スペインワインは、日本では「安い赤」という位置で覚えられていることが多いお酒です。1,000円台の棚で出会い、そのまま印象が固定される。実際には、その上に広い帯があります。

スペインワインを選ぶうえでいちばん役に立つのは、熟成期間がラベルの表示で読めるという点です。 フランスやイタリアが産地の範囲で品質を区切るのに対して、スペインは「何年寝かせたか」を呼称の中に書き込んでいます。読み方を覚えれば、価格に対して何が手に入るかが売り場で判断できます。

SUMMARY

結論:スペインワインの特徴は、熟成期間が法律の表示で担保されていることです。 「レゼルバ」と書かれていれば3年以上の熟成を経たもので、2,000〜3,000円台から選べます。 代表品種はテンプラニーリョで、リオハでは柔らかく、リベラ・デル・ドゥエロでは力強くなります。 白は北西部リアス・バイシャスのアルバリーニョが、酸の立った性格で魚介に合います。

あわせて、ワインの種類を造り方から知ると料理とワインを合わせる手順もご覧ください。

スペインワインの特徴 熟成が表示で分かる

スペインは、ぶどうの栽培面積が世界でもっとも広い国のひとつです。北の大西洋側から、南の乾いた台地、地中海沿岸、そして島まで、気候の幅が大きく、産地ごとに性格が分かれます。

ただ、スペインワインの性格をひとことで言うなら、価格のわりに熟成した味が手に入る、という点に落ち着きます。理由は三つあります。

  • 熟成期間が呼称の表示に組み込まれている。クリアンサ、レゼルバ、グラン・レゼルバという言葉が、樽と瓶で寝かせた年数を示します
  • 樽で寝かせる文化が長い。とくにリオハでは、樽での熟成を経た赤が中心にあります
  • フランスやイタリアの同等品より価格が抑えられている。栽培面積が広く、生産の規模が大きいことが背景にあります

つまり、スペインワインでは「熟成」という手間と時間のかかる要素を、比較的少ない出費で買えるということです。これは他の産地では起こりにくいことです。

もう一つの特徴は、酸と渋みの立ち方です。テンプラニーリョを主体にした赤は、渋みが中程度で、酸も出すぎません。樽由来のバニラや甘い香りが乗ると、口当たりが柔らかくなります。渋みが苦手という方にも入りやすい方向です。

主な産地

牛肉とキノコに濃いソースを添えた料理の実写写真
熟成した赤ワインと、旨味のある肉料理を合わせる一例です。写真のワインの産地は示していません。

まずは五つの産地を押さえると、地図が立ち上がります。

産地場所主な品種味の方向
リオハ北部・エブロ川流域テンプラニーリョ柔らかく、樽の香りが乗る。熟成表示がもっとも整っている
リベラ・デル・ドゥエロ北部・標高の高い台地テンプラニーリョ(ティント・フィノ)色が濃く、力強い。昼夜の寒暖差が大きい
プリオラート北東部・カタルーニャガルナッチャ、カリニェナ粘板岩の斜面。凝縮感が強く、価格帯も上がる
リアス・バイシャス北西部・大西洋側アルバリーニョ酸のはっきりした白。魚介に合う
ヘレス南部・アンダルシアパロミノシェリー。酒精強化ワインの産地

リオハは、スペインワインの入口として分かりやすい産地です。売り場では、同じ造り手のクリアンサとレゼルバが並んで置かれていることも珍しくありません。樽の香りが柔らかく乗った赤が中心です。

リベラ・デル・ドゥエロは、同じテンプラニーリョから別の顔を引き出す産地です。標高が高く、昼と夜の温度差が大きい。その結果、色が濃く、骨格のはっきりした赤が生まれます。リオハと並べると、同じ品種とは思えないほど違います。

