出張料理を頼んでみたい。けれど、知らない料理人が家の台所に入って調理をする。

その一点が、どうしても引っかかる。

そう感じる方は少なくないと思います。私自身、依頼を受けるたびに考えていることです。

飲食店であれば、厨房も冷蔵庫もまな板も、すべて自分たちが管理してきたものです。

ところが出張料理の現場では、そのどれもが自分のものではありません。

だからこそ、食中毒予防の三原則という共通のものさしが要ります。

この記事では、三原則の意味を整理したうえで、それを他人の台所でどう守っているかを、

できるだけ具体的にお話しします。出張料理の衛生管理を検討材料にしたい方にも、

ご家庭での食中毒予防の具体例を探している方にも、持ち帰れるものがあるはずです。

SUMMARY

結論:食中毒予防の三原則とは、細菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」の3つです。 つけないは手洗いと器具の使い分け、増やさないは10〜60℃の危険温度帯を避ける保冷と時間の管理、やっつけるは中心温度75℃で1分以上の加熱を指します。 出張料理では、設備が自分のものではありません。まな板が一枚しかない台所では、野菜から肉へと処理の順番を設計し、間に洗浄を挟んで交差汚染を断ちます。 そして私たちは、この三原則に「残った料理をお渡ししない」という四つめの運用を足しています。

厚生労働省が示す三原則を現場へ落とし込む考え方です。営業許可と仕込み場所は出張料理の許可と衛生で解説しています。

食中毒予防の三原則とは「つけない・増やさない・やっつける」

食中毒予防の三原則とは、厚生労働省や各自治体が示している、

食中毒を防ぐための3つの行動指針です。

  • つけない:細菌を食品に付着させない
  • 増やさない:付着してしまった細菌を増やさない
  • やっつける:加熱によって細菌を死滅させる

順番にも意味があります。まず付けないようにする。それでも付いたものは増やさない。

最後に、加熱で仕留める。三段構えで、どこか一つが崩れても全体が破綻しないようにする

これが三原則の設計です。

言葉としては、どなたでもすぐに理解できるものだと思います。

難しいのは、意味ではなく運用のほうです。とくに、自分の厨房ではない場所では。

出張料理の現場では、私たちはこの三原則に、

もうひとつ「持ち帰らせない」という運用を足しています。理由は記事の後半でお話しします。

三原則を、家庭と出張料理で並べてみる

出張料理先の台所で衛生管理を行うシェフ
設備が異なる場所でも、作業順と温度の基準は変えません。

食中毒予防三原則の具体例を、ご家庭の場合と出張料理の場合で並べてみます。

やっていることの骨格は同じです。違うのは、前提となる設備のほうです。

原則防いでいること家庭での具体例出張料理での運用
つけない細菌が食品に移ること手を洗う。肉用と野菜用でまな板を分けるまな板が一枚なら、野菜から肉へ順番を設計し、間に洗浄を挟む
増やさない付いた細菌が増えること買い物のあと寄り道をしない。すぐ冷蔵庫にしまう保冷剤を入れた保冷バッグ。長時間なら冷凍。必要なら移動式冷蔵庫
やっつける残った細菌が生き延びること中心まで火を通す。器具を熱湯にかける中心温度75℃で1分以上。食材にも使えるアルコールで器具を消毒しながら進める

