「プロが教えます」。料理教室を探していると、この一行に何度も出会います。
けれど、その一行だけでは何も分かりません。プロという言葉は、資格でも制度でもないからです。料理学校で長く教えてきた方も、十年前まで店にいた方も、今夜も厨房に立つ方も、同じ「プロ」という言葉で紹介されます。
先にお伝えします。シェフに習う料理教室で得られるのは、レシピではありません。「なぜそうするか」という判断の理由です。そして、その理由を持っているかどうかは、肩書きではなく別のところに表れます。
この記事では、料理を教える人の三つの立場を整理したうえで、講師を選ぶときに見るべき三つのことをお伝えします。あわせて、レストランをそのまま教室として使うと何が起きるのかを、恵比寿で教室を開いている側から、包み隠さずお話しします。
結論:シェフに習う料理教室の価値は、レシピではなく「なぜそうするか」を聞けることです。 手順だけなら、本にも動画にも書かれています。現役のシェフに習う意味は、塩をどの段階で入れるのか、火をどこで止めるのか、その判断の理由をその場で聞けることにあります。 講師の肩書きは、教室の中身までは保証しません。見るべきは、今も店に立っているか、教室がその人の店で開かれるか、そしてワインや食材選びの話まで出るか。 Na Team Lab の料理教室は、恵比寿の八席のレストランで、いまも営業に立つシェフ本人が開いています。
具体的な技術は、フレンチのソースと火入れで紹介しています。参加前には、体験レッスンの見方も参考になります。
結論|シェフに習う料理教室の価値は、レシピではなく「なぜそうするか」
現役シェフの料理教室が他と違うのは、レシピの手順ではなく「なぜその順番で、なぜその温度なのか」を、今日も店で料理している人から聞けることです。講師の肩書きより、今も店に立っているか、教室が店で開かれるかを見るのが確実です。
レシピは、悪いものではありません。ただ、レシピというのは結果を書き写したものです。
料理をする人は、鍋の前で何度も味見をしています。そのたびに、次の一手を決めています。塩を足すのか、酸を足すのか、それとももう火を止めるのか。その判断の連続が料理であって、レシピはその結果だけを、分量と時間の形に置き換えたものにすぎません。
だから、レシピ通りに作ってもおいしくならないことがあります。原因は腕でもセンスでもなく、レシピに書かれていない工程が抜け落ちているからです。
シェフに習う料理教室の役割は、この抜け落ちた部分を渡すことにあります。書き写す前の、判断そのもの。それを持っている人から直接聞けるかどうかが、プロが教える料理教室を選ぶ意味です。
料理を教える人には、三つの立場がある

料理を教えている方には、大きく三つの立場があります。優劣の話ではありません。どれを選ぶかで、持ち帰れるものが変わるという話です。
| 立場 | 得意なこと | 向いている方 |
|---|---|---|
| 料理研究家・インストラクター | 家庭の条件に合わせた再現性、手順の整理、教えることそのものの技術 | まず一通り作れるようになりたい方 |
| 元シェフ | 現場で培った技術の体系化、腰を据えた指導 | 技術をひとつずつ積み上げたい方 |
| 現役シェフ | いま店で使っている判断、素材とワインの現在の見立て | 理由を知って応用したい方 |
料理研究家やインストラクターの方が持っているのは、教えることそのものの技術です。何人もの初めての方を通してきた経験があり、どこでつまずくかを知っています。家庭のコンロ、家庭の鍋、家庭の時間に合わせて手順を組み直す力は、現場の料理人にはないものです。
元シェフの方が持っているのは、体系化された技術です。現場を離れたぶん、教えるための言葉を整理する時間があります。落ち着いて、順を追って学びたい方には、この形が合います。
では、現役シェフに習うのと何が違うのか。差は「上手さ」ではなく、判断が今も更新されていることにあります。
今週も店に立っていれば、今の食材の状態を知っています。この時期のこの野菜が水っぽいこと、そのぶんどこで塩を入れるとよいこと。それは去年の知識ではなく、今週の判断です。プロの料理教室を選ぶときに現役かどうかを見る意味は、そこにあります。
講師で選ぶときに見る、三つのこと
とはいえ、募集ページを見ただけでは、その方がどの立場なのかは分かりにくいものです。肩書きの代わりに見られる、三つの手がかりをお伝えします。
今も店に立っているか
いちばん確実なのは、現在形かどうかです。
「元シェフ」「シェフ経験あり」ではなく、今も営業に立っているのか。募集ページやSNSに、教室ではない日の料理が出ているかどうかで、だいたい分かります。
Na Team Lab の料理教室は、私、川原が基本的に担当しています。レストランの営業にも週に四日ほど入っていて、教室のない日は普通に店の厨房にいます。教室で話していることは、その週の営業でそのまま使っている判断です。
教室が、その人の店で開かれるか
二つめは、開催場所です。
貸しスタジオや共用のキッチンで開かれる教室と、その人の店で開かれる教室では、見えるものが変わります。店で開かれる場合、道具も火器も配置も、普段のままだからです。仮設ではない厨房の動き方が、そのまま目の前にあります。
東京でプロの料理教室を探すとき、開催場所がスタジオ名なのか店名なのかは、募集ページで確認できます。レストラン料理教室という形をとっている教室は、それほど多くありません。
ワインや食材選びの話まで出るか
三つめは、料理の外側の話が出るかです。
料理は、鍋の中だけで完結しません。何を買うか、どう合わせて飲むか。そこまで含めて、店の人は毎日判断しています。だから、その話が自然に出てくる教室は、現場の判断が持ち込まれている教室だと考えてよいと思います。
