料理が苦手です、という言葉を、教室でもよくお聞きします。

そのとき私がお尋ねするのは、どこで苦手だと感じたか、ということです。すると、返ってくる答えがばらけます。買い物から帰ってきた時点でもう疲れている、という方。味が決まらないまま出してしまう、という方。焼いたら中が生だった、という方。そもそも作る気が起きない、という方。

同じ「苦手」という一語で、まったく別のことが起きています。 にもかかわらず、克服の方法を探すときには一緒に扱われてしまう。簡単なレシピから始めましょう、完璧を目指さないようにしましょう、という一般的な助言が刺さらないのは、そのためだと思います。

ですから、最初にやることは練習ではありません。切り分けです。恵比寿で料理教室を開いている立場から、四つに分けて書きます。

SUMMARY

結論:料理の苦手を克服するには、まず「苦手」を四つの原因に切り分けてください。 段取りが組めない、味が決まらない、火入れで失敗する、作る動機がない。この四つは別の問題で、対処もそれぞれ違います。 段取りなら品数を減らし、味付けなら塩味の総量から逆算し、火入れなら強火だけで作るのをやめる。動機の問題なら、誰かのために作る場面を一度つくってみる。 ひとつも当てはめられないまま「苦手」と呼び続けている状態が、いちばん長引きます。

あわせて、料理教室の選び方と初めての料理教室もご覧ください。

「料理が苦手」には、四つの別の問題が混ざっています

教室で見ているつまずきは、おおむね四つに分かれます。

原因よくある状態最初に動かすところ
段取り献立が決まらない。買い物から帰った時点で疲れている品数を減らし、使う道具を減らす
味付け味が決まらない。薄いか、しょっぱいかのどちらかになる塩味の総量を先に決めて、そこから逆算する
火入れ中が生、外は焦げる。レシピの時間どおりでも合わない強火だけで作るのをやめる
動機作れないのではなく、作る気が起きない誰かのために作る場面をつくる

四つのうち、ご自分がどれなのかを決めてから動いてください。ここを飛ばして練習量を増やすと、当たっていない場所をいくら磨いても変わらないという時間が続きます。

四つはひとつずつ性質が違います。段取りは作業設計の問題です。味付けは判断の問題。火入れは技術の問題。動機は、技術とは関係のないところにあります。

とりわけ混同されやすいのは、動機と技術です。作る気が起きないことを腕の問題だと思っていると、練習の方向に向かってしまいます。そこは、別の線の上にあります。

苦手の正体を切り分ける、三つの質問

フライパンのひき肉に刻んだ玉ねぎを加える実写写真
段取りと火入れを一つずつ確かめるための調理写真。料理教室の開催記録ではありません。

自分がどれなのかを決めるために、三つだけ自問してみてください。

ひとつめ。献立が決まっていて、材料も揃っていたら、作れますか。

作れるなら、原因は段取りです。料理そのものではなく、その前段で止まっている。この場合、鍋をひとつ減らすほうが効きます。まな板を使わない料理、フライパン一つでできる料理から入ると、ハードルは下がります。献立と買い物という重い二工程を、誰かと一緒にやってしまうのも手です。この段取りの話は、料理がめんどくさいと感じるときの記事に詳しくまとめました。

ふたつめ。作ったものを食べたとき、何が足りないか言えますか。

言えないなら、原因は味付けです。「なんとなく違う」で止まっているなら、次の一手が決まりません。ここは次の章で書きます。味付け 苦手という自覚のある方は、ほとんどがここです。

みっつめ。同じ料理を、先週も作りましたか。

毎回違うものを作っているなら、原因は火入れに出やすくなります。火加減は料理ごとに違うので、作るものが毎回変われば、判断は毎回ゼロからになる。同じ料理を続けて作ると、火入れと塩加減だけが変数として残るので、そこが見えてきます。

