卵は10℃以下で保存し、使う直前に割って、割ったまま置きません。半熟・非加熱の卵料理では殺菌済み卵を選び、乳幼児、高齢者、妊娠中の方、免疫が低下している方には十分に加熱した料理を用意します。 食品安全委員会の卵の衛生案内もご参照ください。

和牛のすき焼きに、ワインを合わせる。そう考えたとき、多くの方が最初に手に取るのは濃い赤です。肉が立派で、割り下の色も濃い。だからワインも力のあるものを、という発想になります。

ところが、この選び方はうまくいかないことがあります。濃い赤を注いだ瞬間、口の中で主役が入れ替わってしまう。肉の味わいより、ワインの渋みのほうが強く残ってしまうのです。

理由は、見た目の重さと、実際の味わいの重さがずれているからです。すき焼きは濃く見えますが、味わいの総量は意外に軽い料理です。砂糖と醤油の甘辛さがあり、牛脂の甘みがあり、そして卵がすべてをまろやかに包みます。

この記事では、すき焼きを割り下・卵・牛脂の三つに分解し、それぞれにどのワインを当てるかを整理します。食材別のペアリングの総論は食材で選ぶワインペアリングの記事にまとめてありますので、本記事はその中のすき焼きの章としてお読みください。

SUMMARY

結論:すき焼きに合うワインは、果実味があり、酸があり、タンニンは控えめな赤です。 割り下の甘さと醤油に寄り添う果実味と、牛脂を流す酸の両方が必要になります。 ピノ・ノワール、マスカット・ベーリーA、メルローのような赤が選びやすい一本です。 卵をくぐらせると味わいがまろやかになりますので、渋みの強い赤より柔らかい赤のほうが収まります。

あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。

すき焼きの味は、割り下・卵・牛脂の三つでできている

すき焼きの味わいを分解すると、三つの要素が出てきます。

要素味の性格ワインに求めること
割り下砂糖の甘さ+醤油の塩気と香ばしさ甘さに寄り添う果実味
牛脂口に残る脂の甘みとボリューム脂を流す酸
卵黄身のまろやかさで全体を包む渋みの柔らかさ

この三つが同時に口の中にあります。ですから、合わせるワインには三つの条件が同時に要ります。果実味、酸、そして控えめなタンニン。 一つでも欠けると、どこかが浮きます。

もう一つ、旨味の構造も見ておきましょう。

醤油にはグルタミン酸が含まれ、牛肉にはイノシン酸が含まれます。この二つを組み合わせると、単独で使ったときの合計を大きく超える効果が生まれます。研究で示されているのは、組み合わせや濃度に応じた相乗という数字です。すき焼きの「後を引く味」は、この相乗効果でできています。

ここに砂糖の甘さが加わり、塩気が旨味のピークを引き出します。私たちは塩をうま味の感じ方を調整するものと考えていますが、すき焼きの割り下はまさにその設計になっています。甘さと塩気で旨味を立ち上げ、脂でボリュームを足す。これが鍋の中で起きていることです。

合わせたい赤の条件 ― 果実味・酸・控えめなタンニン

肉料理と赤ワインを味わう実写写真
肉料理とワインの合わせ方を考える食卓の一例。写真はすき焼きではありません。

条件が三つ揃う赤を、具体的に挙げます。

品種性格すき焼きとの関係
ピノ・ノワールベリーの果実味、酸が立ち、タンニンは穏やか割り下の甘さに果実で同調し、酸で脂を流します
マスカット・ベーリーA甘やかな果実の香り、渋みが穏やか日本の甘辛い味付けと方向が揃いやすい一本です
メルロー丸みのある果実味、タンニンが柔らかい卵でまろやかになった状態に素直に収まります
ガメイ(軽い赤)果実が前に出て、硬さがない少し冷やして出すと脂の切れがよくなります

逆に、避けたいのはタンニンの強い濃い赤です。カベルネ・ソーヴィニヨンやネッビオーロのような造りは、骨格が立ちすぎます。すき焼きの甘さと渋みが口の中でぶつかり、どちらの味も収まらなくなります。

温度の目安も添えておきます。あくまで出発点で、口にして感じた違和感から動かしてください。

  • 軽い赤(ガメイ、軽めのピノ・ノワール) … 13〜15℃
  • しっかりした赤(カベルネ、ネッビオーロなど) … 16〜18℃

ここで一つ、注意していただきたいことがあります。「赤は常温」という言い方です。この常温という言葉が生まれた頃のヨーロッパの室温は、せいぜい16〜18℃でした。日本の夏の28℃の部屋に置いた赤は、適温を10℃も超えています。すき焼きは暖房の効いた部屋で囲むことが多いので、少し冷やしてから出すほうが脂が切れます。

