ワインを何年も飲み続けていると、産地や品種の名前は少しずつ分かるようになってきます。それでも、目の前の一杯を誰かに説明しようとすると、途中で言葉が続かなくなる。そんな経験はないでしょうか。

そういう地点に立ったとき、資格という選択肢が浮かびます。WSET Level 3は、その選択肢のひとつです。英国発の国際的なワイン資格で、日本ではJ.S.A.ソムリエやワインエキスパートと並べて語られます。

この記事では、WSET Level 3の試験の中身と難易度を、WSET公式の資料から整理します。そのうえで、実際にこの資格を取ったNa Teamのスタッフに何が起きたのかを書きます。検索してもあまり出てこないのは、おそらく後者のほうです。

SUMMARY

結論:WSET Level 3とは、英国のWine & Spirit Education Trustが認定する国際的なワイン資格の、上級にあたるレベルです。 産地や品種、醸造がワインの味にどう表れているかを理論で説明し、決まった手順でテイスティングして評価できる水準を示します。 日本のJ.S.A.ソムリエがサービスの実務を重視するのに対して、WSETは理論と分析に重心を置いています。 この記事では試験の中身と難易度を公式資料から整理したうえで、実際にこの資格を取ったNa Teamのスタッフに何が起きたのかまでを書きます。

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結論|WSET Level 3とは、味の理由を説明できる水準です

WSET Level 3とは、英国のWine & Spirit Education Trust(WSET)が認定する国際的なワイン資格の、上級にあたるレベルです。正式名称を WSET Level 3 Award in Wines といいます。

問われるのは、覚えている銘柄の数ではありません。産地・ブドウ栽培・醸造・熟成といった要因が、目の前のワインの味にどう表れているか。それを筋道立てて説明できるか。そして、決まった手順でテイスティングして品質を評価できるか。

一方、日本のJ.S.A.ソムリエは、飲食の実務経験を受験の要件とする職業資格です。重心がサービスの実務にあります。同じ「ワインの資格」でも、測っているものが違う。そう捉えたほうが、正確です。

WSETとは、英国発で世界に広がるワインの教育機関

産地や品種を比較して学ぶワインボトル
資格で得た知識を、実際の一杯の理由を説明する言葉へ変えていきます。

WSETは1969年、英国のワイン・スピリッツ業界の教育のために、公益信託として設立されました。設立母体には、Institute of Masters of Wine も名を連ねています。

現在は70か国以上・15言語で資格が提供され、2023/24年度には134,000人がWSETの資格を受験しました。英国外の学生が、毎年の受験者の75%を超えています。日本でコースが始まったのは1997年です。

ひとつ押さえておきたいのは、WSETが試験をつくり認定する機関であって、授業を行う学校ではないことです。授業は世界各地の認定校(Approved Programme Provider)が担い、試験もその認定校を通じて実施されます。

ワインの資格は、4段階に分かれています。

レベル最低学習時間前段レベルの保有対象
Level 1 Award in Wines6時間不要ワインを学ぶのが初めての方
Level 2 Award in Wines28時間不要初級から中級
Level 3 Award in Wines84時間推奨(必須ではない)上級。業界の方と愛好家
Level 4 Diploma in Wines500時間Level 3 の保有が必須専門家

「前のレベルを持っていないと受けられない」のは、最上位のLevel 4だけです。Level 3はLevel 2の保有が推奨されていますが、必須ではありません。同等の知識を示せれば、そこから始めることもできます。

Level 2とLevel 3は、何が違うのか

まず、学習時間が変わります。Level 2 の最低学習時間は28時間、Level 3 は84時間です。Level 3 の内訳は、認定校での授業30時間、自習51.5時間、試験2.5時間。おおよそ3倍の時間が求められます。

けれど、本当の違いは時間の量ではありません。テイスティングの型が変わることです。

WSETには、SAT(Systematic Approach to Tasting Wine)と呼ばれる系統的なテイスティングの手順があります。レベルごとに版が分かれていて、段階的に細かくなっていく設計です。

Level 2 のSATは、多くの項目が3段階(低い・中程度・高い)で評価されます。甘辛度は4段階。結論として書くのは、品質の評価までです。

Level 3 のSATでは、この物差しが変わります。

  • 評価の尺度が5段階になる(中程度の上と下が分かれる)
  • 甘辛度が6段階になる
  • 外観に「その他の観察」、香りに「熟成の度合い」、味わいに「泡立ち」が加わる
  • 結論に、品質の評価だけでなく「飲み頃と熟成のポテンシャル」の判断が加わる

最後の一項目が、Level 2 と Level 3 を分ける線だと感じています。このワインは、いま飲むべきか、それとも待つべきか。覚えたことを当てはめる作業から、目の前の一杯について判断を下す作業へ。物差しが細かくなるのは、判断の解像度を上げるためです。