表のいちばん右の列が、この記事でお話ししたいことのすべてです。

ひとつずつ、順に見ていきます。

つけない ― まな板が一枚しかない台所で

「つけない」の代表的な具体例として、どの解説にも書かれているのが

まな板の使い分けです。生肉用と野菜用を分ける。正しい方法だと思います。

ただ、これはまな板が複数あることを前提にした助言です。

出張料理の現場では、その前提がしばしば崩れます。

うかがったお宅にまな板が一枚しかない、ということは珍しくありません。

そのとき私たちは、道具を増やすのではなく、順番のほうを設計します

野菜から肉へ、という順番

まな板が一枚しかないとき、私は次の順番で下処理を進めます。

1. 野菜など、生のままでも食べられるもの

2. 生で食べられる魚介類

3. 火入れをする魚介類

4. 肉

そして、それぞれの段階のあいだに洗浄を挟みます

この並びには理屈があります。リスクの低いものから高いものへ、一方向に進む

逆流させない。こうしておけば、仮に細菌が移動するとしても、

移動先はそのあと加熱工程を通る食材になります。

つまり「つけない」を、道具の数ではなく時間の順序で担保しているわけです。

一枚のまな板が、順番によって四枚分の役割を果たす。

交差汚染を断つというのは、本来こういう考え方なのだと思います。

ご家庭でも、そのまま使える具体例です。まな板を買い足さなくても、

洗い物を一度挟んで順番を守るだけで、防げるものはかなり増えます。

食材にかけられるアルコールを持参する

もうひとつ、現場に持ち込んでいるものがあります。

食材に直接かけても差し支えないアルコール、いわゆる食品添加物アルコール製剤です。

これを使って、器具や作業面を消毒しながら調理を進めます。

一度にまとめて消毒するのではなく、工程の切れ目ごとに手を入れる。

先ほどの「洗浄を挟む」という動作の実体は、これです。

そして、手洗いです。当たり前すぎて書くのがためらわれるほどですが、

出張の現場でいちばん回数の多い動作は、おそらく手を洗うことでしょう。

食材が変わるたび、工程が変わるたびに、水場に戻ります。

増やさない ― 保冷バッグ、冷凍、移動式冷蔵庫

三原則のなかで、出張料理がいちばん神経を使うのが「増やさない」です。

なぜなら、料理が移動するからです。

私たちは、事前の仕込みを恵比寿の自社厨房で行っています。

そこから会場まで、料理は外気にさらされた時間を通過します。

飲食店にはない工程が、出張料理には一つ多いということです。

10〜60℃という、菌が増える帯

細菌が増えやすい温度帯は、一般におよそ10〜60℃とされています

危険温度帯と呼ばれることもあります。

この帯を通過する時間を、できるだけ短くする。

言い換えれば、冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいまま運ぶ

「増やさない」という原則を運搬に翻訳すると、この一行になります。

ご家庭で言えば、買い物の帰りに寄り道をしない、というのと同じ理屈です。

夏の車内に食材を置いておかない。冷蔵庫にしまうまでを短くする。

温度と時間は、掛け算で効いてきます。

運び方は、現場に合わせて決める

実際の運搬は、ひとつの方法に固定していません。会場の条件で使い分けます。

  • 基本:保冷剤を入れた保冷バッグで運ぶ
  • 長時間になる場合:冷凍で対応し、冷凍のまま持ち込めるものは冷凍のまま持ち込む
  • 必要に応じて:移動式の冷蔵庫を使う

