結論:ギリシャワインは、古代から続く文化のうえに、土着品種で再評価されている海と島のワインです。 代表はサントリーニ島のアシルティコ。海風と火山性の土から、酸のきれいな白が生まれます。 北部のマケドニアでは、クシノマヴロという熟成する赤が造られます。 松やにの香りをつけた白、レツィーナも、この国だけの一本です。 この記事では、産地と品種、合う料理、日本での選び方を順に整理します。
あわせて、トルコワイン、ぶどうの故郷に残る土着品種とワインとチーズ、合わせ方の基本もご覧ください。

ワインの歴史の本を開くと、最初の数ページにギリシャが出てきます。素焼きの壺、海を渡った交易、神話に残る記述。知識としては、たしかに知っている国です。
ところが「ギリシャのワインを一本挙げてください」と言われると、手が止まります。歴史は知っているのに、いまの一本が思い浮かばない。 ギリシャは、その非対称がもっとも大きい産地のひとつだと思います。
この記事では、ギリシャワインの産地と品種、松やにの香りのレツィーナ、合う料理、そして日本での選び方を順にお伝えします。
ギリシャワインとは 古代の歴史と、いまの評価
ギリシャは地中海の東にある国です。半島と、数えきれないほどの島からできています。山が多く、平地は限られ、畑は小さく分かれています。
ひと言でいえば、ギリシャワインは「海風と強い日ざしの下で、酸を残した白が主役のワイン」です。 暑い土地のワインは、ふつう酸が落ちます。ところがこの国では、海からの風と夜の冷え、そして標高が、酸を守る側に働きます。
近年は、この国にしかない土着品種のワインが評価を受けるようになりました。とくにサントリーニ島のアシルティコは、海外のワインリストにも載るようになったといわれます。
同じ地中海の東側にあるトルコにも、知られていない土着品種の赤があります。対比はトルコワインの記事にまとめました。
ギリシャワインの歴史
ぶどう栽培とワインの交易は、古代からこの土地で続いてきたと伝えられています。壺に詰めたワインが地中海を渡り、各地に栽培が広がったとも語られます。
その後は長い停滞が続きます。20世紀のあいだ、ワインは量を優先して造られ、安い白として輸出される時期が長かったとされます。
1970年代に原産地呼称の制度が整えられ、1980年代以降は小さな造り手が土着品種に向き直りました。いまの評価はその延長にあります。
つまりギリシャは、歴史の古い産地であると同時に、評価の歴史が新しい産地です。
ギリシャの主な産地 島と内陸で分かれる味
ギリシャのワインは、島で造られるものと、内陸で造られるものに大きく分かれます。ラベルには島の名前か、半島の中の小さな産地名が書かれます。
| 産地 | 気候 | 主な品種 | 味の傾向 |
|---|---|---|---|
| サントリーニ島(エーゲ海) | 強い海風と日ざし。雨が少なく、土は火山性 | アシルティコ、アシリ、アイダニ | 酸が高く、塩を思わせる後味の白 |
| マケドニア(ナウサ) | 北部の内陸。標高があり、夜が冷える | クシノマヴロ | 色は淡く、酸と渋みが長い。熟成する赤 |
| ペロポネソス(ネメア、マンティニア) | 南部の半島。標高の差が大きい | アギオルギティコ、モスコフィレロ | やわらかい果実味の赤。香り高い白とロゼも |
| クレタ島 | 最南の大きな島。日ざしが強く、乾く | ヴィディアノ、リアティコ | 厚みのある白と、穏やかな赤 |
この表を縦に読むと、国の中の方向が見えてきます。南の島は酸と塩の白に、北の内陸は酸と渋みの赤に、その中間の半島はやわらかい赤と香りの白に向かう。
覚えておきたいのは、サントリーニ島とナウサの対比です。海の近くでは白、標高のある内陸では赤。同じ国の名前でも、棚で手に取る一本の性格はここで分かれます。
ギリシャの土着品種 アシルティコとクシノマヴロ
入口になる品種はアシルティコです。サントリーニ島を代表する白ぶどうで、この国の名刺のような存在として語られます。
アシルティコは、熟しても酸が落ちにくいとされる品種です。強い日ざしの下で育っても輪郭が丸くならず、柑橘やハーブの香りに、潮を思わせる後味が重なります。
もうひとつの軸は、北部の赤、クシノマヴロです。名前は「酸っぱい黒」を意味すると伝えられます。色は淡いのに、酸と渋みは長く残ります。
| 品種 | 色 | 味の傾向 | 合う料理 |
|---|---|---|---|
| アシルティコ | 白 | 高い酸と、塩を思わせる後味。輪郭が硬い | 魚介のグリル、貝、レモンを搾った揚げ物 |
