「父が、今年で七十歳になる」。そう気づいた日から、主催者としての段取りが始まります。
ところが「古希 お祝い」と調べ始めると、思わぬ言葉が目に入ってきます。古希のお祝いはしない方がいい。長寿を祝うと早死にする、という言い伝えがあるらしい。祝いたい気持ちはあるのに、そこで手が止まってしまう。
この記事は、その手が止まった場所から書き始めます。言い伝えの出どころと、七十代の方の食卓を預かってきた立場から見えていることを、お伝えします。
結論:古希のお祝いはしない方がいいという言い伝えに、はっきりした根拠はありません。 「長寿を祝うと早死にする」という話は、厄年の考え方と年祝いが混ざって伝わったものと考えられています。 ただし、年寄り扱いされることへの抵抗感は実際にあります。その場合は「古希のお祝い」と銘打たず、ただの食事会として集まる形もあります。 出張料理の現場で私が見てきたのは、お祝いを嬉しく受け取られる方の姿でした。この記事では、言い伝えの出どころと、ご本人が構えずに済む祝い方をお伝えします。
結論|古希のお祝いを「しない方がいい」に、確かな根拠はありません
先に結論をお伝えします。古希のお祝いはしない方がいいという言い伝えに、はっきりした根拠は見当たりません。
古希という言葉は、杜甫の詩の一節「人生七十古来稀なり」に由来すると言われています。七十歳まで生きることが稀だった時代に、そこへ到達したことを尊ぶ。もともとは、そういう言葉です。祝ってはいけない年、という意味は、どこにも含まれていません。
古希は、長寿を祝う「賀寿」と呼ばれる行事のひとつです。六十歳の還暦、七十歳の古希、七十七歳の喜寿と続いていく、その二番目にあたります。
ここに、ひとつの手がかりがあります。還暦のときには迷わず祝ったご家庭が、古希になると急に「しない方がいい」という話に出会う。 この差はどこから来るのか。理由をたどると、別々の事情が混ざり合っていることが見えてきます。
そのうえで、先にお伝えしておきたいことがあります。私は出張料理人として、七十代のお客様の席にも伺ってきました。そこで見てきたのは、お祝いを嬉しく受け取られる方の姿です。
なぜ「しない方がいい」と言われるのか|3つの説

「長寿祝いは早死にする」という話には、少なくとも三つの背景が絡んでいるように思います。
厄年との混同
年祝いと厄年は、もともと別の考え方です。年祝いは長寿を尊ぶ行事で、厄年は災いに気をつける年。向いている方向が正反対です。
ただ、どちらも数え年で「節目の年齢」を扱います。同じ暦の上で、同じように節目を数える。扱う道具が同じものは、混ざりやすいのだと思います。
「長寿を祝うと早死にする」という言い方には、厄年の警戒感の影が見えます。年祝いそのものに、そうした意味合いはありません。
「年寄り扱い」への抵抗感 ― これは実在します
三つの説のうち、これだけは現実の感情です。
七十歳は、かつての七十歳ではありません。仕事を続けている方も、日課の運動を欠かさない方もいます。そうした方にとって、長寿祝いという言葉は、少し先回りしすぎに聞こえることがあります。
ここで押さえておきたい区別があります。祝われること自体が嫌なのではなく、「もう長寿の側に入りましたね」と線を引かれることに抵抗がある。似ているようで、別のものです。
無理に押し切ると、祝う側の善意が、祝われる側の負担に変わります。とはいえ、何もしないことが答えになるわけでもありません。祝い方を変えれば済む話です。
地域や家ごとの慣習の差
数え年で祝うのか、満年齢で祝うのか。誕生日に合わせるのか、家族が集まりやすい時期に寄せるのか。紫のものを贈るのか、贈らないのか。
このあたりは、地域によっても家によっても違います。調べれば調べるほど、答えが分かれていく。正解がひとつではない、というのが正解です。
よその家の作法に合わせたところで、目の前のご家族が心地よくなるとは限りません。ご本人とご家族が心地よいと感じる形を選べば、それで十分です。
私が席で見てきた、古希のお祝いの受け取られ方
ここからは、言い伝えではなく、私が実際に見てきたことをお話しします。
お祝いは、嬉しく受け取る方が多い
出張料理人として、七十代のお客様の席にも伺ってきました。
そこで感じているのは、お祝いを嬉しく受け取られる方が多いということです。すべての方がそうだとは言えません。それでも私が見てきた範囲では、照れながらも喜ばれる方のほうが多くいらっしゃいました。
照れくささと嬉しさは、同時に成り立ちます。照れて見える瞬間ほど、その席を大切に思われているように感じられました。
もうひとつ、七十代の席で気づくことがあります。たくさん召し上がることが目的ではない、という点です。求められているのは量ではなく、その場の雰囲気をみなさまと一緒に楽しむことでした。同じ卓で、同じものを、同じ時間に味わう。品数や皿の量を増やす足し算は、そのまま喜びにはつながりません。
そして、これは私の感じ方です。モノを受け取る喜びよりも、体験として受け取りたい。そう考える方は、年齢を重ねるほど増えていくように思います。食事は、体験そのものです。
それでも気が進まないなら、「お祝い」と銘打たない
ご本人が照れていらっしゃるご様子なら、方法はあります。「古希のお祝い」と名前をつけないことです。
ちゃんちゃんこも、紫のものも、無理に用意しなくてかまいません。ただ家族で集まって、いつもより少し良い食事をする。それだけで十分に成立します。
名前をつけないことには、もうひとつ効き目があります。「お祝いの席」と決めると、挨拶をしなければ、写真を撮らなければ、という段取りが生まれます。段取りが増えるほど、主催者は席から離れます。
