飲食店のメニューで「ナチュラルワイン」の文字を見かける機会が、ここ数年で増えました。SNSにも、ラベルの意匠が印象的なボトルが並んでいます。気になってはいる。けれど、普通のワインと何がどう違うのかと問われると、うまく答えられない。そんな方は少なくないのではないでしょうか。
この記事は、売る立場からでも、評論する立場からでもなく、店で実際に開けて、お客様の反応を見てきた側として執筆します。定義の話から始めて、呼び名がなぜ四つもあるのか、味わいがどう違うのか。そして「当たり外れが大きい」と言われる理由まで、正直にお伝えします。最後に、最初の一本をどう選べばよいかをお話しします。
結論:ナチュラルワインとは、造る過程で「足さない・引かない」ことを重視したワインです。オーガニック・ビオ・ナチュールと呼び名が混在していますが、公的な認証があるものと、通称にすぎないものが混ざっています。濁りや澱、独特の香りは欠点ではなく特徴です。ただしヴィンテージごとの振れ幅が大きく、開けてみるまで味わいが読みにくいのも事実。最初の一本は、大手の造り手によるものから入るのが失敗の少ない選び方です。

ナチュラルワインとは、何を「していない」ワインか
ナチュラルワインとは何か。ひとことで言えば、造る過程で足さない・引かないことを重視したワインです。
多くの説明には「自然な造り方のワイン」と書いてあります。間違いではありませんが、これでは輪郭がぼやけます。もう少し踏み込むと、この発想は「何かを加えて味を作る」方向ではなく、「手を引くことで、そこにあるものを立ち上がらせる」方向にあります。
料理に置き換えると、少し分かりやすくなるかもしれません。素材の輪郭を立ち上げるために、調味を重ねていく方法があります。一方で、余計なものを削り、素材そのものが持つ味を前に出す方法もあります。この考え方は、後者に近い場所にあります。
ここに、この言葉の厄介さが潜んでいます。ナチュラルワインは、「何をしているか」ではなく「何をしていないか」によって定義されるワインです。していないことを基準にすると、「どこまでしていなければナチュラルと呼べるのか」という線引きが、人によって変わってしまいます。
この線引きの曖昧さが、次にお話しする「呼び名が四つある」という状況を生んでいます。
呼び方が四つある理由 ― 認証と通称の違い
自然派ワインを調べていると、似たような言葉がいくつも現れます。オーガニック、ビオ、ビオディナミ、ナチュール。どれも同じものを指しているように見えますが、実際に指しているものは異なります。
ここで押さえておきたいのは、これらの言葉が同じ強度を持っていないということです。制度に裏づけられた言葉と、通称にすぎない言葉が、同じ棚に並んでいます。
オーガニック ― 公的な基準がある
オーガニックは、有機栽培に対する公的な認証がある言葉です。定められた基準を満たしたものだけが、ラベルにその表示を掲げられます。第三者が確認した結果としての言葉、と言い換えてもよいでしょう。ラベルに書かれていれば、少なくとも栽培について一定の条件は満たしていると読めます。
ビオディナミ ― 農法の思想を指す言葉
ビオディナミは、特定の農法の名前です。畑をひとつの生命体として捉える考え方に基づいた栽培方法を指します。有機栽培よりもさらに踏み込んだ思想を持つ農法で、あくまで「どう育てたか」を語る言葉です。ワインの味わいそのものを規定する言葉ではありません。
ナチュラル/ナチュール ― 明確な認証はない
最後に、ナチュラル、ナチュールです。ビオワインという呼び方も、日本ではほぼ同じ意味合いで使われることが多いようです。ここが肝心なのですが、これらには明確な認証制度がありません。造り手や売り手が「これはナチュラルワインです」と名乗ることで、そう呼ばれています。それが実情です。
| 呼び名 | 公的な認証 | 指しているもの |
|---|---|---|
| オーガニック | ある | 栽培方法(有機) |
| ビオディナミ | 農法として体系がある | 栽培の思想と方法 |
| ナチュラル/ナチュール | ない | 造り方の傾向(通称) |
