氷を入れてよい一本かどうかは、好みの方向で変わります。5分のワイン診断はこちら(無料・全30問)
冷蔵庫から出した白ワインが、思ったほど冷えていない。グラスに氷を落としたいけれど、手が止まる。ワインに詳しい方から見たら、何か言われるのではないか。
白ワインに氷を入れることをためらう理由は、味ではなく、たいてい作法のほうにあります。結論から言えば、入れて構いません。禁じられている作法ではありません。
ただし、入れて気持ちよく飲める白ワインと、入れるともったいない白ワインがあります。その線引きと、氷を使わずに冷やす手立てを、温度を扱う側からお話しします。恵比寿で一日ひと組のレストランを営み、ワインの選定からサービスまでを自分で担っている立場から書きます。
結論:白ワインに氷を入れるのは、マナー違反ではありません。 南フランスやスペインでは、夏に白やロゼへ氷を落として飲むことも日常の光景です。 ただし氷が溶けると、味わいは薄まります。香りの繊細な一本より、果実味のはっきりした手頃な白ワインのほうが向きます。 薄めずに冷たくしたいなら、グラスに氷を入れるより、ボトルを氷水に浸けるほうが近道です。 氷を入れるなら、大きな氷を1〜2個から。冷やしすぎると香りが閉じるので、量と数で調整します。
あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。
ワインに氷を入れるのは、マナー違反か
結論は先に書いたとおりです。マナー違反ではありません。
南フランスやスペイン、イタリアの南部では、夏に白ワインやロゼへ氷を落として飲む光景が、ごく日常のものとして見られます。昼の屋外で、よく冷えた軽い白を薄めながら、長い時間をかけて飲む。暑い土地で育った、理にかなった飲み方です。
日本で氷が気になるのは、ワインが「作法のある飲みもの」として入ってきた歴史のほうに理由があるのだろうと思います。けれども、家の食卓に作法を持ち込む義理はありません。
とはいえ、氷を入れると確かに変わるものがあります。変わるのは、次の二つです。
- 味わいが薄まる … 氷が溶けた分だけ、水が加わります
- 香りが閉じる … 冷やしすぎると、立ち上がる香りが弱くなります
この二つを引き受けられる一本なら、氷は選択肢になります。引き受けられない一本なら、別の冷やし方を選んだほうが気持ちよく飲めます。氷の可否は作法の問題ではなく、一本の性格の問題です。
氷を入れていい白ワイン、入れないほうがいい白ワイン

では、どの白ワインなら向くのでしょうか。判断の軸は二つだけです。
1. 香りの繊細さ … 香りを楽しむ一本か、果実味を楽しむ一本か
2. 薄まったあとに残るもの … 水が入っても骨格が残るか
この軸で、白ワインを5つの方向に分けて並べてみます。私たちがワイン診断で使っている区分と同じ言葉です。
| 白の方向(品種) | 氷との相性 | 理由 |
|---|---|---|
| 柑橘とハーブ(ソーヴィニヨン・ブラン) | 向く | 酸と果実味がはっきりしていて、少し薄まっても輪郭が残ります |
| キリッとした酸と花(リースリング) | 条件つき | 酸は残りますが、花の香りは冷やしすぎると閉じます |
| ミネラルとキレ(シャブリ) | 条件つき | もともとキレがあるため、薄めるとやや物足りなくなります |
| バターとコク(樽熟成シャルドネ) | 向かない | 低い温度では、香りがほとんど立ちません |
| ライチとバラ(ゲヴュルツトラミネール) | 向かない | 香りがこのワインの主役です。閉じると魅力が減ります |
目安として、果実味がはっきりした手頃な白ワインは向き、香りの繊細な一本や樽を使った厚みのある白は向かないとお考えください。高い一本に氷を入れるのが不作法だから避ける、という話ではありません。香りに時間と手間がかかっている一本ほど、冷やしすぎで失うものが大きい、という実務の話です。
