結論:トスカーナのワインは、サンジョヴェーゼという品種がどの土地で育ったかで選ぶのが、いちばん分かりやすい方法です。 赤の多くは、この一つの品種から造られます。それでも産地によって、味わいはくっきりと分かれます。 軽やかで酸の明るいキャンティ。収穫から5年を越えて出荷されるブルネッロ。国際品種を使うボルゲリのスーパータスカン。 どこから試すか迷ったら、ボトルの首に黒い雄鶏のマークがついた「キャンティ・クラシコ」から始めてみてください。
あわせて、イタリアワインは、その土地の料理と一緒に選ぶとブルネッロは、サンジョヴェーゼが時間をかけて辿り着く場所もご覧ください。
ワイン会のご案内:イタリア6州で、主要品種を巡る夜
11月27日(金)20:00 / 会費 14,800円(税込)/ 恵比寿 Na Team Lab・基本8席

ワインリストに「トスカーナ」と書かれていても、その下に並ぶ名前はキャンティ、ブルネッロ、ボルゲリとばらばらです。産地の名前なのか、ぶどうの名前なのかも分からないまま、価格だけを見て選んでしまう。トスカーナのワインは、そういう迷い方をしやすい産地です。
ただ、入口はひとつに絞れます。トスカーナの赤は、ほとんどがサンジョヴェーゼという品種から造られているという事実です。品種が共通しているなら、違いを生んでいるのは土地と造り方です。ここが分かると、名前の並びは急に意味を持ちはじめます。
イタリア全体の格付けや州の数は、イタリアワインの全体像をまとめた記事で解説しています。ここではトスカーナに絞り、代表的な名前を味の方向と合う料理まで含めて整理します。
トスカーナという土地 丘と、海沿いと
トスカーナは、イタリア中部の西側にある州です。地形の大半が丘で、そこに畑が貼りついています。丘の斜面は水が溜まりません。ぶどうの木はほどよく乾いた環境に置かれ、実の中に酸が残ったまま熟していきます。トスカーナの赤が果実の甘さに流れず、どこか締まった輪郭を持っているのは、この地形と無関係ではありません。
もうひとつ、海沿いという顔があります。州の西側はティレニア海に面していて、ボルゲリのように海から近い産地があります。海風が入る畑は、内陸の丘より温暖です。同じ州の中に冷えた丘と暖かい海沿いの両方があること。これが、トスカーナのワインの幅を広げています。
太陽が、料理とワインに同じ香りを置く
Na Team Lab では、料理とワインを9つの原則で組み立てています。そのうちの一つが「産地の同調」です。分かりやすい例が、トスカーナのワインとトスカーナ産のオリーブオイル。地中海の同じ太陽が、両者に同じ方向の香りを置いていきます。グラスと皿が、ひとつの土地の話をしはじめる。
ですからトスカーナのワインを選ぶとき、私たちは品種の名前よりも先に、どの土地かを見ます。
主役の品種、サンジョヴェーゼ
サンジョヴェーゼは、イタリアで最も栽培面積の広い品種です。栽培面積は65,083ヘクタールにのぼり、黒ぶどうの2位にあたるモンテプルチアーノの2倍以上を占めます(2022年時点のデータ)。その中心がトスカーナです。
味の方向は、次のようにまとめられます。
- 色は、濃すぎない中程度のルビー色
- 香りは、赤い果実、乾いたハーブ、土や紅茶のような落ち着いた香り
- 口当たりは、酸がはっきりしていて、渋みは中程度から強め
- 余韻に、ほろ苦さが残ることがある
この「酸がはっきりしている」という点が、サンジョヴェーゼを料理と結びつけます。
トマトと、同じ方向の酸
私たちは厨房で、トマトの酸とサンジョヴェーゼの酸を、同じ方向のものとして扱っています。両者が合うのは、単に酸味が一致しているからではなく、どちらも地中海の太陽の下で育った明るい酸を持っているからです。酸が酸を呼び、別々だったものがひとつの香りに統合されていきます。
逆に、サンジョヴェーゼは酸のない料理と組むと所在をなくします。トマト、オリーブオイル、ハーブ。この三つがどこかに入っている皿が、いちばん素直な相手です。
トスカーナの代表的なワイン
トスカーナのワインリストに並ぶ主な名前を、味の方向と合う料理で整理します。
| ワイン | 色 | 主な品種 | 格付け | 味の方向 | 合う料理 |
|---|---|---|---|---|---|
| キャンティ | 赤 | サンジョヴェーゼ主体 | DOCG | 軽やかで酸が明るい | トマトのパスタ、ピッツァ |
