ワインの棚で、あの細長い瓶を手に取りかけて、戻したことはないでしょうか。「ドイツの瓶に似ているから、きっと甘い」。そう考えて避けてこられた方は少なくないはずです。
けれども、瓶の形は甘さを示していません。アルザスワインの多くは辛口で、しかもフランスでは例外的に、ラベルに品種名が書かれています。 産地名から品種を推測しなければならないほかのフランスの地方に比べて、むしろ選びやすい地方なのです。
結論:アルザスワインは、フランスでは珍しくラベルに品種名を書く、辛口の白が中心の地方のワインです。 リースリング・ゲヴュルツトラミネール・ピノ・グリ・ミュスカの4品種が高貴品種とされ、グラン・クリュに使えます。 細長いフルート型の瓶が目印ですが、瓶の形は甘さを意味しません。 豚肉やシュークルート、香辛料を使う料理と合わせやすいワインです。 甘口のものには、ラベルに専用の表示が付きます。
あわせて、ワインの種類を造り方から知るとラベルから産地を読むもご覧ください。
アルザスワインとは ドイツ国境の、品種で選ぶ地方
アルザスは、フランスの北東部、ライン川を挟んでドイツと接する細長い地方です。
ワイン産地としての特徴は、二つあります。ひとつは、ヴォージュ山脈が西からの雨雲を遮るため、フランスでもっとも雨の少ない産地のひとつになっていること。もうひとつは、北に位置しながら日照に恵まれている点です。
冷涼な気候は、酸の高い繊細なワインを生みます。そこに乾いた日照が加わることで、酸を保ったまま果実が十分に熟します。この組み合わせが、アルザスの白ワインの骨格をつくっています。
そして、ラベルの書き方がほかの地方と逆になっています。
| ほかのフランスの地方 | アルザス | |
|---|---|---|
| ラベルの主役 | 産地名(呼称) | 品種名 |
| 味の推測の仕方 | 産地から品種を引く | 品種をそのまま読む |
| 瓶の形 | 肩のある瓶、なで肩の瓶 | 細長いフルート型 |
歴史的に、この地域はフランスとドイツのあいだで帰属が何度も変わってきました。品種名を表示する慣習は、ドイツ側の流儀に近いものです。ただし、造りの方向は辛口が中心で、ここがドイツとの大きな違いになります。 優劣の話ではなく、表示の仕組みと仕上げの方向が違う、という理解が正確です。
4つの高貴品種

アルザスで栽培される品種は複数ありますが、そのうち4つが「高貴品種」として別格に扱われています。グラン・クリュに使えるのは、この4つです。
| 品種 | 香り | 味わい | 合う料理 |
|---|---|---|---|
| リースリング | 白い花、柑橘、石のようなミネラル | 透明な酸が中心。辛口で輪郭が鋭い | 魚介、酢を使う料理、鶏の白い煮込み |
| ゲヴュルツトラミネール | ライチ、バラ、香辛料 | 香りが華やかで、口当たりはやや丸い | 香辛料のある料理、青カビのチーズ、鴨 |
| ピノ・グリ | 洋梨、熟した果実、燻した香り | 厚みがあり、酸は穏やか | 豚肉、きのこ、クリームを使う料理 |
| ミュスカ | マスカット、花の蜜 | 香りは甘いが、仕上がりは辛口が多い | 生野菜、アスパラガス、食前の一杯 |
この4つのうち、まず覚えるべきはリースリングです。 アルザスの顔であり、透明な酸という性格がもっとも分かりやすく出ます。品種としてのリースリングの全体像、とくにドイツでの甘辛の表示の読み分けはリースリングを扱った記事にまとめています。
次に押さえたいのが、ゲヴュルツトラミネールです。香りの強さが4品種の中で際立っており、グラスに注いだ瞬間に分かります。香りが甘く感じられても、仕上がりは辛口のことが多い。 ここが読み違えやすいところです。
ピノ・グリは、同じぶどうがイタリアではピノ・グリージョと呼ばれ、まったく違う方向に仕上げられます。アルザスのピノ・グリは厚みのある白で、軽快なピノ・グリージョとは別人格です。同じ品種でも産地と造り手が変われば別人格になるという、分かりやすい例のひとつです。
ミュスカは、香りと味の落差がもっとも大きい品種です。マスカットの甘い香りが立ちますが、口に含むと乾いた辛口。食前の一杯に向く理由がここにあります。
AOCの種類 アルザス、グラン・クリュ、クレマン
アルザスの呼称は、大きく三つです。数が少ないため、覚えるのに時間がかかりません。
1. アルザス:地方全体の呼称。品種名を併記するのが基本。日常の一本はここから選びます
2. アルザス・グラン・クリュ:限定された畑の呼称。使えるのは原則として4つの高貴品種で、畑の名前がラベルに入ります
3. クレマン・ダルザス:瓶内で二次発酵させた発泡ワイン。ピノ・ブランなどを使い、価格に対して質の高いものが多くあります
グラン・クリュは、ブルゴーニュと同じく畑を単位とする考え方です。ただしアルザスの場合は、畑の名前と品種名の両方がラベルに現れるため、情報量が多くなります。畑の性格と品種の性格を掛け合わせて読むことになります。
ここでも、一点添えておきます。グラン・クリュであることは、その日の料理に寄り添うことを保証しません。 畑の限定の度合いを示す表示であって、好みの序列ではありません。食卓に合わせる一本を探すときは、品種の性格から入るほうが外しにくくなります。
