作り置きは清潔な浅い容器に小分けし、速やかに冷却して冷蔵・冷凍します。室温に長く置かず、冷蔵分は早めに使い、温め直しは中心まで十分に。
グラタンを作ろうとして、鍋の中に白い粒が浮いた。慌てて混ぜても消えず、仕方なくそのまま焼いた。そんな経験はないでしょうか。
ホワイトソースのダマは、手際の問題ではありません。小麦粉と牛乳のあいだで起きている、物理的な現象です。何が起きているのかが分かれば、次から出なくなります。
恵比寿で八席のレストランを営み、同じ場所で料理教室を開いている立場から、ダマがなぜできるのか、どうすれば出ないのか、できてしまったものをどう戻すのかを順に書きます。フランス料理ではホワイトソースをベシャメルソースと呼びますが、考え方は同じものです。
結論:ホワイトソースのダマは、粉が均一に分散する前に糊化することで起こります。 小麦粉のでんぷんが、鍋の中に散らばる前に、部分的に固まってしまうためです。 温かいルウに冷たい牛乳を3〜4回に分けて加え、そのつど泡立て器でなめらかにしてから次を足すと、ダマを防ぎやすくなります。 できてしまった場合も、こし器でこすか、ハンドブレンダーにかければ戻せます。
ホワイトソースがダマになる、三つの原因
ダマの中身は、小麦粉のかたまりです。表面だけが牛乳を吸って糊のようになり、その内側に乾いた粉が閉じ込められている状態です。だから噛むと粉っぽい。
この状態が生まれる条件は、三つに整理できます。
| 原因 | 鍋の中で起きていること |
|---|---|
| 粉の分散前に温度が上がる | 粉が散らばる前に、とろみが立ち上がる |
| 牛乳を一度に入れる | 泡立て器が届く前に、粉が寄り集まる |
| 小麦粉の火入れが足りない | 粉の粒がバターに包まれず、互いにくっつく |
温度が近いと、散らばる前に固まる
小麦粉のでんぷんは、水分と熱がそろうと、とろみに変わります。糊化と呼ばれる変化です。やや厄介なのは、この変化が粉が散らばるのを待ってくれないことです。
熱いルウに熱い牛乳を注ぐと、触れた瞬間からとろみが立ち上がります。粉はまだ寄り集まったままで、その外側だけが固まる。これがダマの正体です。
一度に入れると、混ぜる余地がなくなる
牛乳をたっぷり注いだ鍋の中で、小さな粉の集まりを散らすのは難しいことです。液体が多いほど、泡立て器の力は分散します。少量の牛乳とルウだけなら、ほとんど練るような状態になり、粉のかたまりは逃げ場をなくします。
小麦粉の火入れが足りないと、粉が水をはじく
小麦粉をバターで炒める工程には、粉っぽさを抜くほかに、もうひとつ意味があります。粉の粒を、溶けたバターで包むことです。油の膜をまとった粒は、ばらばらのまま牛乳の中に入っていける。炒めが足りないと、粉同士がくっついたまま液体と出会うことになります。
なぜ温度差でダマが消えるのか

温かいルウに、冷たい牛乳。この組み合わせは、粉を散らすための時間を作ります。
冷たい牛乳を注ぐと、鍋の中の温度がいったん下がります。でんぷんがとろみに変わる手前の温度帯まで落ちる。その数十秒のあいだに、泡立て器で粉を散らしてしまう。散らばったあとで温度が戻れば、とろみは全体に均一に立ち上がります。
温度差がしているのは、味の調整ではありません。作業のための時間を作ることです。
私は、ソースの濃度を四つの手段で考えています。乳化、バター、糖分、そして温度帯です。粉でとろみをつけるホワイトソースは、このうち温度帯の影響をとりわけ強く受けます。温かい状態より、冷やしたほうが濃度はつく。鍋の上でちょうどよかったソースが、冷めると固くなるのは、そのためです。ソース全体の地図については、フランス料理のソースの体系をまとめた記事に書いています。
ダマにならない作り方と、できてしまったときの戻し方
作るときの順番
分量はお手元のレシピに従っていただいて構いません。変えるのは順番と温度だけです。
1. バターを弱火で溶かす。色がつく前に止める
2. 小麦粉を加え、弱火で炒める。粉っぽい匂いが引き、全体が軽くなるまで
3. いったん火を止め、鍋を少し落ち着かせる
4. 冷たい牛乳を、全体の三分の一ほど加える。泡立て器でなめらかになるまで混ぜる
5. 残りを二、三回に分けて、同じことを繰り返す
6. 弱火に戻し、好みの濃度まで煮る
鍋の中が一度なめらかになってから次を足す、という点だけを守れば、ダマを防ぎやすくなります。
有塩バターを使う場合は、バターが持ち込む塩味を、料理全体の塩味の総量に勘定に入れてください。あとから塩を足す量が変わります。この考え方は有塩バターと無塩バターの使い分けの記事で詳しく書きました。
できてしまったダマは、こすか、回す
ダマが出てしまったソースは、捨てる必要がありません。方法は二つです。
- こし器で裏ごしする。粉のかたまりが網に残り、なめらかな部分だけが通ります
- ハンドブレンダーにかける。かたまりが砕かれて、全体に分散します
私が店で仕上げるソースも、ミキサーで回してから裏ごしすることが多いです。素材の繊維と水分だけで濃度を作るので、この二工程を通さないと舌に引っかかりが残ります。つまり、こすことも回すことも、失敗を取り返す作業ではなく、なめらかさを作るための正規の工程です。家庭でも気兼ねなく使ってください。
電子レンジで作るときに気をつけること
電子レンジは、鍋よりも加熱のムラが出ます。器の縁や底から先にとろみがつき、中心がまだ液体のまま残る。そこを一気に混ぜると、固まった部分がダマになります。