そして、三つとも引っかからないのに台所に立つ気にならないのなら、原因は動機です。これは最後に書きます。

味付けが決まらないのは、塩を「塩」だけで見ているからです

味付けの話を、少し具体的に書きます。

味が決まらない料理は、塩味が足りていないことが多いです。塩が足りないと、素材の旨味が上がってきません。薄い、というより、味がないようなものになります。

逆に入れすぎると、しょっぱくなります。そこで水を足すと、今度はべちゃべちゃになる。入れすぎから水で薄めて二次被害、という流れは、よくあるつまずきです。

ここで見落とされているのは、塩味は塩だけで入るものではないということです。

醤油も、味噌も、塩味です。家庭でよく使う調味料のほとんどに塩味が入っています。ですから「塩を何グラム」で考えていると、合計が見えません。

順番を変えてください。その料理に入る塩味の総量を先に決めて、そこから逆算するのです。塩だけで決めるのか、醤油と味噌も使うのか。総量が決まっていれば、配分は後から選べます。

総量が10だとすると、味見の段階で8か9まで置いておく。残りの1か2を、味見してから決める。こういう組み立て方になります。

塩を抑えられたら、次に見るのは二つです。旨味のベースを何で補っているか。そして、この料理ではどの味を際立たせたいか。酸味を立てたいなら酸味のある食材を中心に、脂のある食材を主役にするなら脇役に酸味か苦味を置く。どこを際立たせて、どこを引くかを決める作業です。

味の組み立て方そのものは、料理の基礎を五つに整理した記事に書きました。

失敗が怖いのは、戻せない失敗を知っているからです

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

料理が苦手な方の多くは、塩を入れる手が止まります。少なめに入れて、足りないまま出す。これを「臆病だから」と自分で責めている方がいらっしゃいます。

けれど、その手の止まり方は正しいのです。

塩と美味しさの関係は、なだらかな坂ではありません。鋭い山を描きます。足りなければ素材の味は立ち上がらず、散漫に終わる。ちょうどよければ、素材の輪郭が立ち上がって、すべての味が調和する。そして過ぎれば、すべてが塩に支配されて、素材の個性が消えます。

問題は、この山の右側です。一度過剰になった塩は、戻すことができません。

砂糖なら足して調整できます。酸味も、重ねて変えられる。けれど塩味は、入れすぎたら引けない。水を足せば量が増えてしまい、別の料理になる。

つまり、塩に慎重になるのは、取り返しのつかない方向を体で知っているからです。苦手意識の正体が臆病さではなく、正しい危険認識だったという話になります。

では、どうするか。基準を一度だけ作ってください。

練習として、小さな鍋でひと皿分だけ、「これは塩辛い」というところまで持っていってみる。そこまで行くと、「塩辛いとはこういうことか」が体に入ります。基準のない状態で少量ずつ足していると、どこがピークなのかいつまでも分かりません。上限を知ってから、そこへ向かって足していくほうが早いのです。

ただし、これは本番の料理でやらないでください。戻せないからです。練習として、一度だけ。

私自身、塩のピークの一点は、毎日鍋の前で探り当てているものです。一度覚えて終わりになるものではありません。だからこそ、基準を持っているかどうかで、迷う時間がまったく変わります。

独学で進めるか、一度だけ人に習うか

ここまで読んで、原因が切り分けられたなら、次は方法の話になります。

独学でも進みます。私自身が独学の料理人です。誰かの厨房で覚えた手順がないぶん、なぜ美味しくなったのかを毎回自分の舌で確かめて、言葉にしてくるしかありませんでした。

ですから、独学では無理だとは申しません。ただ、時間はかかります。

独学で気づきにくいのは、こういう部分です。

  • 塩の量
  • 旨味を何で補うか
  • 余韻の長さの調整
  • なぜこの食材を入れるのか
  • この食材は、どういう理由でこの味に変化したのか

どれも「なぜ」の形をしています。なぜに答えられる人が近くにいないと、紐解いていくのに時間がかかる。そこだけの差です。

目安としては、一年ほど毎月料理を学び、家でも定期的に作っていれば、変わってくると思います。一か月や三か月で別人になる、という話ではありません。

道具は、いま手元にあるもので構いません。料理が好きになって、こだわりたいと思ったときに買えばよいのです。順番としては、好きになる、こだわりたくなる、買う。この向きです。