この違いを知っておくだけで、ラベルの読み方が変わります。「ナチュラル」と書かれていることは、品質の保証ではありません。造り手の姿勢の表明です。ここを取り違えると、期待の置きどころを間違えます。

味はどう違うのか ― 濁り・ガス・澱の正体
実際にグラスに注ぐと、違いは見た目に現れます。
まず、濁りです。澄んでいるワインに慣れていると、最初は戸惑うかもしれません。次に、栓を抜いた直後にわずかなガスを感じることがあります。舌の上で細かく弾けるような感覚です。最後に澱。私の実感として、このお酒は澱が多い印象があります。ボトルの底に沈んだものが、注ぎ方によってはグラスに入ります。
こうした要素を、欠陥ではなく特徴として受け取れるかどうか。ここが、ナチュラルワインと付き合ううえでの最初の分岐点になります。
店でお出しすると、「これ、大丈夫なやつですか」と尋ねられることがあります。無理もありません。濁っている液体を差し出されたら、まず疑うのが自然な反応です。そういうとき私は、これは造り方から生まれている状態であって、傷んでいるわけではありません、とお伝えします。
香りにも、独特の傾向が出ます。果実の甘やかさよりも、もう少し土や発酵に寄った香りが立ち上がることがあります。これを「野性味」と表現するか、「癖が強い」と表現するかで、その人の受け止め方はほぼ決まります。
好きと苦手に、はっきり分かれる
ここからは、店で注いできた側の実感をお話しします。
このお酒について、私が最も強く感じているのは、評価がきれいに両極端へ分かれるということです。「ナチュラルワインだから好き」という方と、「だから苦手」という方。この二つに割れて、その中間がとても薄いのです。
これは他のお酒では、あまり見られない現象です。品種や産地の好みであれば、「悪くはないけれど、そこまでではない」という中間の反応が一定数あります。ところがナチュラルワインの場合、そうした穏やかな反応が出にくくなります。好きな方は最初の一口で顔が変わりますし、苦手な方も同じく最初の一口で決まります。
苦手だと感じる方の理由も、隠さずお伝えしておきます。先ほど触れた濁りや澱、そして発酵に寄った香り。澄んだ果実味を期待して口に運ぶと、そこにあるものが想像と違います。裏切られた、と感じてしまう方もいます。この反応は、味覚の優劣ではなく、期待していたものとの距離の問題だと私は考えています。
だからこそ、事前に「そういうお酒である」と知っているかどうかが、体験の質を大きく左右します。
日本の造り手が、ナチュラルワインに向かう理由
私たちは日本ワインを扱う機会が多く、その流れでナチュラルワインと接することが増えました。オーガニックソムリエ協会の会長とは、定期的にワイン会を企画しています。先日は北海道のワイン生産者をお招きしてメーカーズディナーを開き、そのときも生産者ご自身が一本を携えてきてくださいました。
そうした場で生産者から直接伺った話に、興味深いものがあります。
日本の生産者は、ナチュラルワインを造りたがる傾向があるというのです。しかも、新規就農者になるほど、そのこだわりが強くなるとのことでした。土地を継いだ人よりも、これから始める人のほうが、その方向に強く向かっていきます。
一方で、同じ生産者がこうも言います。ナチュラルワインは、本当は造るのがとても難しい。
この二つを並べると、日本の自然派ワインを取り巻く構図が見えてきます。造りたい人は多い。けれど、造るのは難しい。手を引くという選択は、技術で補える余地を自ら手放すことでもあります。守りの効かない造り方に、経験の浅い造り手が挑んでいきます。
その姿勢を、私は否定的には見ていません。日本ワインは、土地と造り手の個性が味わいに直結する世界です。同じ品種でも育った土地が変われば別物になる――その関係についてはシャブリとシャルドネの違い ― 同じ品種が別物になる3つの理由で詳しく書きました。手を引く造り方は、その土地の個性を最も率直に映す方法でもあります。
ただ、この構図が、次にお話しする「当たり外れ」の背景そのものになっています。