- 加熱は短く区切り、そのつど取り出して混ぜる
- 深さのある容器を使い、泡立て器が届く形にする
- とろみがつき始めたら、間隔をさらに短くする
レンジでも温度差の原理は変わりません。一度に決めず、何度かに分けることです。
グラタンとクリームコロッケで、濃度を変える
同じホワイトソースでも、着地点は料理ごとに違います。ここで効くのが、先ほどの温度帯の話です。
- グラタンは、このあと天火で焼きます。焼いている間に水分が飛ぶので、鍋の上では少しゆるめで止めておきます
- クリームコロッケは、冷やして成形します。冷えると濃度が上がるため、鍋の上で固くしすぎると、冷蔵庫から出したときに切り分けづらくなります
- シチューやソースとして使う場合は、温かいまま供するので、鍋の上の濃度がそのまま仕上がりの濃度になります
出張料理でも、私はソースを仕込んで持っていきます。設計そのものはお店と変えません。気をつけているのは、ただ一点、濃度です。移動して冷え、現地で温め直すあいだに、濃度は動きます。家庭でも、作ってから食卓に出すまでの時間を数えておくと、狙いがずれなくなります。
手元を見ると、一度で分かること
ダマの理屈は、文章で読めば二分で終わります。それでも、泡立て器をどのくらいの速さで動かすのか、鍋の中のどの段階で「なめらかになった」と判断するのかは、見たほうが早いものです。
Na Team Lab の料理教室は、デモンストレーション型です。私が3品を実演し、参加される方は見て、味わっていただきます。包丁は握りません。手が空くので、グラスを持ったまま見ていられます。
各回8名、1回6,000〜12,000円(税込・ドリンク込み)、入会金なしの1回完結です。基本は12時から約2時間。開催日時・テーマ・料金は回ごとに予約ページでご確認ください。スーパーで手に入る食材と家庭のIHを基本に、季節の特別な食材を使う回もあります。レッスンは月替わりで、フレンチの会ではソースと火入れという二つの軸を扱います。教室で扱っている技術の中身は、フレンチの料理教室で学ぶことをまとめた記事に書いています。
開催日程とお申し込みは料理教室のページにございます。ご質問やご相談は公式LINEでも承っております。
ダマになったら、すぐできる直し方3つ
ダマができても、慌てて捨てる必要はありません。まず鍋を火から外し、温度を上げないようにしてから、ダマの大きさに合わせて次のどれかを選びます。
| 方法 | 手順 | 向いているとき |
|---|---|---|
| ① 泡立て器で強く混ぜる | 火から外し、鍋底をこするように泡立て器で30秒ほど混ぜる | 小さな粒が少しあるとき |
| ② ざる・こし器でこす | 目の細かいざるに通し、ゴムべらで押し出す | 全体にざらつきが残るとき |
| ③ ブレンダーにかける | ハンドブレンダーかミキサーで数秒回す | 大きなダマが多い・量が多いとき |
戻したあとは弱火に戻し、かたすぎれば温めた牛乳を少しずつ足して濃度を合わせます。ダマは「粉と油が混ざりきる前に、温度差のある牛乳が入った」ときにできやすいので、次からは牛乳を少量ずつ、最初はしっかり混ぜてから足していくと防げます。
まとめ
ホワイトソースのダマは、技術の差ではなく、順番と温度の差で生まれます。
- ダマの原因は、粉の分散前に温度が上がること、牛乳を一度に入れること、小麦粉の火入れ不足の三つです
- 温かいルウに冷たい牛乳を入れると、温度が一度下がり、粉を散らす時間が生まれます
- 牛乳は3〜4回に分け、そのつどなめらかにしてから次を足すこと
- できてしまったダマは、こし器でこす、またはハンドブレンダーにかけることで戻せます
- ソースの濃度は冷えると上がるので、料理の着地点に合わせて鍋の上で止める位置を変えます
次にホワイトソースを作るとき、牛乳を鍋に注ぐ前に、その牛乳が冷たいかどうかだけ確かめてみてください。それだけで、鍋の中は変わります。
よくある質問
米粉でもホワイトソースは作れますか?
作れます。米粉はグルテンを含まないため、粉同士がくっつきにくく、ダマは出にくい傾向があります。ただしとろみの質は小麦粉と異なり、やや軽く仕上がります。温度差と、分けて加えるという手順は同じです。
ホワイトソースは作り置きできますか?
冷蔵で数日のうちに使い切る前提なら可能です。冷えると濃度が上がるので、使うときに牛乳を少量加えて伸ばしてください。表面が乾くと膜になるため、密着するようにラップをかけて保存します。
牛乳を温めてから入れてはいけないのですか?
温めた牛乳でも作れますが、その場合はルウをしっかり冷ましておく必要があります。温度差は作業時間を確保する一つの方法です。温かい牛乳でも、よく分散させながら加えれば作れます。ルウを温かいまま使うほうが手数が少なく、家庭では現実的だと考えています。
冷蔵庫で固まったホワイトソースは戻せますか?
戻せます。小鍋に入れて弱火で温めながら、牛乳を少しずつ加えて泡立て器で混ぜると、なめらかに戻ります。電子レンジなら短い時間ずつ温め、そのたびに混ぜてください。
ダマが残ったまま使ってもいいですか?
グラタンやクリームコロッケでも、ダマは口当たりに残ります。一度こすか、ブレンダーにかけてから使うのがおすすめです。
理由まで持ち帰れる、八席の料理教室。
恵比寿の厨房で、塩と火入れを実演と一皿から学べます。