Na Team Lab の教室では、実演する料理それぞれに合うワインをお出ししています。ただ出すのではなく、「なぜ合うのか」を毎回言葉にします。飲まれない方には、ノンアルコールのドリンクをご用意しています。
レストラン料理教室の、実際
ここからは、店をそのまま教室として使うと実際にどうなるのかを、開いている側からお話しします。
定員が八名なのは、店が八席だからです。Na Team Lab は、一日ひと組・八席の完全貸切のレストランです。教室のために別の会場を借りて席を増やす、という発想を取っていません。店の椅子の数が、そのまま定員になっています。
厨房は、営業と同じものを使っています。教室用に何かを持ち込むことはありません。レストランがIHで営業しているので、料理教室もIHで行います。特別な火器を出して、家では使えない技を見せる場ではないということです。
では、営業と教室で何が違うのか。違うのは、食材のほうです。
教室では、仕入れも下処理も料理工程も、すべてスーパーで手に入るもので組み立てています。産地を指定した特別な食材は使いません。その日に見た手順を、次の週末にご自宅で再現していただくためです。設備は店のまま、中身は家の条件に合わせる。この組み合わせが、レストランで教室を開く意味だと考えています。
開催が土日の昼十二時からなのにも、理由があります。ひとつは、夜は予約が入っていることが多く、空いているのが昼だから。もうひとつは、土日のほうが来やすいというお客様の声があったからです。店の営業を止めて教室を開いているわけではなく、店が動いていない時間に開いている、という順序になります。
開催条件をまとめておきます。
- 定員:八名限定
- 時間:土日の昼十二時から、二時間
- 内容:シェフが3品を実演。参加者は包丁を握らない
- 料金:1回6,000円(税込・ドリンク込み)。入会金なし、回数の縛りなし
- 場所:恵比寿 Na Team Lab(恵比寿駅から徒歩約8分)
「理由」が分かると、家の料理はどう変わるか
教室でいちばん多く受ける質問は、塩の量についてです。どれくらい入れたらいいのか分からない。この声が、他のどの質問よりも多く寄せられます。
私がこれに対してお答えしているのは、分量ではありません。味見の段階です。
- 塩を入れる前:素材だけの味。この時点の物足りなさを、舌で覚える
- 塩を入れた瞬間:旨味がぐっと前に出て、味がひとつにまとまる。料理がいちばん変わる瞬間
- 完成形:酸味や甘味が重なり、味に立体感が生まれる
教室では、この変わり目を全員で味見します。同じ鍋を、三回味わうわけです。
分量を覚えて帰った方は、その料理しか作れません。けれど「塩を入れた瞬間に何が起きるか」を舌で覚えて帰った方は、別の料理でも同じ判断ができます。レシピを一つ増やすより、応用が効きます。
リピートしてくださる方が、家で作ったものの写真を見せてくださることがあります。これがとても多くて、私にとってはいちばんうれしい報告です。レシピをお渡ししたからではなく、判断を持ち帰っていただけたということだと思っています。
レシピを覚えることと料理が上達することの関係については、「レシピを覚えるのをやめると、料理は上達する」の記事でより詳しくお話ししています。
恵比寿の店で、現役シェフと
私は、独学の料理人です。誰かの厨房で覚えた手順がないぶん、「なぜおいしくなったのか」を毎回自分の舌で確かめて、言葉にしてきました。出張料理人として年間200件を超える食卓に立ち、ワインは現場で年間およそ2,000種を口にしています。
その言葉を、そのままお渡しするのが、この教室です。
現役のシェフに習いたいというお声は、実際によくいただきます。レストランにお越しいただいた方が、そのまま教室に通ってくださるケースも少なくありません。動機として多いのは、「このシェフが作る料理だから、学びたい」というものです。
三つの軸で見ていただいて、合いそうだと感じられたら、一度いらしてください。持ち物も服装も自由です。ランチを食べに来るような感覚で構いません。
まとめ
シェフに習う料理教室について、整理します。
- 持ち帰るのはレシピではなく理由:なぜその順番か、なぜその温度か。判断そのものを聞ける場です
- 教える人には三つの立場がある:研究家・元シェフ・現役シェフ。優劣ではなく、得意なことが違います
- 見るべきは三点:今も店に立っているか、教室がその人の店で開かれるか、ワインや食材の話まで出るか
- レストランで開く教室は、設備が普段のまま:厨房も火器も営業と同じ。変えているのは食材のほうです
- 理由が分かると、別の料理にも応用が効く:レシピを一つ増やすより、遠回りが少なくて済みます
肩書きは、探すための手がかりにはなります。けれど決め手にはなりません。その人が、今日どこにいるか。見るべきはそこだと、私は考えています。
よくある質問
プロの料理教室は、初めてでも難しくないですか?
参加者は包丁を握らないデモンストレーション型のため、技術の差が出る場面がありません。持ち物も服装も自由で、ランチを召し上がりに来るような感覚でお越しいただけます。塩の量が分からないという段階の方が、実際に多く参加されています。
調理器具は店のものを使うのですか?
実演はシェフが行うため、参加者が道具をご用意いただく必要はありません。使う火器はレストランの営業と同じIHで、食材もすべて近所のスーパーで揃うものです。店の設備でしか作れない料理を見せる場ではなく、家に持ち帰れる形で構成しています。
レシピはもらえますか?
簡易的なレシピをお渡ししています。ただし教室でお伝えしているのは、手順よりも「なぜ美味しくなるのか」という部分です。レシピは補助として持ち帰っていただき、判断の理由のほうを覚えて帰っていただければと考えています。
今日の厨房で使う理由を、そのまま教室へ。
現役のシェフが実演し、味わいながら「なぜそうするか」をお伝えします。家庭へ持ち帰れる判断を学ぶ教室です。
