出張シェフに頼むと決めたあと、最後にもう一度だけ検索する言葉があります。「出張シェフ トラブル」。もう心は決まっていて、それでも一度だけ、悪い可能性を確かめておきたい。そういう検索です。

ところが、この言葉で調べても、ほとんど何も出てきません。当然です。頼まれる側は、自分の現場で起きた不都合を、進んでは書きません。

ですから、私たちが書くことにしました。年間200件以上の出張を続けてきて実際に起きたこと、そして起きたときにどうなるのかを、五つに整理してお伝えします。

SUMMARY

結論:出張シェフのトラブルは、そのほとんどが「伝えるのが遅れた」ことから起きます。 現場で実際に多いのは、当日の人数変更、アレルギーの申告漏れ、見積もりとの差、キッチン設備の不足、味の期待値のずれの五つです。 このうち料理そのものは、たいてい現場で融通が利きます。融通が利かないのは、器やグラスのように後から増やせないものと、混入への配慮のように設計そのものが変わるものです。 Na Team Lab では、開催日から七日以内のキャンセルは料金の100%を頂戴し、それ以外の追加料金は発生しません。何を、いつまでにお伝えいただければよいのかを、頼まれる側から開示します。

なぜ、出張シェフのトラブル事例は表に出てこないのか

出張シェフの業界には、本当にさまざまな方がいます。長く飲食店を営んできた方。新しい働き方として最近始めた方。料金の考え方も、対応できる範囲も、事業者によって大きく違います。

その多様さ自体は、悪いことではありません。ただ、そのぶん「頼んだらどうなるか」の共通の物差しが存在しません。ホテルやレストランであれば、キャンセル規定も追加料金の考え方も、ある程度は業界の慣習として定まっています。出張シェフには、それがまだありません。

だから読者は不安になります。そして、事業者は自分に不利なことを書きません。この二つが噛み合った結果、「出張シェフのトラブル」という検索結果だけが、ぽっかりと空いています。

私たちが年間200件以上の現場で経験してきたことは、そこを埋める材料になるはずです。以下は、実際に起きる頻度の高い順に並べたものです。

当日、人数が増えた ― 融通が利くのは料理、利かないのは器

黒い手袋の手が、まな板の上でサーモンのフィレを扱っている
当日その場で仕上げるから、動かせる幅があります。

いちばん多いのが、これです。お一人、お二人が当日に増えることは、珍しい事故ではなく、日常的に起こります。

結論から申し上げると、午後からの会であれば、午前中までにご連絡いただけていれば、対応できることが多いです。 人数が増える方向であれば、前日のご連絡でも動けます。

なぜ対応できるのか。料理は現地で仕立てているからです。私たちは開始のおよそ一時間前に会場へ入り、そこから火を入れていきます。あらかじめ盛り付けたものを運んでいるわけではないので、二人分を足すことに、料理の側からの抵抗はほとんどありません。

問題は、料理ではないところにあります。

器とグラスとカトラリーは、当日その場で増やせません。 それらは私たちが会場までお持ちするものです。厨房にある食材と違って、足りないと気づいた瞬間に、もう手の打ちようがありません。器がなければ、その方の前に一皿を置くことができないのです。

ですから「早めにお知らせください」とお願いしているのは、こちらの都合を優先しているからではありません。その方の席を、卓の上にきちんと用意するためです。 お連れになるかもしれない、という段階で構いません。分かった時点でひと言いただければ、そのぶんを積んで伺います。

アレルギーを伝えるのが遅れた ― これだけは早く言ってほしい

五つのうち、私たちがもっとも早くお聞きしたいのが、アレルギーです。

「当日に伝えれば、その食材を抜いてもらえるだろう」と考えられる方は少なくありません。軽度であれば、それで済む場合もあります。けれど、症状の重い方がいらっしゃる場合は、話がまったく変わります。

重度のアレルギーに向き合うとき、私たちは混入まで含めて設計し直します。 使う食材を差し替えるだけでは足りません。どのまな板でどの食材を切るか、どの鍋をどの順番で使うか、盛り付けの動線をどう分けるか。そこまで含めて組み替える必要があります。

