SUMMARY

結論:ブルネッロ・ディ・モンタルチーノとは、トスカーナのモンタルチーノ村で、サンジョヴェーゼ100%から造られる長期熟成の赤ワインです。 規定では、収穫年から数えて5年が経過した翌年の1月1日以降でなければ出荷できません。リゼルヴァは6年です。 「ブルネッロ」は品種名ではなく、この土地でサンジョヴェーゼを指して使われていた呼び名でした。 同じ村の若いワイン「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」なら、同じ品種と同じ土地を、より手の届く価格で知ることができます。

あわせて、トスカーナのワインは、サンジョヴェーゼの「土地違い」で選ぶとデキャンタが変えるのは、ワインの「時間」ですもご覧ください。

ワイン会のご案内:イタリア6州で、主要品種を巡る夜

11月27日(金)20:00 / 会費 14,800円(税込)/ 恵比寿 Na Team Lab・基本8席

ボトルからワイングラスへ赤ワインを注ぐ場面。長期熟成のブルネッロを開ける時間
出荷までに、5年の時間が規定されています

ワインの売り場で、同じトスカーナの棚に2,000円のキャンティと1万円を超えるブルネッロが並んでいます。品種は、どちらもサンジョヴェーゼです。

この価格差は、何に対して払われているのか。ブルネッロが高いのは、ぶどうが特別だからなのか、それとも別の理由があるのか。

結論から言えば、払っているのは主に時間です。この記事では、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノという名前が何を指しているのか、規定で何が決められているのか、そして同じ村の若いワインとどう違うのかを、順に整理します。

トスカーナ全体の中でのブルネッロの位置づけは、トスカーナのワインをまとめた記事でも扱っています。

ブルネッロとは ひとつの村の、ひとつの赤

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、トスカーナ州のモンタルチーノという村とその周辺でのみ造られる赤ワインです。シエナの南に位置する、丘の上の小さな町です。

産地がこれだけ限定されているのが、最初の特徴です。キャンティは広い地域をカバーしますが、ブルネッロは一つの自治体の中で完結しています。畑の総量に上限があるため、生産量も増えません。格付けはDOCG、品種はサンジョヴェーゼ100%で、他の品種を混ぜることはできません。

「ブルネッロ」という名前の意味

ここが、この記事でいちばん面白い部分かもしれません。

ブルネッロは、もともと品種の名前として使われていた言葉です。 モンタルチーノの土地で、この地のサンジョヴェーゼを指して「ブルネッロ」と呼んでいました。色の濃さ、褐色がかった色合いに由来するとされています。

1865年、クレメンテ・サンティという人物が、この名で瓶詰めしたワインを発表します。1867年のパリ万博に出品され、褐色がかった色合いが注目されました。

そして1879年、シエナ県のアンペログラフィ委員会が、数年の試験を経て判定を出します。サンジョヴェーゼとブルネッロは同一の品種であり、名称はサンジョヴェーゼとすべきという結論でした。以後、ブルネッロはサンジョヴェーゼの一系統(サンジョヴェーゼ・グロッソ)として扱われます。

つまり、いま「ブルネッロ」と呼ばれているのは品種ではなく、ワインの名前です。かつて品種名だった言葉が、ワインの名前として残った。この経緯を知ると、「ブルネッロとサンジョヴェーゼの違いは何か」という問いの形が変わります。

サンジョヴェーゼとの関係

「ブルネッロはサンジョヴェーゼとは別のぶどうですか」という質問をよくいただきます。答えは、同じ品種です。ブルネッロはモンタルチーノという土地におけるサンジョヴェーゼの呼び名で、現在の分類ではサンジョヴェーゼの一系統として扱われます。

では、キャンティのサンジョヴェーゼとブルネッロのサンジョヴェーゼで、何が違うのか。三つあります。

ひとつは、比率です。キャンティ・クラシコはサンジョヴェーゼ80%以上で、残りに他の品種を混ぜられます。ブルネッロは100%です。他の品種で補うことができないので、サンジョヴェーゼの性格がそのまま出ます。

