出張シェフを呼ぶと決めたあと、多くの方が最後に手を止めるのが「ご希望の料理ジャンル」という欄です。フレンチと書けばいいのか、イタリアンと書けばいいのか。両親を招くから和食のほうがいいのだろうか。そこで数分、考え込んでしまう。

先にお伝えしておきます。そこは、決めていただかなくて構いません。

Na Team Lab は、フレンチとイタリアンを基軸にした出張シェフです。ただ、この二つを選んだ理由は、おそらく想像されているものとは少し違います。この記事では、なぜこの二つなのか、コースがどう組み立てられているのか、そして和食をご希望のときに何が起きるのかを、年間200件を超える食卓の実感からお話しします。

SUMMARY

結論:フレンチ・イタリアンの出張シェフとは、ジャンルを選ぶ仕事ではなく、ワインと対話できる形を選ぶ仕事です。 Na Team Lab がこの二つを基軸にしているのは、格式のためではありません。ワインに最も寄り添う料理を探した結果、そこに行き着きました。 実際のご依頼はほとんどが「おまかせ」で、多いのはジャンルの指定ではなく「このワインに合わせてほしい」というご相談です。 和食をご希望の場合も、出汁や昆布、味噌を取り入れた和モダンのコースとして組み立てています。

フレンチ・イタリアンの出張シェフとは

出張シェフにおける「ジャンル」という言葉は、実のところ二つの意味で使われています。ひとつは、その日に出される料理の見た目や名前。もうひとつは、シェフが身につけてきた技術の系統です。

前者はご希望に合わせて動かせます。後者は、そのシェフが何を積み上げてきたかそのものなので、簡単には動きません。ジャンルを尋ねられているとき、本当に確かめたいのは後者のほうです。

Na Team Lab の場合、その答えははっきりしています。フレンチとイタリアンを基軸にしたコースと、ワインペアリング。恵比寿の一日ひと組・八席のレストランでお出ししているものと、ご自宅や別邸へ伺うときにお出しするものは、同じ土台の上にあります。

どちらかを選ばなくていい、という前提

では、依頼のときにフレンチかイタリアンかを選ぶ必要があるのか。ありません。

ご要望があれば、そちらに寄せて組み立てます。ご要望がなければ、両方の良いところを取り入れながら一夜のコースを設計します。境界線を守ることが目的ではないからです。守りたいのは、その夜の卓がどう進んでいくか、という流れのほうです。

「フレンチもできます、イタリアンもできます」という言い方は、どちらつかずに聞こえるかもしれません。けれど私たちの場合、この二つが並んでいるのは、器用だからではなく、必要だったからです。次章でお話しします。

なぜ、フレンチとイタリアンなのか

白い深皿に盛られたパスタに、上から削りかけているところ
ジャンルより先に、その日の一本が決まります。

ワインに最も寄り添うジャンルだった

順序が、少し変わっています。

私は、フレンチとイタリアンが得意だったからこの二つを選んだのではありません。ワインとの対話が成立する形を探していて、その結果としてこの二つに行き着いたというのが正確なところです。

Na Team Lab の料理は、はじめからワインとの組み合わせを前提に設計されています。同調させるのか、対比で立たせるのか。軽いものから重いものへ、どう起伏をつくるのか。9つの原則のうち三つが、そのままペアリングのための軸になっています。

その前提で、いくつもの料理の系統を考えたときに、いちばんワインに寄り添ってくれたのがフレンチとイタリアンでした。ジャンルが先にあって、そこにワインを合わせたのではありません。ワインが先にあって、それに応えられる形を探した。だからこの記事のタイトルは「ジャンルは、ワインが決めていた」なのです。

なぜこの二つだったのか。理由のひとつは、酸との付き合い方にあると考えています。ワインの骨格をつくっているのは、多くの場合、酸です。イタリアンには、トマト、柑橘、ヴィネガー、オリーブオイルというように、素材の酸をそのまま立たせる技術があります。フレンチには、煮詰めて重ねるソースの技術がある。軽く応えることも、厚く受け止めることもできる。ワインの一本一本に対して、寄り方を選べるということです。

