同じシャルドネのはずなのに、一方からはバニラやトーストの香りが立ち、もう一方は果実と石のような香りで終わる。この差はどこから来ているのか、と考えたことはないでしょうか。
多くの場合、答えは樽です。バニラのような甘い香りは、ぶどうから来ているわけではありません。 樽の木に由来する香りが、ワインの側に移ったものです。
結論:樽熟成は、オーク樽でワインを寝かせ、樽由来の香りとわずかな酸素による口当たりのまろやかさを同時に加える工程です。 新しい樽ほど香りが強く出て、使い込んだ樽ほど香りは控えめになります。 フレンチオークは繊細で、アメリカンオークは甘く濃い香りが出やすい傾向があります。 樽が小さいほどワインに触れる面積の割合が増えるため、与える影響は大きくなります。 樽を使わないワインと並べて飲むと、樽熟成が何をしているのかが一度で分かります。
あわせて、ワインの種類を造り方から知るとラベルから産地を読むもご覧ください。
樽熟成とは 樽が与える三つのもの
樽熟成とは、発酵を終えたワイン(または発酵中のワイン)をオークの樽に入れ、一定期間寝かせる工程です。そのあいだに、三つのことが同時に起こります。
1. 香りが移る:木に含まれる成分が溶け出し、バニラや焼いたパンのような香りが加わります
2. ごく少量の酸素が入る:木は完全な密閉ではありません。わずかに通る酸素が、渋みの角を丸め、色を安定させます
3. 水分が抜け、成分が締まる:樽の表面からわずかに蒸発が進み、味わいの密度が上がります
このうち、もっとも分かりやすいのが香りです。けれども口当たりへの効き方は、香り以上に飲み心地を左右します。 同じワインでも、樽を経たものは舌の上での当たりが柔らかく、輪郭がなめらかになります。
白ワインの場合、樽の効果はボディにも現れます。樽香が付くとボディ感が増します。 軽やかに感じていた白が、樽を経ることで中程度の厚みを持つようになる。ボディを決める要素の全体像はワインのボディを扱った記事に整理しています。
樽由来の香り

テイスティングで「樽の香り」とまとめて呼ばれるものは、実際にはいくつかの異なる香りの束です。
| 香りの表現 | 主な由来 | 出やすい条件 |
|---|---|---|
| バニラ | 木材に含まれるバニリン | 新樽、焼き加減が軽め |
| トースト、焼いたパン | 内側を焼いたときの焦げ | 焼き加減が中程度から強め |
| ココナッツ、甘い木 | オークの種類による成分差 | アメリカンオーク |
| 丁字、白胡椒のような香辛料 | 木材由来の香気成分 | フレンチオーク |
| スモーク、燻した香り | 強い焼き加減 | 焼き加減が強め |
| カラメル、焦がした砂糖 | 焦げと糖の反応 | 焼き加減が強め |
この表で押さえたいのは、同じ樽でも焼き加減によって出る香りが変わるという点です。樽は組み立てるときに内側を火で焼きます。その焼き方の強さを、造り手が選んでいます。
香りの強さは、色にも現れます。私がワインの色を見るとき、樽の強いアメリカのシャルドネは黄金色に寄り、シャブリのような樽を控えた白は黄金までいかない黄色が中心になります。色の濃さの差が、そのまま樽の強さの差として現れます。 グラスを傾けて縁を見るだけで、口に含む前に見当がつくわけです。見る・嗅ぐ・味わうの手順そのものは、ワインのテイスティングのやり方をまとめた記事に書いています。
新樽と古樽、新樽比率
樽は、使うたびに香りを失っていきます。
一度ワインを入れた樽は、次に使うときには香りの成分が減っています。三度目、四度目になると、香りを与える役割はほとんど終わり、酸素をわずかに通す容器としての役割だけが残ります。 この違いが、新樽と古樽の差です。
- 新樽:香りが強く出る。果実の香りを覆う力もあるため、濃度のあるワインに使われることが多い
- 二度目、三度目の樽:香りは控えめ。酸素の効果を得ながら、果実の香りを残せる
- 古樽:香りはほぼ移らない。寝かせる場所としての役割が中心になる
造り手は、新樽と古樽を組み合わせて使います。全体のうち新樽をどれだけ使ったかを示すのが、新樽比率と呼ばれる考え方です。比率が高ければ樽の香りが前に出て、低ければ果実が前に出ます。
ここで誤解しやすいのが、新樽比率が高いことは品質の高さを意味しないという点です。果実の香りが繊細な品種に強い新樽を合わせれば、ぶどうの個性は隠れてしまいます。樽は素材の輪郭を立ち上げるために使う道具であって、樽そのものを味わわせるための道具ではありません。
フレンチオークとアメリカンオーク
オークの木は、産地によって性質が違います。ワインの樽で主に使われるのは、フランスを中心としたヨーロッパのオークと、アメリカのオークです。
| フレンチオーク | アメリカンオーク | |
|---|---|---|
| 木目 | 細かい | 粗い |
| 香りの出方 | ゆるやかで繊細 | 速く、はっきり |
| 代表的な香り | 香辛料、ロースト、控えめなバニラ | ココナッツ、強いバニラ、甘い木 |
| 渋みへの働き | 細かく締める | 丸くする |
| 向くワイン | 繊細な赤、酸のある白 | 果実感の強い赤、濃厚な白 |
木目の細かさが、香りの出方を決めています。目が細かいほど成分の溶け出しがゆるやかで、ワインと樽の対話に時間がかかります。目が粗ければ、短い期間で香りが移ります。
