SUMMARY

結論:シチリアのワインには、二つの顔があります。 平地の畑から生まれる、果実味が豊かで手に取りやすい赤。そしてエトナ山の標高の高い畑から生まれる、繊細で酸のある赤と白です。 代表的な黒ぶどうはネロ・ダーヴォラ。火山の側ではネレッロ・マスカレーゼが主役になります。 白はグリッロやカリカンテ。酒精強化ワインのマルサラも、この島のものです。 同じ島の中で、暖かさと冷たさが共存している。これがシチリアのワインの面白さです。

あわせて、イタリアワインは、その土地の料理と一緒に選ぶと酒精強化ワインは、加える時期で甘さが決まるもご覧ください。

ワイン会のご案内:イタリア6州で、主要品種を巡る夜

11月27日(金)20:00 / 会費 14,800円(税込)/ 恵比寿 Na Team Lab・基本8席

ぶどうの樹に実った白ぶどうの房。グリッロやカリカンテのような白品種のイメージ
シチリアの白は、近年とくに評価が上がっています(写真はイメージで、シチリアの畑ではありません)

シチリアのワインと聞いて、多くの方が思い浮かべるのは「南の、濃くて暖かい赤」ではないでしょうか。地中海のいちばん大きな島で、日照は強い。実際、そういうワインがたくさん造られています。

ただ、この10年ほどで、その印象だけでは収まらなくなりました。理由は、エトナです。

標高の高い火山の斜面でつくられるワインが評価され、シチリアは「濃い南のワイン」と「冷えた山のワイン」の両方を持つ産地になりました。同じ島の中に、正反対の性格が並んでいる。この記事では、シチリアのワインを品種から整理し、どちらの顔をどう選べばよいかをお伝えします。

イタリア全体の格付けや州ごとの違いは、イタリアワインの全体像をまとめた記事にまとめています。

シチリアという産地 島であること、火山であること

シチリアは、イタリア半島の南西に浮かぶ地中海最大の島です。ワインづくりの条件として、三つの特徴があります。

ひとつは、日照の強さです。ぶどうはよく熟し、糖度が上がります。果実味が豊かで、アルコール分も出やすい。これが平地のシチリアワインの性格を決めています。

ふたつめは、海に囲まれていること。島のどこにいても海が近く、夜になると海風が入ります。昼は暑く、夜は下がる。この温度差が、熟した果実の中にも酸を残します。

みっつめが、エトナという活火山です。標高の高い斜面に畑があり、土は黒い火山性の土壌です。ネレッロ・マスカレーゼは標高1,000mまでの畑でも育ち、そこから繊細で香り高い赤が生まれます。

シチリア唯一のDOCG

格付けの面でひとつ、はっきりした事実があります。シチリア州のDOCGは、ひとつだけです。

それがチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアです。島の南東部でつくられる赤で、規定はネロ・ダーヴォラ50〜70%、残りをフラッパートという構成です。二つの品種のブレンドが規定で定められている、という点が特徴的です。

ここで誤解してほしくないのは、DOCGが一つだけだからシチリアのワインの質が低い、ということではありません。格付けは「この土地でこの造り方をした」という約束事の記録です。エトナのワインは制度上はDOCですが、いま世界で最も注目されているイタリアワインのひとつです。

シチリアの代表的な品種

赤と白に分けて、主な品種を整理します。

品種色主な産地味の方向合う料理
ネロ・ダーヴォラ赤島の広い範囲果実が濃く、渋みは穏やか肉の煮込み、ナスの料理
ネレッロ・マスカレーゼ赤エトナ色は淡く、酸と渋みが締まっている鶏や豚のロースト、きのこ
フラッパート赤南東部軽やかで、赤い果実と花の香り生ハム、トマトの軽い料理
グリッロ白西部厚みがあり、柑橘とハーブ魚介のパスタ、揚げもの
カリカンテ白エトナ酸が高く、塩気を感じる貝、白身魚
カタラット白島の広い範囲穏やかで、果実の甘やかさ野菜の前菜、鶏の白い料理

