結論:ヴーヴ・クリコの定番はピノ・ノワール主体でしっかりした味わいの「イエローラベル」で、そこから先に複数の選択肢があります。 色の美しい「ローズラベル」、やや甘口の「ホワイトラベル ドゥミ・セック」、氷を入れて飲む甘口の「リッチ」。 さらに、良い年だけを瓶詰めした「ヴィンテージ」、長期熟成の「エクストラ・ブリュット エクストラ・オールド」、最上位の「ラ・グランダム」が続きます。 選ぶ基準は値段ではなく、甘辛と、どの品種が主役かです。 用途から逆算すると、迷いません。
あわせて、シャンパンは、四つの言葉で選べます(種類の読み解き方)とシャンパンの甘さは、ラベルの一語で分かるもご覧ください。

ヴーヴ・クリコといえば、あの黄色いラベルです。贈り物でいただくこともあれば、店のリストで見かけることもある。知名度のある一本です。
ところが「他に何があるのか」を聞かれると、答えに詰まる方が多いのではないでしょうか。実は、黄色いラベルの先に、はっきり性格の違うものが並んでいます。
この記事では、現行のラインアップを整理し、どれをどの場面で選ぶかをお話しします。甘辛・色・ぶどうの構成・年号という読み解きの枠組みは、シャンパンは、四つの言葉で選べますにまとめています。本記事は、その枠組みを一つのメゾンに当てて見ていく形になります。
ヴーヴ・クリコとは ― 名前は「未亡人」です
「ヴーヴ(Veuve)」は、フランス語で未亡人を意味します。公式グループの説明にも、その語義が記されています。
メゾンの創業は1772年。創業者の息子フランソワ・クリコが1805年に亡くなり、妻のバルブ・ニコル・クリコ・ポンサルダンが、27歳で家業を引き継ぎました。 公式は「27歳で未亡人となった彼女は、自らの運命に立ち向かい、女性起業家としての先駆者の一人となった」と記しています。
彼女が残したものは、名前だけではありません。公式の沿革には、次のことが記されています。
- 1810年 … 初のヴィンテージ・シャンパーニュを造る
- 1816年 … 動瓶台(ルミュアージュ台)を考案する
- 1818年 … 赤ワインをブレンドする方法で、初のロゼ・シャンパーニュを造る
とくに1816年の動瓶台は、いまも現場で使われている仕組みです。 瓶の中の澱を口元に集めるための台で、これによってシャンパーニュは澄んだ状態で出荷できるようになりました。澱を取り除く工程は、今日のシャンパーニュ造りの前提になっています。
イエローラベルの商標が登録されたのは、1877年2月12日です。あの黄色は、150年ほど前から続いている目印ということになります。
物語はここまでにします。大事なのは、このうちヴィンテージとロゼの二つが、いまのラインアップの性格に直結していることです。 ヴィンテージとロゼは、どちらもこのメゾンが先に手をつけた領域にあたります。
ヴーヴ・クリコの種類 ― 比較表
現行の主なラインアップを並べます。糖分の数値は、いずれも公式の製品情報に記載されているものです。
| 銘柄 | 甘辛 | 糖分 | 味わいの傾向 | 値段の目安(税込) | 向く場面 |
|---|---|---|---|---|---|
| イエローラベル ブリュット | 辛口 | 9g/L | 力強さとなめらかさ。基準となる一本 | 約10,500円〜 | 乾杯、贈り物、食事全般 |
| ローズラベル | 辛口 | 9g/L | 赤い果実の香り、骨格がある | 約11,500円〜 | 記念日、肉料理に合わせる夜 |
| ホワイトラベル ドゥミ・セック | やや甘口 | 45g/L | はっきりした甘さ | 約10,400円〜 | デザート、甘さのある料理 |
| リッチ(リッチ オン アイス) | 甘口 | 55g/L | 甘く豊か。氷を入れて飲む設計 | 約10,700円〜 | 食前、アペリティフ、暑い季節 |
| ヴィンテージ | 辛口 | 6g/L | 良い年だけを瓶詰め。熟成の輪郭 | 約13,400円〜 | 節目の年、記念の贈り物 |
| エクストラ・ブリュット エクストラ・オールド | 極辛口 | 公式記載を確認できず | リザーブワインのみで構成 | 約14,300円〜 | 飲み慣れた方への一本 |
| ラ・グランダム | 辛口 | 6g/L | ピノ・ノワール90%。骨格の強い最上位 | 約29,000円〜 | 大切な節目、特別な食卓 |
値段について、注記が必要です。 ヴーヴ・クリコには、公式に公表された希望小売価格が見当たりません。ここに挙げた数字は、輸入元の公式ショップにおける2026年10月時点の価格をもとにした目安です。箱の有無やサイズ、販売店によって変わります。
