おでんを囲む夜に、何を飲むか。多くの場合、答えは日本酒かビールになります。ワインが選ばれないのは、味が合わないからではありません。合わせ方が共有されていないからだと思います。
和食にワインを合わせるとき、最初に引っかかるのが出汁です。出汁はうまみが主体で、油脂も香辛料もほとんど使いません。香りで寄せていく手がかりが少なく、どこから組めばいいのか分からなくなります。
けれども、おでんは和食の中でもワインを合わせやすい料理です。理由は、味の構造がはっきりしているからです。うまみと塩気、そして具材ごとの食感。この三つが分かれて並んでいるので、一つずつワインを当てていけます。
この記事では、おでんにワインが合う仕組みを出汁の側から説明し、関東風と関西風の選び分け、具材別の合わせ方まで分解します。食材別のペアリングの総論は食材で選ぶワインペアリングの記事にまとめてありますので、本記事はその中のおでんの章として読んでいただければと思います。
結論:おでんに合うワインは、樽を使わない辛口の白です。 出汁のうまみと塩気を受け止めるのは、甲州やミュスカデ、シャブリのような樽香のない白、ロゼ、スパークリングです。 牛すじや色の濃い関東風なら、マスカット・ベーリーAやピノ・ノワールのような軽い赤も合わせられます。 からしをつける具には、泡で口をリセットすると次の一口が新しくなります。
あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。
おでんにワインは合うのか ― 出汁のうまみという前提
結論から言えば、合います。ただし、合わせられるワインの範囲は狭いです。
おでんの出汁は、うまみの相乗効果でできています。昆布に含まれるグルタミン酸と、かつお節に含まれるイノシン酸。この二つを組み合わせると、単独で使ったときの合計を大きく超える効果が生まれます。研究で示されているのは、組み合わせや濃度に応じた相乗という数字です。
さらに、おでんにはもう一つの要素が加わります。塩です。
私たちは塩をうま味の感じ方を調整するものと考えています。塩が足りなければうまみは眠ったまま、塩が過ぎればうまみは塩辛さの奥に消えてしまう。その狭間にある一点を探り当てたとき、うまみが一気に立ち上がります。おでんの出汁は、長い時間をかけてこのピークに寄せられた液体です。
だからこそ、合わせるワインには条件がつきます。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 樽香がないこと | 樽のバニラやトーストの香りは、出汁のうまみとぶつかります |
| 辛口であること | 残糖があると、出汁の塩気とけんかします |
| 酸がしっかりあること | 具材が続いても口が疲れません |
| 味わいの総量が軽いこと | 出汁より重いワインは、うまみを覆い隠します |
最後の条件が、いちばん大切です。私はペアリングを組むとき、香りで繋ぎ、強度で一歩引くことを基本にしています。香りの方向を合わせたうえで、従う側の味わいの総量をほんの少し下げる。おでんは味わいの総量が軽い料理ですから、ワイン側を一段下げる必要があります。
この条件に当てはまるのが、樽を使わない辛口の白です。甲州、ミュスカデ、シャブリのような造り。そしてロゼとスパークリングも、同じ枠に入ります。
関東風と関西風、出汁の濃さで選び分ける

おでんの出汁は、地域によって濃さと色が変わります。一般に次のように区分されます。
- 関東風 … 濃口醤油を使い、色が濃く、醤油の香りが前に出る
- 関西風 … 昆布と薄口の調味で、色が淡く、うまみが前に出る
ワインの選び方も、ここで分かれます。
| 出汁のタイプ | 合わせやすいワイン | 考え方 |
|---|---|---|
| 関西風(淡い) | 甲州、ミュスカデ、シャブリ、辛口ロゼ | うまみに同調させる。香りの弱い白のほうがよく合います |
| 関東風(濃い) | 樽のない厚みのある白、軽い赤、泡 | 醤油の香りに厚みがあるので、ワイン側も少し厚みを持てます |
関東風に軽い赤を合わせられるのは、醤油の香ばしさと赤ワインの樹液感が同じ方向を向くからです。ペアリングの同調という考え方で、肉のスープとピノ・ノワールが合う理屈と同じです。
ただし、ここでも強度の条件は変わりません。合わせるなら渋みの穏やかな軽い赤です。タンニンの強い濃い赤を持ってくると、出汁の繊細なうまみが渋みの奥に隠れてしまいます。
温度の目安も添えておきます。あくまで出発点で、口にして感じた違和感から動かしてください。
