てくるまで待つ必要があります。最低でも2〜3時間は見ておきます。振ってすぐ焼くのでは、目的を果たせません。

皮をパリッとさせたいのなら、話は変わります。狙うのは皮の水分だけなので、皮目にだけ塩を当て、出てきた水分を拭き取ってから焼き始めます。これは私たちの厨房でもよく使う手です。

そして身のほうは、水分を残したい。ですから、振りすぎないことが答えになります。塩には、水分を抜く働きがあるからです。臭みの少ない魚に、臭み抜きのつもりで塩を打つと、ジューシーさだけが逃げていきます。

皮目から焼くのは、皮をパリッとさせたいときだけ

「魚は皮目から焼く」は、手順として覚えられていることが多いように思います。けれど、これは皮をパリッと仕上げたいときの選択です。目的があってのことなので、いつでも皮目から、というわけではありません。

パリッとさせたいときに、私がしていることは3つです。

1. 皮目にだけ、塩をしっかりと振る

2. ラップをかけずに冷蔵庫へ入れ、冷風で皮を乾かす

3. その状態で、フライパンに皮目から入れる

乾いた皮は、素直に立ち上がります。皮がめくれてしまうのは、水分が残っているからです。

火を入れすぎない ― 中心は余熱に預ける

魚は、肉と比べて火の入り方がとても早い食材です。意識するのは火を入れることではなく、入れすぎないことになります。

私が使う運び方は二つあります。ひとつは、皮目を焼きながらバターを回しかけ、身にゆっくり火を入れていく方法です。アロゼと呼ばれます。もうひとつは、皮目をしっかり焼いたところでひっくり返し、あとは余熱だけで身に火を入れていく方法です。

どちらも見ているものは同じで、中の水分量です。水分を残したまま仕上げるために、火を止める位置を早めに取ります。

それでも、さばきたくなったときの順番

切り身で3つが手についたら、次は一尾です。ここからが、三枚おろしの話になります。

最初の一尾は、タイかサバ

身近なところでは、タイがよいと思います。タイやサバのように、身と中骨がしっかりしている魚は、包丁が骨を捉えやすく、輪郭が分かりやすいためです。

そこからおろし始めて、徐々に身の柔らかい魚へ進んでいく。この順番なら、難しさが一段ずつ上がっていきます。アジのように扱いやすい魚も、最初の一尾に向いています。

三枚おろしの手順

特別なやり方ではありませんが、私の手順をそのまま並べます。

順番やること
1鱗を取る
2内臓を取る(頭も使うなら、この段階でエラも外す)
3一度、水で洗う
4頭を取る。初めてなら、カマの部分から取るとやりやすい
5腹側から、皮に一本線を入れる
6そのまま、中骨まで包丁を入れる
7裏返して、背側にも一本線を入れる
8同じように、中骨まで包丁を入れる
9中骨を断ち切って、片面を外す
10反対側も、同じように外す

頭の落とし方には、頭から取る方法とカマの部分から取る方法があります。初めてのうちは、カマの部分からのほうが手が入りやすいと思います。

魚が生臭くなる原因は、さばき方ではない

魚料理をためらう理由として、いちばんよく聞くのが生臭さです。ここは、順番を取り違えられやすいところだと感じています。

臭みは、買う段階で決まっている

生臭さの要因は、大きく二つです。

ひとつは鮮度です。とくに内臓は傷みやすく、そこから匂いが移ります。内臓を傷めないように扱われた魚かどうかが、そのまま仕上がりに出ます。

もうひとつは、その魚が育った環境です。鮮度がよくても、生臭さが出る個体はあります。これは、私たちの側では変えられません。

臭みは、まな板の上で消すものというより、買う段階で決まっているものです。スーパーで一尾を手に取るとき、腹まわりが崩れていないか、身に張りがあるかを見る。ここが、下処理の技術より先にあります。