甘口の表示 ヴァンダンジュ・タルディヴとSGN
アルザスは辛口が中心ですが、甘口もつくられています。そして甘口には、専用の表示が付きます。 この二つを知っていれば、売り場で甘辛を間違えません。
- ヴァンダンジュ・タルディヴ(VT):遅摘み。収穫を遅らせ、樹の上で糖度を上げたぶどうから造ります。やや甘口から甘口
- セレクション・ド・グラン・ノーブル(SGN):貴腐のついた粒を選んで摘んだもの。極甘口になります
逆に言えば、この二つの表示がないアルザスワインは、辛口と考えてほぼ差し支えありません。 細長い瓶を見て甘さを警戒する必要はなく、ラベルのこの一行を確かめれば済みます。
アルザスワインに合う料理
アルザスは、ワインと郷土料理が同じ土地で育ってきた地方です。合わせ方に迷ったときは、まず地元の料理を思い出すと早く決まります。
| 料理 | 向く品種 | 相性の理由 |
|---|---|---|
| シュークルート(塩漬け発酵キャベツと豚肉) | リースリング | 酸と塩気が同じ方向で響き合う |
| タルト・フランベ(薄い生地のクリームとベーコン) | ピノ・グリ、クレマン | 脂を酸が切り、燻した香りが重なる |
| 豚肉のロースト、ソーセージ | ピノ・グリ | 厚みのある白が脂を受け止める |
| 鴨や鶏のテリーヌ | ゲヴュルツトラミネール | 香辛料の香りが互いを引き立てる |
| エスニック料理、カレー | ゲヴュルツトラミネール | 香辛料の方向をワインの香りが受け止める |
| 青カビのチーズ | VT、SGN | 塩気と甘みが互いを引き立てる対比 |
| 魚介、牡蠣 | リースリング | ミネラルと酸が、磯の風味と同じ土地の言葉で話す |
同じ土地で育つものは自然に合う、という考え方があります。シュークルートとリースリングはその代表例です。発酵による酸と、ワインの透明な酸が同じ方向で重なります。
そしてもうひとつ、アルザスが得意とする領域があります。香辛料のある料理です。 ゲヴュルツトラミネールの香りは、ほかのフランスの白では受け止めにくい香辛料の強さと釣り合います。私が料理から逆算して品種を選ぶとき、香りの強い料理に対しては、この品種が候補の上位に来ます。
アルザスの白は、料理の側に歩み寄る力が強い。そう感じる場面が、現場では何度もあります。
会で飲むなら、同じリースリングでアルザスとドイツを並べる
アルザスの性格は、言葉で説明するより並べたほうが速く伝わります。
同じリースリングで、アルザスのものとドイツのものを続けて口に含んでみてください。品種は同じでも、アルザスは辛口に、ドイツはやや甘さを残して仕上げられていることが多く、同じ透明な酸が、別の役割を担っていることが一度で分かります。 別の日に一本ずつ飲んでいては、記憶の中で比べることになり、輪郭がぼやけてしまいます。
Na Team Labでは、毎月テーマを変えてワイン会を企画しています。形式は二つあり、コースとともに六杯をお出しする会と、多めの本数を並べて立食で楽しんでいただく会があります。四色に加えて甘口や泡を並べることもあります。品種を国違いで並べて確かめたい夜であれば、本数の多い立食の形式が向いているかもしれません。
まとめ
アルザスは、フランスの中でも品種名から選びやすい地方です。
- アルザスワインは、ラベルに品種名を表示する、辛口の白が中心の地方のワインです
- ヴォージュ山脈が雨雲を遮るため、雨が少なく日照に恵まれています
- 冷涼な気候が酸を保ち、乾いた日照が果実を熟させます
- 高貴品種はリースリング・ゲヴュルツトラミネール・ピノ・グリ・ミュスカの4つです
- 呼称はアルザス、アルザス・グラン・クリュ、クレマン・ダルザスの三つです
- 甘口にはヴァンダンジュ・タルディヴかSGNの表示が付きます。表示がなければ辛口です
- 細長いフルート型の瓶は産地の目印で、甘さの目印ではありません
- シュークルートや豚肉、香辛料のある料理と合わせやすいワインです
次にあの細長い瓶を見かけたら、ラベルの品種名と、甘口の表示があるかどうかを確かめてみてください。その二行で、瓶の中身はおおよそ読めます。
よくある質問
アルザスに赤ワインはありますか?
あります。ピノ・ノワールが栽培されており、軽やかで酸のある赤に仕上げられます。ただし生産量は白に比べて少なく、日本で見かける機会は限られます。アルザスを選ぶときは、まず白から入るほうが地方の性格をつかみやすくなります。
アルザスワインの甘口と辛口は、どう見分けますか?
ラベルにヴァンダンジュ・タルディヴかSGNの表示があるかを確かめてください。遅摘みを示すのが前者、貴腐のついた粒を選んだものが後者です。どちらの表示もないものは、辛口と考えてほぼ差し支えありません。瓶の形からは甘辛は読めません。
アルザスは、試験でどのように問われますか?
4つの高貴品種と、グラン・クリュに使える品種の対応が中心になります。VTとSGNの違い、クレマン・ダルザスの造り方も押さえておきたいところです。フランスで品種名を表示する例外的な地方だという点が、ほかの地方との比較で問われやすい部分です。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

