仕事の話なら、初対面の相手とでも一時間は続きます。それなのに、懇親会の会場でグラスを持った瞬間、言葉が出てこなくなる。「ところで、最近どうですか」と振られて、二往復で会話が終わる。壁ぎわに立って、時間が過ぎるのを待つ。

雑談が苦手だと感じている方の多くが、この状態を自分の性格の問題として引き受けています。話し方の本を読み、質問のリストを覚え、それでも次の会でまた同じことが起きる。

けれど、原因は話す力の側にはないのかもしれません。この記事では、雑談が続かない理由を場の構造から整理したうえで、明日そのまま使える問い方と、苦手なままでも会話が成立する席の選び方をお伝えします。書いているのは、恵比寿で八席のレストランを営み、毎月ワイン会を開いている料理人です。人が初めて顔を合わせる卓を、月に一度、設計し続けています。

SUMMARY

結論:雑談が苦手なのは、話題がないからではなく、「何を話してもいい場」で話題を選べないからです。 話していい話題が一つに絞られている場であれば、雑談は得意・不得意にあまり左右されません。 目の前に一皿や一杯があり、それについて話せばいい席では、話題を探す作業そのものが要らなくなります。 「これ、どう感じますか」。その一言だけで、会話は始まります。変えるのは話し方ではなく、座る席のほうです。

あわせて、ワイン会での過ごし方と感じた味を言葉にする手順もご覧ください。

雑談が苦手なのは、話題がないからではありません

雑談が続かないとき、頭の中で起きているのは「話題が思いつかない」という現象です。ところが、同じ人が別の場面では驚くほど話します。趣味の話、仕事の相談、子どもの学校のこと。話す材料そのものは、たくさん持っているのです。

つまり、足りないのは話題ではありません。話題が多すぎて、選べないのです。

雑談が苦手だという感覚を分解すると、だいたい三つの負担に行き着きます。

話していい話題が、多すぎる

「何を話してもいい場です」と言われた瞬間に、会話は難しくなります。選択肢が無限にあるからです。

天気の話は退屈だろうか。仕事の話は重いだろうか。出身地を聞くのは踏み込みすぎだろうか。この検討を、相手の顔を見ながら一秒以内に済ませることになります。しかも、間違えたときのやり直しがききません。

雑談が得意に見える人は、この選択を高速でこなしているわけではありません。多くの場合、選択肢が少ない状況を選んでいるだけです。

話しながら、評価されている感じがする

雑談のもう一つの負担は、自分が採点されているという感覚です。

面白いことを言えたか。話がつまらないと思われていないか。沈黙が空いたのは自分のせいではないか。この自己監視が働いているあいだ、意識の半分は相手ではなく自分に向いています。当然、相手の話は頭に入りません。そして聞けていないから、次の質問も出てこない。

苦手意識は、この循環の副産物です。話す力の問題というより、注意がどこを向いているかの問題です。

終わらせ方が分からない

意外に見落とされているのが、終わりの設計です。

一度話しかけたら、この会話をどこまで続ければいいのか。離れたいと思ったときに、どう切り上げれば失礼にならないのか。出口が見えないから、そもそも入口に立てない。会場に入って三十分、どこにも入れないまま立っている方の多くは、話しかけられないのではなく、終われないことを恐れて始めていないのです。

雑談が続く人がしていること 質問を一つだけ持って行く

パスタの一皿と赤ワインが並ぶ食卓の実写写真
目の前の料理とワインが、一つの共通の話題になります。

では、会話が続く人は何をしているのでしょうか。

観察していて気づくのは、話題をたくさん用意している人ではないということです。むしろ逆で、その日に使う質問を一つだけ決めて来ている方が、結果として長く話しています。

一つに決めておくと、三つのことが同時に片づきます。

第一に、選ぶ手間が消えます。何を話すかを考えずに済むぶん、意識の全部を相手に向けられます。第二に、同じ質問を全員に使えます。相手が変わるたびに設計し直す必要がありません。第三に、答えが返ってきた時点で、次の話題は相手が出してくれます。自分で二手目を用意しなくてよいのです。