ネロ・ダーヴォラ シチリアの顔になった赤

シチリアの赤を一つ挙げるなら、ネロ・ダーヴォラです。

味の方向は、熟した黒い果実の香りと、穏やかな渋みです。渋みが前に出てこないので、赤ワインの渋さが苦手な方にも入りやすい。価格も手に取りやすい範囲のものが多く、日々の食卓向きです。

厨房の目線で言うと、ネロ・ダーヴォラは甘さを含んだ味つけの料理を受けられる赤です。渋みの強い赤は、甘い味つけと組むと渋さが尖ります。ネロ・ダーヴォラは渋みが穏やかなので、ナスとトマトを甘く煮たカポナータのような皿と、素直に並びます。

ネレッロ・マスカレーゼ 同じ島とは思えない赤

エトナの赤の主役です。規定では、エトナ・ロッソはネレッロ・マスカレーゼを最低80%使い、ネレッロ・カップッチョ(マンテッラート)を最大20%まで加えられます。

このワインを初めて飲んだとき、多くの方が意外に思うのは色の淡さです。グラスに注ぐと、南の島の赤とは思えないほど透けています。それでいて、口に含むと酸がはっきりしていて、渋みも締まっている。

色の淡さと味の強さが一致しない、というこの構造は、ピエモンテのネッビオーロにも共通します。私たちは、ピノ・ノワールが好きな方が次に試す赤として、ネッビオーロをおすすめすることがあります。エトナのネレッロ・マスカレーゼも、同じ道筋の上にあります。淡い色に期待を裏切られる経験は、ワインの面白さを一段深くします。

白のグリッロとカリカンテ

シチリアの白は、近年とくに評価が上がっています。

グリッロは、西部で広く育てられている品種です。興味深いのは、その出自がはっきりしていることです。分子生物学的な研究で、グリッロはカタラット・ビアンコとジビッボ(モスカート・ディ・アレッサンドリア)の交配であることが示されています。1869年に男爵アントニーノ・メンドラが交配し、1874年に誕生した品種で、当初は「モスカート・チェルレッティ」と呼ばれていました。

150年ほど前に人の手で生まれた品種が、いまシチリアを代表する白になっている。土着品種という言葉から受ける「昔からそこにあった」という印象とは、少し違う経緯です。

味の方向は、厚みのある果実と柑橘、乾いたハーブ。魚介のパスタや揚げものと合わせやすい白です。

カリカンテは、エトナの白の主役です。エトナ・ビアンコはカリカンテを最低60%使い、カタラットを最大40%まで加えられます。酸が高く、塩気を感じる味わいで、貝や白身魚に寄り添います。

エトナのワインが注目される理由

いま世界のワインの話題で、エトナの名前が繰り返し出てきます。理由を整理すると、三つあります。

ひとつは、標高です。気候が温暖化するなかで、標高の高い畑は相対的に価値を増しています。暑い産地の中にある冷えた場所、という条件は、いまのワインづくりで強い意味を持ちます。

ふたつめは、土です。火山性の土壌は水はけがよく、ミネラルを感じる味わいにつながるとされます。Na Team Lab では産地の土と気候を「テロワール」として一つの原則に据えていますが、エトナはその影響がもっとも読み取りやすい産地のひとつです。

みっつめは、品種の個性です。ネレッロ・マスカレーゼとカリカンテは、どちらも「濃さ」で勝負しない品種です。果実の濃さを競う時代から、酸と繊細さを評価する流れに変わったとき、この二つは追い風を受けました。

エトナのワインは、旧世界のイタリアにありながら、新世界の産地が注目されてきた経緯とよく似た語られ方をします。旧世界と新世界という区分そのものについては、新世界ワインを整理した記事で書いています。