| キャンティ・クラシコ | 赤 | サンジョヴェーゼ80%以上 | DOCG | 骨格があり、土の香り | 鶏や豚のロースト、ラグー |
| ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ | 赤 | サンジョヴェーゼ100% | DOCG | 渋みと酸が強く、長い余韻 | 牛の煮込み、ジビエ、熟成チーズ |
| ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ | 赤 | サンジョヴェーゼ70%以上 | DOCG | 中間的でまとまりがよい | 肉のグリル、きのこ |
| ボルゲリ(スーパータスカン) | 赤 | カベルネ等の国際品種 | DOC | 果実が濃く、渋みは滑らか | 牛のステーキ、赤身の肉 |
| ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ | 白 | ヴェルナッチャ | DOCG | 乾いた酸とほろ苦さ | 魚介、野菜の前菜 |
| ヴィン・サント | 甘口 | トレッビアーノ等 | DOC | 干しぶどうの甘さ | 固い焼き菓子、青かびチーズ |
キャンティとキャンティ・クラシコ
この二つは、同じワインの等級違いではありません。生産地域も規定も異なる、別の呼称です。1996年8月5日の省令で、キャンティ・クラシコはキャンティの一区画という位置から離れ、独立したDOCGになりました。
見分け方はごく簡単です。ボトルの首かラベルに、黒い雄鶏(ガッロ・ネーロ)のマークがあればキャンティ・クラシコです。このマークを管理する生産者協会は1924年の設立で、イタリアで最初の生産者協会にあたります。
規定の面では、キャンティ・クラシコはサンジョヴェーゼを80%以上使います。熟成は区分によって分かれます。
- アンナータ(標準):最低12か月
- リゼルヴァ:最低24か月(うち瓶内3か月)
- グラン・セレツィオーネ:最低30か月(うち瓶内3か月)
なお、グラン・セレツィオーネのサンジョヴェーゼ最低比率は、2027年のヴィンテージから90%に引き上げられるとされています。
味は、キャンティが軽やかで食事の邪魔をしない方向、クラシコは骨格と土の香りがはっきり出る方向です。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
トスカーナの赤で、最も時間をかけて造られるワインです。モンタルチーノという村の、サンジョヴェーゼ100%。規定では、収穫年から数えて5年が経過した翌年の1月1日以降でなければ出荷できません。うち木樽で最低2年、瓶内で最低4か月。リゼルヴァは6年の経過後の出荷です。
同じ品種でも、これだけの時間を通すと別の飲みものになります。渋みと酸が強く、料理と合わせる前提で選ぶワインです。名前の由来やロッソ・ディ・モンタルチーノとの違いは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを掘り下げた記事で詳しく書いています。
ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ
モンテプルチアーノという町のワインです。ここで紛らわしいのは、モンテプルチアーノという名前の黒ぶどうが別に存在することです。アブルッツォなど中部で広く育てられている品種で、ヴィーノ・ノビレの中身とは関係がありません。
主体はサンジョヴェーゼで、この土地ではプルニョーロ・ジェンティーレと呼ばれ、規定では最低70%を使います。熟成は最低2年、うち1年以上を木製容器で過ごします。キャンティ・クラシコとブルネッロの中間にあたる位置づけで、トスカーナの赤を2本目、3本目として試すときに扱いやすいワインです。
ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノとヴィン・サント
トスカーナは赤の州という印象が強いのですが、白にも歴史のある名前があります。
ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノは、1966年3月3日、イタリア史上最初のDOCに認定されたワインです。1993年7月9日にDOCGへ昇格しました。文献上の最古の言及は1276年の記録にあり、ダンテの『神曲』にも登場します。味の方向は、乾いた酸と後口のほろ苦さです。
