レストランのメニューで「鴨のコンフィ」を見たことがある。注文したこともある。それでも、コンフィとはどんな料理ですかと聞かれると、うまく答えられない。そんな経験はないでしょうか。

しかも、コンフィという言葉は肉だけのものではありません。いちじくのコンフィ、コンフィチュール。果物にも同じ名前が使われます。肉なのか果物なのか。揚げ物なのか煮物なのか。手がかりがないまま、なんとなく使われている言葉です。

私は恵比寿で、一日ひと組・八席のレストランを営んでいます。コンフィは日常的に仕込む料理のひとつです。この記事では、コンフィとはどういう料理なのかを、語源から順にお伝えします。鍵になるのは、油ではなく温度です。

SUMMARY

結論:コンフィとは、素材を油や砂糖に浸し、低温でゆっくり火を通す調理法です。 語源はフランス語の confire(コンフィール)で、「保存する」という意味を持ちます。油で煮ること自体が目的だったのではなく、保存が目的で、油はそのための手段でした。だから肉は油に、果物は砂糖に浸します。呼び名が同じなのは、していることが同じだからです。 代表格が鴨のコンフィ。鴨の身は脂質が少なく、パサつきやすい素材です。じっくりと火を入れることで、そのパサつきが軽減されます。 冷蔵庫のなかった時代の保存食が、いまは火入れの技術として残っています。

関連する料理の考え方は、時間ではなく中心温度で考える火入れ塩と旨味で素材の輪郭を立てる方法でも紹介しています。

コンフィとは、浸して低温で火を通す調理法

コンフィとは、素材を油や砂糖に浸し、低温でゆっくり火を通す調理法です。

多くの方が「油で煮る料理」と理解していますが、これは半分だけ正しい説明です。たしかに肉のコンフィは油に浸します。ところが果物のコンフィが浸かっているのは油ではなく、砂糖です。それでも同じ「コンフィ」という名前で呼ばれます。

つまり、この言葉が指しているのは油そのものではありません。何かに浸して、低い温度で、時間をかけて火を通す。その手つきを指す言葉です。

揚げ物との違いも、ここにあります。揚げ物は高い温度で短く火を入れ、表面を乾かして香ばしさを作ります。コンフィはその逆で、低い温度で長く、素材の水分を守りながら火を入れていきます。同じ「油を使う料理」でも、目指している方向が反対を向いています。

語源は「保存する」だった

低温の火入れを見極める料理人の手元
コンフィは高温で煮るのではなく、穏やかな温度で素材を整えます。

コンフィ(confit)は、フランス語の動詞 confire に由来します。意味は「保存する」「漬け込む」。料理名である前に、保存という行為を指す言葉でした。

冷蔵庫のなかった時代、食材をどう持たせるかは切実な問題でした。そこで使われたのが、油と砂糖です。素材を油で覆えば、空気に触れる面がなくなります。砂糖に浸せば、水分が抜けて傷みにくくなります。どちらも、素材を何かで包んでしまうという発想です。

ここが大切なところです。目的は保存で、油はその手段でした。「コンフィ=油で煮た料理」という理解が広まったのは、手段のほうが目に見えやすかったからだと思います。

そして保存の必要がなくなった現代、この技術には別の役割が残りました。低い温度で、時間をかけて火を通すという、火入れの部分です。

肉のコンフィと、果物のコンフィ

肉と果物が同じ名前で呼ばれる理由は、語源をたどると見えてきます。並べてみると、していることの構造がそろっています。

項目肉のコンフィ果物のコンフィ
浸す媒体油(オリーブオイルなど)砂糖
火の入れ方低温でじっくり低温で甘く煮る
もとの目的保存保存
代表例鴨のコンフィいちじくのコンフィ

媒体が違うだけで、浸す・低温・保存という三つは共通しています。名前が同じなのは、当然のことだったわけです。

果物のコンフィは、砂糖をたくさん使って甘く煮ていくイメージです。ちょうどこの季節なら、いちじくがよく合います。皮ごと静かに火を入れると、輪郭を保ったまま、中心まで甘さが届きます。

なお、フランス語でジャムのことをコンフィチュール(confiture)と呼びます。これも confire から派生した言葉です。果物のコンフィとジャムが地続きなのは、名前の時点でつながっているからです。

鴨のコンフィは、なぜ鴨なのか

コンフィと聞いて多くの方が思い浮かべるのが、鴨のコンフィだと思います。ではなぜ、鴨なのでしょうか。

よく語られるのは「鴨は脂が豊富だから、その脂で煮る」という説明です。けれど私の実感は、少し違います。鴨は脂質が少なく、パサつきやすい素材です。だからこそ、じっくり火を入れることが大切になります。コンフィにすることで、そのパサつきが軽減されるのです。

脂が多いからコンフィにするのではなく、身が乾きやすいからコンフィにする。順序が逆だと考えています。

私が仕込むときは、油にオリーブオイルを使います。そこにローズマリーやにんにくを一緒に入れて、香りを移しながら火を入れていきます。油は火を通すための媒体であると同時に、香りを運ぶ役でもあります。

塩は最低限にとどめます。塩を当てすぎると水分が抜けてしまい、かえってパサつきやすくなるからです。寝かせる時間も長くは取りません。保存を目的にするなら塩を強く当てることになりますが、いま私が目指しているのはパサつかせないことなので、塩の役割が変わってきます。