ロゼは、ローズラベル以外にも「リッチ ロゼ」「ヴィンテージ ロゼ」「ラ・グランダム ロゼ」が用意されています。それぞれの段に、ロゼの選択肢が併走しているという構造です。
イエローラベル ― 基準となる一本
まず、定番から見ます。
公式が示している品種構成は、ピノ・ノワール50%、シャルドネ30%、ムニエ20%。 黒ぶどうが7割を占めます。ここに、過去の年のワイン(リザーブワイン)が最大45%まで加えられます。
この数字から、味の方向が読めます。ピノ・ノワールが主体なので、骨格と厚みが前に出ます。 シャルドネだけで造るブラン・ド・ブランのような、酸がまっすぐ立つ性格ではありません。
公式は、フレッシュさ、力強さ、アロマの豊かさ、シルクのようななめらかさという四つの要素を挙げています。香りについては、白と黄色の果実、繊細な柑橘、ペストリーのような香ばしさ、乾いた果実の気配と説明されています。
甘辛はブリュット(辛口)で、糖分は9g/Lです。ブリュットの規定は12g未満ですから、その範囲の中ほどに位置します。この少しの糖が、酸をまとめて膨らみを与えています。甘辛の段の読み方は、シャンパンの甘さの記事に整理しました。
提供温度は、公式が8〜10℃を推奨しています。 しっかり冷やしてください。公式のペアリング提案には、寿司やカルパッチョ、タルタル、野菜を使った軽い前菜が挙げられています。日本の食卓に合わせやすい方向です。
なお、リザーブワインを多く使う造りは、年ごとの出来不出来を越えて味を一定に保つためのものです。だから、いつ買っても同じ顔をしている。贈り物として扱いやすいのは、この設計によります。
ローズラベル ― 色のついた辛口
ローズラベルも、甘辛はブリュット、糖分9g/Lです。イエローラベルと同じ段にあります。
違いは色と、黒ぶどうの働き方です。赤い果実の香りが前に出て、骨格がはっきりします。色がついているから甘い、ということはありません。 ここは、よくある誤解です。
ロゼをどこに置くかについて、私たちの考え方をお話しします。
冬に向かってボリューム感のある泡を楽しみたいとき、乾杯からロゼで入ることがあります。 あるいは逆の使い方もします。一杯目は通常のシャンパーニュで始め、最後に「締めのシャンパン」としてロゼを出す。 そのどちらかです。
ロゼは、夜のどこに置くかで表情が変わる泡だと考えています。真ん中に置くと埋もれやすい。最初か最後。 そのほうが活きます。

リッチ ― 氷を入れて飲む、という設計
ラインアップの中で、いちばん性格が変わっているのがこれです。
正式な名前は「リッチ オン アイス」。氷を入れて飲むことが、はじめから設計に入っています。
甘辛は甘口で、糖分は55g/L。ブリュットの9g/Lと比べると、六倍ほどの糖分です。品種構成は、ピノ・ノワール50%、ムニエ30%、シャルドネ20%と公式に記載されています。
飲み方について、公式はこう案内しています。大きめの氷を入れるか、4℃まで冷やした状態で。グラスを半分まで満たし、そこへ氷をそっと入れる。
なぜ氷を入れても成立するのか。理屈は単純です。氷が溶ければ、薄まります。 普通の辛口を薄めると、酸だけが残って痩せてしまいます。ところが糖分55g/Lの甘口であれば、薄まっても味の芯が残る。薄まる前提で、濃く造ってあるということです。
副材料を加える飲み方も、公式が過去に提案していました。ミクソロジストと選んだとして挙げられていたのは、パイナップル、グレープフルーツの皮、きゅうり、セロリ、パプリカの類、紅茶。ロゼのほうには、しょうが、パイナップル、ライム、紅茶です。なお、これは現行の製品ページの記載ではありません。 公式サイト内の過去のページにあるものなので、「いま公式が推奨している」とまでは言えない点を添えておきます。
公式のペアリング提案には、マンゴーやパイナップル、旬の白い果実、甘辛い料理、野菜のカレーなどが挙げられています。
ひとつ、実用的な注意があります。リッチは、入手状況が流動的です。 一部の小売店が終売や終売予定として扱っており、一方で輸入元の公式ショップでは現在も販売されています。メゾンや輸入元からの正式な終売の発表は見当たりませんでした。気になる方は、購入前に取り扱いを確認してください。
ホワイトラベル ドゥミ・セック ― 甘口を探している方へ
甘口のシャンパンを探している方には、こちらが答えになります。
糖分45g/L。ドゥミ・セック(32〜50g)の段にあたります。 リッチのような氷を入れる設計ではなく、普通にグラスで飲む甘口です。
甘さを選ぶときの考え方を、ひとつお伝えします。甘いワインには、ボリューム感のある料理を合わせたいのです。 甘さは味の総量を押し上げるので、受け止める側にも厚みが必要になります。軽い前菜に甘口を合わせると、料理が負けます。