これは、当日の厨房で思いつきでできることではありません。時間をいただければ、いただいたぶんだけ、安全側に設計を寄せられます。

あわせて、苦手な食材もお聞きしています。好き嫌いを申告することに気を遣われる方がいらっしゃいますが、遠慮していただく必要はありません。お伝えいただいた情報の数だけ、その夜の設計は精度を上げます。

見積もりより高くなった ― どこで金額が動くのか

「頼んでみたら、最初に聞いていた金額より高くなった」。これは出張シェフに限らず、目に見えないサービスにつきものの不満です。

なぜ起こるのか。多くの事業者が、出張費にいくら、機材費にいくら、人件費にいくら、という要素ごとの積み上げ方式で見積もりを出しているからです。要素が細かく分かれているぶん、条件が変わるたびに金額も動きます。悪意があるわけではなく、そういう構造なのです。

私たちはこの方式を採っていません。お一人あたりいくら、という全込みの形にしています。 食材費・出張費・機材費・人件費・後片付けまで、そこに含まれています。

そのうえで、二つだけ正直にお伝えしておきたいことがあります。

ひとつは、会が長引いても、延長料金は発生しないということ。 ご提示した金額から追加になることはありません。話が弾んで予定より長くなったとき、時計を気にしていただく必要はないと考えています。

もうひとつは、その逆の話です。遠方へ伺う場合は、交通費と宿泊費を別途いただく形になり、どうしても割高になります。 宿泊をともなう距離であれば、なおさらです。「どこへでも同じ料金で伺えます」とは申し上げられません。遠方をご検討の場合は、その前提でご相談いただければと思います。

キャンセルについても、はっきりさせておきます。Na Team Lab では、開催日から七日以内のキャンセルは、料金の100%を頂戴しています。 人数が減る場合も、同じ規定に沿った取り扱いになります。食材の手配が動き出しているためですが、いずれにせよ、あとから知らされるより、先に知っておいていただくべきことです。料金の考え方そのものについては、すべて込みにしている理由をまとめた記事に詳しく書いています。

キッチンの設備が足りなかった ― IH一口があれば

「うちのキッチンでは無理だと思う」。この理由で問い合わせを止めてしまわれる方が、いちばん多いかもしれません。

私たちが必要とする最低条件は、IHが一口あることです。 それ以上の設備は、なくても構いません。足りない器具は持ち込みで対応します。

それでも、設備の不一致がまったく起きないわけではありません。起きるのは、たいてい会場側に事情がある場合です。マンションのパーティールームには、IHが一口だけのところもあれば、そもそも調理ができない規約のところもあります。共用施設であれば、防災センターへの許可申請が必要で、手続きに時間がかかることもあります。

こうした条件は、当日その場で分かっても手遅れです。逆に言えば、事前に共有さえしていただければ、当日までに料理の側を最適化できます。 調理ができない会場であれば、そこで成立する形に組み替えます。

思っていた味と違った ― ワインリストを先に見せてください

五つ目は、いちばん言葉にしにくいものです。料理は運ばれてきた。見た目も悪くない。けれど、思い描いていたものとは違った。

このずれは、当日の腕前の問題として語られがちですが、私は違うと考えています。期待値のずれは、当日ではなく、事前の情報量で決まります。

私たちが事前にお聞きしているのは、苦手な食材とアレルギー、そしてご要望です。加えて、その日にお飲みになるワインのリストがあれば、先に共有していただくようにしています。

理由は単純です。ワインが決まっているのであれば、そちらに合わせて料理を組み立てられるからです。 同じ方向の香りを重ねて響かせるのか、あえて逆を組んで互いを引き立たせるのか。それはワインを見てから決めることであって、料理を先に決めてしまうと、選べる幅が狭くなります。

お客様がご自身で用意されたワインを、その夜のために選んでいらっしゃることは少なくありません。そのワインが主役なのであれば、料理は寄り添う側に回るべきです。手持ちの一本と料理が噛み合わないという事態は、順番を入れ替えるだけで、構造的に起きなくなります。

