結論:ビーフシチューに合うワインは、煮込みに使った赤と同じ系統の、果実味のある赤です。 煮込みに入れる赤は1,000円台の果実味のあるもので十分です。渋みの強い高価な赤を鍋に入れる必要はありません。 合わせて飲むなら、渋みが穏やかなメルローやシラーが寄り添います。 煮込んだ赤の酸と渋みは料理側に残るので、飲むほうは果実味で受けるという考え方です。 デミグラスの甘みには、樽の香りがある赤も合います。
あわせて、赤ワインソースは、飲むワインと同じ品種で作るとメルローは、渋みより果実で飲ませる赤もご覧ください。
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気温が下がると、煮込みの季節が来ます。牛すね肉を赤ワインでゆっくり煮て、翌日まで置いてから食べる。家の台所でできる料理のなかで、ビーフシチューはおそらくもっとも時間が味に変わる一皿です。
ところが、レシピを見ていくと不思議なことに気づきます。「赤ワイン200ml」とは書かれているのに、その夜に何を飲むかは、どこにも書かれていない。 ビーフシチューとワインを一緒に調べる方は、たいていこの二つを同時に知りたいのだと思います。鍋に入れる赤はどれでよいのか。そして、合わせて飲む一本は何を選ぶのか。
この記事では、その二つを最初に分けて整理します。そのうえで、赤ワインを入れる理由、入れる量とタイミング、品種ごとの選び分け、デミグラスやトマト、ホワイトシチューといったソース別の合わせ方までをお話しします。
結論:入れるワインと、飲むワインを分けて考える
ビーフシチューの悩みがこじれるのは、「入れるワイン」と「飲むワイン」をひとつの問いとして考えてしまうからです。この二つは、選ぶ基準がまったく違います。
| 何を見て選ぶか | 出発点 | |
|---|---|---|
| 煮込みに入れる赤 | 果実の濃さと酸。渋みの質は問わない | 1,000円台の果実味のある赤 |
| 合わせて飲む赤 | 渋みの穏やかさと果実味 | メルロー、シラー |
入れる赤に高価なものは要りません。煮込む工程で、繊細な香りはほとんど飛んでしまいます。残るのは果実の濃さと酸、そして色です。この考え方は赤ワインソースの作り方にも書きました。ソースも煮込みも、ワインを煮詰めるという点では同じ原理の上にあります。
一方、飲むほうには明確な指針があります。煮込みに使った赤と同じ系統の、果実味のあるものを選ぶ。 料理人の世界では、煮込みに使ったワインと同じ産地のワインを飲むのが基本です。同じ土地の素材とワインは、気候と水を共有しているので自然に響き合います。9つの原則でいう同調の、もっとも素直な使い方です。
ですから、ひとつの買い方として、こういう形があります。同じ品種の赤を2本買う。1本を鍋に、1本を卓に。 価格の高い低いを気にするより、方向をそろえるほうが、食卓はまとまります。
ビーフシチューに赤ワインを入れる理由
そもそも、なぜ煮込みに赤ワインを入れるのでしょうか。「コクが出るから」で片づけられがちですが、鍋の中で起きていることは三つに分かれます。
酸がほどく、渋みが輪郭をつくり、香りが残る
一つめは、酸です。 赤ワインの酸は、肉の繊維をほどく方向に働きます。長時間の煮込みで牛すね肉がほろりと崩れる感触は、水だけで煮たときとは違うものになります。マリネに酸を使うのと同じ考え方です。
二つめは、渋みです。 タンニンは味の輪郭をつくります。甘みとうま味だけの煮汁は、口の中で縁がぼやけます。渋みが少量入ることで、味の輪郭がはっきりします。
三つめは、香りです。 果実の香り、そして樽を使った赤であれば樽の香りが、煮汁に残ります。煮込みの香りがどこか奥深く感じられるのは、この層があるからです。
ここが大事なところです。酸と渋みは、料理側に残ります。 煮込んだ赤ワインの酸と渋みは、鍋の中に置いてきたまま、皿の上に乗って出てきます。