逆の使い方もできます。キリッとした辛口に、甘さのあるアップルパイを合わせる。同じ方向に揃える(同調)か、ぶつける(対比)か。 それを決めてから段を選ぶと、組み合わせが決まります。
ヴィンテージ、エクストラ・オールド、ラ・グランダム
上の段を見ていきます。
ヴィンテージ
良い年のぶどうだけを使い、年号を記して出すものです。糖分は6g/Lで、イエローラベルより辛口の側にあります。
日本では、2015年のものが現行として流通しています。ロゼのヴィンテージも同じ年です。
年号入りの泡が持つ利点は、年を選べることです。 生まれ年、結婚した年、会社を始めた年。ノン・ヴィンテージが基本の世界では、この選び方ができません。生まれ年のワインを贈るときの考え方は、生まれ年のワインの記事にまとめました。
エクストラ・ブリュット エクストラ・オールド
名前のとおり、極めて辛口で、極めて古いワインを使ったものです。現行は「5」という番号のものにあたります。
リザーブワイン、つまり過去の年のワインだけで構成されているという、珍しい造りです。 糖分の公式記載は確認できませんでしたが、エクストラ・ブリュットの表示があるので、0〜6gの範囲に入ります。辛口が好きで、泡を飲み慣れている方に向く一本です。
ラ・グランダム ― 最上位
最上位のキュヴェです。名前の由来は、マダム・クリコにあります。「シャンパーニュ地方の偉大なる女性(ラ・グランダム)」と称された彼女の、大胆さと革新性へのオマージュだと公式が説明しています。
ここで、よく流通している説明をひとつ訂正しておきます。「ラ・グランダムはシャルドネ主体」と書かれていることがありますが、現行の2018年は違います。
公式の記載は、ピノ・ノワール90%、シャルドネ10%。 公式自身が「ピノ・ノワールの芸術」と位置づけています。糖分は6g/Lです。
ロゼのラ・グランダムも同じ品種比率で、そこにブージーの区画の赤ワインを13%加えていると記載されています。
値段の目安は、約29,000円〜(輸入元の公式ショップの価格をもとにした目安)。ロゼはさらに上の帯になります。
贈り物として、どれを選ぶか
用途から逆算するのが、いちばん迷いません。
| 場面 | 向いているもの | 理由 |
|---|---|---|
| 相手の好みが分からない | イエローラベル | 基準となる一本。辛口で、食事にも乾杯にも使える |
| 記念日・ふたりの夜 | ローズラベル | 色が場をつくり、肉料理まで受けられる |
| 節目の年を贈る | ヴィンテージ | 年号が意味を持つ。生まれ年を選べる |
| 大切な節目、大人数の席 | ラ・グランダム | 最上位。骨格が強く、印象に残る |
| 甘いものが好きな方へ | ホワイトラベル ドゥミ・セック | 甘口を探している方への答え |
| 暑い季節、食前の一杯に | リッチ | 氷を入れて飲む設計。ただし取り扱いを確認 |
贈り物としてのワインの選び方は、ワインを贈るときの考え方にもまとめています。
ひとつだけ、添えておきたいことがあります。値段の順は、好みの順ではありません。 ラ・グランダムは骨格が強く、情報量の多い一本です。食事と合わせずに単独で飲むと、持て余すこともあります。相手が普段どういう飲み方をするのかを思い浮かべて選ぶほうが、喜ばれると私たちは考えています。
他の生産者と並べると、個性が分かります
ここまで一つのメゾンの中で比べてきました。けれど、「ヴーヴ・クリコらしさ」は、他のメゾンと並べたときにいちばんはっきりします。
ピノ・ノワール主体で、骨格がある。リザーブワインを多く使い、年ごとの差を越えて一定の顔をつくる。それが特徴だと言葉で知っていても、比べる相手がいなければ、ただの説明にとどまります。
私たちがシャンパーニュだけを並べる会を開いたときは、9種類を順に出しました。ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワール、複数品種を混ぜたもの、その比率違い、年号のないもの、年号入りのもの。最初はキリッとすっきり、酸味の効いたものから始め、徐々にボリューム感を上げていく配置です。
そのとき、面白いことが起きました。参加者の中に、好みのメーカーがある方がいらっしゃった。その銘柄をお出ししたところ、周りの参加者も「これが美味しい」という反応になったのです。 一人の好みが、卓全体に伝わっていく。並べて飲む席には、そういうことが起こります。
一杯ずつでは分からない違いも、隣に並べればはっきりします。