ロゼも、よく冷やして飲む一本なら氷と合います。色の成り立ちについてはロゼワインの記事に書きました。
自分の好みがこの表のどこにあるのかは、5分のワイン診断で確かめられます。結果に合わせた品種ガイドもご用意しています。
赤ワインに氷を入れるなら
赤ワインに氷を入れると、白よりも変化が大きく出ます。渋みが硬くなるためです。
温度には、覚えやすい一方向の関係があります。温度を下げると、酸とタンニンが立ち、輪郭が締まる。温度を上げると、香り・甘み・厚みが出る。 冷やすほど渋みは尖っていきます。骨格のしっかりした赤に氷を入れると、渋みだけが前に出て、果実味が引っ込みます。
それでも赤を冷たく飲みたい日は、次のどちらかを選んでください。
- 少し冷やす赤を選ぶ … ガメイや軽めのピノ・ノワールは13〜15℃が出発点の目安です。氷ではなく、冷蔵庫で20分ほど
- 割って飲むと決める … 薄まることを前提に、炭酸やジュースで組み立てる
二つめについては、ワインを割って飲むときの比率の記事にまとめています。果実味のある手頃な一本を選べば、割る前提の飲み方は気持ちよく成立します。
氷の入れ方のコツ
氷を入れると決めたら、溶けるのを遅くするほど飲みやすくなります。厨房で意識していることは3つです。
- 大きな氷を使う … 表面積が小さいほど、溶けるのは遅くなります。製氷皿の小さな氷より、大きめのロックアイスのほうが向きます
- 数を少なくする … 1〜2個で始めて、足りなければ追います。最初から満たすと、飲み終わる前に水になります
- グラスを小さめにする … 大きなグラスは香りを集める形ですが、氷を入れるなら、表面積の小さいグラスのほうが冷たさが続きます
もうひとつ、氷そのものの匂いにも気をつけてください。冷凍庫に長く置いた氷は、庫内の匂いを拾っています。香りの弱い白ワインほど、その匂いは目立ちます。
氷を入れずに早く冷やす方法
ここからが本題かもしれません。薄めずに冷たくしたいとき、どう冷やすのがいちばん速いか。
答えは、ボトルを氷水に浸けることです。グラスに氷を入れるより速く、しかも味わいは薄まりません。
氷水に浸ける
氷水は、空気よりも熱を奪う速さが段違いです。冷凍庫に立てて置くよりも、氷と水を張ったバケツやクーラーにボトルを横たえるほうが早く冷えます。
店の現場では、氷水に3〜5分浸けると、ワインの温度が2℃ほど動くという感覚で使っています。この数字から逆算すると、室温に置いていたボトルを飲み頃まで下げるには、氷水で30分前後を見ておくと安心という概算になります。実測した値ではなく、2℃あたり3〜5分という現場の目安からの計算だとお考えください。
氷水に塩を加える
氷水に塩を加えると、氷水そのものの温度が0℃より下がります。より冷たい水に浸かる分、ボトルが冷える速さは上がります。ひとつかみ、ふたつかみで構いません。
早く冷やしたい日は、この形がいちばん現実的だと思います。ボトルを時々回してやると、さらに速くなります。
濡らしたタオルを巻く
氷水を用意できないときは、濡らしたタオルやキッチンペーパーでボトルを包み、冷蔵庫に入れてください。水が蒸発するときに熱を奪うので、裸のまま入れるより早く冷えます。
冷凍庫を使うなら、時間を決める
冷凍庫はたしかに速いのですが、入れっぱなしは避けてください。中身が凍って膨らみ、栓が押し上げられたり、瓶が割れたりすることがあります。使うなら、タイマーをかけて15分や20分で出す、と決めてから入れてください。
冷やしすぎた白を、おいしく戻す
氷の話をしていると、もうひとつの失敗にも触れておきたくなります。冷やしすぎです。
冷やしすぎた白ワインは、香りが閉じます。とくに樽熟成の厚みのある白は、冷蔵庫の温度である4〜5℃では、香りがほとんど立ち上がりません。酸ばかりが目立ち、痩せて水っぽく感じられます。
戻し方は単純です。
- 飲む15分前に、冷蔵庫から出しておく
- グラスを手で包む … 10分ほどで、2℃ほど上がります
- グラスの中で少し待つ … 注いだまま置くだけでも温度は上がります