温度を2℃下げると酸とタンニンが立ち、2℃上げると香りと甘みが出ます。この傾向を参考に味見すれば、現場で直せます。詳しくはワインの適温の記事をご覧ください。

関東風と関西風、甘さの出方で選び分ける

すき焼きの作り方は、一般に二つに分かれます。

  • 関東風 … あらかじめ合わせた割り下で煮る。甘辛さが最初から均一に回る
  • 関西風 … 肉を焼いてから砂糖と醤油を直接加える。焼きの香ばしさが前に出る

ワインの選び方も、ここで少し変わります。

関東風は、割り下の甘さが最初から全体に行き渡ります。ですから果実味が前に出る赤のほうが素直に寄り添います。マスカット・ベーリーAやメルローが選びやすい領域です。

関西風は、肉を焼く工程が入ります。焼きの香ばしさは、赤ワインの樽や熟成の香りと方向が合います。ですから少し構造のある赤でも成立します。ピノ・ノワールであれば、樽の効いたものを選ぶ余地があります。

いずれにしても、タンニンの量は変えません。香ばしさに合わせて香りの方向を変えるだけで、渋みの強さは控えめなままにしておきます。

卵をくぐらせると、合うワインが変わる

すき焼きでいちばん見落とされているのが、卵です。

溶き卵に肉をくぐらせると、何が起きるか。黄身の脂質が肉を覆い、甘辛さの角が取れて、味わい全体がまろやかになります。割り下の輪郭がぼやけ、口当たりが丸くなります。

この状態に、渋みの強い赤を当てるとどうなるか。まろやかになった側に、硬い渋みだけが突き出します。口の中で質感が揃わないので、合っていないと感じます。

逆に、タンニンの柔らかい赤であれば、まろやかさと渋みの柔らかさが同じ質感で並びます。これが「卵をくぐらせると合うワインが変わる」ということの中身です。

実践として、二通りの食べ方があります。

  • 卵をつけて食べるとき … メルローのような、タンニンの柔らかい赤
  • 卵をつけずに食べるとき … ピノ・ノワールのような、酸の立った赤

同じ鍋でも、口に入る前の一手間でワインの寄せ方が変わります。卓に二種類の赤を並べて、卵のあるときとないときで飲み分けてみてください。この差は、説明を読むより口で確かめたほうが速く入ります。

もう一つ、道具の話を添えます。グラスは注いだ瞬間に効く、いちばん速い調整手段です。 卵でまろやかになった状態には大きめのグラスで香りを開かせ、卵なしで脂の切れを立てたいときは中型のグラスで輪郭を締める。同じ一本でも、グラスを替えれば寄せる方向を変えられます。詳しくはワイングラスの種類の記事に書いています。

白・ロゼ・泡を合わせるなら

赤以外も、条件を満たせば成立します。

白を合わせる場合は、ボディのある白を選びます。白ワインのボディを決めるのは二つで、樽香が付くとボディ感が増し、冷涼産地より温暖産地のほうがボディが増します。ですから「すき焼きに合う白」を狙うなら、温暖な産地の、樽の効いた白ということになります。この二軸があるので、品種と産地を見れば狙って選べます。考え方はワインのボディの記事に整理しました。

ロゼを合わせる場合は、辛口でしっかりした造りのものが向きます。赤の果実味と白の酸を両方持っているので、割り下と脂の両方に手が届きます。ロゼワインの記事で造りの違いを扱っています。

泡を合わせる場合は、脂を切る役として使います。すき焼きは食べ進めるほど口の中に脂が溜まりますので、途中で泡を一杯挟むと流れが変わります。これは対比の使い方です。脂をワインの酸でリセットすると、次の一口が新しく感じられる。単なる相殺ではなく、互いを引き立たせる関係です。考え方はペアリングの対比の記事で扱っています。

なお、日本ワインの甲州については、すき焼きにはおすすめしていません。甲州は軽やかで飲みやすい品種ですが、肉料理に合わせると甲州の良さが消えてしまいます。 軽めの料理に合わせることが、この品種を活かす条件です。日本ワインで合わせるなら、同じ山梨のマスカット・ベーリーAのほうが収まります。甲州の記事とマスカット・ベーリーAの記事に、それぞれの性格を書いています。

見た目の重さと、身質のズレ

ここからは、私がボディを選ぶときに見ているものをお話しします。

鴨肉のローストにベリーのソースを添えた一皿があります。この皿に、二つの赤を合わせたことがあります。

ひとつはピノ・ノワール。ライトなワインです。ベリーの果実味がソースのベリーと響き合い、しかもライトでありながら鴨肉のボリューム感とちょうど釣り合いました。結果として、ぴったり合いました。