もうひとつ、ヴィン・サントという甘口のワインがあります。ぶどうを簾(カンニッチ)の上で陰干しし、カラテッリと呼ばれる容量3ヘクトリットル以下の小樽で最低24か月、全体で3年ほど熟成させます。干しぶどうのような甘さを持ち、固い焼き菓子や青かびのチーズと合わせます。

スーパータスカンとは 格付けの外から生まれたワイン
トスカーナの話で欠かせないのが、スーパータスカンと呼ばれる一群です。
まず前提として、スーパータスカンは公式の格付けではありません。制度上の区分ではなく、市場で生まれた呼び名です。
経緯はこうです。トスカーナの造り手の一部が、サンジョヴェーゼではなくカベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種を使い、当時の呼称の規定から外れたワインを造りはじめました。規定の外にあるため、格付けの上では「ヴィーノ・ダ・ターヴォラ」や、のちにIGTトスカーナとして売られます。それでも評価と価格は上がっていった。この逆転を指す言葉が、スーパータスカンです。
その中心地が、海沿いのボルゲリでした。制度のほうが後から追いつき、ボルゲリにはDOCが設けられます。なかでもボルゲリ・サッシカイアは、1994年にボルゲリDOCの区画として設けられ、2013年に独立したDOCになりました。イタリアで唯一、一つの生産者だけが生産できるDOCという特異な例です。
ここから分かるのは、格付けは品質の順位表ではないということです。格付けは「この土地でこの造り方をした」という約束事の記録であり、約束の外側にも良いワインは生まれます。トスカーナは、そのことがいちばん露骨に現れた州です。
トスカーナのワインに合う料理
品種の性格が共通しているので、合わせ方の軸もひとつに絞れます。酸と渋みを、何で受け止めるかです。
| 料理 | 寄せるワイン | 考え方 |
|---|---|---|
| トマトのパスタ、ピッツァ | キャンティ | 酸と酸を同じ方向で重ねる |
| 鶏や豚のロースト | キャンティ・クラシコ | 焼き目の香ばしさと土の香りが響き合う |
| ビステッカ(牛の厚切りステーキ) | ボルゲリの赤、ブルネッロ | 肉の脂とたんぱく質が渋みを受け止める |
| 牛やイノシシの煮込み、ジビエ | ブルネッロ | 時間をかけた料理に、時間をかけたワインを |
| ペコリーノ(羊のチーズ) | キャンティ・クラシコ、ヴィン・サント | 塩気を酸で切るか、甘さで包むか |
| 魚介、野菜の前菜 | ヴェルナッチャ | 乾いた酸とほろ苦さを素材に合わせる |
厨房の目線で補足すると、たんぱく質と脂は渋みを和らげ、塩は苦みを和らげます。逆に、甘い味つけは渋みを強めます。渋みの強いトスカーナの赤に、甘く煮詰めたソースを合わせるのは避けたほうが無難です。
温度も効きます。しっかりした赤は16〜18℃が出発点です。渋みが尖って感じられるときは2℃上げ、アルコールが立って熱く感じるときは2℃下げる。この二つの操作だけで、同じ一本の印象は変わります。
トマトを軸にした合わせ方は、ピザに合うワインの記事でも書いています。
選び方と価格帯の目安
トスカーナのワインを選ぶときの、価格ごとの考え方を整理します。価格はあくまで市場で見かける目安で、造り手や年によって動きます。
| 価格の目安 | 選べるもの | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 2,000円前後 | キャンティ、ヴェルナッチャ | 平日の食卓、トマト料理と |
| 3,000〜5,000円 | キャンティ・クラシコ、ヴィーノ・ノビレ | 週末、肉を焼く日 |
| 1万円以上 | ブルネッロ、ボルゲリの赤 | 記念日、煮込みやジビエと |
この階段を上がるときに変わるのは、味の濃さではありません。余韻の長さと、香りの層の数です。2,000円の一本はひと口で分かる明快さを持ち、1万円の一本は飲み込んだあとに香りが伸びます。平日の食卓に余韻の長い一本を開けても、料理と会話に埋もれてしまいます。その夜に何を求めるかで選ぶものです。
最初の一本を選ぶなら
トスカーナを初めて試すなら、キャンティ・クラシコをおすすめします。サンジョヴェーゼの性格がはっきり出ていて、黒い雄鶏のマークで売り場で見分けられ、トマトを使った家庭の料理と素直に合うからです。
ここを基準点にすると、次に飲むキャンティが「より軽い」、ブルネッロが「より長い」と相対的に理解できます。一本目は、比較の原点として選ぶのが合理的です。

