グラスを回して、鼻を近づけて、ひと口含んで、小さく頷く。レストランで見かけるあの一連の動作を、なんとなく真似したことはないでしょうか。そして、真似をしながら心のどこかで思う。これは、何のためにやっているのだろうと。

ワインテイスティングのやり方を調べると、多くは手順の説明で終わります。傾けて色を見る、回して香りを取る、口に含んで空気を通す。順番は分かりました。けれど、そこで得た情報を何に使うのかまでは、あまり書かれていません。

私にとって、この3ステップは評価の作法ではありません。その一杯を今夜どう扱うかを決めるための、材料集めです。温度を下げるのか。抜栓して置いておくのか。合わせる皿のソースに、バターを足すのか酸を足すのか。観察して、判断して、皿に返す。ここまでが一続きの動作になっています。

この記事では、見る・嗅ぐ・味わうの各ステップで何を読み取り、それをどう使うかを順に整理します。あわせて、表現に使える20語と、レストランで差し出される最初の一口の扱い方までをお伝えします。

SUMMARY

結論:ワインテイスティングとは、ワインを「見る・嗅ぐ・味わう」の順に観察し、言葉にすることです。 色調からは熟成度合いとボリューム感が、香りからは飲み頃のピークが、味わいからは適した温度帯と余韻の長さが読み取れます。 大切なのは点数をつけることではなく、観察した結果を、その夜の一皿や温度に反映させることです。 レストランで最初に注がれる一口は品質確認のための時間で、好みに合わないという理由で断る場ではありません。

違いを確かめるには、一つだけ条件を変える飲み比べが役立ちます。初めての方は、ワイン初心者の三つの軸から始めてください。

ワインテイスティングとは、見る・嗅ぐ・味わうの順に観察すること

先に、言葉の意味を整理しておきます。

ワインのテイスティングとは、ワインを「見る(外観)」「嗅ぐ(香り)」「味わう(味・余韻)」の順に観察し、言葉にすることです。順番には理由があります。後の感覚ほど、前の感覚に引きずられやすいからです。

先に口に含んでしまうと、味の印象が香りの解釈を上書きします。先に香りを取ってしまえば、色から読めたはずの情報を見落とす。だから、影響を受けにくいものから順に見ていく。それが、この順序が守られてきた理由です。

3つのステップで読み取れるものと、そこから決まることを一覧にしました。

ステップ観察するもの読み取れること決まること
見る色調・濃淡・粘性熟成度合い、ボリューム感、アルコール度数の見当このワインの重心がどこにあるか
嗅ぐ回す前と後の香り飲み頃のピークがどこにあるか抜栓後の扱い方(3択)
味わう甘味・酸味・タンニン・アルコール・余韻適した温度帯、余韻の長さ温度と、合わせる料理のソース

右端の列が、この記事でお伝えしたいところです。テイスティングとは、右端を埋めるための作業だと考えてください。点数や順位は、ここには出てきません。

ステップ1 見る ― 色調が語る、熟成とボリューム

複数のワインボトルが並ぶテイスティングのテーブル
見る・嗅ぐ・味わう順番で、一杯の特徴を捉えます。

グラスを白い背景の上でやや傾け、液面のふちを見ます。中心の濃い部分ではなく、外側に向かって色が薄くなっていく縁のあたりに情報が集まっています。

色調から読み取れるのは、大きく3つです。熟成がどれくらい進んでいるか。味わいのボリューム感がどれくらいか。そして、アルコール度数のおおよその見当。

白ワインの色は、樽の強さを映します

分かりやすいのが、同じシャルドネという品種での比較です。

樽の強いアメリカのシャルドネは、黄金色をしています。一方、フランスのシャブリのようなワインであれば、黄金までは至らない黄色が中心になります。同じ品種でありながら、これだけ色が変わる。

そして、この色の差は、そのまま樽の強さの差として現れています。色が深いほうが、樽由来の香りも味わいの厚みも強い。つまり、まだ一滴も飲んでいない段階で、そのワインの重心がどちらに寄っているかが見えているわけです。

粘性も同時に見ておきます。グラスを回したあと、内側を伝って落ちてくる雫の速さです。ゆっくりと太く落ちるものは、アルコールか糖分が高い。速く細く消えるものは、軽やかな造りであることが多いです。