上達の手順そのものについては、料理が上手くなる順番について書いた記事に整理しました。

もうひとつ、動機の話を置いておきます。私も、自分のために作る料理は、正直あまり面白くありません。 めんどくさいからコンビニの弁当でいいか、となる日もあります。これが、誰かに振る舞う料理になると変わるのです。喜ぶ顔が見たいから、という理由は、技術より強く働きます。

恥をかかない場所から始める

原因が「味付け」や「火入れ」で、独学の時間を短くしたいのなら、一度だけ人に習うという手があります。そのとき、形式を選んでください。

実習型の教室では、自分で手を動かします。身につきやすい形式ですが、できないところが人に見えます。苦手だという自覚がある方には、それが負担になることがあります。

Na Team Lab の料理教室は、デモンストレーション型です。私が3品を実演し、参加される方は見て、味わっていただきます。包丁は握りません。ですから、その場で恥をかく場面がそもそもありません。

はじめは、知識のところからで構いません。「料理はこうしたらいいんだ」という理解から入って、家で試す。その順番でも遅くないのです。

各回8名、1回6,000〜12,000円(税込・ドリンク込み)、入会金なしの1回完結。基本は12時から約2時間で、開催日時と料金は回ごとにご案内します。服装は自由で、持ち物もありません。ランチを召し上がりに来るような感覚で、お越しいただいて構いません。

教室に通われた方から、こういう声をいただきます。レシピ通りに作らなければいけないと思っていた、というものです。根本的な要素を押さえておけば、冷蔵庫にあるもので代替できると分かった、と。家でご家族に振る舞って喜ばれた、というお話も届きます。

開催日程とお申し込みは料理教室のページにございます。ご質問やご相談は公式LINEでも承っております。

まとめ

料理が苦手だという感覚は、才能の話ではありません。四つの別の問題が、一つの言葉にまとまっているだけです。

  • 原因は段取り・味付け・火入れ・動機の四つに分かれます。どれなのかを決めてから動いてください
  • 切り分けには三つの質問が使えます。材料が揃えば作れるか。何が足りないか言えるか。同じ料理を先週も作ったか
  • 味が決まらないのは、塩味の総量を見ていないからです。醤油も味噌も塩味で、先に総量を決めて逆算します
  • 塩に慎重になるのは正しい。一度過剰になった塩は戻せません。だから練習として一度だけ上限を知っておきます
  • 独学でも進みますが、時間はかかります。「なぜ」に答えられる人が近くにいるかどうかの差です

苦手を克服する、という言葉は少し大きすぎるのかもしれません。まずは、どこで手が止まっているのかを一つ決めるところから。それだけで、次に動かす場所が見えてきます。

よくある質問

料理が嫌いでも、苦手は克服できますか?

嫌いという感情と、技術の問題は分けて考えられます。段取り・味付け・火入れのどこでつまずいているかが分かると、対処できる範囲が見えてきます。そのうえで作る場面が負担なら、誰かのために作る機会からつくってみてください。

何品つくれたら、苦手ではなくなるのでしょうか?

品数ではなく、同じ料理を繰り返して火入れと塩加減を自分で決められるようになったかで考えてみてください。ひと皿を最適化できた段階から、冷蔵庫にあるもので代替できるようになっていく、というのが私の見立てです。

料理が苦手でも、料理教室に参加できますか?

形式を選べば参加できます。Na Team Lab の教室はシェフが実演し、参加される方は見て味わう形です。その場で手を動かさないため、できないところを人に見られる場面がありません。知識のところから始めていただけます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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理由まで持ち帰れる、八席の料理教室。

恵比寿の厨房で、塩と火入れを実演と一皿から学べます。

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