赤ワインを注いだグラスと小さな料理の皿。シチリアの赤の色合いを確かめる
同じ島の赤でも、ネロ・ダーヴォラとエトナ・ロッソでは色の濃さがまったく違います

マルサラという、もうひとつのシチリア

シチリアには、食事と一緒に飲む以外のワインもあります。酒精強化ワインのマルサラです。

酒精強化ワインとは、発酵の途中か後にアルコールを加えて造るワインのことです。アルコール分が高く、保存がききます。マルサラは、島の西端の町の名前です。

マルサラは、二つの軸で区分されています。ひとつは熟成の長さです。

区分最低熟成期間
フィーネ1年
スペリオーレ2年
スペリオーレ・リゼルヴァ4年
ヴェルジネ(ソレラス)5年
ヴェルジネ・ストラヴェッキオ(またはリゼルヴァ)10年

もうひとつは糖分です。セッコ(還元糖40g/L未満)、セミセッコ(40〜100g/L)、ドルチェ(100g/L超)に分かれます。さらにラベルには、オーロ(金)、アンブラ(琥珀)、ルビーノ(ルビー)という色の表示が入ります。

日本では製菓用として知られていますが、辛口のヴェルジネは食前酒としても、熟成したチーズと合わせる一杯としても成立します。酒精強化ワイン全体の仕組みは、酒精強化ワインをまとめた記事で解説しています。

シチリアのワインに合う料理

シチリアの料理は、ワインとの相性を考えるうえで分かりやすい特徴を持っています。魚介、ナス、トマト、揚げもの、そして甘さと酸の同居です。

料理寄せるワイン考え方
魚介のパスタグリッロ厚みのある白で、魚の旨味に重さを揃える
貝、生牡蠣、白身魚のカルパッチョカリカンテ、エトナ・ビアンコ高い酸と塩気を、素材の塩気に同調させる
カポナータ(ナスの甘酢煮)ネロ・ダーヴォラ甘さのある味つけは、渋みの穏やかな赤で受ける
アランチーニ(ライスコロッケ)グリッロ、泡揚げものの油を、酸と泡で切る
鶏や豚のロースト、きのこエトナ・ロッソ締まった酸と焼き目の香ばしさを響かせる
熟成チーズ、焼き菓子マルサラ甘さと塩気を対比で組む

揚げものに酸のある白や泡を合わせるのは、Na Team Lab が「対比」と呼んでいる考え方です。脂を酸でリセットし、次のひと口を軽くする。シチリアのアランチーニのような料理では、この組み方がそのまま効きます。

温度は、軽い白が8〜10℃、厚みのある白が10〜13℃を出発点にします。グリッロのような厚みのある白を冷やしすぎると、香りが閉じてしまいます。冷蔵庫から出して15分ほど置いてからグラスに注ぐと、香りが立ち上がってきます。

選び方と価格帯の目安

シチリアのワインは、価格の幅が広い産地です。市場で見かける目安として整理します。

価格の目安選べるもの向いている場面
1,500〜2,500円ネロ・ダーヴォラ、カタラット平日の食卓、トマトやナスの料理と
3,000〜5,000円グリッロ、チェラスオーロ・ディ・ヴィットリア週末、魚介のコースと
5,000円以上エトナ・ロッソ、エトナ・ビアンコ比較して飲みたい日、ロースト料理と

シチリアの良いところは、低い価格帯でも満足度が落ちにくいことです。日照が強く、ぶどうがよく熟す産地なので、手頃な一本でも果実味の充実が感じられます。

一方で、エトナのワインは価格が上がりました。畑の数が限られ、世界中から求められているためです。ここは「安く買う」対象ではなく、「比較するために開ける」一本として扱うのが現実的だと考えています。

最初の一本を選ぶなら

シチリアを初めて試すなら、ネロ・ダーヴォラから入るのが素直です。渋みが穏やかで、価格も扱いやすく、家庭の料理と合わせやすい。シチリアという産地の「暖かい側」の基準点になります。

そのうえで、二本目にエトナ・ロッソを開けてみてください。同じ島とは思えない淡い色と締まった酸に出会います。この一回の比較で、シチリアが「濃い南のワイン」だけの産地ではないことが、言葉ではなく口で分かります。