ふたつめは、土地です。モンタルチーノは標高があり、比較的乾いた気候です。ぶどうはしっかり熟し、同時に酸が残ります。

みっつめが、時間です。ここが決定的です。

熟成の規定とリゼルヴァ

規定を正確に書きます。

区分出荷の条件木樽瓶内
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ収穫年から数えて5年が経過した翌年の1月1日以降最低2年最低4か月
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ収穫年から数えて6年が経過した翌年の1月1日以降最低2年最低6か月

あわせて、最低アルコール分は12.5%、最低総酸度は5g/Lと定められています。

この表の意味を、言い換えてみます。ある年に収穫されたぶどうが、ワインとして店に並ぶまでに5年以上かかるということです。造り手は、その間ずっと在庫を抱えます。樽も、蔵のスペースも、人手も要ります。

1万円という価格の中には、このコストが含まれています。ぶどうの質だけでなく、5年という時間を誰かが負担した結果が価格に乗っているわけです。

時間が、何を変えるのか

では、5年の時間は味に何をするのでしょうか。

若いサンジョヴェーゼは、赤い果実の香りが前に出て、渋みが硬く、酸が尖っています。時間を通すと果実の香りは後ろに下がり、代わりに乾いた花、ドライフルーツ、紅茶、土、革といった香りが出てきます。渋みは溶けて、口当たりは滑らかになります。

重要なのは、強さが減るわけではないということです。渋みの感触は丸くなりますが、構造そのものは残ります。香りの層が増えて、複雑になるのです。

渋みの強さを診断の赤5タイプで並べると、ピノ・ノワール、メルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ネッビオーロの順になります。サンジョヴェーゼはその中では中程度ですが、ブルネッロは渋みと酸の両方を持ち、料理と合わせる前提で選ぶワインです。

ロッソ・ディ・モンタルチーノとの違い

同じ村に、もうひとつ呼称があります。ロッソ・ディ・モンタルチーノです。

これが、ブルネッロを理解するうえでいちばん有効な比較対象になります。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノロッソ・ディ・モンタルチーノ
格付けDOCGDOC
品種サンジョヴェーゼ100%サンジョヴェーゼ100%
産地モンタルチーノモンタルチーノ
出荷の条件収穫年から5年の経過後、翌年1月1日以降収穫翌年の9月1日以降
最低アルコール分12.5%12.0%
味の方向香りの層が多く、余韻が長い果実が前に出て、若々しい
価格の目安1万円以上3,000〜5,000円

品種も産地も同じです。違うのは、時間だけです。

これは、飲み比べの教材としてよくできた組み合わせだと考えています。産地の違い、品種の違い、造り手の違いという変数がすべて揃っていて、時間という一つの変数だけが動いている。こういう比較は、ワインの世界ではなかなかありません。

ロッソ・ディ・モンタルチーノは、「ブルネッロの廉価版」と説明されることがありますが、私たちはそう捉えていません。若いサンジョヴェーゼにしか出せない明るさがあり、トマトを使った料理には、むしろロッソのほうが素直に合います。役割が違うのです。

赤ワインのグラスを手に持ち、色合いを確かめる食卓。手前に料理の皿
ロッソとブルネッロは、同じ村の同じ品種です。違うのは時間だけ

飲み頃と、開けるときのコツ

ブルネッロは、出荷された時点で既に5年を経ています。それでも「もう飲み頃か」という問いは残ります。

ここは断定しにくい領域です。年によってぶどうの出来が違い、造り手によって樽の使い方も違います。一般に言われている目安としては、出荷後さらに数年置くと渋みが落ち着くとされますが、保管環境によって進み方は変わります。確実なのは、開けたあとに手で調整できるということです。

