会食の席で、ワインを一口飲んだあとに「おいしいですね」と言って、そこから続かない。ワインの感想を聞かれて、何と答えればいいか分からず黙ってしまう。そんな経験はないでしょうか。

ワインの味の表現が難しく見えるのは、ソムリエの言葉を手本にしてしまうからだと思います。「石を思わせるミネラル感」「鉛筆の芯のようなニュアンス」。ああいう言い方を目指すと、途端に手が止まります。

けれども、現場で求められているのはそこではありません。私はレストランで、お客様の知識に合わせて言葉の粒度を変えています。ワインに詳しい方にはワインの用語を使い、品種もあまりご存じないという方には「こういう品種があって」という細かなところから説明します。大切なのは正確さではなく、相手に届くかどうかです。

この記事では、ワインの味の表現を四つの軸に整理し、香りの例えの一覧、味わいの言葉の意味と例文、料理に例えて伝える方法、そして「おいしい」の次に言える一言を、料理をつくる側からお話しします。

SUMMARY

結論:ワインの味の表現は、香り・味わい・重さ・余韻の四つを順に言えば足ります。 香りは何の果物や花に似ているか、味わいは甘いか酸っぱいか渋いか、重さは軽いか重いか、余韻は長いか短いか。 専門用語を増やすよりも、「熟したいちごの香り」「レモンのような酸」「焼き魚に合いそう」と、身近な果物や料理に例えたほうが相手に伝わります。 ワインの味の表現は、正しさを競うものではなく、同じグラスを前にした相手と感覚を共有するための道具です。

あわせて、造り方からワインを知るとラベルの読み方を知るもご覧ください。

ワインの味の表現は、四つの軸で足りる

覚える軸は四つです。この順に言えば、感想として成立します。

1. 香り … 何の果物、花、香辛料に似ているか

2. 味わい … 甘いか、酸っぱいか、渋いか

3. 重さ … 軽いか、重いか

4. 余韻 … 飲み込んだあと、香りが長く残るか、すぐ消えるか

この四つが、ワインを語るときの骨組みです。プロのテイスティングも、外観・香り・味わいという順で観察していきます。順番が決まっていると、言葉を探す時間が減ります。

もう一つ、押さえておきたいことがあります。言葉を固定することです。 同じ感覚に毎回違う言葉を当てていると、記録も記憶も積み上がりません。「酸が高い」「渋みは中くらい」のように、自分のなかで決まった言い方を用意しておくと、二杯目以降の比較が楽になります。

テイスティングの手順そのものについては、ワインテイスティングのやり方の記事で詳しく扱っています。本記事では、そこから「感想を言葉にする」部分だけを取り出して扱います。

香りの例えは、台所にあるものから探す

グラスの赤ワインと料理を前にした参加者の実写写真
グラスを前に感じたことを言葉にする場面の一例です。

香りの言葉は、覚えるより「どの引き出しを開けるか」を知っておくほうが早いものです。果実、花や植物、香辛料や樽。この三つの引き出しから探します。

果実花・植物香辛料・樽
白レモン、グレープフルーツ、青りんご、白桃、トロピカルフルーツ白い花、青草、ハーブバニラ、ナッツ、トースト
赤いちご、ラズベリー、カシス、プルーンすみれ、杉、土黒胡椒、シナモン、ココア

使い方は単純です。嗅いだときに浮かんだものを、この表のどれかに当てはめます。「なんとなく爽やかな感じ」で止まっていたものが、「レモンに近い」と言えた瞬間に、相手にも伝わる情報になります。

ここで一つ、見分けの手がかりをお伝えします。バニラ、ナッツ、トースト、ココナッツのような香りは、果実からは出てきません。樽の由来です。 この三つが取れたら「樽を使っていそうですね」と言えます。白ワインは、樽の香りがつくとボディ感が増します。色にも出ます。樽の強いワインは黄金色に寄り、樽を使わない造りは黄金までいかない黄色が中心になります。

香りは、二度に分けて嗅ぐと情報が増えます。まずグラスを回さずに嗅ぎ、それからグラスを回してもう一度嗅ぐ。この二回のあいだで香りがどう変わるかが、そのワインの開き方です。回す前から香りが立っていれば、すでに開いています。回してようやく出てくるなら、まだ閉じています。「まだ閉じている感じがします」という一言も、立派な感想です。

