セラーから一本を取り出して、鞄に入れる。手土産にする、持ち寄り会に出す、店に持ち込む。そのどれであっても、玄関を出てから卓に着くまでの時間は、ワインにとって保管の続きです。
そして、この移動の時間がいちばん雑に扱われます。真夏の車の助手席に、紙袋のまま30分。これは、家で半年ていねいに寝かせていた努力を、半日で崩しかねない置き方です。
ワインの持ち運びで気をつけることは、3つしかありません。割れ、温度、揺れ。この記事では、その3つを包み方・季節・交通手段に分けて具体的に書きます。あわせて、店に持ち込むならどう運ぶのがいいのかを、ボトルを受け取る側からお話しします。恵比寿で持ち込みの貸切を受けているレストランの立場から書きます。
結論:ワインの持ち運びで気をつけるのは、割れ・温度・揺れの3つです。 ボトルは1本ずつ布やワインバッグで包み、立てたまま鞄の中で動かないように固定します。 夏は保冷バッグに入れ、買い物のあと車内に置きっぱなしにしないでください。 澱のある古いワインは、前日から立てておき、着いてからも休ませます。 店に持ち込むなら、当日に手で運ぶより、事前に送っておくのがいちばん確実です。
あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。
気をつけるのは、割れ・温度・揺れの3つ
まず、3つの性格を整理します。効いてくる場面が違います。
| 気をつけること | 何が起きるか | いちばん危ない場面 |
|---|---|---|
| 割れ | 瓶が欠ける、割れる。ほかの荷物も濡れます | 鞄の中でボトル同士がぶつかる、硬い床に置く |
| 温度 | 香りが落ちる、液面が動く。栓が押し上げられることもあります | 真夏の車内、直射日光の当たる窓際 |
| 揺れ | 澱が舞う。開けてすぐでは濁ったまま注ぐことになります | 長時間の電車移動、未舗装の道 |
このうち、取り返しがつかないのは温度です。割れはその場で分かりますし、揺れは休ませれば落ち着きます。けれども、高温にさらされたワインは、冷やしても元に戻りません。
真夏であれば、1日や2日の放置でも怖いと私は思っています。長く寝かせるつもりのない一本なら多少のことは気になりませんが、夏の直射日光と高温だけは別です。
包み方 1本ずつ、動かないように

割れと揺れは、包み方でほとんど防げます。
ワインバッグ・ワインケースを使う
いちばん手軽なのは、専用のワインバッグです。1本用、2本用、6本用などがあり、仕切りが入っているので、ボトル同士がぶつかりません。保冷材を入れられる形のものもあります。
長距離を運ぶ、あるいは大切な一本を運ぶなら、発泡スチロールや専用の緩衝材が入ったワインケースが安心です。通販でワインを買ったときに届く箱は、まさにそのために作られています。取っておくと、持ち運びのときに役立ちます。
タオルや新聞で包む
手元に専用の道具がないときは、家にあるもので足ります。
1. ボトル全体をタオルで巻きます。首のところまで覆います
2. 鞄に入れたら、隙間に衣類や新聞を詰めます
3. ボトルを振っても音が鳴らない状態にします
大事なのは「包む」ことより、動かないように固めることです。鞄の中でボトルが遊んでいると、歩くたびに揺れが加わります。
立てるか、横にするか
移動の間は、立てて運ぶほうが無難です。澱が底に落ち着いたままになり、栓から液が滲む心配も減ります。
短い移動であれば横でも差し支えありません。長時間、横にしたままで揺れが続くと、澱がワイン全体に散ってしまいます。古いワインを運ぶときは、立てて固定する形をおすすめします。
季節ごとの温度管理 夏の車内がいちばん危ない
ワインの適温は、タイプによって6℃から18℃あたりに収まります。「常温」という言葉が生まれた頃のヨーロッパの室温は、せいぜい16〜18℃でした。日本の夏の28℃の部屋は、その目安を10℃も超えています。
そして、真夏の車内はそれよりはるかに高くなります。窓を閉めた車の中は、外気よりも温度が上がります。ワインを買って車に積み、用事を済ませてから帰るという順番は、夏にはおすすめできません。