J.S.A.ソムリエ・ワインエキスパートとの違い

日本でワインの資格を検討すると、比較対象として挙がるのがJ.S.A.(一般社団法人日本ソムリエ協会)の呼称資格です。設計思想が、いくつかの点ではっきり違います。

観点WSET Level 3J.S.A.ソムリエ/ワインエキスパート
認定英国のWSET(1969年設立)一般社団法人日本ソムリエ協会
実務経験問わないソムリエは必須(通算2〜3年)。ワインエキスパートは不問
講座の受講認定校での授業30時間が資格要件要件ではない(制度上、独学受験が可能)
通用する範囲70か国以上で共通日本国内

いちばん大きいのは、講座受講の扱いです。WSET Level 3 は、84時間の学習時間のうち認定校での授業30時間が資格の要件に組み込まれています。試験も認定校を通じてのみ実施されます。独学という選択肢が、制度として用意されていません。

では、どちらを取るべきか。飲食の現場でサービスを担い、日本のレストランで働き続けるなら、J.S.A.ソムリエが実務に直結します。ワインそのものを理論として理解したい、あるいは国境をまたいで通じる物差しがほしいなら、WSETが向いています。

そして、実務経験がなく両方の入口が開いている方は、両方を持つという選択もあります。実際にそうしたスタッフが、Na Teamにいます。

WSET Level 3の試験の中身と難易度

試験は2つのユニットに分かれています。理論とテイスティングです。両方に合格して、初めて資格が授与されます。

理論は、多肢選択50問と記述式4問

Unit 1 は、参考資料の持ち込みができないクローズドブック形式で、制限時間は2時間です。前半が多肢選択式50問、後半が記述式4問(各25点)という2部構成になっています。多肢選択は1問1点で、誤答による減点はありません。

合格には、前半と後半のそれぞれで55%以上が必要です。片方だけ得点しても通りません。

問われる範囲は、ロケーション・ブドウ栽培・醸造・熟成・瓶詰めという生産の主要因子が、世界の主要なスティルワイン、スパークリングワイン、酒精強化ワインの特徴にどう表れるか。そして5つ目の学習成果として、顧客とスタッフにワインの情報と助言を提供できることが掲げられています。

テイスティングは、ブラインド2種を30分で

Unit 2 は、ブラインドで供された2種のワインを30分で評価します。Level 3 のSATを用いて描写し、品質の評価と飲み頃の評価まで書き切る試験です。認定校のLevel 3 Internal Assessor が実施と採点を行い、WSETがそれを検証します。合格ラインは55%です。

なお、健康上や宗教上の理由などで試飲をしない場合、Unit 2 を受けることができず、資格そのものは授与されません。テイスティングは選択科目ではない、ということです。

合格ラインと成績帯

成績は、全試験科目の総合点で決まります。

成績閾値
Pass with distinction総合80%以上、かつ各科目が65%を下回らないこと
Pass with merit総合65〜79%
Pass総合55〜64%
Fail総合45〜54%

再受験の回数に上限はありません。ただし、不合格だったユニットを受け直した場合、最終成績は Pass with merit を超えることができません。合格した人が、成績を上げるために受け直すこともできません。上の成績は、最初の機会にしか取りにいけない設計です。

難易度について、ひとつ正直に書いておきます。WSETはLevel 3の合格率を公表していません。ですから、ここに「合格率は何%」という数字は示せません。分かっているのは、55%という線が2つのユニットそれぞれに引かれていること、そして84時間という最低学習時間が公式に示されていること。この2つです。

受けるまでにかかるもの

受講料、登録料、再受験料は認定校や開講形式によって異なり、改定されることもあります。申し込む際は、授業料だけでなく、教材、認定試験、登録、再受験にかかる費用まで、受講予定の認定校が公開している最新案内で確認してください。

言語については、日本語で受験できます。WSET公式のLevel 3案内に、学習できる言語のひとつとして日本語が明記されています。

資格を取った人に、何が起きたか

ここからは、公開資料の話ではありません。Na Teamのスタッフで、WSET Level 3 とJ.S.A.ワインエキスパートの両方を持つ、青木の話です。

ワインの仕事をしていたから、資格を取ったのではありません

青木はもともと飲食の仕事に関わっていました。ただし、ワインが関わる仕事はしていませんでした。ワインは、趣味として始めたものでした。

その趣味の延長で、WSET Level 3 とJ.S.A.ワインエキスパートを取得しています。そして資格を取ったあとに、Na Teamのスタッフとしてソムリエのポジションを担ってほしいという話になり、いまはワインのサービスを中心に仕事をしています。

順番が、逆なのです。ワインの仕事に就いていたから資格を取ったのではなく、資格を取ったことで、ワインが仕事になった。

なお、J.S.A.ソムリエは実務経験を要件とする別の資格です。青木が持っているのはワインエキスパートで、ここで書いている「ソムリエ」は、卓のそばでワインを担うという職務の呼び名を指しています。