| マラグジア | 白 | 桃や花の香り。厚みがあり、酸は穏やか | 鶏のロースト、クリームを使った料理 |
| モスコフィレロ | 白/ロゼ | バラと柑橘の華やかな香り。軽やかで酸が立つ | 前菜の盛り合わせ、ハーブのサラダ |
| クシノマヴロ | 赤 | 色は淡く、酸と渋みが長い。熟成でトマトや干した果実の香り | 煮込み、トマトを使った料理、熟成したチーズ |
| アギオルギティコ | 赤 | やわらかい果実味。渋みは細く、口当たりが丸い | 羊の煮込み、ムサカ、ひき肉の料理 |
サントリーニ島の籠仕立て
サントリーニ島の畑を写した写真には、畝が写りません。地面の上に、低い輪が点々と並んでいます。
この島は風が強い土地です。樹を立てて仕立てると、葉と実が風で傷みます。そこで枝を地面の上で巻き、籠のような形に編んで育てます。クルーラと呼ばれる仕立てです。
実は籠の内側につきます。風からも強い日ざしからも、樹そのものが実をかばう形です。雨の少ない島で、夜の湿気が籠の中にとどまるとも語られます。
土地の条件が、樹の形をそのまま決めている畑です。 味の説明の前に、この一枚の風景を覚えておくと、アシルティコの硬い輪郭に納得がいきます。

レツィーナとは
レツィーナは、松やにの香りをつけた白ワインです。発酵のときに松の樹脂を加えて造ると伝えられます。古代、ワインを運ぶ壺の口を樹脂で封じていた名残だという説が、広く語られています。
味は、柑橘の酸に、針葉樹やハーブを思わせる香りが重なります。好みが分かれる香りではありますが、揚げ物や脂のある魚と合わせると、ハーブを搾ったときのような働きをします。
知っている品種の、ギリシャらしい味
ギリシャでは、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、シラーといった見慣れた品種も造られています。共通しているのは、酸が残り、香りが乾いていることです。標高と海風が、果実味を前に出させません。
シャルドネは樽の甘さよりも柑橘と石の印象で終わります。ソーヴィニヨン・ブランは草よりも柑橘とハーブに寄り、シラーは胡椒と乾いた土の香りが立つ傾向があります。
知っている品種の名前が、知らない土地の味を測る物差しになります。 産地を変えて飲むおもしろさは、この着地のずれにあると私たちは考えています。
世界のワイン生産国の中での、ギリシャの位置
「世界三大ワインの国は?」という問いには、生産量の上位がイタリア、フランス、スペインと一般にいわれる、という答えが置かれることが多いです。
ギリシャは、この並びには入りません。畑が島と山に分かれ、一区画が小さいためです。
国ごとの生産量の順位と、その読み方はワイン生産量ランキングの記事にまとめています。量の大小と味の良さは別の軸です。
なお「ギリシャで有名なお酒は?」と調べると、アニスで香りをつけた蒸留酒、ウーゾの名前が出てきます。この記事では、ワインに話題を絞ります。
ギリシャワインに合う料理 魚介、タコ、フェタチーズ
産地の料理から考えると、合わせ方は素直に決まります。ギリシャの食卓に並ぶのは、炭で焼いた魚介、タコ、オリーブ、羊のチーズ、ナスを使った料理です。
- 魚介とタコ:炭で焼いてレモンを搾る料理には、アシルティコの酸と塩の後味が寄り添います
- オリーブ:塩気と青い苦味には、モスコフィレロの軽やかな酸が合います
- フェタチーズ:塩の強い羊のチーズは、酸の高い白と並べると塩気が立ちすぎません
- ムサカ:ナスとひき肉の重なりには、アギオルギティコのやわらかい渋みが向きます
フェタチーズのような塩の強いチーズは、甘みのある白と合わせる手もあります。組み合わせ方そのものはワインとチーズの記事にまとめました。
日本の食卓でも、置き換えは難しくありません。魚の塩焼き、タコの酢の物やから揚げ、ナスのグラタン。どれも酸のきれいな白が受け止めてくれます。
生の魚介は、温度と塩の扱いで印象が変わります。考え方は刺身とワインの記事に整理しました。ギリシャの白を試すなら、焼いた魚から入るのが無理のない順番です。
日本でギリシャワインを手に入れる、選び方
結論から言うと、手に入ります。数は多くありませんが、輸入元が継続して扱っており、専門店やオンラインの店で見つかります。価格は数千円台から選べるものが多くあります。
棚の前で迷ったときの見方を、三つに整理します。
- 産地名を見る:「サントリーニ」とあれば酸の高い白、「ナウサ」なら熟成する赤、「ネメア」ならやわらかい赤に寄ります
