「ワインエキスパート」と検索窓に打ち込むと、候補の中に「意味ない」という言葉が並びます。資格の名前を調べようとしただけなのに、先に否定が目に入る。受験を考えていた方なら、そこで少し手が止まるはずです。

先にお伝えしておきます。私はワインの資格を持っていません。恵比寿で一日ひと組・八席のレストランを営み、出張料理の現場でも毎晩ワインを注いでいますが、ソムリエでもワインエキスパートでもありません。

その代わり、資格を持つ人たちと一緒に仕事をしてきました。この記事では、ワインエキスパートが意味ないと言われる理由を協会の一次資料から整理したうえで、資格を持たない側から見えたことをお伝えします。

SUMMARY

結論:ワインエキスパートは、仕事に直結させたい方には意味がなく、ワインを語る人の輪に入りたい方には意味が残る資格です。 日本ソムリエ協会が認定する呼称資格で、飲食の実務経験がなくても満20歳以上なら受験できます。協会自身が「プロフェッショナルな資格ではない」と定義しており、独占業務もありません。 合格率は2021年から2024年までは30〜40%台で推移しましたが、2025年は26.4%と近年最も低い数字でした。 それでも受験者数は、この5年で増えています。資格が運んでくるのは仕事ではなく、同じ言葉で話せる人たちとの距離です。

資格体系の全体像はソムリエという仕事と資格で、実際の食卓での学びはワイン会の流れで紹介しています。

結論|資格そのものに意味はありません。意味が出るのは、その後です

「意味があるか、ないか」を、資格そのものの性質として論じることはできません。ワインエキスパートは、取った人が何に使うかで価値が決まる種類の資格だからです。

仕事に直結させたい方には、意味がありません。この資格を持っていないとできない仕事は、ひとつもないからです。

一方で、ワインを人に説明したい方、ワインを語る人たちの輪に入りたい方には、意味が残ります。私が現場で見てきたのは、後者の効き方でした。

「意味がない」と言われる三つの理由

ワインを比較しながら学ぶテイスティングの場
資格の知識は、同じ一杯をより細かい言葉で共有する助けになります。

ひとつめは、協会自身が、職業のための資格として設計していないことです。

日本ソムリエ協会は、ワインエキスパートをこう定義しています。

ワインエキスパートとは酒類、飲料、食全般の専門的知識・テイスティング能力を有する者を言う。プロフェッショナルな資格ではないので職業は問わず、むしろ愛好家が主な対象となる。

「プロフェッショナルな資格ではない」と、認定する側が書いています。仕事に結びつかないという指摘は、外からの言いがかりではありません。制度の設計どおりだということになります。

ふたつめは、独占業務がないことです。ワインを仕入れて、保管して、選んで、注ぐ。この一連の仕事に、法律で定められた資格は要りません。「ソムリエ」という名称の使用を制限する法律も存在しません。資格がなくてもワインの仕事はできる。それが日本の制度です。

みっつめは、取ったあとに何をするかが、本人任せであることです。合格しても、誰かが仕事を持ってきてくれるわけではありません。「取れば何かが変わる」と期待して受けた方が、変わらなかったと感じる。この落差が「意味ない」という言葉になって残ります。

三つとも、正当な指摘だと私は思います。そのうえで、数字を見ていきます。

ワインエキスパートの難易度と合格率

ワインエキスパート合格率受験者数ソムリエ合格率(参考)
202140.7%3,490名42.1%
202232.9%3,469名30.1%
202341.9%3,499名17.7%
202441.4%3,381名29.2%
202526.4%3,577名19.9%

注目していただきたいのは、2024年の41.4%から2025年の26.4%への落ち方です。15ポイント近く下がっています。「合格率は例年30〜40%台」という説明を見かけますが、直近の年に当てはめると実態とずれます。ワインエキスパートの合格率は年によって大きく動きますので、年とセットで確認してください。2025年の認定者は944名、累計では24,872名になります。

試験の構成

一次はCBTという方式です。パソコンで解答する試験で、120問を70分。全国およそ340会場の中から、自分で日時と会場を予約します。同じ出願で最大2回まで受けられますが、受験回数は出願のときに決めて支払う必要があり、あとから変更はできません。