もうひとつはカベルネ・ソーヴィニヨン。タンニンの強い赤です。こちらは合いませんでした。鴨肉は脂質が少なく、たんぱくな身質です。そこに強いタンニンをぶつけると釣り合わず、鴨の味わいよりもワインの味わいが強くなってしまいました。

これは「ライトが正解でフルが不正解」という話ではありません。この皿においては、という限定つきの結果です。

そこから引き出せるのは、一つの読み方です。鴨肉は、見た目のボリュームに対して身質がたんぱくである。 つまり、見た目の重さと実際の身質にはズレがあり、そのズレを読むことがボディ選定の本質になります。

すき焼きにも、同じズレがあります。

和牛の霜降り、濃い色の割り下、鍋から立つ湯気。見た目の情報はすべて「重い」と言っています。けれども実際に口の中に残るのは、砂糖の甘さと脂の甘み、そして卵のまろやかさです。攻撃的な要素が、ほとんどありません。 ここに骨格の強い赤を当てると、鴨肉のときと同じことが起きます。

ですから私は、見た目ではなく「口に何が残るか」から逆算します。残るのが甘さとまろやかさなら、必要なのは果実味と酸で、骨格ではない。この順序で考えると、濃い赤を選ぶ理由がなくなります。

ちなみに、ミディアムボディは曖昧な言葉ではありません。品種と産地の二軸で、だいたい狙って選べます。 「すき焼きにはミディアムボディの赤」と言われたときは、この二軸に落として考えてみてください。

冬の和食とワインを、囲んでみる

すき焼きとワインの関係は、一杯では分かりません。同じ鍋に二つの赤を当てたとき、はじめて違いが見えます。

ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンを並べて、同じ一枚の肉に当ててみてください。前者は肉の甘みを伸ばし、後者は渋みで肉を押しのけます。どちらが良いかではなく、何が起きるかが分かります。

Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。コース形式では料理とともに6杯を、立食形式では10本から15本を並べて、ビュッフェ形式の料理を囲みながら開いています。しっかり料理を味わいたい方にはコース形式、交流も楽しみたい方には立食形式をおすすめしています。

開催は19時から21時30分のパターンが多く、土日も平日もあります。これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。会の最初に自己紹介の時間を設けているので、はじめての方でも言葉を交わしやすい形になっています。

ご自宅で冬の和食とワインを合わせたいという場合は、出張料理でもお受けしています。食材・器・グラス・カトラリーを一式持参し、コースとワインを合わせて設計します。コースのみでお一人15,000円から、コースにワインペアリングを付ける場合はお一人22,000円、6名さまから16名さままでが対象です。税・サービス料・出張費はすべて込みです。

まとめ

すき焼きのワイン選びは、見た目から離れるところから始まります。

  • すき焼きに合うワインは、果実味があり、酸があり、タンニンは控えめな赤です
  • 味わいは割り下(甘さと醤油)・牛脂・卵の三つでできていて、それぞれに当てる要素が違います
  • 醤油のグルタミン酸と牛肉のイノシン酸が重なり、組み合わせや濃度に応じた相乗の相乗効果になります
  • 卵をくぐらせると味わいがまろやかになるので、渋みの柔らかい赤のほうが収まります
  • 関東風は果実味の前に出る赤、関西風は焼きの香ばしさに合う少し構造のある赤が向きます
  • 見た目の重さと実際の身質にはズレがあり、そのズレを読むことがボディ選定の本質です

次にすき焼きを囲む夜は、濃い赤ではなく、果実味のある軽い赤を一本選んでみてください。肉の甘みが、別の長さで残ると思います。

よくある質問

すき焼きに日本ワインを合わせるなら何がいいですか?

マスカット・ベーリーAが選びやすい一本です。山梨では甲州と並んで広く扱われており、渋みが穏やかで果実味が前に出ます。割り下の甘さと方向が揃いますので、濃い赤より収まりがよくなります。甲州は軽やかな品種なので、すき焼きには少し力不足になります。

しゃぶしゃぶとは合わせ方が違いますか?

違います。しゃぶしゃぶは湯で脂が落ち、ポン酢の酸が前に出ますので、白やロゼでも成立します。すき焼きは割り下の糖分と牛脂が残りますので、果実味のある赤のほうが寄り添います。同じ牛肉でも、鍋の中で何が残るかで選ぶワインが変わります。

肉の等級でワインを変えるべきでしょうか?

脂の量で考えると判断しやすくなります。霜降りの多い肉ほど口の中に脂が残りますので、酸のしっかりした赤で流す必要があります。赤身が中心の肉であれば、酸は控えめでも成立します。等級そのものより、脂の乗り方を見てください。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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