「当たり外れが大きい」と言われる理由
ナチュラルワインについて回る評判は、当たり外れの大きさです。これは、実感としてそのとおりです。
まず、ヴィンテージごとに味わいの振れ幅が大きい。同じ造り手の同じ銘柄でも、年が違えば別のワインのような顔を見せることがあります。ワインはもともと年による差が出るお酒ですが、この造り方の場合、その振れ幅がひときわ大きくなります。
理由は、前の章でお話しした構図と地続きです。手を引いて造るということは、その年の畑の状態がそのまま出るということです。整える工程を減らせば減らすほど、年ごとの差は素直に現れます。造るのが難しい方法に、経験の浅い造り手が向かっているのなら、その差はさらに開きます。
もうひとつあります。開けてみるまで、味わいが読みにくいという点です。
これが、飲食店の現場では扱いにくい理由になります。私たちは、お客様にお出しする前に品質を見立てる必要があります。ところがこのお酒は、抜栓するまでその判断がつきにくいのです。お出ししてから「今日は少し違いますね」となっても、もう戻せません。一本一本に、開けるまで分からない要素が残ります。これは、供する側にとって決して軽い負担ではありません。
正直に申し上げれば、この性質があるために、私たちのワイン会でもナチュラルワイン以外をお出しすることのほうが多くなっています。避けているわけではありません。扱いに前提の理解が要るお酒だと考えている、ということです。
自宅で開けるか、贈り物にするか ― 用途で向き不向きが変わる
当たり外れがある。この事実をどう受け止めるかは、そのワインをどんな場面で開けるかによって変わります。
ご自宅で楽しまれる分には、私は振れ幅も含めて面白さになると考えています。今日の一本がどうなるか分からない。開けてみて、思っていたものと違う。それを「外れた」と捉えるか、「こういう年もあるのか」と捉えるかは、飲み手の自由です。評価も正解もない時間だからこそ、予測できないことが楽しみに変わります。
一方で、慎重になっていただきたいのが、「ここぞ」という贈り物です。
記念日の贈り物、大切な方へのお礼、節目のお祝い。そうした場面では、渡した相手がその一本を開ける瞬間に立ち会えないことがほとんどです。もしその一本が思わしくない出来だったとしても、こちらからは何も添えられません。ナチュラルワインを贈ること自体を止めはしませんが、振れ幅があるお酒だと承知したうえで選ぶことをおすすめします。この前提があるかどうかで、結果の受け止め方は変わります。
もし相手の方がこうしたお酒を好んでいると分かっているなら、これは良い贈り物になります。逆に、好みが分からない相手への「外さない一本」として選ぶには、少し不確かさが残ります。

最初の一本をどう選ぶか
では、ナチュラルワインを初めて試すとき、何を選べばよいのか。
私がおすすめしているのは、大手の造り手が手がけているものから入ることです。
理由は、これまでお話ししてきた振れ幅の話に尽きます。小規模な造り手のものは、年による差がやはり大きくなります。良い年もあれば、うまく仕上がらなかった年も出てきます。それが小規模生産の面白さでもあるのですが、最初の一本でその年に当たってしまうと、「ナチュラルワインとはこういうものか」という誤った印象だけが残ります。
大手の造り手は、量を安定して届けるための積み重ねを持っています。その手つきで造られたものは、振れ幅がある程度まで抑えられます。まずここで、自分の中に基準となる一本を作ります。何が普通で、何が個性なのかを、言葉ではなく味で掴んでいきます。
その基準ができてから、小規模な造り手の尖った一本に進んでいきます。この順番であれば、想像と違うものに出会っても、「これは基準から外れている」と位置づけられます。最初から尖ったものを選ばない、という助言には、こうした具体的な理由があります。
料理と合わせる ― 野性味と滋味を生かす
最後に、料理との合わせ方をお話しします。ここは、私たちが最も得意とする領域です。
ナチュラルワインには、野性味と滋味深さがあります。澄んだ果実味とは違う、もう少し土に近い場所から立ち上がってくる味わいです。