もうひとつは、この二つの国がワインとともに料理を発展させてきたという事実です。食卓にワインがある前提で組み立てられてきた料理は、はじめから片方の席が空いています。そこにグラスを置いたとき、無理がない。

焼肉、蕎麦、イタリアン、中華 ― そして残ったもの

もう少し個人的な話をします。

料理を始めてから今までに、私はいくつもの現場を通ってきました。アルバイト時代を含めれば、焼肉、蕎麦屋、イタリアン、中華。ジャンルを渡り歩いたというより、目の前にある厨房で覚えられることを覚えていった、という感覚に近いものでした。

そのなかで、二つのことがはっきりしました。ひとつは、自分がやっていていちばん楽しかったのがイタリアンだったこと。もうひとつは、人に振る舞ったときに、いちばん嬉しそうな反応が返ってきたのもイタリアンだったことです。

自分が楽しいだけなら趣味で終わります。相手が喜ぶだけなら仕事として続きます。両方が重なった場所が、たまたまイタリアンでした。ここが私の出発点です。

ただ、イタリアンだけでは、ワインに対して届かない領域がありました。そこで学び直したのが、フレンチのソースです。フォンと、ブール。出汁のように煮出してつくる系統と、バターで組み立てる系統。この二つの技術が加わったことで、ワインの重さや質感に対して、料理側から寄っていけるようになりました。

いまお出ししているものは、イタリアンを土台に、ワインのためにフレンチのソースを取り込んだ形です。フュージョンという言葉を使うなら、それはお洒落な折衷ではなく、必要に迫られて生まれた継ぎ目のことを指しています。

コースはどう組み立てられるのか

七皿の流れ

恵比寿のレストランでお出ししているコースは、七皿で構成されています。

1. Amuse(アミューズ)

2. Antipasto(前菜)

3. Soup(スープ)

4. Poisson(魚料理)

5. Viande(肉料理)

6. Pasta or Risotto(パスタまたはリゾット)

7. Tiramisù(王のティラミス)

お気づきかもしれません。この並びには、二つの国の言葉が同居しています。Antipasto と Pasta はイタリア語、Poisson と Viande はフランス語です。名前の時点で、すでに混ざっています。

これは体裁の問題ではありません。前菜とパスタにはイタリアの軽やかさが向いていて、魚と肉にはフレンチのソースの構築力が要る。皿ごとに、向いているほうを使っているだけです。そして締めにパスタかリゾットが来るのは、その夜の飲み方に合わせて重さを調整できる場所を、終盤に一つ残しておきたいからです。

もうひとつ、この並びには理由があります。私たちはコースを、七つの皿の集まりではなく、ひとつの物語として設計しています。空腹時は感覚が繊細なのでアミューズと前菜は軽やかに、スープと魚で少しずつ深さを増し、肉料理で頂点をつくる。そしてパスタかリゾット、王のティラミスで静かに閉じる。三時間を、ひと続きの構成として考えるということです。

軽さから重さへ、そして余韻へ。この起伏をつくるために、イタリアの軽やかさとフレンチの厚みが、どちらも必要になります。片方だけでは、三時間の振れ幅が足りないのです。

ご要望があれば、それに合わせて

もちろん、この流れは固定ではありません。

「今回はイタリアンで」とご希望をいただければ、そちらへ寄せます。「フレンチらしく」と言われれば、ソースの比重を上げて構成し直します。ご要望のない場合に、両方の良いところを取り入れた形になる、というだけのことです。

実際に多いのは、ジャンル指定ではなく「ワイン指定」

「このワインに合わせた料理を作ってほしい」

ここまでジャンルの話をしてきて恐縮ですが、現場の実感をひとつお伝えします。

ジャンルのご指定は、ほとんど入りません。 代わりに、はっきり多いご相談があります。「このワインに合わせた料理を作ってほしい」というご依頼です。

理由は、想像がつくかもしれません。ジャンルは選ぶ理由が特にないけれど、開けたい一本には理由があるからです。旅先で買って帰った。誰かにいただいた。この日のために取ってあった。ワインには、その人の物語がすでに乗っています。だから、そこから話が始まる。

