レシピどおりに作ったのに、あの味にならない。家庭料理の教室を探し始めた方から、私はよくこの話を聞きます。
そして多くの場合、原因は火力だと思われています。店には強い火があり、家にはない。だから同じようには作れない、と。
けれど、私の実感は少し違います。東京・恵比寿で八席の教室を開いていますが、使っている火器は家庭と同じIHコンロです。食材も、近所のスーパーで揃うものだけを使っています。
では、何が違うのでしょうか。個人宅のサロンと、店の厨房。この二つの形を並べながら、家庭料理の教室を選ぶときに本当に見るべきところを整理していきます。
結論:家庭料理の教室は、火力ではなく「レシピに書かれていない部分」を教えてくれるかどうかで選びます。 フレンチやイタリアンの火入れは繊細な温度帯で進むため、家庭用のコンロでも十分に再現できます。私たちの厨房も、家庭と同じIHです。 差が出るのは、食材の組み合わせ、火入れの見極め、塩味のバランス。同じ食材と同じレシピでも味が変わるのは、この部分です。 家庭料理を気軽に習うなら個人宅のサロン、本格的な料理を家庭に落とし込みたいなら店の厨房が向いています。
あわせて、料理教室の選び方と初めての料理教室で学べることもご覧ください。
結論|家庭料理の教室は「レシピの外側」を教えてくれるかで選ぶ
家庭料理の教室を選ぶとき、先に見るべきなのは設備でも料金でもありません。レシピに書かれていない部分を教えてくれるかどうか。ここが分かれ目になります。
私は、家庭料理と本格的な料理の違いを、手間のかけ方で考えています。家庭料理は、手間をかけずに美味しくできるか。本格的な料理は、お客様の気づかないところにまで手間をかけて美味しくできるか。その差です。
では、気づかれない手間とは何でしょう。食材の組み合わせ。火入れぐあい。塩味のバランス。この三つは、レシピだけでは再現できない要素です。
同じ食材で、同じレシピを使う。それでも味が全然違うという事態が起きるのは、ここに理由があります。そして、この三つを再現できることが「本格的な料理」だと、私は考えています。
家庭料理のレパートリーを増やしたいのか。それとも、本格的な料理を家庭に落とし込みたいのか。教室選びは、この問いから始まります。
家庭料理を習う場所は、大きく二つに分かれます

家庭料理を習える場所は、大きく分けて二つあります。先生の自宅やキッチンスタジオで開かれる個人宅のサロンと、レストランや店舗の厨房をそのまま使う店舗型の教室です。大手のスクールという選択肢もありますが、この記事では家庭料理という切り口に絞って、二つを見ていきます。
違いは、設備の豪華さではありません。教える人が、どこに立っているかです。
個人宅のサロンには、料理を得意とする方が、その延長で開いている教室もあります。講師の本業は教室ごとに違いますから、事前に確かめられる軸として覚えておくとよいでしょう。家庭料理の延長線上にある教え方は、家庭料理を学びたい方にとって、むしろ自然な形です。
店の厨房で開かれる教室は、本業が料理人であることが多くなります。日々お客様に出している料理の組み立てを、そのまま持ち込めるからです。
どちらが優れている、という話ではありません。目的が違えば、向く形も変わります。
火力の差は、思っているほどありません
高い火力が要る料理は、限られています
家庭料理の教室を探す方が最初に気にするのが、火力です。けれど、ここは誤解されやすいところだと感じています。
たしかに、中華料理店のようにガス火で高い火力を出す厨房であれば、店と家の差は出ます。ただ、その火力が本当に要る場面は、中華料理や、瞬間的に火を入れたい料理など、かなり限定的です。
フレンチやイタリアンは、繊細に火入れをしたい料理です。だからこそ、家庭用の火力でも十分に対応できます。そして中火や弱火の領域では、店と家に基本的な差は出ません。
私たちの厨房も、IHコンロです
恵比寿のレストランは、IHコンロで営業しています。家庭用のものと大きな差はありません。料理教室も、そのままIHで実演しています。
つまり私たちは、「店だから出せる火力」を見せる教室にはなっていない、ということです。あえて、そうしています。目の前で起きたことが家のキッチンで起こせなければ、習った意味が半分になってしまうからです。
同じ食材、同じレシピ。それでも味が違うところ
家庭料理は「手間をかけずに」、本格的な料理は「気づかれない手間」
もう一度、二つの定義を置きます。
家庭料理は、手間をかけずに美味しくできるか。本格的な料理は、お客様の気づかないところにまで手間をかけて美味しくできるか。
この「気づかれない手間」の正体が、先ほど挙げた三つです。食材の組み合わせ、火入れぐあい、塩味のバランス。
食べる側は、そこに手間があったことに気づきません。ただ「なんだかおいしい」と感じるだけです。気づかれないからこそ、手間なのだと言えます。
レシピは、結果を書き写したものにすぎません
レシピに書けるのは、分量と手順です。「塩少々」「中火で15分」。書けるのは、そこまで。
書けないのは、いつ塩を足すか。どこで火を止めるか。素材がいま、どういう状態にあるか。
私が教室で伝えているのは、レシピそのものではなく、味見です。レシピどおりに作ってもおいしくならない原因は、腕でもセンスでもありません。レシピに書いていない工程のほうにあります。レシピは、その結果を書き写したものにすぎないからです。