料理を合わせるときの発想は、はっきりしています。その野性味を消す方向ではなく、生かす方向で組み立てること。繊細な料理で受け止めようとすると、ワインのほうが勝ってしまい、どちらの良さも際立ちません。
相性が良いと感じているのが、根菜など、土の香りを持つ食材です。ごぼう、蓮根、人参、きのこ。火を入れて甘みと香ばしさが出た根菜は、グラスの中にある土の気配と、同じ方向を向いています。
これは、私たちが原則として整理している「同調」の考え方そのものです。土の香りを持つワインに、土の香りを持つ食材を合わせます。異なる二つを対比させるのではなく、同じ方向のものを重ねて厚みを作る考え方です。同調と対比という二つの物差しについては、ワインに合う料理の見つけ方|王道ペアリングに共通する2つの原則で詳しく書いています。
このお酒は、洗練よりも土の記憶を残しています。だとすれば、合わせる料理も、洗練の方向ではなく土の方向に寄せていきます。ここが定まると、ナチュラルワインは急に扱いやすくなります。

まとめ
ナチュラルワインとは何か。この記事でお話ししてきたことを整理します。
- 定義は「していないこと」で決まる:足さない・引かないという造り方の姿勢
- 呼び名の強度は同じではない:オーガニックには公的な認証があり、ナチュラル/ナチュールにはない
- 濁り・ガス・澱は欠陥ではない:造り方から生まれる特徴として受け取る
- 好きと苦手に分かれる:中間の反応が薄く、期待との距離が受け止めを決める
- 振れ幅が大きい:年ごとの差が素直に出る。特に小規模な造り手ほど顕著
- 最初の一本は大手の造り手から:まず基準を作ってから、尖ったものへ進む
- 料理は土の方向へ寄せる:根菜など、土の香りを持つ食材と同調させる
結局のところ、合う・合わないは、飲んでみるまで分かりません。これはナチュラルワインに限った話ではありませんが、このお酒については特に当てはまります。
だからこそ、一本ずつ買って試すという方法は、少し分が悪いのです。口に合わなければ、その一本で終わってしまいます。振れ幅の大きいお酒を、振れ幅の小さい方法で確かめようとしていることになります。ここに、もったいなさが残ります。
Na Team Lab のワイン会では、セラーから10本から15本ほどを開けて並べます。ナチュラルワインをお出しする回もありますし、そうでないものが中心の回もあります。いずれにしても、複数を並べて比べられることが、この場のいちばんの意味だと考えています。好みの輪郭は、比べたときにだけ見えてくるものだからです。
よくあるご質問
ナチュラルワインとオーガニックワインは何が違うのですか?
オーガニックは有機栽培に対する公的な認証がある言葉で、基準を満たせばラベルに表示できます。一方でナチュラルワインには、明確な認証制度がありません。呼び名としては近い場所にありますが、片方は制度に裏づけられた言葉、もう片方は通称にすぎない、という違いがあります。
ナチュラルワインは当たり外れが大きいと聞きましたが、本当ですか?
実感として、そのとおりです。ヴィンテージごとに味わいの振れ幅が大きく、開けてみるまで分かりにくいところがあります。特に小規模な造り手のものは、良い年とそうでない年の差が出やすい傾向があります。ご自宅で楽しむなら面白さになりますが、贈り物に選ぶ際は前提として知っておくと安心です。
初めてナチュラルワインを飲むなら、何を選べばよいですか?
大手の造り手が手がけているものから入ることをおすすめします。小規模生産者のものは個性が際立つ反面、年による振れ幅も大きくなります。まず基準となる一本を知ってから、少しずつ尖ったものに進むほうが、面白さを見失わずにすみます。
読んでも分からない。並べて飲めば、一度で分かる。
ナチュラルワインが好きになるかどうかは、説明ではなく一口で決まります。Na Team Lab のワイン会は、恵比寿でセラーから10〜15本を開けて並べる会です。一本ずつ買って確かめるより、並べて比べたほうが、自分の好みの輪郭は早く見えてきます。お一人でのご参加も歓迎しています。