夏に運ぶときの手立ては、次のとおりです。
- 保冷バッグに入れる … 保冷剤はボトルに直接触れないよう、布を挟みます
- 移動を最短にする … 買う順番を、帰る直前にします
- 車では足元に置く … 直射日光の当たる座席やトランクは避けます
- 着いたらすぐ出す … 車に残したまま、次の用事に行かないこと
冬は逆の心配があります。氷点下の屋外に長く置くと、液が凍って膨らみ、栓が押し上げられることがあります。暖房の吹き出し口に近い場所も避けてください。
結局のところ、動かさないこと・変えないことが保管の要点です。移動は、その真逆の行為になります。だからこそ、移動の時間を短く、変化を小さくする工夫が効きます。家での置き場所についてはワインの保存方法の記事にまとめました。
電車・車・飛行機で運ぶとき
交通手段ごとに、気をつける軸が変わります。
| 手段 | 主な心配 | 対策 |
|---|---|---|
| 電車 | 揺れ・人との接触 | 立てて固定。混雑する時間帯を避ける。足元より膝の上 |
| 車 | 温度・急な動き | 足元に立てて固定。夏は保冷。車内に残さない |
| 飛行機 | 割れ・気圧 | 預け荷物に入れ、衣類で包んで中央に置く |
| 自転車・徒歩 | 揺れ・ぶつかり | 背負うより、手に提げるほうが揺れが小さいこともあります |
飛行機の場合、液体は手荷物として持ち込めません。免税店で購入したものを除き、預け荷物に入れるのが基本です。スーツケースの中央に、衣類で巻いて置きます。角や縁の近くは、荷物を投げ入れられたときの力が届きやすい場所です。
本数や度数の扱いは航空会社ごとに違います。ご予約の際にご確認ください。
手土産として持っていくとき
人のお宅にうかがうときは、運び方にもうひとつ考えることが増えます。渡した先で、すぐに飲める状態かどうかです。
白やスパークリングを手土産にするなら、保冷バッグで冷やしたまま運び、着いてすぐお渡しするのが親切です。その場で開けていただける温度になっています。逆に、常温で運んだ白を「どうぞ」とお渡しすると、受け取った側は冷やす時間から始めることになります。
赤であれば、温度の心配は小さくなります。夏でなければ、そのまま運んで差し支えありません。
紙袋に入れて運ぶ場合は、底が抜けないように二重にするか、袋のまま鞄に入れてください。濡れた紙袋は、思っているより簡単に裂けます。
出張料理や会場に持っていくとき
人の家や会場でワインを出す側になったときは、現地にあるものだけで温度を合わせることになります。
私も出張料理では、現地の冷蔵庫の出し入れだけで調整しています。専用の機材を持ち込むわけではありません。着いてすぐに注がず、飲み頃まで持っていく。それだけで足ります。
ですから、運び込む段階では「冷えていること」よりも、温めないことを優先してください。冷やすのは現地でできますが、熱を受けたワインは戻せません。
古いワインを運ぶとき
ここがいちばん繊細なところです。年月を経たワインは、瓶の底に澱(おり)が沈んでいます。揺らすと舞い上がり、グラスに注いだときに濁ります。味わいにも渋さや苦みが出ます。
古いワインを運ぶ手順は、次のようになります。
1. 運ぶ前から立てておく … 澱を底に沈めます。熟成した古酒なら、半日から1日が目安です
2. 立てたまま固定して運ぶ … 横にせず、鞄の中で倒れないようにします
3. 着いたら休ませる … すぐに開けず、立てたまま置きます
4. 抜栓はていねいに … 古いコルクは脆いため、専用のオープナーが向きます
休ませる時間をどれだけ取るかは、移動の長さによります。店では、古酒をお預かりする場合、提供の約1週間前から、セラーで動かさずに保管しています。前日や当日に動かすより、この形のほうが澱は落ち着きます。
澱を切り分けて注ぐなら、デキャンタを使う方法もあります。香りを開かせるためのデキャンタージュとは目的が違うという話は、デキャンタの記事に書きました。
店に持ち込むときの段取り 店からのお願い
ここからは、受け取る側の話をします。