赤ワインは、縁の色で年齢が分かります

赤ワインでは、熟成の進み方が縁にはっきり出ます。

若いうちは、紫がかった濃い赤。時間が経つにつれて、縁の色がレンガ色に近づいていきます。中心はまだ赤くても、外側だけが茶色みを帯びてくる。この帯の幅と色みが、そのボトルが過ごしてきた年数を教えてくれます。

見えているもの読み取れること
白:淡い黄色、緑がかる若い。樽は弱いか、使っていない
白:濃い黄金色樽が強いか、熟成が進んでいる。厚みがある
赤:縁まで紫がかった赤若い。タンニンが立っている可能性が高い
赤:縁がレンガ色に寄る熟成が進んでいる。角が取れている
雫が太く、ゆっくり落ちるアルコールか糖分が高め

だから、最初の一手が決まります

ここまでで得た情報を、そのまま次の判断に渡します。

縁がレンガ色に寄っていれば、繊細な扱いが要ります。強く回さず、器も大きすぎないものを選ぶ。逆に、濃く若い色をしていれば、開かせる時間を見込んでおく。見た段階で、扱いの方向はもう半分決まっています。

見る作業は、5秒あれば足ります。それでこれだけの見当がつくのですから、飛ばす理由はありません。

ステップ2 嗅ぐ ― スワリングの前と後で、二度嗅ぐ

香りの工程で最も大切なのは、回し方ではありません。二度に分けて嗅ぐことです。

一度目は回さずに、二度目は回してから

私は、まずスワリングをせずに嗅ぎます。グラスを動かさないまま、静かに鼻を寄せる。この状態で立ち上がってくるのは、いちばん軽い香りだけです。

そのあとで、グラスを回してもう一度嗅ぎます。空気に触れた分だけ、奥にあった香りが出てくる。

見ているのは、香りの名前ではありません。一度目と二度目の差です。ここでワインの開き方が分かります。

  • 一度目からよく香り、二度目でさらに広がる … 飲み頃のピークに入っています
  • 一度目は閉じていて、二度目で急に開く … これから開いてくる。時間を与える価値があります
  • 二度目もほとんど変わらない … 固く閉じているか、逆にピークを過ぎている可能性があります

開き方から、三つの扱いを選びます

開き方が読めたら、抜栓後の扱いを決めます。私が選んでいるのは、次の3つです。

1. デキャンタに移す … 開くのに時間がかかりそうなワイン。空気に触れる面積を一気に増やします

2. 抜栓して、コルクを開けたまま置く … ゆるやかに開かせたいとき。デキャンタほど強くは効きません

3. 抜栓して、コルクを閉めて置く … すでに開いている、あるいは繊細で飛びやすいとき。これ以上は動かしません

香りは、そのまま食材とソースに返します

もうひとつ、香りには使い道があります。取れた要素を、料理側に反映させることです。

柑橘の香りが立っていれば、仕上げにレモンの皮を削る。樽由来の香ばしさがあれば、火入れの焼き色をもう少し強く出す。ワインの香りと皿の香りを響かせ合わせる、同調という考え方です。

嗅いだ結果が、その日の食材選びやソースの方向を変える。テイスティングが皿につながるのは、この地点からです。

ステップ3 味わう ― 余韻の長さが、ソースを決める

ようやく口に含みます。ここでも、順番があります。

口の中で、五つを順に見ていきます

含んだ瞬間から飲み込んだあとまで、時間の流れに沿って読み取っていきます。

見るものどこで感じるか何が分かるか
甘味含んだ直後、舌の前方果実の熟し方、残糖の有無
酸味舌の側面。唾液が出る感覚産地の冷涼さ、輪郭の締まり方
タンニン歯茎や頬の内側が乾く感じ骨格の強さ、熟成の段階
アルコール喉から鼻に抜ける温かさ全体の重さ、日照の強さ
余韻飲み込んだあとに残る長さこのワインが引き受けられる料理の幅

まず、温度帯を決めます

味わってすぐ判断するのが、温度です。

余韻に、料理の余韻を合わせます

そして、私がいちばん使っているのが余韻の長さです。

飲み込んだあと、味わいがどれくらい口に残るか。この長さに合わせて、料理側の余韻も設計します。

ワインの余韻料理側の調整狙い
長いバターや糖分を増やす料理の余韻も長くして、着地を揃える
短い酸味をきかせる料理の余韻も短くして、切れ味を揃える

長く尾を引くワインに、すっと消える料理を合わせると、ワインだけが後に残ります。逆に、短く切れるワインに濃厚なソースを合わせれば、料理に飲み込まれてしまう。どちらが強いかではなく、終わる場所を揃えるという考え方です。