だから、飲むワインに同じ役を振る必要はありません。飲むほうは、果実味で受ける。 渋みで渋みを追いかけると、口の中が渋みだけになります。果実の甘やかさが前に出ているワインを選ぶと、料理の酸と渋みが支えになって、グラスの果実がきれいに立ち上がります。
煮込みという調理法そのものについてはブレゼとは、閉じ込める料理ですにまとめました。
煮込みに入れる赤の選び方と、量とタイミング
ここからは実務の話です。
安いワインでよいのか
結論から申し上げると、1,000円台の果実味のある赤で十分です。
理由は先に書いたとおりで、煮詰める過程で繊細な香りが飛ぶからです。熟成に由来する複雑な香りや、樽の細かなニュアンスは、煮込んだあとにはほぼ判別できません。高価な一本を鍋に注いでも、その価値の大半は湯気になって出ていきます。
選ぶときに見るのは一点だけです。果実の濃さがあるか。 渋みが強いか弱いかは、煮込みではあまり問題になりません。
ただし、条件が一つあります。酸化してしまったワインは使わないでください。 開けて何日も置いた赤を「煮込みなら使える」と考えがちですが、煮詰めると嫌な香りだけが濃くなります。料理に回すなら、開けて2日ほどまでを目安にしてください。
いつ入れるか ― 肉を焼いた直後
タイミングは、ひとつに決まります。肉と野菜を焼いた直後、煮込みの水分を加える前です。
- 牛すね肉に焼き色をつけ、いったん取り出す
- 玉ねぎやにんじんを炒め、鍋底に焼き目がついた状態にする
- そこへ赤ワインを注ぎ、木べらで鍋底をこそげる
- 煮立てて、アルコールの匂いが落ち着くまで待つ
- それからだしや水、トマトを加えて煮込みに入る
赤ワインを注いで鍋底のうま味を溶かす動作を、デグラッセと呼びます。フライパンや鍋の底に残った焼き汁は、捨てるものではなく材料です。この一手間があるかないかで、同じ材料でも煮汁の深さが変わります。
量については、レシピの分量に従うのがいちばん安全です。4人分で200ml前後、グラス2杯ほどを使うレシピが多いように思います。そのうえで覚えておいていただきたいのは、入れる量を増やすなら、煮詰める時間も増やすということ。赤を多く入れたまま煮詰めが足りないと、酸とアルコールが尖って残ります。煮汁をなめて酸が立っていると感じたら、蓋を取ってもう少し煮詰める。それだけで角が取れます。

合わせて飲むワインを、品種で選ぶ
さて、本題です。煮上がったビーフシチューの隣に、どの一本を置くか。
| 品種 | 診断での言葉 | ビーフシチューでの働き |
|---|---|---|
| メルロー | プラムとまろやかさ | 渋みが穏やかで、煮汁の酸と渋みに重ならない |
| シラー | 黒胡椒とスパイス | 煮込みのスパイスと香りで手を繋ぐ |
| ピノ・ノワール | 赤い果実と軽やかさ | トマト寄り、軽めの煮込みに。酸で寄り添う |
| カベルネ・ソーヴィニヨン | カシスと力強さ | 濃く煮詰めたシチューに。渋みは肉の脂で和らぐ |
出発点としておすすめしたいのは、メルローです。粒が大きく果皮が薄い品種なので、渋みが丸く、果実味が前に出ます。煮汁に残った酸と渋みの上に、プラムのような果実が重なる。この組み合わせは、ほとんど外れません。品種の性格はメルローは、渋みより果実で飲ませる赤にまとめました。
シラーは、香りで選ぶ一本です。黒胡椒とスミレの香りを持つ品種なので、ローリエや黒胡椒、クローブを効かせた煮込みと同じ帯域で響きます。香りを手がかりに合わせたい方には、こちらが面白いはずです。詳しくはシラーとシラーズの違いに書きました。
カベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶなら、条件があります。渋みが強い品種なので、煮汁も濃く、肉の脂もしっかりあるシチューに限ります。厨房にはたんぱく質と脂は渋みを和らげるという知恵があります。肉と脂の量が十分なら、カベルネの渋みは丸く感じられるようになります。