- スパークリング … 6〜8℃
- 軽い白(甲州など) … 8〜10℃
- 軽い赤 … 13〜15℃
温度を2℃下げると酸とタンニンが立ち、2℃上げると香りと甘みが出ます。この傾向を参考に味見すれば現場で直せます。詳しくはワインの適温の記事をご覧ください。
具材別の合わせ方
おでんの面白さは、同じ出汁の中に性格の違う具材が並んでいることです。合わせ方も、具材ごとに変わります。
| 具材 | 味わいの性格 | 合わせたいワイン | 理由 |
|---|---|---|---|
| 大根 | 出汁を吸って、うまみと甘みが主役 | 樽のない辛口の白 | 出汁そのものと向き合う具材。うまみに同調させます |
| 卵 | 黄身の脂質とまろやかさ | 泡、辛口ロゼ | 黄身のまろやかさを、泡の酸が切り替えます |
| 練り物(ちくわ・はんぺん) | 魚のすり身のうまみと塩気 | 甲州、ミュスカデ | 魚介のうまみ同士で方向が揃います |
| こんにゃく・しらたき | 味は淡く、食感が主役 | 泡 | 味を足すより、口の中の温度と質感を変えるほうが効きます |
| 牛すじ | 脂とゼラチン質、イノシン酸が濃い | 軽い赤、厚みのある白 | 唯一、赤を迎えられる具材。脂を酸で流します |
| がんもどき・厚揚げ | 油揚げの香ばしさと油分 | 酸のしっかりした白、泡 | 油分には酸を当てて口をリセットします |
| からしをつけた具 | 辛みが鼻へ抜ける | 泡 | 辛みが残るところを、泡で一度洗い流します |
この表には、二つの原則が交互に出てきます。
うまみには同調を当てています。出汁のうまみと、魚介や昆布のうまみを持つ白ワインを重ねると、同じ方向の味が響き合って一つの輪郭になります。
脂と辛みには対比を当てています。脂をワインの酸でリセットすると、次の一口が新しく感じられる。これは単なる相殺ではなく、互いを引き立たせる関係です。ペアリングの対比の章で詳しく扱っている考え方です。
もう一つ、道具の話を添えておきます。おでんのような繊細な料理では、グラスを小さめにするという手が使えます。ボウルの小さいグラスはワインを締め、酸と果実の輪郭を立てます。逆に大きいグラスは香りを開かせるので、出汁より前に出てしまいます。グラスは注いだ瞬間に効く、いちばん速い調整手段です。詳しくはワイングラスの種類の記事をご覧ください。
日本ワインとの組み合わせ ― 甲州とマスカット・ベーリーA
おでんに合わせる一本を選ぶなら、日本ワインは有力な候補です。
私たちは山梨のワイナリーと組んだメーカーズディナーやランチを、これまで何度も行ってきました。ペアリングを担当したワイナリーには、マルスワイナリーとルミエールがあります。いずれも甲州を含んだ構成で組みました。
そこで分かったことを、そのままお伝えします。
甲州は、軽やかで飲みやすい品種です。 メーカーズディナーでは甲州が何種類も並んだため、前菜から軽めの魚料理、カルパッチョのような皿に合わせて出しました。この配置には理由があります。
甲州は、バター感が強い魚料理に合わせると良さが消えます。肉料理でも同じです。 軽めの料理に合わせることが、この品種を活かす条件になります。
この性質が、おでんと噛み合います。おでんは油脂が少なく、味わいの総量が軽い料理です。甲州の軽やかさが負けません。山梨は甲州とマスカット・ベーリーAが有名で、両方を扱う生産者もありますが、品種構成はワイナリーごとに異なります。牛すじや関東風の濃い出汁に赤を合わせたいときは、マスカット・ベーリーAが選びやすい一本です。
甲州は、シュール・リーやオレンジワインなど、いろいろなスタイルになる品種でもあります。澱とともに置くシュール・リーは、うまみと厚みが増す造りです。出汁のうまみに同調させたいときは、この造りが効きます。
品種そのものについては甲州の記事、マスカット・ベーリーAの記事、造りについてはシュール・リーの記事に詳しく書いています。
出汁の料理にワインを合わせるとき、私が見ているもの
私は、赤ワインの煮込みを作るときに昆布を入れることがあります。
ソースのベースは赤ワインです。それでも、旨味の土台は野菜と昆布と肉という三つで組みます。フレンチの煮込みでありながら、旨味の構造は和食の出汁とまったく同じ組み立て方になっています。
和食とフレンチは遠いものに見えますが、旨味の側から見ると同じことをしています。グルタミン酸を持つ昆布と野菜、イノシン酸を持つ肉。この二つを重ねて、塩でピークを探す。和食とフレンチは、使う食材と火入れが違うだけで、旨味の設計図は共通しています。
