レシピに「タイム 少々」と書いてあったから買った。一度だけ使って、残りは冷蔵庫の奥で黒くなっていた。ハーブのタイムの使い方が分からないという声を、料理教室でもよく聞きます。多くの場合、原因はハーブを「最後に散らす飾り」だと思っていることにあります。

なお、美容の分野に「ハーブピーリング」という言葉がありますが、この記事でお話しするのは、料理に使うハーブとしてのタイムです。

私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。毎日タイムを使いながら考えているのは、どう散らすかではありません。この一皿に、そもそも入れるかどうかです。ハーブは脇役ではなく、食材としての主張がある素材だからです。

SUMMARY

結論:ハーブのタイムの使い方は、「最初から入れて、最後に外す」、そして「効かせすぎない」が基本です。 タイムは熱に強く、油や脂に香りが移りやすいハーブです。だから炒め油や煮込みの最初から入れ、香りが移ったところで茎を外します。フレンチのブーケガルニの主役でもあります。 相性が良いのは鶏・豚・羊・白身魚・トマト・じゃがいも・きのこ。ただし量が多いと、ハーブの香りが素材のうまみを覆ってしまいます。肉200gに対して小枝1本が目安です。 この記事では、ワインに合わせて料理を組み立てるシェフの視点から、入れるタイミングと分量の考え方をお伝えします。

関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れ塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。

結論|タイムは「最初に入れて、最後に外す」ハーブ

ハーブのタイムの使い方は、一行で言えば「最初から入れて、最後に外す」です。

理由は、タイムの性質にあります。タイムは熱に強く、油や脂に香りが移りやすいハーブです。香りを料理に行き渡らせたいなら、炒め油や煮汁の温度が上がる最初の段階から入れておく。そして香りが移りきったら、枝の役目は終わります。茎は硬く、食べるためのものではありません。入れっぱなしにしても香りが増えるわけではなく、むしろ強く出すぎることがあります。

もうひとつ、同じくらい大切な軸があります。量です。

タイムとは、どんなハーブか

ハーブの香りを料理へ移す仕上げの手元
香りは飾るのではなく、油や脂へ移して料理になじませます。

タイムは、シソ科の小さな低木で、地中海沿岸を原産とするハーブです。細い枝に、小指の爪よりも小さな葉がびっしりとついています。

フレンチの厨房で出番が多いのは、この枝ごと使えるという形によるところが大きいと感じています。長時間煮ても葉がばらけにくく、最後に枝をつまんで引き上げれば片づきます。

ブーケガルニでタイムが主役に置かれるのも、同じ理由です。ブーケガルニは、タイムやローリエなどを束ねて煮込みに沈めておく、フランス料理の香りの土台です。煮汁に香りを移すためのもので、料理に姿を残しません。

入れるタイミングで、香りの出方が変わる

同じタイムでも、どの段階で入れるかで香りの出方は変わります。

入れるタイミング香りの出方向く料理
炒め油に入れる油に香りが移り、料理全体に行き渡るソテー、蒸し焼き
煮込みの最初に入れるゆっくり出て、煮汁全体に溶ける煮込み、ブーケガルニ
焼く直前に入れる表面に香りがのり、輪郭がはっきりする肉や魚のソテー
仕上げに生で加える香りが立つが、主張も強く出る冷菜、酸味を効かせた一皿

上に行くほど香りは料理と一体になり、下に行くほど香りが単独で立ちます。料理全体をタイムの方向にまとめたいなら早く入れる。アクセントとして置きたいなら遅く入れる。この軸で考えると、迷いが減ります。

煮込みの場合は、時間そのものが調整のつまみになります。私はブーケガルニを使うとき、仕上がりから逆算して、入れておく時間と、束ねる種類を選んでいます。長く入れれば強くなりますから、途中で引き上げてもかまいません。

生のタイムと、乾燥のタイム

タイムには生と乾燥があり、売り場も別です。

項目生のタイム乾燥のタイム
香りみずみずしく、立ち上がりが早い落ち着いていて、まとまっている
量の目安乾燥の3倍程度(一般的な目安)生の3分の1程度
向く場面フレッシュ感を出したいとき長く火を入れるとき、保存性を優先するとき

換算の目安は、生は乾燥のおよそ3倍。一般に言われている数字で、乾燥させると水分が抜けて香りが凝縮するためです。

私自身は、基本的に生のタイムを使っています。フレッシュ感を演出したいからです。乾燥は香りがまとまっている分、料理も落ち着いた方向にまとまります。私が作りたいのは、素材のみずみずしさが立っている一皿であることが多いのです。

生を使い切れないときは、枝のまま冷凍する手もあります。凍ったまま鍋に落とせば、香りを移す役目は果たします。

タイムに合う食材

タイムは、相性の間口が広いハーブです。実際によく合わせる素材を挙げます。

食材使い方の目安
皮目を焼くときに、枝ごとフライパンへ
脂に香りが移りやすい。ローストと相性がよい
香りの強い素材どうしで釣り合う
白身魚ごく軽く。レモンと合わせると生きる
トマト煮ると、酸味の輪郭がはっきりする
じゃがいも油で焼くときに一緒に。香りが移る
きのこバターで炒める最初から入れる