デキャンタを使うかどうか

若くてタンニンの強い赤は、デキャンタの効果が大きく出るワインです。硬い渋みが丸くなり、閉じた香りが開きます。

ただ、効果が出るまでに30分から2時間はかかります。開けてすぐ注いで「変わらない」と感じるのは、時間が足りていないだけです。

一方で、熟成が進んだものは慎重に扱います。香りはすでに開いているので、長時間の空気接触はむしろ劣化を早めます。古いブルネッロの場合は、デキャンタは澱を取る目的に限るほうが無難です。

専用のデキャンタがなくても、口の広い水差しで代用できます。グラスを回すスワリングでも、一定の効果はあります。デキャンタの使い分けは、デキャンタージュをまとめた記事で詳しく書いています。

温度で、同じ一本が変わる

しっかりした赤の出発点は、16〜18℃です。

「赤は常温」という言い方がありますが、この言葉が生まれた頃のヨーロッパの室温は16〜18℃でした。日本の夏の室温に置いた赤は、適温を大きく超えています。温度は、調整の道具になります。

  • 渋みが尖って感じられるとき → 2℃上げる
  • アルコールが立って熱く感じるとき → 2℃下げる

この二つの操作を知っているかどうかで、同じ一本の印象は変わります。グラスを手で包めば1℃から2℃は上がり、氷水に3分から5分つければ下がります。体感に反映されるまで10分から15分かかるので、続けて操作しないことがこつです。

ブルネッロに合う料理

渋みと酸の両方を持つワインなので、合わせる料理の条件はかなり明確です。

料理考え方
牛肉の赤ワイン煮込み時間をかけた料理に、時間をかけたワインを合わせる
ジビエ、鴨や鹿のロースト血や鉄の風味を、渋みと酸が受け止める
熟成した牛肉のロースト脂とたんぱく質が渋みを和らげる
熟成パルミジャーノ、ペコリーノ塩気と旨味が、渋みの角を落とす
きのこ、トリュフを使った料理土の香りを同じ方向で重ねる

厨房の知恵として、たんぱく質と脂は渋みを和らげ、塩は苦みを和らげます。そして甘い料理は渋みを強めます。 ブルネッロに甘く煮詰めたソースを合わせると、渋みが前に出て口が重くなります。合わせる料理の砂糖の量に気を配るだけで、同じ一本が別の顔になります。

もうひとつ、私たちが使う方法をお伝えします。ワインの香りを、料理の食材リストとして読み替えるのです。

熟成したブルネッロのグラスから、きのこ、ドライフルーツ、紅茶という3つの香りを取ったとします。そのまま皿の材料に置き換えます。干し椎茸、プルーン、紅茶。干す、煮出す、煮詰めるという時間の操作だけで組んだソースを、熟成した牛のローストに添える。香りの方向が一致しているので、グラスと皿が同じ言語で話しはじめます。

牛の煮込みとワインの合わせ方は、ビーフシチューに合わせる赤の記事でも扱っています。

濃い茶色のソースをたっぷり敷いた肉料理。ブルネッロのような熟成した赤に合わせたい一皿
時間をかけた料理に、時間をかけた一本を

値段の違いは、並べると分かるのか

ここまで「ブルネッロは時間に対して払うワインだ」と書いてきました。では、その時間は飲んだときに分かるのでしょうか。

正直に言うと、単独で飲んでいるあいだは分かりにくいと考えています。高いワインを一本だけ開けた夜は、「おいしい」か「思ったほどではない」のどちらかで終わりがちです。比べる相手がいないので、何に対して高いのかが特定できません。価格を知っていること自体が、味の評価に影響することもあります。