乾杯の理由は、言わなくてもみなさま分かっています。
家族のお祝いで、お店が選ばれにくい理由
祝うと決まると、次は場所の話になります。ご相談の際、よく伺う声があります。
ひとつは、お店だと細かな対応がしにくいということ。年齢の幅がある席では、召し上がる速さも、量も、噛む力も違います。同じ皿を同じタイミングでお出しするという前提そのものが、この席には合っていません。お店の仕組みが劣っているのではなく、想定している客層が違うということです。
もうひとつは、お子さんが騒いだらどうしようという不安です。お孫さんが小さい場合、これは主催者にとって当日ずっと続く緊張になります。飽きたときに席を立てる場所、眠くなったときに横になれる場所。ご自宅なら、それがはじめから備わっています。
結果として、家でゆっくり、気兼ねなく企画したいとおっしゃる方が多くいらっしゃいます。私は、そのための出張料理だと思っています。
お店が良くないという話ではありません。お店には、お店にしか出せない格式があります。ただ、家族だけの席で気を張らずに過ごしたいという願いは、別の形で叶えたほうが早い。
会場の選び方は、還暦祝いの食事をどこで開くかで、店・自宅・シェフを呼ぶという三つの選択肢を比較しています。
古希のお祝いを自宅で開くという選択
三世代が同じ卓につくということ
古希の席は、家族が縦に並びます。七十歳のご本人、その配偶者、お子さま世代、そしてお孫さん。年齢の幅が、そのまま食卓の幅になります。自分のために家族が集まったという事実は、料理の内容よりも先にご本人へ伝わります。
正直に申し上げると、この席は簡単ではありません。料理を出すスピードの調整と、お一人ずつ内容を変えることに、いちばん手がかかります。お孫さんの皿と、七十歳のご本人の皿は、同じ速さでは進みません。
それでも、対応しています。むしろ、ここに手をかけられることこそが、一律のコースとの違いだと考えています。
ご年配の方に向けて、料理を調えるということ
ご年配の方がいらっしゃる席では、料理そのものを組み替えます。
- 食べやすい形に仕立てる
- 噛み切りやすさに配慮する
- ボリューム感に気をつける
派手さを足すのではなく、負担を引いていく作業です。塩を引き算で旨味を彫るのと、考え方は同じだと思っています。
気をつけているのは、その方だけ別の料理にならないことです。食べやすくは仕立てますが、見た目や品目は同じコースの流れに置きます。同じ卓で、同じものを味わえることを、いちばん大切にしています。
料金と人数の目安
Na Team Lab の出張料理は、6〜16名さまでお受けしています。
- コースのみ:お一人 15,000円〜
- コース+ワインペアリング:お一人 22,000円
食材・器・グラス・カトラリーはすべて持参し、後片付けまで含みます。ご自宅の食器が人数分揃っていなくても差し支えありません。会場に到着してから約1時間で、会食を始められます。
料理はフレンチとイタリアンが中心ですが、寿司・和食・中華にも対応しています。ご年配の方のお好みに寄せられる点は、古希の席では意味を持ちます。
料金の詳細は、出張シェフの料金の記事でお伝えしています。
まとめ
- 古希のお祝いはしない方がいいという言い伝えに、はっきりした根拠は見当たりません
- 「長寿を祝うと早死にする」という話は、厄年の考え方と混ざって伝わったものと考えられています
- ただし「年寄り扱いされたくない」という感情は、確かに存在します
- 出張料理の現場では、お祝いを嬉しく受け取られる方が多くいらっしゃいます
- 気が進まないご様子なら、「古希のお祝い」と銘打たず、ただの食事会として集まる形もあります
祝いの形式よりも、全員が同じ席にいた時間のほうが、長く残ります。
よくある質問
次のステップ
古希のお祝いをご自宅で、とお考えでしたら、Na Team Lab では出張料理を承っています。恵比寿の店で仕込みを済ませてから伺い、器からグラスまで携えて、片付けまで引き受けます。ご家族は、卓についているだけで過ごせます。
ご相談は公式LINEにて承っております。人数と場所、そしてご本人が「お祝い」という言葉をどう受け取りそうか。この三つが分かれば、当日の組み立ては見えてきます。
古希のお祝いはしない方がいいというのは本当ですか?
はっきりした根拠は見当たりません。厄年の考え方と年祝いが混ざって伝わったものと考えられています。ただしご本人が年齢を意識することを避けたい場合はあるため、お祝いという言葉を前に出さずに集まる形もあります。
古希のお祝いは、どこで開くのがよいですか?
集まる方の顔ぶれから考えると決めやすくなります。お孫さんが小さい場合や、長時間の着席が負担になる方がいらっしゃる場合は、ご自宅に集まる形にゆとりがあります。ご自宅にシェフを招くという選択肢もあります。
ご年配の方が同席する食事は、料理をどう選べばよいですか?
噛み切りやすさと分量への配慮があると安心です。Na Team Lab でも、ご年配の方がいらっしゃる席では食べやすさとボリューム感を調整しています。量よりも、同じ卓で同じものを味わえることを大切にしています。
構えさせない席を、ご自宅で。
恵比寿の店で仕込みを済ませてから伺い、器からグラスまで携えて、片付けまで引き受けます。ご家族は卓についているだけで過ごせます。人数と場所、そしてご本人が「お祝い」という言葉をどう受け取りそうか。その三つが分かれば、当日の組み立ては見えてきます。