二次はテイスティングで50分。そして、ワインエキスパートに三次試験はありません。ソムリエにはサービス実技と書類審査が続きますが、ワインエキスパートはここで終わります。

それでも、受験者は増えています

興味深いのは受験者数の動きです。ソムリエの受験者は2021年の4,517名から2025年の2,866名へと、5年で4割近く減りました。一方でワインエキスパートは3,490名から3,577名へと、わずかながら増えています。

職業資格としてのソムリエが選ばれにくくなる一方で、愛好家のための入口は細っていない。「意味ない」と言われながら、受ける人は減っていないということです。

理由のひとつは、試験そのものに学ぶ導線が組み込まれていることだと思います。一次から受験する方には、協会の教本が冊子版と電子版で配布されます。電子版には「ワインを識る」という動画教材も付きます。受験料を払った時点で、体系立った教材が手元に届く仕組みになっています。

ワインスクールに通うと、どのくらいかかるのか

私はスクールに通っていません。ですので、ここは公開されている情報を整理してお伝えします。以下は2026年8月時点の各校の公開情報です。

スクール講座受講料回数・期間
アカデミー・デュ・ヴァンワイン入門33,000円全4回・約1ヶ月
アカデミー・デュ・ヴァン総合コース Step-I(通学)179,300円全20回・約5ヶ月
アカデミー・デュ・ヴァン総合コース Step-I(オンライン)140,800円全20回
レコール・デュ・ヴァンStep-I約170,000円全20回(別途 入会金5,500円)

体系的なコースは、全20回・約5ヶ月というのがひとつの型のようです。1日だけのセミナーであれば、平均で8,800円ほどです。ワインエキスパートの勉強時間をどう確保するかは、この期間の取り方でおおよそ決まってきます。

これとは別に、協会に払う実費がかかります。受験料は一般で32,900円、協会員で23,700円。一次から受ける場合、この中に教本代と二次試験の受験料が含まれます。そして合格したあとに、認定登録料が20,950円。ここは見落とされやすいところです。一般の方が一次から受けて一度で合格した場合、32,900円と20,950円で、合計53,850円になります。

大切なのは、スクールに通うことが受験の要件ではないという点です。協会の募集要項に、講座の受講や修了を求める記載はありません。教本は受験者全員に配られます。同じワインの資格でも、イギリスのWSETは全レベルで認定校の講座受講が必須ですので、ここは設計の思想が違います。

ソムリエとの違いは、実務経験があるかどうか

ソムリエワインエキスパート
受験資格満20歳以上満20歳以上
実務経験実働月90時間以上で通算2〜3年不要(職種を問わない)
収入の要件全収入の60%以上をソムリエの職務から得ていることなし
試験一次・二次・三次(実技と書類審査)一次・二次
2025年の合格率19.9%26.4%
協会が想定する対象職業として酒類・飲料に携わる方愛好家

ソムリエとワインエキスパートの違いは、ワインの知識量ではありません。飲食の現場に身を置いているかどうかです。

ですからワインエキスパートは、会社勤めの方でも、まったく別の業界の方でも受けられます。協会も「ソムリエ職種に就かれていて、受験に必要な経験年数に満たない方も受験いただけます」と案内しています。

「格下の資格」と受け取られることがありますが、そうではありません。入口が違うだけだと、私は考えています。

資格を持たない私が、資格を持つ人たちと働いて見えたこと

ここからは、現場の話です。

Na Team Lab では、スタッフの青木がワインエキスパートを持っています。私は持っていません。厨房で火を入れているあいだ、卓のワインは青木や、案件ごとに入ってもらうソムリエが見ています。

出張料理やパーティーの案件では、その日の性格に合わせて、誰に入ってもらうかを決めます。会員制のレストランで長く経験を積んできたソムリエ。WSETのディプロマを持つ方。ソムリエ・エクセレンスの保持者。幅広くつながりがありますので、卓の規模や場の空気に合わせて選ぶことができます。

ここは正直に書いておきます。資格があるから声をかけているわけではありません。見ているのは、その方がどんな卓を経験してきたかです。ただ、資格は「この人が何をどこまで学んできたか」を短い時間で共有するための、共通の目盛りにはなっています。初めて組む相手でも、話が早い。

