都心にもう一つ、家がある。出張のたびにホテルを取らずに済み、鍵を開ければ自分の荷物がそのまま置いてある。便利です。

ただ、月に何日使っているかと問われると、数えられるほど…持っているのに、使っていない。その感覚を抱えたまま何年か過ぎている、という方は少なくないように思います。

この記事は、セカンドハウスを持つべきかどうかの話ではありません。すでに持っている方に向けて、空いている日をどう考えるかだけを書きます。

先に結論をお伝えします。寝るだけのセカンドハウスがもったいないのは、稼働率が低いからではありません。その家にしかできないことが、一度も使われていないからです。

SUMMARY

結論:セカンドハウスとホテルの決定的な違いは、人を招くことができることです。 しかし実際には、器や調理設備が揃っていないことを理由に、誰も招かないまま「寝るだけの家」になっているセカンドハウスが少なくありません。 セカンドハウスの価値は、年に何泊したかではなく、その家で何をした日があるかで決まります。 年に数回、その家でしかできない夜を設計する。それだけで、空いている日の意味は変わります。

セカンドハウスの価値は「滞在日数」ではなく「何をした日があるか」で決まる

この家を持つ方の多くが、知らないうちに稼働率で自分を採点しています。月に四日しか行っていない。年間で五十泊に届かない。だから、もったいない。

けれどその採点表は、不動産を評価するための指標であって、暮らしを評価するための指標ではありません。

一年のうち三百日、寝るためだけに使った家と、三日だけ人を招いて忘れがたい夜を過ごした家。どちらが記憶に残っているかと問われれば、答えははっきりしています。滞在した日数ではなく、何をした日があるか。 家の価値は、そちらで決まります。

「もったいない」という言葉を、効率の話から体験の話へ置き換えてみてください。すると、問いの形が変わります。稼働日数をどう増やすかではなく、この家でしかできない夜を、年に何度つくれるか

考える対象が変わるだけで、打つ手も変わります。前者は物件を手放すか貸し出すかの二択に向かいますが、後者は空いている日をそのまま資産として使い切る方向へ向かいます。

都心のセカンドハウスは、こう使われている

黒い布の上に整然と並べられた銀のカトラリーと金縁のトレー
カトラリーも人数分、こちらで携えて伺います。

まず、いま実際にどう使われているかを整理します。その用途は、おおむね三つに分かれます。

出張と移動の拠点として

地方に拠点を置きながら、東京での商談や会合のために構えるかたち。ホテルの予約が要らず、荷物を置いておけて、深夜に戻っても気を遣わずに済みます。二拠点生活を送る経営者の方に多い持ち方です。

ご家族の進学や通院に合わせて

お子さまの進学、ご両親の通院、ご自身の治療。生活の必要から都心に足場を持つかたちです。滞在は不定期で、必要が生じたときだけ使われます。

資産として持ち、そのまま置いている

将来の住み替えや相続を見据えて取得し、そのまま置いてあるかたち。年に数回、風を通しに行く程度という方もいらっしゃいます。

三つの用途を並べてみると、ひとつの共通点が浮かびます。どれも、一人で使う前提の用途であるということです。

出張の拠点も、通院の足場も、資産としての保有も、誰かを迎えることを想定していません。だからこそ、器もカトラリーも揃っていない。それは怠慢ではなく、単に必要がなかったというだけの話です。

その裏返しに、機会が眠っています。

ホテルとの決定的な違いは、人を招けること

セカンドハウスとホテルを比べたとき、快適さや清潔さで勝負すれば、ホテルに軍配が上がる場面は多いでしょう。ベッドの質も、清掃も、セキュリティも、専門の事業として磨かれています。

それでも、ホテルには決してできないことがひとつあります。

人を招くことです。

もちろん、スイートやラウンジを押さえて集まることはできます。ですがそこは、借りた場所です。時間の区切りは規約が決め、迎える側もどこかで「お客様」のままでいます。玄関で迎え、靴を脱いでいただき、終わりの時刻を誰にも決められない夜。それは、自分の場所でしか成立しません。

レストランも同じです。私たちは東京・恵比寿で一日ひと組のレストランを営んでいますが、それでも卓には時間の輪郭があります。ワインを持ち込めば持ち込み料が生じ、その分だけ予算も動きます。ご自宅やセカンドハウスであれば、その制約はありません。 ずっと開けたかった一本を、開けたい夜に開けられます。

つまりセカンドハウスは、ホテルの機能に「招く」という一項目が加わった場所です。その一項目こそが、価格差の正体だと言ってもいいと思います。

にもかかわらず、その一項目が一度も使われていない。ここが、この記事でお伝えしたい核心です。

招かない理由の第一位は、設備

年間二百件を超える出張に伺ってきて、招かない理由をいくつも聞いてきました。そのほとんどは、意欲の問題ではありません。招きたくないのではなく、招ける状態にないだけです。

理由は、だいたい三つに集約されます。

器とグラスが、人数分ない

これが最も多い理由です。第二の住まいの食器棚には、一人分か二人分しか入っていません。六名で卓を囲むとなれば、皿もグラスもカトラリーも足りない。買い揃えれば済む話ではありますが、年に数回のために一式を置いておくことに、多くの方が踏み切れずにいます。

キッチンが、もてなす前提で作られていない

都心の住まいのキッチンは、コンパクトに設計されていることがほとんどです。コンロは一口か二口。作業台は狭く、オーブンがないことも珍しくありません。ご自身で六名分のコースを組み立てるには、確かに厳しい設備です。

そして、後片付けが自分に残る

招く側にとって、いちばん重いのがここだと思います。ドリンクの手配、料理の段取り、当日の進行、そして解散したあとのシンク。すべてがホストひとりに乗ります。主催した方が、主催者として座っていられない。 これでは、招くこと自体が負担の記憶になってしまいます。