簡易的なレシピは、参加された方にお渡ししています。ただ、主役ではありません。なぜ美味しくなるのか、という部分を持ち帰っていただきたいと考えています。
トマトだけで組み立てた、ある日の教室から
先日、トマトを中心にした回を開きました。作ったのは、ラタトゥイユです。
使った食材を並べます。
- トマト
- たまねぎ
- ズッキーニ
- パプリカ
- ナス
- 塩
- バター
これだけです。特別な調味料も、専門店でしか手に入らない食材もありません。あとは煮込んで、塩加減が決まれば、家でも再現しやすい一皿になります。日持ちもします。
では、この回で何を伝えたのか。ポイントは二つでした。
一つは、各食材の食感をどれだけ残すか。トマト、ズッキーニ、ナスは、火の通り方がそれぞれ違います。すべてを同じように煮てしまえば、輪郭が溶けて、ひとつの味になります。どこまで残し、どこから崩すか。ここに、作り手の判断が入ります。
もう一つは、塩味をどれくらい加えるか。塩が足りなければ、素材の旨味は眠ったままです。塩が過ぎれば、旨味は塩辛さに溶けて消えます。その狭間にあるピークを探ることが、この料理の山場でした。
食感と、塩。この二つで、個々の良さが出てきます。
そして、この二つはレシピに「中火で15分」と書いても伝わりません。目の前で起きていることを見て、味を確かめて、初めて自分のものになります。材料を並べれば七つで済む料理でも、そこは変わらないのです。
個人宅が向いているとき、店の厨房が向いているとき
ここまでを、目的別に整理します。
先に書いておきたいことがあります。家庭料理を学びたいのであれば、個人宅のサロンはよい選択肢です。家庭料理の延長線上にある教え方は、家庭の食卓にそのまま馴染みます。日々のレパートリーを増やしたい方には、無理のない道でしょう。
一方で、本格的な料理を家庭に落とし込みたい、という目的をお持ちなら、店の厨房で開かれる教室のほうが近いと感じます。気づかれない手間を日常的に積んでいる人が、その手間を分解して見せてくれるからです。
【表】
| 見る軸 | 個人宅のサロン | 店の厨房 |
|---|---|---|
| 学べる料理の性格 | 家庭料理の延長 | 本格的な料理を家庭に落とし込む |
| 教える人 | 教室ごとに異なる。事前に確認したい軸 | 本業の料理人であることが多い |
| 向いている目的 | レパートリーを増やしたい | なぜそうなるのかを知りたい |
どちらを選んだとしても、火力で困ることは、ほとんどありません。選ぶ基準は、そこではないからです。
恵比寿の八席で、スーパーの食材だけを使う理由
私たちの教室は、家でも再現できるメニューであることをコンセプトにしています。ですから、仕入れる食材もすべて、スーパーで手に入るものだけにしています。
理由は単純です。教室で感動しても、家で作れなければ、その感動は続かないからです。
実際、家でも作れましたと言って、写真を見せてくださるお客様は多くいらっしゃいます。私にとって、この報告がいちばんうれしい瞬間かもしれません。
教室の概要は、以下のとおりです。
- 場所:東京・恵比寿のNa Team Lab(八席のレストランを、そのまま教室として使用)
- 定員:8名限定
- 料金:1回6,000円(税込・ドリンク込み)
- 所要時間:2時間
- 開催:土日の昼12時スタートがほとんど。月替わりのレッスンです
- 形式:3品をシェフが実演し、参加者は見て、味わう
- 入会金:なし。1回完結です
教室の日程や当月のテーマは、公式LINEにてご案内しています。お時間のあるときに、覗いてみてください。
まとめ
- 家庭料理の教室を選ぶ基準は、火力ではなく「レシピに書かれていない部分」を教えてくれるかどうか
- 高い火力が要る場面は中華料理などに限られ、フレンチ・イタリアンは家庭用の火力で足ります
- 家庭料理は手間をかけずに美味しく、本格的な料理は気づかれない手間で美味しく
- その手間の正体は、食材の組み合わせ・火入れぐあい・塩味のバランスという三つ
- 家庭料理を学ぶなら個人宅のサロン、本格的な料理を家庭に落とし込むなら店の厨房
同じ食材、同じレシピ。それでも味が違うのは、腕の差ではありません。まだ言葉になっていない工程が、そこにあるだけです。その工程を持ち帰れる場所かどうか。家庭料理の教室は、その一点で選んでみてください。
よくある質問
料理教室に一人で参加しても、浮いてしまいませんか?
お一人での参加が多い教室です。恵比寿の教室は一つのテーブルを八席で囲む形なので、横並びではなく自然に会話が生まれます。はじめに自己紹介をしていただき、あとは私のほうから話題を振る形です。
男性でも参加できますか?
男性の受講者も多くいらっしゃいます。教える内容に男女の区別はありません。シェフが実演し、参加者は見て味わうデモンストレーション形式です。包丁を握った経験が少ない方にも、同じように受けていただけます。
教わった料理を、家でも作れるようになりますか?
家でも再現できるメニューを教室のコンセプトにしているため、仕入れる食材はすべてスーパーで揃うものだけです。簡易的なレシピもお渡ししています。作れましたと写真を見せてくださる方も、多くいらっしゃいます。
理由まで持ち帰れる、八席の料理教室。
恵比寿の厨房で、塩と火入れを実演と一皿から学べます。

