いろいろなワインを少しずつ試して、違いを知りたい。そう思って店を調べ始めると、出てくるのは飲み放題のプランばかりではないでしょうか。
東京でワインの飲み比べができる場所は、実のところ五つに分かれています。飲み放題の店、ワインバーのフライト、ワインショップの有料試飲、試飲会、そして少人数のワイン会です。どれも「複数のワインを飲む」という点では同じですが、一杯の量も、一度に試せる種類の数も、違いの分かりやすさも、まるで違います。
そして、ここがいちばん大事なところですが、たくさん飲むことと、違いが分かることは別のことです。十種類を順番に飲んでも、条件が揃っていなければ記憶には残りません。逆に、二杯だけでも並べ方が整っていれば、違いは体に残ります。
この記事では、東京でワインを飲み比べる五つの場所を目的別に比べ、そのうえで「違いが分かる飲み比べ」にするための並べ方を、料理をつくる側からお話しします。
結論:東京でワインを飲み比べるなら、場所は五つあります。 量を楽しみたいなら飲み放題の店、気軽に三種類ほど試すならワインバーのフライト、買う前に確かめたいならワインショップの有料試飲や試飲会が向きます。 違いをはっきり知りたい方に向くのは、テーマを決めて同じ品種や産地違いを並べる、少人数のワイン会です。 ワインの飲み比べは、本数ではなく並べ方で決まります。条件を一つだけ変えて並べると、違いははっきり立ち上がります。
あわせて、造り方からワインを知るとラベルの読み方を知るもご覧ください。
東京でワインを飲み比べる五つの方法
まず、全体を一度に見渡しておきます。
| 場所 | 料金の考え方 | 一杯の量 | 一度に試せる種類 | 違いの分かりやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 飲み放題の店 | 時間に対する定額 | 通常の一杯 | 店の品揃え次第 | 条件が揃わないため分かりにくい |
| ワインバーのフライト | 数種類のセット料金 | 少なめに注がれる | 三種類前後 | 分かりやすい |
| ワインショップの有料試飲 | 一杯ごとの料金 | ごく少量 | 一〜数種類 | 買う前の確認には足りる |
| 試飲会 | 入場料 | ごく少量 | 数十種類 | 数が多く、印象が埋もれやすい |
| 少人数のワイン会 | 会費 | テーマに沿って複数杯 | 会の設計によって決まる | もっとも分かりやすい |
五つを分けているのは、価格ではありません。「誰が並べ方を決めているか」です。
飲み放題と試飲会では、並びを決めるのは店や主催者の品揃えで、飲む順番は自分で決めます。フライトと有料試飲では、店があらかじめ組んだ三種類ほどの並びに乗ります。ワイン会では、その日のテーマが先にあり、並びはテーマから逆算して組まれています。
違いが分かりやすいのは、並べ方に意図がある場所です。順に見ていきます。
飲み放題の店が向く人と、注意したいこと

グラスワインが時間内で自由に飲めるタイプの店は、東京にたくさんあります。気の合う相手と長く話しながら、いろいろな色を少しずつ試したいときには向いています。
注意したいのは、三つあります。
- 一杯が通常の量で注がれるため、種類を増やすほど飲む総量が増えていきます
- 品揃えが日によって変わる店もあり、比べたい二本が同時に並ばないことがあります
- 同じグラスが使い回されると、前の一杯の香りが残ります
三つめは見落とされがちです。グラスが変わると、同じワインの味が変わります。ボウルの大きさで香りの広がり方が決まり、飲み口のすぼまり方で、ワインが舌のどこに落ちるかが変わるためです。前方に落ちれば甘みと果実が先に来て、中央から奥に落ちれば酸と渋みが立ちます。この話はグラスの形とワインの関係をまとめた記事で詳しく扱っています。
飲み放題は「量を楽しむ」場として選ぶと、満足度が高くなります。違いを知る目的で使うなら、比べたい二杯を同時に手元に置ける店かどうかを先に確かめておくとよいでしょう。