依頼する前に、確認しておきたい五つのこと

ここまでの内容を、どの事業者に依頼される場合でも使える形に整理しておきます。以下の五つを先に確認しておけば、行き違いの多くは起こりません。

  • キャンセル規定が、何日前から何パーセントか(Na Team Lab は、開催日から七日以内で100%)
  • 見積もりに含まれるものと、含まれないもの(食材・出張・機材・人件・後片付けは込み。遠方の交通費と宿泊費、会場の手配は別途)
  • 当日の人数変更が、いつまで、どの範囲で可能か(増える方向は前日でも可。ただし器の都合があるため、早いほど確実)
  • アレルギーと苦手食材を、いつまでに伝えればよいか(早いほどよい。症状が重い場合は調理の段取りごと組み替えるため)
  • 予約の確定を、何で残すか(ご家庭への出張はLINEなど文字の残る形で。規模の大きな会は、事前のお振り込みでお願いすることが多い)

口頭の約束だけで進めないこと。これが、いちばん確実な予防になります。文字で残っていれば、双方の記憶違いは起こりません。

最後に ― 良い夜は、対等な関係から生まれる

最後に、ひとつだけ、こちら側の話をさせてください。

私たちがお受けできないと感じる依頼が、ひとつだけあります。金額でも、条件の厳しさでもありません。料理を作る人間を、下に見ておられる場合です。

これは、お客様を選んでいるという話ではありません。良い夜は、招く側と作る側のどちらか一方の努力だけでは成立しない、という経験からくる実感です。卓を囲む時間の質は、その場に流れている敬意の総量に、はっきりと比例します。

裏を返せば、この記事を最後まで読んでくださっているような方との仕事で、この問題が起きたことはありません。トラブルを事前に確かめようとする姿勢は、そのまま、相手の仕事を尊重する姿勢だからです。

まとめ

出張シェフのトラブルは、その多くが伝達のタイミングで決まります。要点を整理します。

  • 当日の人数変更は対応できることが多い。ただし器は増やせないため、分かった時点でご連絡を
  • アレルギーは最優先で早く。症状が重い場合は、混入を避けるため調理の段取りごと組み替えます
  • 金額はお一人あたりの全込み。延長料金は発生しませんが、遠方は交通費と宿泊費のぶん割高になります
  • キャンセルは開催日から七日以内で100%。人数が減る場合も同じ規定です
  • キッチンはIHが一口あれば成立。設備は事前に写真で共有いただくのが確実です

Na Team Lab の出張料理は、6名さまから16名さままで、お一人 15,000円〜(ワインペアリング付きは 22,000円/税・サービス料・出張費込)で承っています。対応エリアは基本的に東京都内です。

ご相談は、公式LINEにて承っております。人数や会場がまだ固まっていない段階でも構いません。決まっていないことを決まっていないままお知らせいただければ、そこから設計を始めます。

よくある質問

出張シェフを頼んだ当日に、人数が増えても対応してもらえますか?

お一人やお二人の当日の増員は多くあり、午後からの会であれば午前中までにご連絡いただければ対応できることが多いです。ただし器やグラスは当日お持ちするものなので、後から増やせません。分かった時点でお早めにお知らせください。

出張シェフのキャンセル料は、いつから発生しますか?

Na Team Lab では、開催日から七日以内のキャンセルについて料金の100%を頂戴しています。人数が減る場合も同じ規定に沿った取り扱いです。事業者によって規定は異なりますので、依頼前に確認されることをおすすめします。

アレルギーは、いつまでに伝えればよいですか?

できるだけ早くお伝えください。使用する食材を外すだけでなく、症状の重い方がいらっしゃる場合は、調理器具や調理の順序まで含めて、混入が起きないよう設計を組み直すためです。苦手な食材も併せてお知らせいただけると助かります。

川原壯太(Na Team Lab シェフ)
AUTHOR 川原 壯太 Na Team Lab シェフ

恵比寿のレストランを拠点に、年間200件を超える出張料理・会食を手がける。5味のバランスやペアリングなど「9つの原則」に基づいて食卓を設計し、料理教室・ワイン会も主宰。

Instagram @nateam.kawahara


先に開いておく、という誠実さ。

できることと、できないことの境目を、依頼の前にお伝えします。当日の人数変更は増える側なら前日まで対応できます。アレルギーと苦手な食材は、遅くとも前日までにお知らせください。キャンセルは開催日から七日以内で料金の100%を頂戴します。条件を先に共有していただければ、その条件のために一から組み立て直します。

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