11月17日の[シャンパーニュと泡を巡る夜]では、泡6種を並べます。ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワール、ロゼ、2007年の古酒、やや甘口。それぞれにペアリングの皿を合わせてお出しします。
乾杯の一杯を、いつも「泡で」とだけ頼んでいる方にこそ、来ていただきたい夜です。

まとめ
ヴーヴ・クリコの種類は、甘辛と品種の比重で整理できます。
- 定番はイエローラベル。ピノ・ノワール50%、シャルドネ30%、ムニエ20%の辛口で、糖分は9g/L
- リザーブワインを最大45%使い、年ごとの差を越えて一定の味をつくっています
- ローズラベルも糖分9g/Lの辛口です。色がついているから甘い、ということはありません
- ホワイトラベル ドゥミ・セックは45g/L。甘口を探している方への答えです
- リッチは55g/Lの甘口で、氷を入れて飲む設計。ただし入手状況が流動的です
- ヴィンテージは糖分6g/L。日本では2015年が現行です。年を選べるのが利点です
- エクストラ・ブリュット エクストラ・オールドは、リザーブワインだけで構成された極辛口
- ラ・グランダムは最上位。現行の2018年はピノ・ノワール90%で、シャルドネ主体ではありません
- 名前の「ヴーヴ」は未亡人の意味。27歳で家業を継いだマダム・クリコに由来します
- 1816年の動瓶台(ルミュアージュ台)の考案は、いまも現場で使われている仕組みです
- 希望小売価格は公表されていません。値段はすべて目安として扱ってください
次に黄色いラベルを手に取るときは、その隣の棚も見てみてください。同じメゾンの中に、まったく違う性格の泡が並んでいます。
次のアクション
ラインアップが整理できると、次に気になるのは「他のメゾンと比べると、どう違うのか」だと思います。
その答えは、並べて飲むのがいちばん早い道です。 Na Team Lab は、恵比寿駅から徒歩8分、ふだんは1日1組の貸切レストランです。その卓を使って、テーマを立てたワイン会を開いています。基本は8席で、満席の回から締め切ります。
ワインを選び、料理をつくるのは、オーナーシェフの川原壯太です。年間約2,000種のワインを試飲し、毎回の構成を組み立てています。
11月17日(火)20:00 の[シャンパーニュと泡を巡る夜]では、ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワール、ロゼ、2007年の古酒、やや甘口など、泡6種をペアリングのフルコースとともにお出しします。会費は17,800円(税込)です。ご予約は TableCheck で承っており、開催7日前までなら別の日に振り替えていただけます。
飲み放題の飲み会でも、出会いを目的にした会でもありません。ワインと料理が好きな方が、ひとつのテーブルを囲む夜です。
この回の詳細は、シャンパーニュと泡を巡る夜(11月17日)にまとめています。
まず自分の好みを知りたい方は、無料のワイン診断から始めてみてください。酸が好きか、果実味が好きか。全30問、5分ほどで合う品種が出ます。
よくある質問
ヴーヴ・クリコのイエローラベルは辛口ですか?
辛口です。公式の製品情報では甘辛区分がブリュット、糖分が1リットルあたり9gと記載されています。ブリュットの規定は12g未満ですから、その範囲の中ほどにあたります。わずかな糖が酸をまとめ、なめらかさを与えています。
リッチはどう飲むのがよいですか?
公式が氷を入れる飲み方を案内しています。大きめの氷を使うか、4℃まで冷やした状態で、グラスを半分まで満たしてから氷をそっと入れる形です。糖分が1リットルあたり55gと高いので、氷が溶けて薄まっても味の芯が残ります。
ワインに詳しくなくても、ひとりで参加できますか?
参加者は半数以上がおひとりです。知識は要りません。これまで100回以上開いてきましたが、「参加するのは初めてで緊張していたのですが、とても楽しいお時間過ごすことができました」という声をいただいています。会費は予約時のお支払いなので、当日は手ぶらでお越しいただけます。
ヴーヴ・クリコのロゼ(ローズラベル)は甘いですか?
甘くありません。ローズラベルは甘辛区分がブリュットで、糖分は1リットルあたり9gと、イエローラベルと同じ段にあります。色がついているから甘い、ということはなく、赤い果実の香りと骨格の違いが特徴です。
ラ・グランダムはシャルドネ主体ですか?
現行の2018年はシャルドネ主体ではありません。公式の記載はピノ・ノワール90%、シャルドネ10%で、公式自身が「ピノ・ノワールの芸術」と位置づけています。糖分は1リットルあたり6gの辛口です。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