私自身の選び方も書いておきます。ビーフシチューの夜は、鍋に使った品種をそのまま卓に出すことが多いです。香りの方向が最初からそろっているので、考える手間がありません。もう一歩踏み込めるなら、産地までそろえる。南仏の赤で煮込んだなら、飲むのも南仏の赤にする。土地が同じワインと料理は、理屈を知らなくても響き合います。
この表のどこが自分の好みに近いかは、5分のワイン診断で確かめられます。酸味・甘み・渋み・ボディの4つの軸で、どの方向が合うかが出ます。
ソース別の合わせ方(デミグラス・トマト・ホワイト)
ひとくちに煮込みと言っても、味の軸は分かれます。鍋の方向が変わると、グラスの方向も動きます。
| ソース | 立っている要素 | まず向かう方向 |
|---|---|---|
| デミグラス | 甘みとコク、香ばしさ | 樽の香りのある赤、メルロー |
| 赤ワインの煮込み | 酸と渋み、肉のうま味 | 同じ系統の赤。ピノ・ノワールやメルロー |
| トマト煮込み | 明るい酸 | サンジョヴェーゼなどイタリアの赤 |
| ホワイトシチュー・クリーム | 乳脂肪のコク | 樽熟成シャルドネ |
デミグラスは、日本の家庭のビーフシチューでもっとも多い方向だと思います。ここで気をつけたいのは、デミグラスには甘みがあるということ。甘い料理は、渋みを強めます。 デミグラスの甘みに渋みの強い赤を合わせると、ワインの渋みだけが立ち上がります。渋みが穏やかで、樽の香ばしさを持つ赤を選んでください。焼き色の香ばしさと樽の香りは、同じ帯域で共鳴します。
トマト煮込みなら、産地をそろえる考え方が効きます。トマトとサンジョヴェーゼが合うのは、どちらも地中海の太陽の下で育った明るい酸を持っているからです。単なる酸味の一致ではなく、方向の一致です。
ホワイトシチューは、赤から離れてください。乳脂肪のコクに並ぶのは、樽を使った白です。バターやクリームを使った皿には樽熟成のシャルドネ、というのが厨房での基本的な使い分けです。
素材から考える全体の地図は素材で選ぶワインペアリングにあります。
残ったワインの使い道と、家でできるひと工夫
煮込みに200ml使ったあと、ボトルには500ml以上が残ります。ここをどうするかで、ビーフシチューの夜はもう少し豊かになります。
その夜に飲む。 いちばん素直な答えです。鍋に入れた赤と同じものを飲むのですから、香りは最初からつながっています。
翌日の煮込みに回す。 ビーフシチューは翌日のほうがおいしくなる料理です。温め直すときに赤を少し足して、軽く煮立てると香りが戻ります。
ソースに回す。 肉を焼いたフライパンに残りの赤を注いで3分の1ほどまで煮詰め、火を止めて冷たいバターを溶かせば、赤ワインソースになります。手順は赤ワインソースの作り方に詳しく書きました。
温めて飲む。 余った赤に柑橘とスパイスを入れて温めるホットワインも、冬の選択肢です。ホットワインとはに作り方をまとめています。
そして、ワインを買い替えずに寄せる工夫が二つあります。
仕上げにバターを落とす。 煮汁の酸が立って感じるとき、冷たいバターをひとかけ溶かすと丸くなります。濃度をつける手段は、乳化、バター、糖分、温度帯の四通りです。温かい状態より、冷やしたほうが濃度はつきます。煮詰めるのが怖いときは、バターを足すか、一度火から外して落ち着かせてください。
温度を動かす。 ワインは温度を上げると香り・甘み・厚みが出て、下げると酸・タンニン・輪郭が立ちます。軽めの赤は13〜15℃、しっかりした赤は16〜18℃が出発点です。渋みが硬いと感じたらグラスを手で包んで2℃上げる。アルコールが立って熱く感じるなら、氷水に3〜5分浸けて2℃下げる。変化は10分から15分で体感できます。考え方はワインの適温にまとめました。