移動時間、会場の冷蔵設備、当日の気温。条件は毎回違います。

だから手段を固定せず、その場に合わせて選ぶというのが、私たちのやり方です。

冷凍という選択肢は、少し意外に思われるかもしれません。

けれど、長い移動が避けられないときには、

中途半端に冷やして運ぶよりも、凍らせたまま運ぶほうが温度の管理は素直になります。

やっつける ― 中心温度75℃で1分以上

三原則の最後、「やっつける」は加熱の話です。

ここには、感覚で語ってはいけない領域があります。数値は公的な基準に従います。

厚生労働省は、食肉による食中毒防止のための加熱条件として、

中心部を75℃で1分間加熱することを示しています。

表面ではなく、中心の温度であることが要点です。

厚生労働省が示す、同等の加熱条件

「75℃、1分」と同等の加熱殺菌条件として、次の組み合わせが妥当と考えられるとされています。

中心温度保持時間
75℃1分
70℃3分
69℃4分
68℃5分
67℃8分
66℃11分
65℃15分

同じQ&Aには、調理の現場において

中心温度計を適切に使い、目標とする温度を下回らないことを確認する必要がある、

とも書かれています。私たちも、温度計を使うことを基本にしています。

この表が示しているのは、低い温度で長く火を入れても、殺菌としては成立するということです。

安全と、しっとりした仕上がりは、対立していません。

別途詳しくお話ししています。

新鮮だから安全、ではありません

もうひとつ、伝えておきたい厚生労働省の言葉があります。

鶏肉について「新鮮だから安全」ではありませんと明記されています。

健康な家きんであっても食中毒菌を保有している可能性があり、

食鳥処理の技術でこれらを100%除去することは困難だとされています。

鶏肉は、中心部を75℃以上で1分間以上加熱する。ここに例外はありません。

新鮮な鶏だから半生でもよい、という考え方は事実に基づいていません。

プロの厨房でも、家庭の台所でも、この一点は同じです。

なお、生食用の魚を扱う場合は話が変わります。

ただしそれは、生食用(刺身用)として流通しているものであることが前提です。

その前提が崩れると、寄生虫や食中毒のリスクが生じます。

他人の台所という条件 ― 水回りと、冷蔵まわり

ここからは、私自身の現場の話をさせてください。

出張の依頼をいただいて会場にうかがったとき、私が見ているのは基本的に二点です。

水回りと、冷蔵まわり。この二つが整っていれば、まず問題なく組み立てられます。

年間200件を超える食卓を経験してきて分かったのは、

台所の形は本当にさまざまだということです。

広いキッチンもあれば、シンクが小さいお宅もあります。

パーティールームのように、そもそも設備が最小限という会場もあります。

無いことを前提に、準備していく

では、水回りや冷蔵まわりが十分でなかったらどうするか。

無いことを前提に準備していきます

これが答えです。現地で困ってから対処するのではなく、

事前の確認で足りないものが分かっているなら、

その分を持ち込む側の設計に織り込んでおく。

移動式の冷蔵庫を使う判断も、まな板一枚での順番設計も、この発想から来ています。

設備が足りないから受けられない、ではありません。足りないことを前提に、設計を変える

出張料理の衛生管理とは、突き詰めればこの一言に集約されるのだと思っています。

だから、依頼前のヒアリングで台所のことを細かくうかがうのです。

詮索のためではなく、当日の設計を先に済ませておくためです。

夏に、変えていること

季節によって、料理の組み立て方も変えています。

とくに夏は、設計そのものを変えるという判断をしています。

夏に極力避けているのは、次のようなものです。

  • 生もの
  • 現地で火入れをしないもの(仕込んだ状態のままお出しする料理)
  • 鮮度が落ちやすい魚介類

裏返すと、夏のコースは現地で火を入れる料理に寄せていくことになります。

「やっつける」という原則を、季節に合わせてコース全体に効かせる考え方です。

夏だから出張料理は頼めない、ということではありません。

季節に合わせてコースの設計を変える。それが、私たちの答えです。

料理の楽しさを削るのではなく、安全に成立する組み立てのなかで、

その季節ならではの一夜を作ります。

牡蠣とレバーを、こちらから出さない理由

具体的な食材の話もしておきます。

牡蠣やレバーは、基本的にこちらからご提案していません

細心の注意を要する食材だからです。

どうしても、というご希望をいただいた場合には、

注意を払ったうえでお出しすることもあります。

けれど、こちらから「いかがですか」と差し出すことはしていません。

これは、できる・できないの話ではなく、設計上の判断です。

コースを組むとき、私はまず何を入れるかを考えます。

そのときに、リスクの高い食材を主語にしない。