テイスティングコメントから、料理を逆算する

では、一本のワインから、どうやってコースを組み立てるのか。実際にあったご依頼でお話しします。

いただいたご希望は、フランス・ブルゴーニュのピノ・ノワールに合わせてほしい、というものでした。

まず、そのワインのテイスティングコメントを読みます。そこから拾うのは、主に三つです。

  • 果実系:どんな果実の香りが立ち上がるか
  • 樽にどれだけつけたか:樽熟成の度合いと、その影響
  • 果実味:果実の厚み、密度

この三つが決まると、料理側でできることと、できないことが見えてきます。

ブルゴーニュは、冷涼な土地です。冷涼な気候で育った葡萄は、酸が高く、繊細な表情になります。同じピノ・ノワールでも、温暖な産地のものとはまったく違う人格を持って現れる。ここが、テロワールという言葉が指しているものです。

その繊細さを前提にすると、進む方向はかなり絞られます。樽の掛かりが浅く、赤い果実の香りと軽やかな酸が前に出ているのであれば、油脂で押していく方向は合いません。バターを重ねたソースを持ってくれば、ワインは料理の下に隠れてしまいます。酸には、酸で応えるほうが自然です。

そうして最終的に組み立てたのが、トマトの酸味を生かしたパスタでした。ピノ・ノワールの持つ酸と赤系果実の香りに、トマトの酸味を重ねる。9つの原則でいう「同調」を、いちばん素直な形で使った一皿です。

もしこれが、同じピノ・ノワールでも樽をしっかりかけた厚みのある一本だったなら、答えは変わっていたはずです。そのときは、フレンチのソースの出番になります。同じ品種でも、一本ごとに料理が変わる。 だからジャンルを先に決めておく意味が、あまりないのです。

この工程には、ジャンルという言葉がひとつも出てきません。出てくるのは、香り、酸、厚み、そして温度です。 ジャンルは、その設計が終わったあとに、結果として名前がつくものにすぎません。

和食をご希望のときは

和の要素を取り入れたフレンチ、という提案

「両親を招くので和食がいい」「年配の方がいらっしゃるから、洋食は重いかもしれない」。こうしたご相談も、少なくありません。

そのときにご提案しているのが、和の要素を取り入れたフレンチ、あるいは和モダンという形です。フレンチやイタリアンの技法を土台にしながら、素材と味の方向を和のほうへ寄せていく組み立て方になります。

具体的に使うのは、出汁、昆布、味噌。ここで少し面白いのは、フレンチの「フォン」が、フランス料理における出汁にあたるものだということです。だとすれば、そこに昆布の出汁を置くことは、遠い飛躍ではありません。技術の系統は変えずに、味の座標だけを移動させる。そういう作業になります。

味噌も同じです。前に出しすぎれば和食の顔になり、控えれば洋の料理のまま輪郭だけが深くなる。どの程度入れるかで、その皿がどちら側に立つかが決まります。

和モダンという言葉は曖昧に使われがちですが、私たちの場合は輪郭がはっきりしています。技法は洋、素材と味の方向は和。 この配分を、その夜のお客様に合わせて動かしていきます。

日本ワインと合わせるなら、和モダンで

とりわけ和モダンが効いてくるのが、日本ワインと合わせるときです。

日本ワインには、和の食材や調味料と響き合う性質があります。そこに重たいフレンチのソースを持ってくると、どうしても片方が黙ってしまう。ですので日本ワインでペアリングを組むときは、和の食材や調味料を取り入れた、和モダンを意識したフルコースに仕上げることが多くなります。

ここでも順序は同じです。ワインが先にあって、料理がそこへ寄っていきます。

完全な和食をご希望の場合

正直にお伝えします。懐石や割烹のような、完全な和食をご希望の場合、私が担当するのは適切ではありません。

その場合は、Na Team の和食スタッフにお繋ぎする流れになります。対応できない、という意味ではありません。誰が担当するのが、その夜にとっていちばん良いかという話です。

和食は、フレンチやイタリアンより簡単な料理では、まったくありません。出汁の引き方ひとつを取っても、一生をかけて磨く種類の技術です。だからこそ、和モダンで応えられる範囲と、和食の専門に委ねるべき範囲を、私たちははっきり分けています。