あなたのタイプなら、ビーフシチューにはこの1本
ここまでは、料理の側から見た地図です。もう一つの地図は、自分の好みの側にあります。
- プラムとまろやかさが好きな方 … メルローのタイプ。デミグラスのビーフシチューへ
- 黒胡椒とスパイスが好きな方 … シラーのタイプ。香りの強い煮込みへ
- 赤い果実と軽やかさが好きな方 … ピノ・ノワールのタイプ。トマト寄りの煮込みへ
- カシスと力強さが好きな方 … カベルネ・ソーヴィニヨンのタイプ。濃く煮詰めたシチューへ
- バターとコクが好きな方 … 樽熟成シャルドネのタイプ。ホワイトシチューへ
酸味・甘み・渋み・ボディの4つの軸で、自分がどの方向かは5分のワイン診断で確かめられます。結果に合わせた品種ガイドは公式LINEでご案内しています。
ただし、診断で出るのは仮説です。グラスを並べて飲み比べて、はじめて分かります。Na Team Labでは毎月テーマを立ててワイン会を開いています。同じ煮込みにメルローとカベルネを並べると、自分がどちらに惹かれるかは一瞬で分かります。コース料理とともに6杯を合わせる会と、10〜15本を並べて立食で楽しむ会の2つの形式があります。これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。
まとめ
ビーフシチューのワインは、鍋とグラスを分けて考えるところから始まります。
- 入れる赤と飲む赤は、選ぶ基準が違います。入れる赤は1,000円台の果実味のあるもので十分です
- 煮込みに入れる赤を選ぶときに見るのは、果実の濃さです。渋みの強さは問いません。酸化したワインは使いません
- 入れるタイミングは、肉と野菜を焼いた直後、水分を加える前です。鍋底の焼き目を溶かしてから煮立てます
- 赤ワインを入れる理由は、酸がほどき、渋みが輪郭をつくり、香りが残ることです
- 酸と渋みは料理側に残るので、飲むほうは果実味で受けます。出発点はメルローです
- デミグラスには樽の香りのある赤、トマト煮込みにはイタリアの赤、ホワイトシチューには樽熟成の白へ
- 同じ品種、できれば同じ産地でそろえると、鍋とグラスがひと続きになります
次に煮込みを仕込む日は、赤を2本買ってみてください。1本を鍋に、1本を卓に。それだけで、同じ料理の見え方が変わります。
よくある質問
ビーフシチューに赤ワインはいつ入れますか?
肉と野菜を焼いた直後、煮込みの水分を加える前に入れてください。鍋底の焼き目を赤ワインで溶かし、アルコールの匂いが落ち着くまで煮立ててから、だしや水を加えます。先に煮詰めておくほど、角のない香りになります。
ビーフシチューに適したお酒は何ですか?
渋みの穏やかな果実味のある赤ワインが、いちばん素直に寄り添います。メルローやシラーが候補です。香りの方向をそろえたいなら、煮込みに使ったものと同じ系統の赤を選ぶと、鍋とグラスがつながります。
ビーフシチューに赤ワインを入れる理由は何ですか?
酸が肉の繊維をほどき、渋みが味の輪郭をつくり、香りが煮汁に残るためです。このうち酸と渋みは料理側に残ります。ですから合わせて飲むワインは、渋みで追いかけるのではなく、果実味のあるものを選びます。
ビーフシチューの煮込みに入れる赤ワインは、安いものでもいいですか?
1,000円台の果実味のある赤で十分です。煮詰める過程で繊細な香りは飛び、残るのは果実の濃さと酸、色だからです。ただし、開けて何日も置いて酸化したワインは嫌な香りが濃くなるので使わないでください。
デミグラスのビーフシチューに合うワインは何ですか?
渋みが穏やかで、樽の香ばしさを持つ赤が合います。デミグラスには甘みがあり、甘い料理は渋みを強めるため、渋みの強い赤は避けます。メルローが出発点になります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