臭みを消すか、繊細さを立てるか

そのうえで、料理には二つの方向があります。

臭みのある魚なら、包む方向です。タイムのようなハーブを使い、トマトやクリームで煮込む。魚の繊細さを際立たせず、周りのソースと香りで味わいを作ります。

状態のよい魚なら、立てる方向です。素材の繊細さをそのまま出し、ソースの味わいのほうを抑える。レストランの味わいに近づいていくのは、こちらです。

どちらが正しいということはありません。どの方向へ味わいを持っていくかを、作り始める前に決める。私が魚を前にして最初に考えるのは、いつもこれです。感動には設計がある、というのは、こういう場面のことを指しています。

魚料理が、家庭から遠くなった理由

私は沖縄・石垣島の山奥で育ちました。夜の海で魚を突き、その日のうちに食べる。電子レンジのない家で、10歳から包丁を握っていました。魚は、さばくものというより、そこにあるものでした。

いまの食卓から魚が遠くなっているのは、いくつかのハードルが重なっているからだと考えています。

  • さばくところまでのハードル
  • 切り身にしても骨が残っていて、食べにくいこと
  • 肉より繊細で、味付けを外すと料理として立ち上がらないこと

三つめが、いちばん静かに効いていると感じています。魚は、うまくいかなかったときの落差が大きい食材です。その経験が二度、三度と続くと、自然に手が伸びなくなります。

だからこそ、順番だと思っています。さばけるようになる前に、切り身で美味しく焼けるようになる。美味しく焼けた記憶が先にあれば、一尾を買う日は、そのうち自然にやってきます。

現役シェフの厨房で、魚を一尾

文章で読んだ手順と、目の前で見た手つきは、身につき方が違います。とくに魚は、包丁が中骨に触れる感触や、皮が立ち上がる瞬間のように、言葉にしづらいところに要点があります。

恵比寿のNa Team Labでは、八席のレストランをそのまま教室として使い、料理教室を開いています。私が実演し、参加者の皆さまには見て、味わっていただく形式です。

  • 1回 6,000円(材料費を含む)
  • 入会金なし・回数の縛りなし
  • 8名限定・2時間
  • 場所:恵比寿 Na Team Lab

火器はレストランと同じIHで、食材も工程も、近所のスーパーで揃うものに寄せています。ご家庭でそのまま再現できることを、いちばんの条件にしているためです。魚を扱う回では、タイやアジのようなさばきやすい魚から入っていきたいと考えています。

まとめ

  • 魚のさばき方は、初心者が最初に覚えることではありません。切り身で「塩・皮目・火」を先に身につけるほうが、上達は速くなります
  • 塩を振るタイミングは、時間ではなく目的で決まります。臭みを抜くなら2〜3時間、皮をパリッとさせるなら皮目だけに当てて拭き取ります
  • 魚は火の入りが早い食材です。入れすぎず、中心は余熱に預けます(生食用の場合)
  • 三枚おろしで折れるのは、心理・下ごしらえ・環境・魚選びの4つ。最初の一尾は、身と中骨がしっかりしたタイやサバから
  • 生臭さは、さばき方ではなく買う段階で決まっています

よくある質問

スーパーの切り身で練習しても意味はありますか?

切り身のほうが、先に身につくことがあります。塩を振る目的、皮目の焼き方、火を止める加減は、いずれも切り身で確かめられます。この3つは一尾を扱うようになってからも同じように使うので、遠回りにはなりません。

三枚おろしは、どの魚から始めるとよいですか?

タイやサバのように、身と中骨がしっかりした魚をおすすめします。身や中骨が柔らかい魚は、包丁が骨を捉えづらく、下の骨身まで刃が入ってしまいがちです。慣れてきたら、柔らかい魚へ進んでください。

魚をさばくのに、専用の包丁は要りますか?

種類より、切れ味のほうが結果を左右します。切れない包丁は、身を切らずに潰してしまいます。あわせて、まな板が平らであること、作業台が広く空いていることも整えてください。この3つで、仕上がりは変わります。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

私たちの理念・会社情報を見る →
掲載実績・参加者の声を見る →


三枚おろしの前に、切り身をおいしくする。

初心者でも、塩を振る理由と皮目から火を入れる判断を実演で確かめられます。

出張料理を頼む前に読む(一覧)

TOP

Na Team Lab|東京・恵比寿

Na Team Labをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む