白身魚の皿をナイフとフォークで食べる手元。シチリアの白と合わせたい魚料理
島の白は、魚の料理と並べるのがいちばん分かりやすい

北の州と並べると、同じ国とは思えません

シチリアのワインの個性は、シチリアだけを飲んでいても測れません。

北のピエモンテのネッビオーロ、中部トスカーナのサンジョヴェーゼと並べたとき、シチリアの位置がはじめて見えてきます。果実の熟し方が違う。アルコールの出方が違う。それでいて、エトナの赤を加えると、北の赤に近い締まり方をするものが同じ島から出てくる。

ひとつの国の中で、ここまで振れ幅があることに驚く方は多いです。一杯ずつでは分からない違いも、隣に並べればはっきりします。

Na Team Lab では、恵比寿の8席のテーブルで、月ごとにテーマを変えたワイン会を開いています。11月27日の回は、イタリアの6州から6種(泡1・白2・赤3)を、ペアリングのフルコースとともにお出しする夜です。北から南まで、州をまたいで同じ晩に飲みます。

飲み放題の飲み会でも、出会いを目的にした会でもありません。ワインと料理が好きな方が、ひとつのテーブルを囲む夜です。

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まとめ

シチリアのワインについて、要点を整理します。

  • シチリアのワインには二つの顔があります。 平地の果実味豊かな赤と、エトナ山の標高の高い畑が生む繊細な赤と白です
  • 赤の代表はネロ・ダーヴォラ。渋みが穏やかで、甘さを含む味つけの料理も受けられます
  • エトナの赤はネレッロ・マスカレーゼが最低80%。色は淡いのに、酸と渋みは締まっているという意外さを持ちます
  • 白はグリッロとカリカンテ。グリッロはカタラットとジビッボの交配で、1874年に生まれた品種です
  • 州のDOCGはチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアのひとつだけですが、格付けの数と質は別の話です
  • マルサラは酒精強化ワイン。熟成の長さと糖分で区分され、辛口のヴェルジネは食事とも合わせられます

次にシチリアの赤を選ぶときは、ネロ・ダーヴォラとエトナ・ロッソを一本ずつ買ってみてください。グラスを並べた瞬間に、この島の振れ幅が分かります。

並べて飲む場は、恵比寿の8席のテーブルでご用意しています。11月27日は、イタリアの6州を一晩で巡る回です。

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まず好みを知りたい方は、無料のワイン診断から始めてみてください。

よくある質問

シチリアの赤ワインの代表的な品種は?

ネロ・ダーヴォラです。島の広い範囲で育てられ、熟した黒い果実の香りと穏やかな渋みを持ちます。エトナ山の斜面では、ネレッロ・マスカレーゼが主役になります。南東部では、フラッパートという軽やかな品種も使われます。

エトナのワインの特徴は?

標高の高い火山性土壌の畑から生まれ、酸がはっきりしていて繊細です。赤のエトナ・ロッソはネレッロ・マスカレーゼを最低80%、白のエトナ・ビアンコはカリカンテを最低60%使います。色が淡いのに味わいは締まっている点が特徴です。

ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?

参加者の半数以上がおひとりです。知識は要りません。恵比寿の8席のテーブルで、シェフがその晩のワインを一杯ずつ説明しながらお出しします。会費は予約時のお支払いで、当日は手ぶらでお越しいただけます。

シチリアのDOCGはいくつありますか?

シチリア州のDOCGは、島の南東部でつくられるチェラスオーロ・ディ・ヴィットリアのひとつだけです。ネロ・ダーヴォラ50〜70%、残りをフラッパートとするブレンドが規定で定められています。ただし格付けの数と質は別の話で、制度上はDOCのエトナも世界で注目されています。

マルサラとはどんなワインですか?

マルサラは、シチリア西端の町の名前を持つ酒精強化ワインです。熟成の長さ(フィーネ1年からヴェルジネ・ストラヴェッキオ10年まで)と糖分(セッコ・セミセッコ・ドルチェ)で区分されます。製菓用として知られていますが、辛口のヴェルジネは食前酒や熟成チーズと合わせる一杯にもなります。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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