関われる範囲が、変わりました

本人が語る変化は、とても具体的でした。資格を取る前と後で変わったのは、関われる範囲だといいます。

これは、知識が増えたという話とは少し違います。同じ場所にいて、同じワインが開いていても、任される役割が変わる。話しかけられる場面が変わる。そういう種類の変化です。

資格そのものが仕事を連れてくるわけではありません。ただ、青木の場合には、資格が範囲を押し広げる働きをしました。

そして、聞かれる側になります

もうひとつの変化は、「ワインに詳しい人」というポジションが確立されたことです。結果として、周りからワインについて質問をされるようになりました。

現場でも、同じことが起きています。資格を持っているという事実が、一定の知識を前提にしたお客様とのワインの会話につながる。その会話が積み重なって、信頼になっていく。青木が感じている手応えは、そこにあるそうです。

思い返すと、WSET Level 3 の学習成果の5番目は「顧客およびスタッフに対してワインに関する情報と助言を提供できること」でした。試験のための項目に見えて、現場でいちばん効いているのは、おそらくこの一項目です。

この資格の効き目は、試験に受かることではなく、聞かれる側になること。 少なくとも、私たちの現場ではそう見えています。

シェフから見た、資格を持っているということ

私の側からも書いておきます。青木にいまのポジションをお願いした理由のひとつは、資格を持っていることでした。それだけで決めたわけではありません。ただ、判断の材料として実際に働いたことは確かです。

Na Team Labは「感動には、設計がある」という考え方で料理を組んでいます。9つの原則のうち3つはワインの原則(品種・産地とテロワール・醸造とビンテージ)、3つはペアリングの原則(同調・対比・コースのリズム)です。皿とグラスをひとつの設計として持とうとすると、味の理由を言葉にできる人が要ります。

WSETが理論と分析に重心を置く資格であることは、この考え方と相性のよいものでした。産地や醸造がなぜその味を生むのかを説明できる人と、なぜこの皿にこのワインなのかを設計する仕事は、地続きです。

もっとも、資格が保証するのは知識の水準であって、卓のそばに立つ振る舞いではありません。WSET自身も「資格は就職やキャリアの前進を保証するものではない」と明記しています。資格は入口です。その先は、現場でしか育ちません。

ワインの話ができる相手が、卓のそばにいるということ

Na Team Labは、東京・恵比寿で一日ひと組・八席のプライベートレストランを営んでいます。コースにはペアリング、またはフリーフローをお選びいただけます。ご自宅やレジデンスへ伺う出張料理でも、同じ考え方でワインをお持ちします。

グラスが置かれたとき、「なぜこの料理に、このワインなのか」と聞いていただいて構いません。むしろ、注ぐ側にとってはありがたい問いかけです。設計を言葉にする機会になります。

その問いに答えられる相手が、卓のそばにいる。それが、資格を持った人が現場にいるということの、いちばん分かりやすい形だと考えています。

Na Team Labの詳細やご相談は、公式LINEにてご案内しています。

まとめ

  • WSET Level 3とは:英国のWSETが認定する国際的なワイン資格の上級レベル。正式名称は WSET Level 3 Award in Wines。産地や醸造が味にどう表れるかを説明し、評価できる水準を示す
  • Level 2との違い:学習時間が28時間から84時間へ。テイスティングの尺度が細かくなり、結論に「飲み頃と熟成のポテンシャル」の判断が加わる
  • JSAとの違い:WSETは認定校での授業30時間が資格要件。J.S.A.は受講を要件とせず、制度上は独学受験が可能
  • 試験と難易度:理論2時間(多肢選択50問+記述4問)とブラインド2種30分。合格ラインは55%で、両方のユニットに合格が必要。合格率は公表されていない
  • 取った先にあるもの:Na Teamのスタッフの場合、趣味で取った資格が仕事の範囲を変え、聞かれる側になった

資格は、覚えた知識の量を証明する紙ではありません。目の前の一杯について、なぜその味なのかを言葉にする準備が整った、という合図です。その言葉を誰かに向けたとき、はじめて資格は働き始めます。

よくある質問

WSET Level 3は、英語ができないと受けられませんか?

日本語で受験できます。WSET公式のLevel 3のページには、学習できる言語のひとつとして日本語が明記されています。国内の認定校も日本語のコースを開講しています。ただし理論とテイスティングの両方を、同じ言語で受験する規定があります。

WSET Level 3は独学で取れますか?

取れません。Level 3は最低84時間の学習時間のうち、認定校での授業30時間が資格の要件に含まれています。試験も認定校を通じてのみ実施されます。受講を要件としない日本ソムリエ協会の資格とは、この点が大きく異なります。

Level 3の次には、何がありますか?

最上位のLevel 4 Diploma in Wines です。受講にはLevel 3の保有が必須で、最低500時間の学習が必要とされ、修了までに通常18か月から3年かかります。合格するとDipWSETを名乗れます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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