余韻を測るために、秒数を数える必要はありません。飲み込んでから、次の一口へ手が伸びるまでの間。それが長いか短いか。その感覚で足ります。

表現の言葉 ― 果実・花・樽・土の四分類で足ります

テイスティングでいちばん構えてしまうのが、感じたことを言葉にする場面ではないでしょうか。

香りを取っても、出てくるのは「ぶどうの匂い」くらい。そう感じる方は少なくありません。けれど、語彙を大きく増やす必要はありません。四つの引き出しに、五語ずつ。ここから始まります。

初めの二十語

分類使う言葉
果実レモン/青りんご/白桃/ベリー/カシス
花・植物白い花/すみれ/ミント/青草/ハーブ
樽・醸造バニラ/トースト/バター/ナッツ/スモーク
土・鉱物石灰/濡れた石/きのこ/なめし革/土

四つの分類は、それぞれワインのどこから来た香りかに対応しています。果実と花はぶどうそのものから、樽と醸造は造り手の手から、土と鉱物は畑と時間から。言葉を選ぶ行為が、そのまま由来をたどる行為になっているのが、この分類の便利なところです。

使い方はごく簡単です。四つのうち、どの引き出しがいちばん開いたかを言う。「果実より、土のほうが強い」。それだけで、そのワインの輪郭は相手に伝わります。

言葉は、正解を当てるためのものではありません

私は、お客様の知識に合わせて、使う言葉の粒度を変えています。

ワインに詳しい方であれば、そのままワイン用語で話します。品種名も産地名も、共通の言葉として通じるからです。一方、品種もあまり分からないとおっしゃるお客様には、「こういった品種があって」という細かなところから説明を始めます。

同じ一杯でも、渡す言葉は変わる。テイスティングの言葉は、正解を当てるための答案ではなく、その場にいる人と感覚を共有するための道具だからです。

ですから、ご自宅で飲むときに、教科書どおりの表現を探す必要はありません。「レモンっぽい」「土の匂いがする」で十分に機能します。大切なのは、言葉が合っているかどうかではなく、次に同じ言葉を使ったときに、自分の中で同じものを指せるかどうかです。

ホストテイスティングは、好みを判定する場ではありません

レストランでボトルを開けたとき、最初に少量だけ注がれることがあります。ホストテイスティングと呼ばれる場面です。

ここで戸惑う方は、とても多いです。何を見ればいいのか。おいしくないと言っていいのか。頷く以外の選択肢が思いつかないまま、頷いている。

確認しているのは、劣化しているかどうか

この一口で見ているのは、そのボトルが劣化していないかという一点です。好みに合うかどうかを判定する時間ではありません。

代表的なのがブショネです。コルクに由来する汚染で、濡れた段ボールやカビのような匂いがワインを覆ってしまう状態を指します。程度の差はありますが、香りは立ち上がらず、味わいも平坦なままです。

このほか、明らかに酸化が進んでいる、栓の不良で液漏れしている、といった状態もこの一口で分かります。判断の材料は、ここまでお伝えした「見る・嗅ぐ」でほぼ足ります。

断ってよい場合と、そうでない場合

線引きは、はっきりしています。

  • 劣化していると感じたら、伝えてよい場面です。「少し香りが閉じている気がします」と伝えるだけで、店側は確認します
  • 好みに合わないという理由では、断る場ではありません。選んだのはご自身であり、ボトルの側に問題はないからです

迷ったときは、「自分でも判断がつかないのですが、確認していただけますか」と言えば足ります。断言する必要はありません。プロに確かめてもらうという選択が、この場では最も自然です。

私がブショネに当たったとき

年間200件を超える食卓でワインを注いできましたが、ブショネに当たったのは、これまで数回です。頻繁に起こることではありません。

厄介なのは、お客様がご自身で用意されたワインだった場合です。記念の年のボトルであることも、贈られたものであることもあります。

そういうとき、私は事実だけを、静かにお伝えします。ワインの状態がこうなっていること。原因は保管でも選択でもなく、コルクにあること。そのうえで、この一本をどう扱うかをご相談します。伝えないという選択はしません。黙って注げば、その夜の記憶が、そのボトルの印象で残ってしまうからです。