質問を選ぶときの条件は、次の三つです。

  • その場にいる全員が、答えを持っている
  • 正解がなく、答えが人によって分かれる
  • 一言で答えられて、続けようと思えば続けられる

「ご出身はどちらですか」は一つめを満たしますが、答えが一つに定まるので会話が伸びません。「最近どうですか」は範囲が広すぎて、相手に選択の負担を渡してしまいます。

三つを満たすのは、目の前にあるものについての感想です。

そのまま使える問い方

抽象的な話に留めると使えないので、場面ごとに具体的な一言を並べます。どれも、その場にあるものを指して聞くだけの言葉です。

場面そのまま使える一言
立食の会場で、隣に立った方にどれが好きでしたか
料理や飲み物が運ばれてきたときこれ、どう感じますか
二度目に顔を合わせた方に前にも来られましたか
相手の答えが短く終わったときそれ、どうやって始めたんですか
相手の分野に踏み込みたいとき詳しくない人が誤解しがちなことって、ありますか
席を離れるときありがとうございました。またどこかで

使い方には、一つだけ順序があります。答えを聞いたら、その答えの中の言葉を拾って、もう一度聞くことです。

「どれが好きでしたか」「二杯目が好きでした」「二杯目、どのあたりが好きでしたか」。これで会話は三往復します。三往復すれば、多くの場合、相手のほうから話し始めてくれます。

最後の行にある離脱の一言も、同じくらい大切です。終わり方を先に持っていると、入口が軽くなります。出口の分かっている部屋には、入りやすいのです。

話題が一つに絞られている場を選ぶ

ここまでは、話す側の工夫でした。けれど、もっと効くのは場の選び方です。

雑談が苦手な方にとって、話していい話題が一つに絞られている場は、それだけで負担が半分になります。選ぶ必要がなく、外す心配もなく、話題が尽きたら目の前のものを見ればよいからです。

そういう場には、共通の条件があります。

  • 全員が同じものを見ている、あるいは同じものを口にしている
  • そのものについて、専門家でなくても感想を言える
  • 沈黙のあいだ、そのものを見ていればよい

三つめが、実は一番大きいと思っています。雑談が苦しいのは、沈黙が「会話の失敗」として現れるからです。ところが、目の前に見るべきものがある席では、沈黙は失敗になりません。黙って味わっている時間として、そのまま成立します。

この条件を満たす場は、いくつかあります。

場の種類共通の対象沈黙の扱われ方
料理教室作っている料理手を動かしている時間として成立する
ワイン会同じ一杯味わっている時間として成立する
美術館・展示同じ作品見ている時間として成立する
スポーツ観戦同じ試合試合を見ている時間として成立する

逆に言えば、名刺交換を目的にした会や、交流そのものが目的として掲げられた会は、雑談が苦手な方にとって最も難度の高い場ということになります。共通の対象が置かれていないため、会話の材料をすべて自分で用意することになるからです。

苦手を克服してから、そういう場に行く。その順番を考えている方がいらっしゃるかもしれません。順番は逆でよいと思います。話しやすい場に先に座って、話せた経験のほうを先に作るほうが、ずっと近道です。

ワインが会話の代わりになる理由

条件を満たす場のなかでも、ワインの卓は少し特殊です。会話の代わりを、かなりの部分まで引き受けてくれます。理由は三つあります。

一つめは、全員が同じものを飲んでいることです。レストランで別々の料理を頼んだときは、相手の皿について話せることが限られます。同じ一杯であれば、感じたことをそのまま口に出すだけで、相手の側に同じ体験の記憶があります。説明が要りません。

二つめは、感想に正解がないことです。ワインの感想は、用語を知らないと言えないものではありません。好きか、そうでもないか。さっきの一杯と比べて濃いか、軽いか。それだけで十分に感想として成立します。私たちも、お客さまの知識量に合わせて、使う言葉の粒度を変えています。詳しい方にはワインの用語で、これからの方には「こういう品種があって」という説明から。知識の量が、話す資格を決める場ではないということです。

三つめは、手と口に仕事があることです。グラスを持ち上げる、香りを取る、口に含む。この動作のあいだ、会話は止まっていて構いません。黙っている時間が、味わう作業として正当に扱われます。雑談の苦しさの多くが沈黙への恐れだとすれば、これはかなり大きな効き目を持ちます。

さらに、比べるものが二つ並ぶと、言葉はもっと出やすくなります。私はコースの中で飲み比べを組むことがあります。白なら同じ品種で産地を変えて、赤ならヴィンテージを変えて。並べると、違いが分かりやすくなります。そして違いが分かると、「こちらのほうが好きです」という一言が自然に出てきます。感想とは、比較から生まれるものなのです。

実際の卓で起きていること

ここからは、月に一度の会を運営している側から見えていることをお伝えします。

Na Team Lab のワイン会では、これまで七割近くの方がおひとりでいらっしゃっています。三十代から四十代が中心で、六十代の方もいらっしゃいます。男女比はおおむね半々。経営者の方と会社員の方が、おおよそ半々という構成です。共通しているのは、その日にワインを楽しみたいという動機だけです。