プリオラートは、粘板岩の急斜面にある産地です。収量が少なく、凝縮感の強い赤ができます。スペインワインの中では価格帯が上のほうに位置します。

リアス・バイシャスは、雨の多い大西洋側です。アルバリーニョという白ぶどうから、酸のはっきりした白がつくられます。スペインの白を探すなら、まずここから入るのが早道です。

ヘレスは、シェリーの産地です。同じスペインの中でありながら、造りの原理がまったく違います。詳しくは後の章で触れます。

テンプラニーリョとは

テンプラニーリョは、スペインを代表する黒ぶどう品種です。名前は「早い」を意味する言葉から来ていて、他の品種より早く熟すことを指しています。

香りと味の輪郭は、次のようになります。

  • 香り:いちご、プラム、干した果実。熟成すると革、タバコ、ドライフラワーの方向へ伸びる
  • 渋み:中程度。カベルネ・ソーヴィニヨンより穏やか
  • 酸:中程度。食事の脂を流す程度には残る
  • 樽との相性:良い。バニラや甘い香りが乗りやすい

この品種のおもしろさは、土地によって名前まで変わるところです。リオハではテンプラニーリョ、リベラ・デル・ドゥエロではティント・フィノ、他の産地ではティンタ・デル・パイスやセンシベルと呼ばれます。同じDNAが、場所を移るごとに別の呼び名と別の人格を持つ。品種を知ることは、ワインの個性を知ることだという考え方が、ここでよく見える品種です。

熟成表示の見方

スペインワインのラベルには、熟成の段が書かれています。ここが、この国のワインを選ぶうえでいちばん実用的な情報です。

表記熟成の目安読み取れること
ホベン(Joven)熟成の規定なし、または短い収穫から間もない若い味。果実味が前に出る
クリアンサ(Crianza)合計2年以上(うち一定期間は樽)樽の香りが乗り始める。日常の食卓に向く
レゼルバ(Reserva)合計3年以上(うち1年以上は樽)香りに層が出る。週末に料理と合わせる帯
グラン・レゼルバ(Gran Reserva)合計5年以上(うち一定期間は樽)熟成由来の香りが主役になる。生産量は限られる

年数の細部は、呼称ごとに異なります。 リオハのように規定がより厳しい呼称もありますし、産地によって樽の期間の下限が変わります。ですから上の表は、売り場で方向を絞るための目安として使ってください。

ここで押さえておきたいのは、上の段が、いつも口に合うとは限らないということです。グラン・レゼルバは長く寝かせたワインですが、長い熟成は果実味を後ろへ下げます。若い果実の香りが好きな方には、クリアンサのほうが気持ちよく飲めることがあります。イタリアの格付けと同じで、表示は品質の順位ではなく、規定への収まり方を示すものだと考えると読み間違えません。

カヴァとシェリー

スペインには、赤白ロゼとは別の軸に立つワインが二つあります。

カヴァ 瓶の中で二度目の発酵を経た泡

カヴァは、スペインの発泡ワインです。カタルーニャ地方を中心につくられ、マカベオ、パレリャーダ、チャレッロといった土着品種が使われます。

造り方は、瓶の中で二度目の発酵を行う方式です。シャンパーニュと同じ原理ですが、価格は手頃な帯に収まります。 1,500円前後から、しっかりした泡と酸のあるものが選べます。食前の一杯や、油を使った料理との組み合わせに向いています。泡の造り方の違いはシャンパーニュの種類を扱った記事にまとめました。

シェリー 酒精強化という別の原理

シェリーは、南部ヘレスでつくられる酒精強化ワインです。発酵の後にアルコールを加えて度数を上げ、独特の熟成を経ます。

種類は幅があります。フロールと呼ばれる酵母の膜の下で熟成させる辛口のフィノやマンサニーリャ、酸化熟成を経たアモンティリャードやオロロソ、そして甘口のペドロ・ヒメネス。多くのシェリーは辛口です。 「シェリーは甘い」という印象は、甘口のものが日本で先に知られたことによるものだと思われます。