だから、出汁の料理にワインが合わないということはありません。合わないのは、出汁と喧嘩するワインを選んだときです。
私がペアリングを組むときの手順は、いつも同じです。目の前のワインから香りを三つ取り出し、その香りを実在する食材に置き換え、そこから連想を広げて、複数の連想に共通して出てきた食材を皿の主役に据える。品種名が分からなくても、香りが三つ取れれば皿は組めます。
おでんに当てるなら、順番は逆になります。すでに皿が決まっているので、出汁の側から香りを三つ取ります。昆布の磯の香り、かつお節の燻した香り、醤油の香ばしさ。この三つに共通して手を繋げるワインを探すと、磯の香りを持つ白にたどり着きます。海の近くで育った品種、澱とともに置かれた白、そして甲州です。
ペアリングを外すときは、感覚が悪かったのではなく、どこかの工程を飛ばしています。香りは合うのに繋がらないなら強度の見積もり違い、一点は合うのに全体が散らかるなら共通項を取っていない。原因が工程に紐づくので、戻る場所が分かります。手順そのものはペアリングの組み立て方の記事にまとめました。
冬の和食とワインを、囲んでみる
おでんとワインの相性は、一杯では分かりません。二杯並べたときに、はじめて違いが見えます。
同じ大根に、樽のない白と樽の効いた白を当ててみてください。前者は出汁の甘みを伸ばし、後者は出汁の輪郭をぼかします。この差は、説明を読むより口で確かめたほうが速く身につきます。
Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。コース形式では料理とともに6杯を、立食形式では10本から15本を並べて、ビュッフェ形式の料理を囲みながら開いています。しっかり料理を味わいたい方にはコース形式、交流も楽しみたい方には立食形式をおすすめしています。
開催は19時から21時30分のパターンが多く、土日も平日もあります。これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。会の最初に自己紹介の時間を設けているので、はじめての方でも言葉を交わしやすい形になっています。参加者は30代から40代の方が多く、60代の方もいて年齢の幅は広く、男女比はおよそ1対1です。
ご自宅で冬の和食とワインを合わせたいという場合は、出張料理でもお受けしています。食材・器・グラス・カトラリーを一式持参し、コースとワインを合わせて設計します。日程やテーマについてのご相談は、公式LINEにて承っています。
まとめ
おでんとワインは、出汁の構造から考えると素直に組めます。
- おでんに合うワインは、樽香がなく、辛口で、酸があり、味わいの総量が軽い白です
- 出汁のうまみは、昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸の相乗で、組み合わせや濃度に応じた相乗の効果になります
- 関西風の淡い出汁には甲州やミュスカデ、関東風の濃い出汁には厚みのある白や軽い赤が合わせやすいです
- 大根と練り物には同調、卵と牛すじとからしには対比を当てると、具材ごとに寄せ方が決まります
- 甲州は軽めの料理に合わせることが条件の品種で、油脂の少ないおでんとは相性がよい組み合わせです
次におでんを囲む夜は、日本酒の隣に白ワインを一本置いてみてください。出汁が、別の表情を見せると思います。
よくある質問
コンビニのおでんでもワインは合いますか?
合わせ方は同じです。出汁のうまみと塩気が中心という構造は変わりませんので、樽を使わない辛口の白か、スパークリングから始めてみてください。持ち帰って家で食べる場合は出汁が濃くなりがちなので、酸のしっかりした一本を選ぶと重たくなりません。
おでんに合わせるなら、燗酒とどう違いますか?
燗酒はうまみを重ねて温度でまとめる方向、ワインは酸で口を切り替える方向だと考えています。同じ出汁に対して、片方は寄り添い、片方は輪郭を立てます。どちらが正解ということはなく、具材が続くときは酸のある側があると食べ疲れしにくくなります。
おでんに赤ワインは合わないのでしょうか?
合わないわけではありません。牛すじや色の濃い関東風の出汁であれば、渋みの穏やかな軽い赤が寄り添います。避けたいのは、タンニンの強い濃い赤です。出汁の繊細なうまみが渋みの奥に隠れてしまい、どちらの味も立たなくなります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