ジャンルを決めなくていい理由

最後に、数字をひとつだけ。

私はこれまで、出張料理人として年間200件を超える食卓に伺ってきました。そのご依頼のうち、料理のジャンルを指定されたものは、ごくわずかです。ほとんどが「おまかせ」でした。

これは、お客様がジャンルに関心がないという意味ではないと思っています。むしろ逆で、本当に決めたいことは、別のところにあるのだと感じています。

誰と囲む卓なのか。何を祝う夜なのか。相手にどんな気持ちで帰ってもらいたいのか。決まっているのは、たいていその三つです。そしてその三つが決まっていれば、コースはもう半分組み上がっています。フレンチかイタリアンかは、そのあとに残った、いちばん小さな選択にすぎません。

私たちが事前の打ち合わせで伺っているのも、結局は人数、関係性、その夜の目的、そして開けられる一本の四つです。この四つを組み立てる作業に、ジャンル名は一度も出てきません。

ですから、依頼フォームの「ご希望の料理ジャンル」で手が止まったときは、空欄のままで構いません。代わりに、その夜に集まる人のことを一行だけ書いていただければ、私たちはそこから設計を始められます。

Na Team Lab の出張シェフについて

Na Team Lab は、東京・恵比寿の一日ひと組・八席のプライベートレストランと、出張料理を営んでいます。ここまでお話ししてきた設計の考え方は、そのどちらにも同じ形で入っています。

出張料理は、6名さまから承っています。コースのみがお一人 15,000円〜、ワインペアリング付きがお一人 22,000円(6〜16名さま・税・サービス料・出張費込)。1回のご依頼につき 90,000円〜が下限です。17名さま以上は、ビュッフェ形式でお一人 8,000円〜のご提案になります。

まとめ

この記事でお話ししてきたことを、整理します。

  • フレンチとイタリアンは、選んだ結果ではなく行き着いた場所:ワインとの対話が成立する形を探した結果、この二つに落ち着きました
  • 出発点はイタリアン:自分が楽しく、人がいちばん喜んだ場所。そこにワインのためのフレンチのソースが加わりました
  • 七皿は、はじめから混ざっている:前菜とパスタにイタリア、魚と肉にフレンチ。皿ごとに向いているほうを使っています
  • 多いのはジャンル指定ではなくワイン指定:テイスティングコメントから香りと酸を読み、そこへ料理を寄せていきます
  • 和食のご希望には和モダンで:出汁・昆布・味噌を取り入れて設計し、懐石のような専門領域は和食スタッフが担当します

ジャンルという言葉は、料理を分類するために生まれたものです。けれど食卓の上では、分類はあまり役に立ちません。役に立つのは、その夜に何が開けられるか、そして誰が座っているかという情報のほうです。

よくある質問

出張シェフに、フレンチかイタリアンかを指定できますか?

はい、ご指定いただけます。ご要望があればそのジャンルに寄せて組み立てます。ご指定がない場合は、両方の良いところを取り入れながらコースを設計します。実際のご依頼はほとんどが「おまかせ」ですので、決めかねている場合はそのままお伝えください。

出張シェフに和食をお願いすることはできますか?

出汁や昆布、味噌などを取り入れた「和モダン」のコースとしてご提案しています。特に日本ワインと合わせる場合は、和を意識したフルコースに仕上げます。懐石のような完全な和食をご希望の場合は、Na Team の和食スタッフが担当いたします。

手持ちのワインに合わせて料理を作ってもらえますか?

はい、そうしたご依頼は数多くいただいています。ワインのテイスティングコメントから香りと味わいを読み取り、その要素を料理の中に取り込んでコースを組み立てます。開けたい一本がお決まりでしたら、そこからご相談いただくのがおすすめです。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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ジャンルは、決めていただかなくて構いません。

フレンチとイタリアンを基軸にしていますが、その日に開ける一本が決まっているのなら、料理のほうを合わせます。お持ちのワインのリストを先に共有していただければ、香りの重ね方から組み立て直します。器もグラスもカトラリーも携えて伺い、片付けまで引き受けます。和食をご希望の場合も、内容によってはお応えできますのでご相談ください。

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