他の州と並べると、トスカーナの輪郭が出ます
トスカーナが何者かは、トスカーナだけを飲んでいても分かりません。比較の相手が要ります。
北のピエモンテのネッビオーロと並べると、トスカーナの酸は明るく、果実は軽いと感じます。南のシチリアのネロ・ダーヴォラと並べると、今度はトスカーナのほうが締まって見える。北と南に挟まれた中間にいるという位置が、並べたときにはじめて立ち上がります。一杯ずつでは分からない違いも、隣に並べればはっきりします。
Na Team Lab では、恵比寿の8席のテーブルで、月ごとにテーマを変えたワイン会を開いています。11月27日の回は、イタリアの6州から6種(泡1・白2・赤3)を、ペアリングのフルコースと一緒にお出しする夜です。州をまたいで同じ晩に飲むので、トスカーナの輪郭がいちばん出やすい構成です。
この6本をボトルで揃えると、上代だけで17,300円(税抜)になります。会費は14,800円(税込)です。
まとめ
トスカーナのワインについて、要点を整理します。
- トスカーナの赤の多くは、サンジョヴェーゼという一つの品種から造られます。 違いを生んでいるのは土地と造り方です
- キャンティとキャンティ・クラシコは、等級違いではなく別の呼称です。1996年に独立し、黒い雄鶏のマークで見分けられます
- ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、サンジョヴェーゼ100%で、収穫から5年の経過後に出荷されます。最も時間をかけた赤です
- スーパータスカンは公式の格付けではありません。 規定の外から生まれ、制度が後から追いついた一群です
- 合わせ方の軸は、酸を同じ方向で重ねるか、脂とたんぱく質で渋みを受け止めるか。トマト、オリーブオイル、ハーブが入った皿が素直な相手です
- 最初の一本は、キャンティ・クラシコを基準点にすると、他が相対的に分かるようになります
次にトスカーナの赤を開けるときは、グラスを二つ出してみてください。片方にキャンティ、片方にキャンティ・クラシコ。同じ品種が、丘ひとつ隔てて別の顔になっていることに気づきます。
並べて飲む場は、恵比寿の8席のテーブルでご用意しています。11月27日は、イタリアの6州を一晩で巡る回です。
まず好みを知りたい方は、無料のワイン診断から。酸が好きか果実味が好きかが分かると、トスカーナのどこから入るとよいかも決めやすくなります。
よくある質問
トスカーナで有名なワインは?
赤ではキャンティ・クラシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ、ボルゲリのスーパータスカンが挙げられます。白では、イタリア最初のDOCとなったヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノが知られています。
キャンティとキャンティ・クラシコの違いは?
1996年にキャンティ・クラシコが独立したDOCGとなり、いまは生産地域も規定も異なる別の呼称です。クラシコはサンジョヴェーゼを80%以上使い、骨格と土の香りがはっきり出ます。ボトルの首の黒い雄鶏のマークで見分けられます。
ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?
参加者の半数以上がおひとりです。知識は要りません。恵比寿の8席のテーブルで、シェフがその晩のワインを一杯ずつ説明しながらお出しします。会費は予約時のお支払いで、当日は手ぶらでお越しいただけます。
スーパータスカンとは何ですか?
スーパータスカンは公式の格付けではなく、市場で生まれた呼び名です。トスカーナの造り手の一部がカベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種を使い、当時の規定から外れたワインを造ったことから生まれました。中心地は海沿いのボルゲリで、のちにDOCが設けられています。
トスカーナのワインにはどんな料理が合いますか?
合わせ方の軸は、酸と渋みを何で受け止めるかです。トマトのパスタやピッツァにはキャンティ、鶏や豚のローストにはキャンティ・クラシコ、牛の煮込みやジビエにはブルネッロが合います。甘く煮詰めたソースは渋みを強めるので避けたほうが無難です。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