スペインワインに合う料理

スペインワインは、スペイン料理と合わせると迷いません。産地と料理が同じ土地で育っているからです。

料理合わせるスペインワイン理由
生ハム、チョリソクリアンサの赤、辛口のフィノ塩気と脂を、樽の香りか酸が受け止める
魚介のパエリアアルバリーニョ、ロゼ出汁の旨味に、酸のある白が寄り添う
アヒージョカヴァ、酸のある白油とにんにくを泡と酸が流す
ラムの炭火焼きリベラ・デル・ドゥエロの赤脂と香ばしさに、濃い果実味と渋みが釣り合う
トマトと生野菜の料理カヴァ、ロゼ料理側の酸と同じ方向を重ねる
熟成したハードチーズレゼルバの赤、オロロソ塩気と熟成の香りを合わせる

温度の出発点は、軽い白で8〜10℃、樽を経た赤で16〜18℃あたりです。熟成の長いレゼルバやグラン・レゼルバは、冷えていると香りが出てきません。 少し温度を上げるほうが本領が出ます。数値の考え方はワインの適温を扱った記事にまとめています。

会で飲むなら、クリアンサとレゼルバを並べる

熟成が味に何をするのかは、言葉で説明するより並べたほうが速く伝わります。

同じ造り手のクリアンサとレゼルバを続けて口に含んでみてください。品種も畑も同じで、違うのは寝かせた時間だけ。それだけで、果実味が後ろに下がり、香りに層が生まれていく過程が一度で分かります。別の日に一本ずつ飲んでいては、記憶の中で比べることになり、輪郭がぼやけてしまいます。

Na Team Labでは、毎月テーマを変えてワイン会を企画しています。形式は二つあり、コースとともに六杯をお出しする会と、多めの本数を並べて立食で楽しんでいただく会があります。四色に加えて甘口や泡を並べることもあります。熟成の段やシェリーの種類を並べて比べたい夜であれば、本数の多い立食の形式が向いているかもしれません。

まとめ

スペインワインは、熟成という手間を、比較的少ない出費で買える国です。

  • スペインワインの特徴は、熟成期間が呼称の表示で読めることです
  • ホベン、クリアンサ、レゼルバ、グラン・レゼルバの四段。レゼルバなら合計3年以上の熟成です
  • 年数の細部は呼称ごとに異なります。売り場で方向を絞る目安として使ってください
  • 代表品種はテンプラニーリョ。リオハでは柔らかく、リベラ・デル・ドゥエロでは力強くなります
  • 白はリアス・バイシャスのアルバリーニョが、魚介に合う酸を持っています
  • カヴァは瓶内で二度目の発酵を経た泡。シェリーは酒精強化で、多くは辛口です
  • 上の段が口に合うとは限りません。表示は品質の順位ではなく、規定への収まり方です

次に棚の前に立ったときは、産地名と熟成表示の二つだけを読んでみてください。それだけで、選ぶ時間が短くなります。

よくある質問

1,000円台のスペインワインでも大丈夫ですか?

日常の一本としては十分に働きます。この帯はホベンやクリアンサが中心で、果実味が素直で渋みは穏やかです。買ってすぐ飲めるのが利点です。もう一段の深みが欲しいときは、2,000〜3,000円台のレゼルバに上げると、香りの層がはっきり変わります。

シェリーは甘いお酒ですか?

多くは辛口です。フロールという酵母の膜の下で熟成させるフィノやマンサニーリャは、すっきりした辛口で、よく冷やして飲みます。甘口は、ペドロ・ヒメネスなど一部の種類に限られます。日本では甘口のものが先に知られたため、甘いお酒という印象が広まったと考えられます。

サングリアをつくるなら、どのスペインワインがよいですか?

ホベンのような若い赤が向いています。果実や砂糖、炭酸を加えるため、樽の香りや熟成の層は隠れてしまいます。レゼルバやグラン・レゼルバを使うのは、もったいない使い方です。1,000円台の若い赤を選んで、冷やして仕込んでください。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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