味わいの言葉と、その意味

味わいの言葉は、数が少ないのに誤解されやすいものです。意味と例文を並べておきます。

言葉何を指しているか例文
辛口甘さが残っていないこと「しっかり辛口で、後味に甘さが残りませんね」
酸酸の量と鋭さ「レモンのような酸が立っていますね」
渋み口の中の乾きとざらつき「渋みは穏やかで、ざらつきません」
ボディ口の中で感じる重さ「軽すぎず重すぎず、どんな料理にも合いそうです」
余韻飲み込んだあとに残る長さ「余韻が長くて、しばらく香りが残りますね」

二つ、補足します。

辛口は「辛い」ではありません。 甘さが残っていない、という意味です。料理の辛さとは無関係なので、はじめは引っかかりやすい言葉です。

ボディは、軽い・重いの一軸で足ります。 ミディアムボディとは、軽すぎず重すぎず、どんな食事にも合わせやすいという感覚のことです。品種と産地の二つが分かれば、だいたい狙って選べます。白ワインでも、冷涼な産地より温暖な産地のほうがボディは増し、樽の香りがつくとさらに厚みが出ます。ボディの考え方はワインのボディの記事に整理しました。

料理に例えると、いちばん伝わる

ここが、料理をつくる側から申し上げたいところです。

ワインの感想は、料理に例えると急に伝わるようになります。

「レモンのような酸が立っています」で止めるのではなく、「この酸なら、レモンを搾った焼き魚に合いそうです」と続ける。すると、相手の頭のなかに食卓が浮かびます。味の情報が、使い道に変わるのです。

同じことが、重さにも余韻にも言えます。

  • 酸が立っている → 「後味を切ってくれるので、揚げ物に合いそうです」
  • 渋みがしっかりある → 「脂のある肉と合わせたくなりますね」
  • 余韻が長い → 「ソースが濃い料理に負けなさそうです」
  • 余韻が短い → 「さっぱりした前菜と並べたいですね」

余韻の長さは、私が実際に皿を決めるときの判断材料にしています。ワインの余韻が長ければ、料理側でバターや糖分を増やして余韻を伸ばします。余韻が短ければ、酸味をきかせて料理の余韻も短く揃えます。ワインの余韻の長さに、料理の余韻の長さを合わせにいくという考え方です。

ここまで言えるようになると、ワインの感想は「評価」ではなく「提案」になります。評価は正解を求められますが、提案には正解がありません。言いやすさが、まるで変わります。

香りを三つ取れれば、皿は決まる

私はワインの資格を持っていません。現場では、資格を持つソムリエに入ってもらい、案件の性格に合わせて人を替えています。それでも、毎日ワインを嗅いで、料理の側から判断を下しています。

そこで分かったことがあります。利き当てとペアリングは、別の技術です。 品種名が分からなくても、香りが三つ取れていれば皿は組めます。逆に、品種名を即答できても、香りを言葉にしていなければ皿は決まりません。

私が実際にやっている手順は四つです。香りを主要な三つに絞り、それぞれを実在の食材に置き換え、そこから連想を広げ、複数の連想に共通して出てくる食材を主役に据える。

シャブリであれば、レモン、潮やヨード、青りんごの三つが取れます。これを食材に置き換えると、レモン、海苔、青りんご。レモンからは牡蠣や貝や白身魚、海苔からは牡蠣や貝やきゅうり、青りんごからはセロリや豚が出てきます。レモンと海苔の両方から出てきたのが牡蠣です。だから主役は牡蠣になり、生牡蠣に海苔とレモンのジュレを合わせ、青りんごをすりおろして添える一皿が決まります。

熟成した赤であれば、きのこ、ドライフルーツ、紅茶。干し椎茸、プルーン、紅茶に置き換えると、三つすべての連想から熟成肉が出てきます。干し椎茸のソースと、プルーンと紅茶のジュを合わせた熟成牛のロースト。干す、煮出す、煮詰めるという時間の要素だけで組んだ一皿です。

この手順は、香りが二つしか取れなくても機能します。分岐を一つ通るたびに、料理側への指示が一つ確定していくからです。組み立て方の詳細は、ペアリングの組み立て方をまとめた記事に書きました。