会の最初に、自己紹介の時間を設けています。これは手順として置いているのではなく、意図があります。「一人で来ても楽しめた」という感覚があると、緊張はほどける。そう考えているからです。名前と、その日に来た理由を一言。それだけで、隣に座った方が誰なのか分からないという状態が解けます。

そのあと、一杯目が注がれます。ここから先、話題を用意してきた方と、何も用意してこなかった方の差は、ほとんど消えます。全員が同じものを口にして、それぞれ違う感想を持つからです。「思ったより軽いですね」。この一言から始まる会話を、私は何度も見ています。

私自身、営業のつもりで作ったつながりより、ワイン会のように趣味でつながった関係のほうが長く続いていると感じています。趣味で知り合った相手とは、今も一緒に仕事をしています。順序として、先に仕事があったわけではありません。先に同じ卓があって、結果として仕事になった、という順番です。

三回くらい通うと顔なじみになってくる方もいます。そして、会の外で会っている方、一緒にワインを飲みに行っている方、一緒に仕事をしている方がいらっしゃいます。月に一度の卓が、会の外の関係に育っていく。そういうことが、実際に起きています。

料理教室のほうでは、また少し違う形で会話が生まれます。八席で一つの卓を囲む形をとっていて、一品目を食べている時間に会話が起こるよう、私のほうから話題を振ります。盛り上がるのは、やはり料理にまつわる話です。「これ作ったことがあります」「家で作りたいと思っていました」。共通の目的が先にあるので、会話の入口に困らないのです。

どちらの場でも、私がしているのは話を上手にすることではありません。話題が一つに絞られた状態を、最後まで保つことです。それが、主催する側の仕事だと考えています。

まとめ

雑談が苦手だと感じている方に、この記事でお伝えしたことを整理します。

  • 雑談が苦手なのは、話題がないからではなく、話題が多すぎて選べないから
  • 続かない理由は三つ。話題の選択、評価されている感覚、終わり方が分からないこと
  • 会話が続く方は、その日に使う質問を一つだけ決めて来ている
  • 「どれが好きでしたか」「これ、どう感じますか」。目の前のものを指して聞くだけでよい
  • 答えの中の言葉を拾って、もう一度聞く。三往復すれば、相手が話し始める
  • 話題が一つに絞られている場を選ぶ。料理、ワイン、展示、スポーツ観戦
  • 同じものを前にしている席では、沈黙が会話の失敗にならない

苦手を克服してから、人の集まる場に行く。その順番を考えている方がいらっしゃるかもしれません。けれど、話しやすい席に先に座るほうが、ずっと早いと思います。技術ではなく、席の問題だからです。

次のステップ

雑談が苦手なままで構いません。変えるのは、話し方ではなく、座る席のほうです。

一杯目の感想から、話せばいい。 それだけのことです。

Na Team Lab では、毎月ワイン会を開いています。少人数でコースに六杯を合わせる回と、立食でワインを十数本並べる回があります。時間は19時から21時半ごろが中心で、土日も平日もあります。会の最初には自己紹介の時間を設けていますので、おひとりでいらしても、始まりの場所に困ることはないと思います。

ドレスコードは設けていません。少し綺麗目の装いでいらっしゃる方が多いですが、そこまで気にせず、気軽にお越しいただければと思います。

どの回に、どんなテーマで開くのかは、会ごとの案内ページに掲載しています。気になった回にお越しいただく、という形がいちばん自然だと思っています。

会の内容や日程、出張料理やレストランのご相談は、公式LINEにてご案内しています。ご検討の節は、こちらからお声がけください。

よくある質問

沈黙が怖いときは、どうすればいいですか?

目の前に見るべきものがある席を選ぶのが確実です。グラスや皿があれば、黙っている時間は味わっている時間として成立します。それでも気になるときは、沈黙を埋めようとせず、手元のものについて一言だけ感想を言ってみてください。相手も同じものを口にしています。

ワインの知識がなくても、ワイン会で話せますか?

話せます。ワインの感想は、用語を知らないと言えないものではありません。好きか、さっきの一杯と比べて濃いか軽いか。それだけで感想として十分に成り立ちます。私たちも、その方の知識量に合わせて使う言葉を変えています。知識の量が、話す資格を決めるわけではありません。

初対面で聞いてはいけないことはありますか?

年収や家族構成など、相手が答えを選びにくい話題は避けたほうが無難です。また、初対面でいきなり仕事の売り込みに入ると、場の空気が固くなります。その場にあるものへの感想から入れば、踏み込みすぎることはほとんどありません。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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