もうひとつ、資格を持つ方と働いていて感じるのは、言葉の解像度です。同じワインを飲んで、私が「今日は少し閉じている」と言うところを、彼らは温度と酸と時間に分けて説明します。私は料理とワインの設計を9つの原則として言葉にしてきましたが、その言葉が通じる速さが違います。感覚をすり合わせる時間が短くて済むぶん、卓に集中できます。

資格が仕事を運んでくることはありません。けれど、仕事の中で資格が効く瞬間は、確かにあります。

資格がいちばん効くのは、資格保持者どうしの輪の中

もし「資格を取って、いちばん変わるのは何か」と聞かれたら、私は人との関係だと答えます。

資格を持つ方どうしのコミュニティがあり、資格者だからという理由で、その輪に入れてもらえる。この印象は、そばで見ていてかなり強いものです。試験勉強を通じて知り合った方、同じ年に受かった方、同じ協会に属している方。そこで交わされる情報や、声のかかり方が、資格の有無で変わってきます。

これは求人票には書かれない価値です。独占業務がないという指摘は制度のうえでまったく正しいのですが、独占業務がないことと、価値がないことは別の話だと思います。

ワインは一人で飲んで覚えるものではありません。誰かが開けた一本を一緒に飲み、それぞれが感じたことを言葉にして、ずれを確かめる。その繰り返しでしか、舌は育ちません。そう考えると、一緒に飲んで話せる相手が増えることは、ワインを学ぶうえで相当に大きな意味を持ちます。

もし取ったなら、一度、同じ厨房で

ここまで書いておいて受験を勧めないのも妙ですが、勧めません。取るかどうかは、何のために取るのかが決まってからで十分だと思います。

ただ、もし取られたなら、あるいはすでにお持ちなら、一度お会いしたいと思っています。

Na Team Lab は、恵比寿で一日ひと組・八席のレストランを営みながら、出張料理の現場にも出ています。卓の数だけワインの設計があり、そのたびに、ワインを見てくださる方の手を借りています。資格を取られた方が現場に立ってくださるなら、これほど心強いことはありません。

現場のことも、Na Team Lab の仕事の中身も、公式LINEでご案内しています。ワインの話をしに来ていただくだけでも構いません。

まとめ

  • 制度:ワインエキスパートは日本ソムリエ協会の呼称資格。満20歳以上であれば、職種も実務経験も問わず受験できます
  • 「意味ない」と言われる理由:協会自身が職業資格として設計していないこと、独占業務がないこと、取得後が本人任せであることの三つです
  • 難易度:合格率は2021年から2024年が30〜40%台、2025年は26.4%。年によって大きく動きます
  • 費用:一般で受験料32,900円と認定登録料20,950円、合わせて53,850円。スクール通学は受験の要件ではありません
  • ソムリエとの違い:知識量ではなく、飲食の実務経験を求めるかどうかです

ワインエキスパートに意味があるかないかは、資格ではなく、取る方が決めます。資格が運んでくるのは仕事ではありません。同じ言葉でワインを話せる人たちとの、距離です。

よくある質問

ワインエキスパートは何歳から受験できますか?

満20歳以上であれば、職種や実務経験を問わず受験できます。国籍も問われませんが、日本国内に書類の送付先が要ります。年齢の上限はありません。なお上位資格のワインエキスパート・エクセレンスは、満30歳以上かつ認定から5年目以降が条件です。

お酒が強くなくても受験できますか?

受験資格に定められているのは年齢と国籍のみで、飲酒量に関する条件はありません。ただし二次試験は50分のテイスティングで、実際に口に含んで判断する試験です。体質に不安のある方は、日ごろの練習の量を含めて無理のない進め方をお考えください。

一次試験に落ちたら、その年はもう受けられませんか?

一次試験は同じ出願で最大2回まで受験できます。ただし受験回数は出願のときに決めて受験料を支払う必要があり、出願後の変更はできません。1回で申し込んで不合格だった場合、その年度に追加で受けることはできない点にご注意ください。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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