- 品種名を見る:アシルティコなら輪郭の硬い白、モスコフィレロなら香りの立つ白、クシノマヴロなら酸の高い赤が目安になります
- 色と温度を考える:クシノマヴロは色が淡くても酸と渋みが長いので、軽く冷やすと輪郭が出ます。アシルティコは冷やしすぎると、持ち味の後味が隠れます
はじめの一本はサントリーニ島のアシルティコ。レツィーナは香りの個性が強いぶん、二本目以降に置くほうが楽しめます。
名前を知らなかった国も、隣に並べれば分かる
ここまでの話は、文字で読んだ味であって、想像のままです。
名前を知らなかった国のワインも、隣に並べて飲むと、好きかどうかがすぐに分かります。 一本だけで飲むと、判断は知識に引っぱられます。横に並べると比べる相手ができるので、舌が先に答えを出します。
私は年間で約2,000種のワインを試飲し、その中から会ごとの一本を選んでいます。順番は、ワインが先、料理が後です。ハウスワインを置かず、その日限りのペアリングとしてご用意しているのも、同じ理由からです。恵比寿の八席、一日ひと組。開催は100回以上を数え、参加される方の半数以上はおひとりです。
ギリシャのワインで会を開いたことは、まだありません。ですので今日は、同じ「名前で選んだことのない国」を並べる会をご案内します。1月16日(土)の「南アフリカワインを巡る会」です。昼の部12:00、夜の部18:00。南アフリカの11種を、泡、白4、ロゼ1、赤5の順に、各約45mlのグラスで。各部8席、会費は14,800円(税込)です。
この会のあとに起きることは、ワインリストの「知らない国のページ」を読み飛ばさなくなる、ということだと思います。ギリシャの札の前で足が止まるのは、そのあとの話です。

まとめ
ギリシャワインは、海と島の産地であることを知ったうえで見ると、輪郭がはっきりします。
- ギリシャは古代からワインの文化をもつ国で、いまは土着品種の質で評価されています
- 産地は島と内陸に分かれます。サントリーニ島は白、北部のナウサは赤の中心です
- アシルティコは、酸が高く、塩を思わせる後味をもつ白ぶどうです
- クシノマヴロは色が淡く、酸と渋みが長く続く、熟成する赤です
- レツィーナは、松やにの香りをつけた白。揚げ物や脂のある魚と合わせやすい一本です
- 選ぶときは、産地名、品種名、色と温度の三つを順に見ると迷いません
量の順位の外側にある産地を一本選ぶ。それだけで、棚の見え方が少し変わります。
そのうえで、ご自身がどの国の味を好むのかは、並べて飲んでみないと分かりません。1月16日(土)に「南アフリカワインを巡る会」をご用意しました。昼の部12:00、夜の部18:00、各部8席。会費は14,800円(税込)、ご予約はTableCheckにて承っており、満席の回から締め切ります。開催7日前までであれば、別の日に振り替えていただけます。
好みの方向がまだ定まっていない方は、無料のワイン診断から始めていただくこともできます。
よくある質問
サントリーニ島で有名なワインは?
アシルティコという白ぶどうから造られる、酸の高い白です。強い海風と火山性の土のもとで育ち、柑橘やハーブ、潮を思わせる後味になります。風から樹を守るため、地面の上で籠のように仕立てる畑の形でも知られています。
レツィーナとは?
松の樹脂で香りをつけたギリシャの白ワインです。発酵のときに樹脂を加えて造ると伝えられ、古代に壺の口を樹脂で封じていた名残だという説が語られています。針葉樹を思わせる香りで、揚げ物や脂のある魚と合わせやすい一本です。
ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?
ワイン会はこれまで100回以上開いてきましたが、参加される方の半数以上はおひとりです。知識は要りません。席は八つだけで、一本ずつご説明しながら進めます。日程はワイン会のご案内にまとめています。
ギリシャワインの代表的な品種は何ですか?
白はサントリーニ島のアシルティコ、赤は北部マケドニアのクシノマヴロが入口になります。ほかに、香りの華やかなモスコフィレロ、やわらかい赤のアギオルギティコなどの土着品種があります。
ギリシャワインにはどんな料理が合いますか?
炭で焼いてレモンを搾る魚介やタコには、アシルティコの酸と塩の後味が寄り添います。フェタチーズには酸の高い白、ムサカのようなナスとひき肉の料理にはアギオルギティコが向きます。日本の食卓なら、魚の塩焼きから試すのが無理のない順番です。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