Na Team Labのレストランは、恵比寿で一日ひと組の完全貸切です。ワインの持ち込み料はいただいていません。本数の制限もありません。 ワイン好きの方のために作った店なので、できる限りご要望に沿う形で受けています。
そのうえで、運び方についてお願いしているのは、この3つです。
事前に送っていただくのが、いちばん確実です
ボトルの事前配送に対応しています。 ご自宅やセラーから店に直接お送りいただければ、お客様は手ぶらでいらっしゃれます。
これがいちばん確実だと考えている理由は単純です。移動の時間を、私たちの側で引き受けられるからです。届いたボトルは店のセラーに入り、そこから動かしません。当日の温度も、こちらで合わせます。
持ち寄りのワイン会のために何本かまとめて仕入れる場合も、店への直送で構いません。
当日お持ちになる場合は、入店時にまとめて
当日お持ちになる場合は、入店のときにまとめてお渡しいただく形でお願いしています。席に着いてから順にお出しいただくよりも、最初にお預かりできたほうが、順番と温度を組み立てられます。
事前にワインのリストをいただければ、その日限りのコースを、そのワインに合わせて設計します。当日に銘柄が分かる場合でも、調味料やソースで料理の味わいを寄せることはできます。
夏場の持ち運びは、どうかお気をつけください
これは、お願いというより心配です。夏場の持ち運びには、とくに気をつけていただきたいと思っています。
高温にさらされたワインは、こちらで何をしても元には戻りません。開けてから分かることもあります。大切な一本であれば、夏は事前配送を選んでいただくのが安心です。
店には、デキャンタ、パニエ、アイスクーラー、古酒用のオープナーなど、ワインサービスに必要な器具を一通り用意しています。お一人あたりグラス6〜8脚にも対応できます。運び終えたあとのことは、こちらの仕事です。運ぶところまでを、無理のない形で済ませてください。
ちなみに、コースはお一人15,000円で、税・サービス料を含みます。コース代金以外に、席料・チャージ料・貸切料はいただきません。持ち込みの条件については東京でワインを持ち込める店の記事と、持ち込みの作法の記事にまとめています。
まとめ
ワインの持ち運びは、3つだけ押さえておけば十分です。
- 気をつけるのは、割れ・温度・揺れの3つ。取り返しがつかないのは温度です
- 1本ずつ包み、鞄の中で動かないように固めます
- 夏は保冷バッグに入れ、車内に残さないこと。冬は凍結に気をつけます
- 飛行機は預け荷物に。衣類で包み、スーツケースの中央に置きます
- 澱のある古いワインは、前日から立てておき、着いてからも休ませます
- 店に持ち込むなら、事前配送がいちばん確実です。夏はとくに
ワインの持ち運びの不安がなくなると、セラーの一本を外に連れ出せるようになります。家で開けるには少し大きすぎる一本を、人と囲む日のために。
持ち込みのご相談や、貸切の空き状況は公式LINEで承っています。ワインを持ち寄って飲み比べるワイン会も毎月企画しています。
よくある質問
飛行機の預け荷物にワインを入れてもいいですか?
預け荷物に入れる形が基本です。手荷物では液体の制限がかかるため、免税店で購入した場合を除いて持ち込めません。衣類で包み、スーツケースの中央に置くと割れにくくなります。本数や度数の扱いは航空会社ごとに違うので、ご予約時にご確認ください。
運んだ当日に開けても大丈夫ですか?
若いワインであれば、そのまま開けて差し支えありません。澱のある古いワインは、揺れで澱が舞っているため、立てて少し休ませてから開けるほうがきれいに飲めます。店では、古酒は提供の約1週間前からセラーで動かさずにお預かりしています。
持ち込みの前日に、店へ送っておいてもいいですか?
Na Team Labでは、ボトルの事前配送に対応しています。持ち込み料はいただいておらず、本数の制限もありません。夏場の持ち運びはとくに気を遣うところなので、事前にお送りいただく形がいちばん確実だと思います。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