どちらが優れているという話ではありません。 繊細な赤に強いアメリカンオークを合わせれば香りが勝ちますし、果実の厚いワインに細かなフレンチオークだけを使えば、樽の効果が物足りなく感じられることもあります。造り手は、ぶどうの性格に合わせて木を選んでいます。
樽の大きさと焼き加減
同じオークでも、樽の大きさで効果が変わります。
ワインに触れる木の面積が、容量に対してどれくらいあるか。これが鍵になります。小さい樽はワインの量に対して内側の面積が広く、香りも酸素も速く移ります。大きい樽はその逆で、ゆっくりと穏やかに働きます。
- バリック:ボルドーで使われてきた225Lの樽。小ぶりで、樽の効果がはっきり出ます
- より大きい樽:数百Lから数千Lまで。香りは控えめで、ゆるやかな熟成の場になります
- 大樽:伝統的な産地で使われる大型の木桶。木の香りをほとんど与えず、長い熟成に向きます
イタリアの一部の産地では、同じぶどうをバリックで寝かせるか大樽で寝かせるかで、ワインの性格が大きく分かれます。造りの選択が、そのまま味の方向になる例です。
もうひとつの変数が、先に触れた焼き加減です。樽を組むときに内側を焼く強さを、軽め・中程度・強めから選びます。軽めはバニラが出やすく、強めは燻した香りとカラメルが出やすい。 焼き加減は香りの種類そのものを変えるため、産地や品種の違いと同じくらい効く変数です。
つまり樽熟成には、少なくとも四つの選択があります。木の産地、新樽か古樽か、大きさ、焼き加減。この四つの組み合わせで、香りの設計がつくられています。
樽を使わないワイン
樽を使わない選択も、立派な設計です。果実の香りと酸をそのまま残したいとき、造り手は別の容器を選びます。
| 容器 | 香りへの影響 | 酸素の通し方 | 仕上がりの方向 |
|---|---|---|---|
| ステンレスタンク | なし | ほぼ通さない | 果実と酸が前に出る。輪郭が鋭い |
| コンクリートタンク | なし | ごくわずかに通す | 丸みが出るが、香りは加わらない |
| アンフォラ(素焼きの甕) | ほぼなし | 素材によってわずかに通す | 質感が柔らかく、果実が残る |
| 古樽 | ごくわずか | わずかに通す | 樽香を避けつつ、まろやかさを得る |
シャブリのような冷涼地の白が、樽を使わずに仕上げられることが多いのは、酸と石のような香りを覆いたくないからです。土地の個性を前に出したいときには、容器は黙っているほうが都合がよいわけです。
会で飲むなら、同じ品種で樽あり・なしを並べる
樽の働きは、言葉で説明するより並べたほうが速く伝わります。
同じシャルドネで、樽を使ったものと使っていないものを続けて口に含む。これだけで、樽が何をしているかが一度で分かります。香りの違いだけでなく、舌の上での当たりの違い、余韻の伸び方の違いまで、同時に立ち上がってきます。別の日に一本ずつ飲んでいては、記憶の中で比べることになり、輪郭がぼやけてしまいます。
Na Team Labでは、毎月テーマを変えてワイン会を企画しています。形式は二つあり、コースとともに六杯をお出しする会と、多めの本数を並べて立食で楽しんでいただく会があります。四色に加えて甘口や泡を並べることもあります。樽の効き方を並べて確かめたい夜であれば、本数の多い立食の形式が向いているかもしれません。
まとめ
樽熟成は、香りを足す工程ではなく、香りと酸素と時間を同時に与える工程です。
- 樽熟成では、香りが移り、わずかな酸素が入り、成分が締まるという三つが同時に起こります
- 白ワインでは、樽香が付くとボディ感が増します
- 樽由来の香りは、バニラ・トースト・ココナッツ・燻香など複数の束です
- 新樽ほど香りが強く、使い込むほど控えめになります。新樽比率の高さは品質の高さを意味しません
- フレンチオークは木目が細かく繊細、アメリカンオークは粗くはっきりとした香りが出ます
- 樽が小さいほど効果が速く強く、大きいほど穏やかになります。225Lのバリックが基準です
- 焼き加減が香りの種類を変えます。軽めはバニラ、強めは燻香とカラメルです
- 樽を使わない選択も設計です。ステンレス・コンクリート・アンフォラが使われます
次に白ワインを飲むときは、色の濃さを一度見てから口に含んでみてください。樽熟成の強さは、そこにすでに現れています。
よくある質問
樽熟成のワインは価格が高くなるのですか?
樽そのものに費用がかかり、寝かせる期間のあいだ在庫として抱えることにもなるため、価格に反映されやすくなります。ただし樽を使わないワインにも手のかかるものは多く、樽の有無だけで価格が決まるわけではありません。価格の差は、ぶどうと手間の総量で見るほうが正確です。
樽の香りが苦手な場合、どう選べばよいですか?
冷涼な産地の白、ステンレスタンクで仕上げたもの、裏ラベルに樽の記載がないものを選んでみてください。色の薄いものを選ぶのも手がかりになります。赤であれば、渋みが軽い品種のほうが樽を控えて造られていることが多い傾向にあります。
樽熟成は、試験でどのように問われますか?
樽由来の香りの表現と、その由来の対応が中心になります。フレンチオークとアメリカンオークの性質の違い、バリックの容量も押さえておきたいところです。香りの名前を覚えるより、樽ありと樽なしを並べて飲んで基準をつくるほうが、判定の精度は上がります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