つまり、香りを言葉にすることは、趣味の作法ではありません。料理を決めるための実務です。表現を覚える意味は、そこにあると考えています。

「おいしい」の次に言える一言

実際の場で使える一言を、そのまま並べておきます。覚えるというより、どれか一つを手元に置いておく感覚でご覧ください。

  • 「香りがいちごみたいですね」
  • 「酸がきれいで、後味が切れますね」
  • 「これは焼き魚に合いそうです」
  • 「さっきの一杯より、こちらのほうが軽いですね」
  • 「余韻が長いですね。しばらく残ります」
  • 「まだ少し閉じている感じがします」
  • 「樽の香りがありますね。バニラのような」

どれも、専門用語を使っていません。それでいて、四つの軸のどれかに触れています。

一つだけコツがあります。比べる相手を置くと、言葉が出やすくなります。 「さっきの一杯より軽い」は、一杯だけでは言えません。二杯目があるから言えます。感想が出てこないときは、語彙が足りないのではなく、比べる相手がいないことが多いものです。

言葉は、人と飲んで覚える

ワインの表現は、本を読んで増えるものではないと感じています。言った瞬間に、相手の反応が返ってくる場でしか定着しません。

一人で飲んでいると、感想は頭のなかで完結します。言葉にする必要がないので、曖昧なままでも通ってしまいます。人の前で言うと、そこで初めて「これは本当にいちごだろうか」と問い直すことになります。その問い直しが、語彙を精度に変えていきます。

もう一つ、人と飲む場には利点があります。比べる相手が同じ卓の上にあることです。 一本開けて一品種、翌日にもう一本という進め方では、比較は記憶のなかでしか起きません。何本かが同時に並べば、「こちらのほうが軽い」「こちらは樽がある」と、その場で言葉が出てきます。

Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。1回あたり6本から15本を並べ、品種別・年代別・産地別のように共通点を作って飲み比べる形を基本にしています。コース形式では7品ほどの料理とともに、ビュッフェ形式では10品ほどを囲みながら、8名から30名ほどの規模で開いています。

共通点を作って並べると、「ここまで味わいが違うのか」という驚きが生まれます。その驚きが出た瞬間に、人は自然と言葉を探し始めます。並べ方の設計については、飲み比べは一つだけ変えるという記事にまとめました。

これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。会の最初に自己紹介の時間を設けているので、はじめての方でも言葉を交わしやすい形になっています。

まとめ

ワインの味の表現は、語彙の量ではなく、軸の数で決まります。

  • ワインの味の表現は、香り・味わい・重さ・余韻の四つの軸を順に言えば足ります
  • 香りは果実・花や植物・香辛料や樽の三つの引き出しから探します。バニラやトーストは樽の由来です
  • 辛口は「辛い」ではなく「甘さが残っていない」こと。ボディは軽い・重いの一軸で足ります
  • 料理に例えると、感想は評価ではなく提案に変わり、言いやすくなります
  • 言葉は人と飲む場で定着します。比べる相手が卓の上にあると、表現は自然に出てきます

次の一杯では、まず果物の名前を一つだけ探してみてください。それが言えたら、その果物に合う料理を一つ思い浮かべる。これで感想は二つ続きます。

よくある質問

間違った表現をしてしまったら恥ずかしくないでしょうか?

ワインの感想に正解はありません。同じ一杯から違う香りを取る方がいるのは、日常的なことです。むしろ「いちごに感じました」と具体を出していただけると、こちらも「では赤い果実の系統を取られたのですね」と受け取れます。曖昧なままより、言い切ったほうが会話は続きます。

ソムリエの表現は、なぜあんなに独特なのでしょうか?

共通の語彙で正確に伝え合うための専門用語だからです。同業者のあいだでは誤解が少なく、情報量も多くなります。ただし、同じ言葉を会食の席に持ち込むと距離が生まれます。相手の知識に合わせて言葉の粒度を変えるのが、本来の使い方だと考えています。

試験で求められる表現とは違うのでしょうか?

目的が違います。ワインエキスパートの二次試験などでは、用意された用語から表現を選ぶ形式が取られます。日常の感想と違って、決められた語彙のなかで答える必要があります。試験に向けた練習をされる方は、日頃から同じ語彙で記録しておくと、本番で言葉を探す時間が減ります。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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