分かるのは、並べたときです。ロッソ・ディ・モンタルチーノとブルネッロを隣に置けば、香りの層の数と余韻の長さが別物であることが、言葉ではなく口で分かります。

Na Team Lab では、恵比寿の8席のテーブルで、月ごとにテーマを変えたワイン会を開いています。関係する回が二つあります。

イタリア6州で、主要品種を巡る夜(11月27日・会費14,800円税込)は、イタリアの6州から6種(泡1・白2・赤3)を、ペアリングのフルコースとともにお出しする夜です。サンジョヴェーゼが、他の州の品種と並んだときにどう見えるかが分かります。

値段を隠して飲み比べる夜(12月4日・5日・会費14,800円税込)は、価格の異なる4本を番号だけのグラスで飲み、最後に答え合わせをする会です。カリフォルニアのカベルネを使った回ですが、「値段と味の関係」という問いそのものに向き合う構成になっています。

ワインを選ぶのは、オーナーシェフの川原壯太です。年間約2,000種のワインを試飲し、そのなかから毎回のワインを選び、合わせる料理をつくっています。

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まとめ

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノについて、要点を整理します。

  • ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、トスカーナのモンタルチーノ村で、サンジョヴェーゼ100%から造られる赤です
  • 「ブルネッロ」は品種名ではありません。 この土地でサンジョヴェーゼを指して使われていた呼び名で、1879年に同一品種と判定されました
  • 規定では、収穫年から数えて5年が経過した翌年の1月1日以降でなければ出荷できません。木樽2年、瓶内4か月を含みます。リゼルヴァは6年です
  • 価格に乗っているのは、主に時間のコストです
  • ロッソ・ディ・モンタルチーノは、品種も産地も同じで、時間だけが違います。 収穫翌年の9月1日以降に出荷できます
  • 開けるときは、若ければデキャンタで30分から2時間、熟成が進んだものは澱を取る目的にとどめます。温度は16〜18℃から、渋みが尖れば2℃上げ、熱く感じれば2℃下げます
  • 合わせるなら、脂とたんぱく質と塩のある料理。甘い味つけは渋みを強めます

次にブルネッロを開ける機会があれば、ロッソ・ディ・モンタルチーノを一本添えてみてください。5年という時間が何をしたのかが、その夜のうちに分かります。

並べて飲む場は、恵比寿の8席のテーブルでご用意しています。11月27日はイタリアの6州を巡る回、12月4日・5日は値段を隠して飲み比べる回です。

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まず好みを知りたい方は、無料のワイン診断から試してみてください。

よくある質問

ブルネッロとサンジョヴェーゼの違いは?

別の品種ではありません。ブルネッロは、モンタルチーノという土地でサンジョヴェーゼを指して使われていた呼び名で、現在はサンジョヴェーゼの一系統として扱われます。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、その土地のサンジョヴェーゼ100%で造る赤ワインの名前です。

「ブルネッロ」とはどういう意味?

色の濃さ、褐色がかった色合いに由来するとされる地方の呼び名です。1865年にクレメンテ・サンティがこの名で瓶詰めし、1867年のパリ万博に出品されました。1879年に、シエナ県の委員会がサンジョヴェーゼと同一品種であると判定しています。

ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?

参加者の半数以上がおひとりです。知識は要りません。恵比寿の8席のテーブルで、シェフがその晩のワインを一杯ずつ説明しながらお出しします。会費は予約時のお支払いで、当日は手ぶらでお越しいただけます。

ブルネッロとロッソ・ディ・モンタルチーノの違いは?

品種(サンジョヴェーゼ100%)も産地(モンタルチーノ)も同じで、違うのは時間です。ブルネッロは収穫年から数えて5年が経過した翌年の1月1日以降、ロッソは収穫翌年の9月1日以降に出荷できます。ロッソは果実が前に出て若々しく、トマトを使った料理にも素直に合います。

ブルネッロはどう開けて、何度で飲むとよいですか?

若いものはデキャンタで30分から2時間ほど空気に触れさせ、熟成が進んだものは澱を取る目的にとどめます。温度は16〜18℃を出発点に、渋みが尖れば2℃上げ、アルコールが立って熱く感じれば2℃下げます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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