三つとも、共通しているのは「設備と手間」の問題であり、気持ちの問題ではないということです。そして、設備と手間の問題であるなら、外から持ち込むことで解決できます。

当日、何がどう動くのかについては、出張シェフの一日を時系列で書いた記事があります。器も道具も持参し、シンクや排水口まで整えて退出するまでの流れを、そのまま公開しています。

年に数回の「その家でしかできない夜」を設計する

設備の問題が外から解けるとすれば、次に考えることはひとつです。その家で、どんな夜をつくるか。

毎週である必要はありません。年に数回で十分だと、私は思っています。

大切な相手との会食

店を選ぶ必要も、個室の空き状況を気にする必要もありません。エレベーターを降りればそこが会場で、周囲に他の卓はない。込み入った話をする夜に、これ以上の条件はなかなかありません。地方から東京へ来られる方が、東京の拠点で相手を迎える。順序が逆転するだけで、場の印象は変わります。

ご家族の記念日

進学や通院のために構えた家であれば、そこにはご家族の時間が積み重なっています。節目の日に、その家で卓を囲む。移動も、終電も、翌朝の予定も気にせずに済みます。ご両親をお招きする場合は、その気楽さがそのまま体力の余裕になります。

旧友との再会

年に一度しか会えない方々と、店ではない場所で会う。解散時刻を誰も決めない夜は、店では作れません。セカンドハウスの静けさは、こういう夜に効きます。

年に三回。それだけで、その家は「寝るだけの家」ではなくなります。三百日の空白は変わりませんが、空白の意味が変わります。 使っていない日ではなく、次の夜までの間隔になるからです。

私が伺った、都内のセカンドハウスの夜

実際にあった夜のことを、ひとつだけお話しします。

地方で会社を経営されている方が、都内にセカンドハウスを構え、二拠点で生活されていました。ご相談をいただいたきっかけは、まさに器でした。食器もカトラリーも、その家には一切なかったそうです。そこで「持ってきてくれる出張シェフ」を条件に探された結果、私たちにご連絡をくださいました。

伺ってみると、その方はホームパーティーがお好きな方でした。東京の家でも、これまで何度も開いてこられたといいます。ただ、そのたびにドリンクの手配から料理の用意、そして片付けまで、すべてをお一人でされていた。「誰かにお願いできたらいいのに」と、ずっと思っていらしたそうです。

その日は六名さまでした。ワインペアリングを含めて、お一人あたり二万二千円で組み立てました。一戸建てのお住まいで、夕方から夜にかけて、ゆったりとした時間を過ごされました。

私が印象に残っているのは、料理そのものよりも、その方がずっと席に座っていらしたことです。立ち上がってキッチンへ向かう必要も、グラスが空いていないかを気にする必要もない。招いた側が、招いた側のまま夜を過ごしている。器が一枚もない家で、それが成立していました。

設備は、揃えなくて構いません。器もグラスもカトラリーも調理道具も、当日すべて持ち込み、片付けて、持ち帰ります。空っぽの家が、その夜だけレストランになる。 セカンドハウスの使い方として、これ以上のものを私は知りません。

まとめ

寝るだけになっているセカンドハウスについて、要点を整理します。

  • 価値は滞在日数では測れません:何泊したかではなく、その家で何をした日があるかで決まります
  • ホテルとの決定的な違いは、人を招けることです:時間の区切りも持ち込み料も、自分の場所には存在しません
  • 招かない理由の多くは、意欲ではなく設備です:器が足りない、キッチンが小さい、片付けが自分に残る
  • 設備の問題は、外から持ち込むことで解けます:器も道具も持参し、シンクまで整えて退出します
  • 年に三回で十分です:会食、ご家族の記念日、旧友との再会。それだけで空白の意味が変わります

ご相談は、日程が決まっていない段階でも構いません。器もグラスも持参して、六名さまから伺います。 お一人あたり一万五千円から、ワインペアリングを含む場合は二万二千円からを目安にしています。対応は東京都内が基本で、都外や遠方も別途ご相談を承っています。

よくある質問

セカンドハウスのキッチンが小さくても、シェフに来てもらえますか?

IHが一口あれば対応できます。調理道具は当日すべて持参いたしますので、ご用意いただくものはありません。都心のセカンドハウスは調理設備が最小限であることが多く、私たちはその前提で組み立てています。

器やグラス、カトラリーは揃えておく必要がありますか?

必要ありません。器もグラスもカトラリーも当日お持ちし、片付けてお持ち帰りします。シンクや排水口まで整えてから退出しますので、翌朝のお部屋に前夜の痕跡は残りません。

都内のセカンドハウス以外、遠方の別邸でも対応できますか?

ご自宅、別邸、ペントハウス、書斎、会員制の空間など、お客様が選ばれた場所へ伺っています。ご旅行と兼ねて別邸で、というご相談も承っております。対応は東京都内が基本で、都外は別途ご相談ください。

川原壯太(Na Team Lab シェフ)
AUTHOR 川原 壯太 Na Team Lab シェフ

恵比寿のレストランを拠点に、年間200件を超える出張料理・会食を手がける。5味のバランスやペアリングなど「9つの原則」に基づいて食卓を設計し、料理教室・ワイン会も主宰。

Instagram @nateam.kawahara


その家でしかできない夜を、年に数回。

セカンドハウスに人を招けない理由は、意欲ではなく設備であることがほとんどです。食材から器、グラス、カトラリー、調理道具まで携えて伺い、片付けまで引き受けます。普段は寝るだけの家でも、その日だけは卓が立ち上がります。年に数回、その家でしかできない夜のために使っていただく形が、いちばん相性の良い使い方だと思っています。

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