香りが出てこないと感じたら2℃上げる。アルコールが立って熱く感じたら2℃下げる。この往復だけで、家の白ワインは見違えます。温度計は要りません。温度の考え方そのものは、ワインの適温の記事に詳しく書きました。
白の出発点の目安を置いておきます。
| タイプ | 目安 |
|---|---|
| スパークリング | 6〜8℃ |
| 軽い白(甲州、ソアーヴェなど) | 8〜10℃ |
| 厚みのある白(樽熟成シャルドネなど) | 10〜13℃ |
店では氷を入れません。その理由
Na Team Labのレストランでは、ワインに氷を入れてお出しすることはありません。氷を嫌っているからではなく、入れなくても温度を合わせられるからです。
店では、ワインは注がれる直前まで温度を管理されています。アイスクーラーがあり、セラーがあり、注ぐ人がその場にいます。「もう少し冷たくしたい」というご要望があれば、ボトルを氷水に戻して3〜5分浸けるほうが、狙った温度に近づきます。氷を入れる必要がありません。
逆に言えば、温度を管理する人がその場にいれば、家の食卓もレストランになります。家の冷蔵庫と氷水だけで、できることはかなりあります。
私自身、夏の出張料理では現地の冷蔵庫の出し入れだけで温度を調整しています。専用の機材を持ち込むわけではありません。着いてすぐに注がず、飲み頃まで持っていく。それだけで、同じボトルの印象は変わります。
ですから、家で氷を使うことを、手を抜いた飲み方だとは思っていません。氷を入れてよい一本を選び、大きな氷を少しだけ使う。それは、暑い日に向けたひとつの設計です。
まとめ
白ワインに氷を入れることは、作法の問題ではありません。一本の性格と、その日の暑さで決めてよいことです。
- 白ワインに氷を入れるのは、マナー違反ではありません。南フランスやスペインでは日常の飲み方です
- 変わるのは二つ。味わいが薄まることと、冷やしすぎで香りが閉じることです
- 向くのは、果実味のはっきりした手頃な白。向かないのは、樽を使った厚みのある白と、香りが主役の白です
- 赤に入れると渋みが尖ります。冷たく飲みたいなら、軽めの赤を冷蔵庫で冷やすほうが向きます
- 氷を入れるなら、大きな氷を1〜2個から。グラスは小さめのほうが冷たさが続きます
- 薄めずに冷やしたいなら、氷水にボトルを浸ける。塩を加えると、さらに早く冷えます
- 冷やしすぎたら、飲む15分前に出す、グラスを手で包む。2℃の往復で直せます
好みの方向は、5分のワイン診断で確かめられます。結果に合わせた品種ガイドと、お店で使えるひと言の例は公式LINEでご案内しています。
ただ、診断はあくまで仮説です。グラスを並べて飲み比べて、はじめて分かります。Na Team Labでは毎月テーマを立ててワイン会を開いています。コース料理に6杯を合わせる会と、10〜15本を並べて立食で楽しむ会の2つの形式があります。同じ卓に何本かが並ぶと、「こちらは冷やしても香りが残る」という感覚が、その場で言葉になります。
よくある質問
お店でワインに氷を頼んでもいいですか?
頼んでいただいて構いません。ただ、提供温度を管理している店では、氷を使わずに冷やし直す手立てを持っていることが多いです。「もう少し冷たくしたい」とお伝えいただければ、別の方法で近づけられます。
冷凍庫で冷やしても大丈夫ですか?
短時間なら使えますが、入れっぱなしは避けてください。中身が凍って膨らみ、栓が押し上げられたり瓶が割れたりすることがあります。タイマーをかけて、15分や20分で出すと決めてから入れてください。
スパークリングワインに氷を入れてもいいですか?
泡が立ってあふれやすくなるため、あまり向いていません。スパークリングは6〜8℃が出発点の目安です。氷を落とすよりも、氷水にボトルごと浸けて冷やすほうが、泡と酸のきれいさが残ります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