ワインバーのフライトは、三種類で足りる
フライトとは、少量ずつ注いだ数種類のワインをセットで出す形式です。飲み比べセットという名前で出している店もあります。
東京のワインバーでは、このフライトを置いている店が増えてきました。一杯が少なめに注がれるので、三種類飲んでも通常の一杯半ほどの量に収まります。お一人でも頼みやすく、はじめの一歩としては扱いやすい形です。
選ぶときに見ておきたいのは、三種類に共通点があるかどうかです。産地も品種も製法もばらばらな三種類では、違いの原因が分かりません。「同じ品種で産地が違う」「同じ産地で収穫年が違う」のように、揃っているところと変えているところがはっきりしたセットを選ぶと、三杯でも十分に学べます。
店の方に「この三つは何が違いますか」と一言だけ聞いてみてください。説明が返ってくる店は、意図を持って組んでいます。
ワインショップの有料試飲と試飲会は、買うための場
ワインショップの一角で、一杯ごとに料金を払って試せる仕組みを置いている店があります。買う前に中身を確かめられるので、目的が「選ぶこと」であればもっとも効率がよい場所です。
試飲会は、輸入元や販売店が主催し、数十種類が一度に並ぶ場です。入場料を払って会場を回り、気になるものを少量ずつ試していきます。種類の数では、他のどの選択肢にもかないません。
ただし、この二つには共通の性格があります。どちらも、売り手と買い手の場ということです。並んでいるのは「いま売りたいワイン」であって、「違いが分かるように組まれた並び」ではありません。数十種類を回ったあとに、何を飲んだのか思い出せない。試飲会でそんな経験をされた方は少なくないはずです。
試飲会の性格と歩き方については、試飲会は買うための場という記事に整理しました。買う予定があるときには、これほど向いた場はありません。
少人数のワイン会は、テーマから並びを組む
五つのなかで、違いがもっとも分かりやすいのは少人数のワイン会です。理由は単純で、並べ方を先に決めてから、ワインを選んでいるからです。
Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。一回あたり六本から十五本を並べ、品種別・年代別・産地別のように共通点を作って飲み比べる形を基本にしています。これまでにシャンパーニュだけを集めた会を開き、ピノ・ノワールやシャルドネをテーマにした回も組んでいます。
共通点を作って並べると、「ここまで味わいが違うのか」という驚きが生まれます。そこが飲み比べの面白さだと考えています。
形式は二つあります。コース形式では、七品ほどの料理とともにペアリングで味わっていきます。ビュッフェ形式では、十品ほどの料理を囲みながら、人数が多い分ワインも多めに並びます。しっかり料理を味わいたい方にはコース形式、交流も楽しみたい方には立食の形をおすすめしています。
会の規模は八名から三十名ほど。時間は十九時から二十一時半のパターンが多く、土日の開催も平日の開催もあります。これまでの会では、七割近くの方がお一人で参加されています。参加者は三十代から四十代が多く、六十代の方もいらっしゃいます。男女の比はおおよそ半々で、経営者の方と会社員の方がおおよそ半々という構成です。
東京のワイン会の選び方そのものを整理したい方は、東京でワイン会に参加するならという記事もあわせてご覧ください。会の基本的な流れと作法は、ワイン会とはという記事にまとめています。
十種類飲んだ夜より、二種類並べた夜が残る
私は、コースのなかでも飲み比べをお出しすることがあります。白なら同じ品種で産地を変え、赤なら収穫年を変える。レストランのペアリングでは、樽の強いワインと樽の弱いワインを並べて、お客様に比べていただくこともあります。
そうした卓を何度も見てきて、はっきり分かったことがあります。違いが体に残るのは、飲んだ本数が多かった夜ではありません。 条件が揃っていた夜です。