低温調理とは、何が違うのか

「低い温度でじっくり火を入れる」と聞くと、低温調理を思い浮かべる方も多いと思います。両者はよく似ていますが、素材が置かれている環境が違います。

手法素材が浸かるもの仕上がりの特徴
コンフィ油、または砂糖香りが移り、水分を守りながら火が入る
真空低温調理真空の袋(湯せんにかける)出てきた水分が袋の中に残る
ブレゼ少量の液体(蓋をして蒸し煮)旨味が煮汁に移り、煮汁ごと食べる

ただ、コンフィに関しては話が変わります。水分量を残したいときには、真空にしてコンフィにするという選び方もあります。食材とオリーブオイルを袋に入れて真空にし、湯の中で低温調理をする。それもコンフィのひとつのかたちです。

面白いのは、同じ性質が正反対の評価を受けるところです。「水分が逃げきらない」という真空の性質は、火入れの場面では欠点になります。けれど水分を残したいコンフィでは、そのまま利点に変わります。手法に良し悪しがあるのではなく、何を狙っているかで意味が入れ替わる。ここが、料理の面白いところだと思います。

家庭で作るなら、鶏もも肉から

コンフィは、特別な設備がなくても家庭で作れる料理です。最初の一歩としては、鶏肉が扱いやすいと思います。

道具は、炊飯器でも構いません。保温の温度帯が、コンフィの領域と近いからです。あるいはフライパンで、弱火でじっくり火を入れていく方法もあります。どちらでも、油の中で泡が激しく立たない状態を保つことが目安になります。

作り方の骨格は、鴨と同じです。鶏もも肉に塩を当て、オリーブオイルに浸し、ローズマリーやにんにくと一緒に低い温度で火を入れていきます。油は素材が隠れるくらいまで注ぎます。

もうひとつ、仕上がりを分ける大事な点があります。火が入ったら、食材が冷える前に油から上げてください。冷めていく過程で油の中に置いたままにすると、油を含んでしまいます。コンフィが油っぽくなるかどうかは、この一手で決まります。

保存のための技術を、保存しない店で使う

ここまでお読みになって、ひとつ疑問が浮かんだかもしれません。保存が目的の技術なら、いまも保存しているのか、という点です。

私の店では、保存していません。完全予約制で、その日限りのメニュー構成をとっているため、一日で使い切れる量しか仕込まないからです。コンフィも、その日のために仕込み、その日のうちに出します。

だから塩は最低限で足ります。長く寝かせる必要もありません。保存という目的が外れた分、素材の水分を守ることに専念できます。コンフィの目的は、保存から、パサつかせないことへ移りました。言葉だけが昔のまま残り、中身は入れ替わっている。料理には、こういう地層のようなものがあります。

ご家庭で作られた場合は、油ごと冷蔵庫で保存してください。常温には置かないでください。油に覆われた状態は空気が届きにくく、常温では食中毒菌が増えやすい環境になります。作った分は、早めに召し上がることをおすすめします。

なお、使い終わった油は捨てないでください。食材の旨味が抽出されているので、それでパスタを作ると美味しくできます。残った油は廃棄物ではなく、香りの移った調味料です。

温度で、味が変わる瞬間

コンフィを仕込んでいて毎回思うのは、この料理が教えてくれるのは油の使い方ではなく、温度の扱い方だということです。

同じ鶏もも肉でも、泡が静かに上がる温度で運んだものと、少し急いだものとでは、口の中でほどける速さが変わります。味つけを変えたわけではありません。温度だけが違います。その差を一度でも口で確かめると、火加減という言葉の解像度が変わります。

恵比寿の店では、営業をしていない日に料理教室を開いています。八席のレストランをそのまま教室として使い、定員は8名、所要時間は2時間。私が実演し、参加された方は見て、味わっていただく形です。使う食材は近所のスーパーで揃うもので、火器も家庭と同じIHを使います。料金は1回6,000円で、材料費とワインが含まれます。入会金はなく、回数の縛りもありません。

まとめ

  • コンフィとは、素材を油や砂糖に浸し、低温でゆっくり火を通す調理法です。語源はフランス語の confire、「保存する」を意味します
  • 肉は油に、果物は砂糖に浸します。名前が同じなのは、浸す・低温・保存という構造が同じだからです
  • 鴨のコンフィは、脂が多いからではなく、脂質が少なくパサつきやすいから生まれた手法です。だから塩は最低限にとどめます
  • 水分を残したいときは、真空にしてコンフィにする選び方もあります。真空の性質は、目的によって欠点にも利点にも変わります
  • 家庭では鶏もも肉が扱いやすく、炊飯器やフライパンの弱火で作れます。鶏肉は中心部75℃以上で1分間以上の加熱を守ってください

よくある質問

コンフィに使った油は再利用できますか?

使えます。コンフィの油には食材の旨味が抽出されているため、捨てずに調味料として考えてください。私がよくお伝えしているのは、その油でパスタを作る方法です。素材の香りがそのまま移っているので、それだけで一皿が組み立てられます。

魚でもコンフィはできますか?

できます。ただし魚は肉より火の入り方が早いので、火加減を肉より弱くしてください。火入れしすぎないことが最大のポイントです。仕上がりの手前で止めるつもりで進めると、ちょうどよく着地します。

油に浸けるのに、油っぽくなりませんか?

引き上げる時機を守れば、油っぽくはなりません。鍵は、火が入ったら食材が冷える前に油から上げることです。冷めていく過程で油の中に置いたままにすると、油を含んでしまいます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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