テイスティングという工程は、こうした場面のためにあります。おいしさを採点するためではなく、卓を囲む時間を守るために置かれている。私はそう考えています。

一人で練習するより、並べて比べる

ここまで手順をお伝えしてきましたが、最後にひとつだけ、上達の近道をお伝えします。

1本を丁寧に見るより、2本を並べて比べるほうが、はるかに速い。これに尽きます。

1本だけを前にすると、「酸がある」と感じても、それが強いのか弱いのかが分かりません。基準がないからです。ところが2本並べた瞬間、片方が「もう一方より酸が高い」と言えるようになる。比較があって初めて、感覚に目盛りが入ります。

白は産地違い、赤はヴィンテージ違い

並べ方にはコツがあります。違いを一つに絞ることです。

  • 白ワイン:同じ品種で、産地違い。ぶどうが同じなので、差として出てくるのは土地と気候だけになります
  • 赤ワイン:同じ銘柄で、ヴィンテージ違い。造り手も畑も同じですから、差として残るのは年と時間だけです

品種も産地も年も違う2本を比べても、どこが原因の差なのかは分かりません。条件を一つだけ動かす。そうすると、色の濃さ、香りの開き方、余韻の長さの違いが、驚くほどはっきり見えてきます。

その一夜を、こちらで組みます

とはいえ、この飲み比べをご自宅で組むのは、なかなか大変です。ボトルを2本開けることになり、温度もグラスも二重に用意が要ります。産地違いやヴィンテージ違いを選ぶ段階から、それなりの手間が生じます。

Na Team Lab では、出張料理のコースの中に、この飲み比べを組み込むことがあります。白は同じ品種の産地違いを、赤は同じ銘柄のヴィンテージ違いを。並べてお出しして、どこがどう違うのかを、皿と一緒にお話ししながら進めていきます。

ワインを飲む会ではなく、違いが見える形に設計された一夜です。今日お伝えした3ステップを、その場で手を動かしながら確かめていただけます。

Na Team Lab の出張料理やレストランの詳細については、公式LINEにてご案内しています。飲み比べを組み込んだコースについてのご相談も、こちらから承っております。

まとめ

ワインテイスティングのやり方を、見る・嗅ぐ・味わうの順に整理してきました。要点を振り返ります。

  • テイスティングは評価ではなく、その一杯をどう扱うかを決めるための観察
  • 見る:縁の色から熟成度合いとボリューム感が分かる。白は樽の強さ、赤はレンガ色への寄り方
  • 嗅ぐ:回す前と後で二度嗅ぐ。その差から飲み頃を読み、デキャンタ・開けて置く・閉めて置くの3択を選ぶ
  • 味わう:温度帯を決め、余韻の長さに合わせて料理側の余韻も揃える。長ければバターと糖分、短ければ酸
  • 表現は果実・花・樽・土の四分類、二十語から。言葉は正解ではなく共有のための道具
  • ホストテイスティングは劣化の確認。好みに合わないという理由で断る場ではない

次にワインを開けるとき、口をつける前に5秒だけ、縁の色を見てみてください。そこで得た見当が当たっているかどうかを、香りと味わいで確かめていく。その繰り返しのなかで、テイスティングは作法から道具へと変わっていきます。

よくある質問

テイスティングしたワインは吐き出すのですか?

場所によって分かれます。何十種類も続けて試す試飲会やテイスティングの場では吐き出しますが、お客様と卓を囲む席では吐き出しません。ご自宅で一本を楽しむ場面であれば、そのまま飲み込んでいただいて差し支えありません。

テイスティングの練習は、何本から始めればいいですか?

2本を並べて同時に比べるところから始めるのが早道です。白なら同じ品種で産地違い、赤なら同じ銘柄のヴィンテージ違い。違いが一つに絞られている組み合わせだと、色や香りの差がはっきり見えてきます。

テイスティングノートは必要ですか?

必須ではありません。ただ、その一杯をどう扱ったか(温度を下げた、抜栓して置いた)と、その結果を短く残しておくと、次に同じワインへ出会ったときの判断が速くなります。評価ではなく調整の記録として残すのがおすすめです。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

私たちの理念・会社情報を見る →


点数ではなく、料理につながる観察を。

複数のワインと料理を囲み、見る・嗅ぐ・味わう順序を実際のグラスで確かめます。初心者の方も歓迎です。

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