樽の強弱だけを変えた二杯を並べると、ほとんどの方が最初の一口で言い当てられます。ところが、産地も品種も収穫年も違う十種類を順に飲んだあとでは、どれが何だったか思い出せないという声をよく伺います。情報が多すぎると、感覚は比較をやめてしまうのだと思います。
料理教室のペアリングの回では、同じ料理に二つのワインを合わせて、どちらが合うかをお客様自身に確かめていただく形をとっています。正解をこちらから言わないほうが、違いは深く残ります。飲み比べは、答え合わせではなく、自分の舌で分岐を通る作業なのだと考えています。
違いが分かる飲み比べのコツは、一つだけ変えること
場所が決まったら、次は並べ方です。覚えておきたいのは一つだけです。
比べる二本のあいだで、変える条件を一つに絞る。
同じ品種で産地だけを変える。同じ産地で収穫年だけを変える。同じワインでグラスだけを変える。こうすると、感じた差の原因が一つに特定できます。二つ以上を同時に変えると、差は分かっても理由が残りません。
揃えておきたいものも、三つあります。
- グラスの形を揃える。形が違うと、同じワインでも香りの立ち方が変わります
- 温度を揃える。冷えすぎた一本は、香りも酸も読み取りにくくなります
- 飲む順番を決める。軽いものから重いものへ、泡から白、白から赤へと進みます
この並べ方の考え方そのものは、飲み比べは一つだけ変えるという記事に詳しくまとめました。東京のどの場所を選ぶ場合でも、この一点を押さえておけば、一杯あたりの収穫はずいぶん変わります。
目的から逆算して、場所を選ぶ
最後に、目的から選び直してみます。
- 量を気にせず長く飲みたい … 飲み放題の店
- はじめての飲み比べを気軽に試したい … ワインバーのフライト
- 買う一本を決めたい … ワインショップの有料試飲
- とにかく種類の数を見たい … 試飲会
- 違いの理由まで知りたい、料理と一緒に確かめたい … 少人数のワイン会
どれが優れているという話ではありません。目的が違うだけです。ただ、「違いが分かるようになりたい」という動機で探しているのであれば、並べ方に意図がある場所を選ぶのが近道だと考えています。
まとめ
東京でのワインの飲み比べは、場所選びの前に「何を知りたいか」を決めると迷いません。
- 東京でワインを飲み比べる場所は、飲み放題・フライト・有料試飲・試飲会・少人数のワイン会の五つです
- 五つを分けているのは価格ではなく、並べ方を誰が決めているかです
- 飲み放題は量、フライトは気軽さ、有料試飲と試飲会は買うための確認に向きます
- 違いの理由まで知りたいなら、テーマから並びを組む少人数のワイン会が向いています
- どの場所でも、変える条件を一つに絞り、グラスと温度と順番を揃えると違いが立ち上がります
次に飲み比べをする機会があれば、二杯でかまいません。産地だけを変えた二杯を、同じグラスで並べてみてください。
よくある質問
ワインの飲み比べは、一人でも参加できますか?
できます。ワインバーのフライトはお一人でも頼みやすい形式です。少人数のワイン会も、Na Team Labのこれまでの会では七割近くの方がお一人で参加されています。会の最初に自己紹介の時間を設け、お互いに話しやすい場づくりをしています。
お酒に弱くても飲み比べはできますか?
できます。飲み比べでは一杯を少量ずつ注ぐため、総量は通常の一杯から二杯ほどに収まることが多いものです。無理に飲み切る必要はありません。試飲の場であれば口に含んだものを吐き出す作法もあり、量を抑えながら違いを確かめられます。
何種類くらいが分かりやすいですか?
違いの理由まで知りたいのであれば、二種類から三種類が分かりやすい数です。条件を一つだけ変えた二杯なら、最初の一口で差が分かることも多いものです。種類を増やすほど、印象は埋もれやすくなります。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