別の食材で同じだけの感動を作れるなら、そちらを選びます。

料理人としての矜持と、衛生管理は矛盾しません。

制約のなかで最善を組み立てること自体が、設計という仕事だと考えています。

三原則に足している、四つめ ― 持ち帰らせない

最後に、記事の冒頭で予告した四つめの運用についてお話しします。

お出しした料理の残りを、お客様にお渡しすることはしていません。

会が終わり、まだ料理が残っている。

もったいないから明日いただくわ、とおっしゃっていただくことがあります。

そのお気持ちは、料理を作る側としてありがたいものです。

それでも、お渡ししていません。

理由は、三原則のうちの「増やさない」に戻ります。

料理は、私の手を離れた瞬間から温度と時間の管理ができなくなります

どこに置かれるのか。何時間そこにあるのか。翌日どう温め直されるのか。

そのすべてを、私は知ることができません。

つまり、管理できない時間に、料理を渡さない

これが「持ち帰らせない」という運用の中身です。

三原則は、つけない・増やさない・やっつけるの3つで完結しています。

けれど出張料理は、厨房の外で、他人の時間のなかに料理を置いてくる仕事です。

だから私たちは、四つめとして「持ち帰らせない」を足しています。

その場で召し上がっていただくところまでが、一夜の設計だと考えているからです。

依頼する前に、確認できること

ここまで読んでくださった方が、実際に出張料理を検討されるとき、

確認していただける観点を挙げておきます。

  • 食品衛生責任者の資格を持っているか(Na Team Lab では私もスタッフも保有しています)
  • 事前の仕込みを、どこで行っているか(私たちは恵比寿の自社厨房で行っています)
  • 実店舗を構えているか

三つめが、いちばん聞きやすい確認方法だと思います。

店舗を構えているなら、飲食店営業許可を取得している蓋然性が高くなります。

そして、一定の品質を保っていなければ、店を維持し続けることはできません。

店舗の存在そのものが、事業としての実態を示す材料になるということです。

別途詳しくまとめています。あわせてご覧いただければと思います。

苦手な食材やアレルギーについては、ご予約の段階でうかがっています。

重度のアレルギーがある場合、器具を介した混入まで配慮する必要があるためです。

Na Team Lab の出張料理は、

ご自宅やご別邸、パーティールームなどにうかがい、コースを仕立てるかたちで承っています。

台所の設備のことも、季節のことも、まずはそこでお聞かせください。

まとめ

  • 食中毒予防の三原則とは、つけない・増やさない・やっつけるの3つです。三段構えで、どこか一つが崩れても全体が破綻しないようにする設計になっています
  • つけないは、道具の数ではなく順番でも守れます。まな板が一枚なら、野菜から生食の魚介、加熱する魚介、肉へと一方向に進み、間に洗浄を挟みます
  • 増やさないは、10〜60℃の帯を通過する時間を短くすること。保冷バッグ、冷凍、移動式冷蔵庫を現場に合わせて使い分けています
  • やっつけるは、中心温度75℃で1分以上。厚生労働省は65℃15分までを同等条件として示しています。鶏肉は、新鮮だから安全ということはありません
  • 出張料理では、三原則に持ち帰らせないという四つめを足しています。手を離れた料理の温度と時間は、管理できないからです

よくある質問

夏場でも出張料理を頼めますか?

お受けしています。ただし夏は、生ものや現地で火入れをしない料理、鮮度が落ちやすい魚介類を極力避け、その場で火を入れる構成に寄せています。断るのではなく、コースの設計そのものを季節で変えるという考え方をしています。

出張料理で生ものは出してもらえますか?

牡蠣やレバーなど、細心の注意を要する食材は基本的にご提案していません。強いご希望をいただいた場合のみ、注意を払ってお出ししています。生食用として流通している魚を使う料理は、仕入れと提供のタイミングを設計したうえでお出ししています。

アレルギーはいつまでに伝えればよいですか?

できるだけ早くお知らせいただけると助かります。重度のアレルギーがある場合、調理器具を介した混入まで配慮した組み立てが要るためです。当日のお申し出では対応しきれないことがあるため、ご予約の段階で苦手な食材とあわせてうかがっています。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

私たちの理念・会社情報を見る →
掲載実績・参加者の声を見る →


味だけでなく、任せられる工程まで確かめる。

出張料理をご検討中の方は、体験ランチで料理とシェフの対応を1〜8名様で事前にご確認いただけます。

出張料理を頼む前に読む(一覧)

TOP

Na Team Labをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む