分量の目安をひとつだけ挙げるとすれば、これです。肉200gに対して、小枝1本。軽く香りづけをするくらいのイメージでいたほうが、うまくいきます。

もうひとつお伝えしたいのが、酸味との相性です。タイムはレモンのような酸味のある食材とよく合います。私は、フレッシュなハーブとフレッシュな酸味を合わせた料理を作ることが多いです。焼いた白身魚に、タイムとレモンを少し。それだけで、料理の輪郭がはっきりと立ち上がります。

やりがちな失敗

タイムでつまずく原因は、だいたい次の3つです。

ひとつめは、量が多すぎることです。ハーブが多すぎると、ハーブ感が強くなりすぎて、肉のうまみを感じにくくなります。素材を引き立てるつもりが、覆ってしまう。足りなければ次に増やせますが、入れすぎた香りは戻せません。迷ったら少ないほうを選んでください。

ふたつめは、外し忘れることです。茎ごと器に盛ると、口に硬いものが当たります。香りを移し終えた枝は、盛りつけの前に取り出してください。

みっつめは、合わない場面で使うことです。

タイムに「合わない食材」があるわけではありません。あるのは、合わない場面です。素材の繊細さをそのまま味わいたい料理では、ハーブの香りが前に出てしまいます。入れないという判断も、立派な選択です。

ローズマリー・オレガノ・ローリエとの使い分け

売り場に並ぶハーブは似て見えますが、香りの強さと持続の仕方が違います。一般的な整理として、次のように考えると分かりやすくなります。

ハーブ香りの強さ向く使い方
タイム中くらいで、角がない幅広く。枝ごと入れて、最後に外す
ローズマリー強く、松のような香り羊や豚など、香りの強い素材に少量
オレガノ中〜強め。乾燥で使うことが多いトマトを使った料理に
ローリエ穏やかだが、長く続く煮込みに1枚

タイムがフレンチの基本として置かれているのは、この表でいえば真ん中にいるからです。角がなく、素材を選ばず、最初に覚えるハーブとして向いています。

一方でローズマリーは、1本で料理の方向が決まります。何を束ねるかで煮汁の性格が変わるので、ブーケガルニの種類は選んでいます。

ワインに合わせるなら、「入れるかどうか」から決める

ここまで使い方をお話ししてきましたが、私自身の順序はもう少し手前から始まります。

私たちの料理は、ワインに合わせて組み立てています。料理の主張が強くなりすぎると、ワインの味わいが消えてしまう。ハーブ類は、食材としての主張が結構強いものです。ですから、ワインを選ぶ段階で、ハーブを入れるのか、少し利かせるのかを決めています。

今日のワインがこれだから、この皿にタイムは入れません。あるいは、ごく軽く1本だけ。作りながら「香りが足りないから足そう」と考えているわけではないのです。

恵比寿の Na Team Lab では、八席のレストランをそのまま使った料理教室を開いています。

  • 1回 6,000円(材料費とワイン込み)
  • 入会金なし、回数の縛りなし
  • 8名限定・2時間
  • シェフが目の前で作るデモンストレーション形式
  • 使う道具はIH、食材はスーパーで揃うもの

まとめ

  • ハーブのタイムの使い方は、「最初から入れて、最後に外す」が基本です。熱に強く、油や脂に香りが移るためです
  • 入れるタイミングが早いほど香りは料理と一体になり、遅いほど単独で立ちます
  • 私は生のタイムを主に使います。乾燥を使うなら、量は生の3分の1程度が一般的な目安です
  • 相性が良いのは鶏・豚・羊・白身魚・トマト・じゃがいも・きのこ。レモンなど、生の酸味とよく響き合います
  • 分量は肉200gに小枝1本。多すぎると、ハーブ感が勝って素材のうまみを感じにくくなります

よくある質問

タイムは肉200gにどれくらい使えばよいですか?

小枝1本くらいが目安です。軽く香りづけをするくらいの量で足ります。ハーブが多すぎると香りが勝ってしまい、肉そのもののうまみを感じにくくなります。足りないと感じたときに次で増やす、という順序をおすすめします。

タイムの茎は食べられますか?

茎は香りを移すためのもので、食べるためのものではありません。煮込みや焼きものに入れたあとは、食べる前に取り出してください。葉だけを指でしごき落として使う方法もありますが、入れすぎにはご注意ください。

タイムが合わない料理はありますか?

合わない食材があるというより、合わない場面があります。素材の繊細さをそのまま味わいたい料理では、ハーブの香りが前に出てしまいます。私たちはワインに合わせて料理を組み立てるため、ワインの味わいを消しそうなときは入れません。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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