渋い。酸っぱい。飲んだあとが重い。ワインが苦手だと感じる理由を伺うと、だいたいこの三つに分かれます。
一方で、こんな声も伺います。「飲めるようになりたい」「会食の席で、一杯だけでも付き合えるようになりたい」。苦手なまま置いておきたいのではなく、できれば好きになりたいという方が、実のところ多いのです。
私はレストランと料理教室、ワイン会で、ワインに慣れていない方を長く見てきました。そこで何度も目にしたのは、「ワインが苦手」ではなく「まだ合う一本に出会っていない」という状態です。苦手だとおっしゃっていた方が、料理と合わせた一杯で表情を変える。そういう場面が、繰り返し起きています。
この記事では、ワインが苦手に感じる理由を三つに分け、理由別に向くワインのタイプ、温度とグラスの工夫、料理と合わせると印象が変わる仕組み、そして無理に飲まないための伝え方まで、料理をつくる側からお話しします。
結論:ワインが苦手に感じる理由は、渋み・酸味・アルコールの重さの三つに分かれることが多いものです。 渋みが苦手なら白やロゼ、泡、あるいは渋みの軽い赤へ。酸味が苦手なら温暖な産地の厚みのある白へ。重さが苦手なら、度数の低い甘口から始めるのが向いています。 そして、ワインは単体で飲むより料理と一緒のほうが飲みやすくなります。 ワインが苦手だと感じている方ほど、食事と合わせて試すことが近道になります。
あわせて、造り方からワインを知るとラベルの読み方を知るもご覧ください。
ワインが苦手に感じる三つの理由
まず、自分がどこでつまずいているのかを切り分けます。
| 苦手に感じる理由 | 口の中で起きていること | 主な正体 |
|---|---|---|
| 渋み | 口の中が乾き、舌がざらつく | 赤ワインのタンニン |
| 酸味 | 酸っぱさが刺すように残る | 冷涼な産地のワインの酸 |
| アルコールの重さ | 喉が熱く、飲んだあとが重い | 度数とボディの厚み |
この切り分けが要るのは、苦手の申告が人によって逆方向に出るからです。渋いのが苦手だという方がいる一方で、「甘すぎるものが苦手」とおっしゃる方もいます。好みは人によって違うので、ひとつのおすすめが全員に当てはまることはありません。
そしてもうひとつ、よくあることがあります。飲んだことのあるワインの幅が、思っているより狭いという状態です。
以前、苦味が苦手だとおっしゃる方がいらっしゃいました。お話を伺うと、これまで飲んだことがあるのは渋みの強い系統の赤ワインばかりでした。別の方は、甘口のワインをお出ししたところ、「こんなワインがあるなんて」と感動されていました。どちらの方も、ワインが苦手だったのではなく、合う一本に出会う前だったのだと思います。
理由別に、飲みやすいワインを選ぶ

つまずいている場所が分かれば、向かう方向が決まります。
| 苦手の理由 | 向かう方向 | 具体的なタイプ |
|---|---|---|
| 渋みが苦手 | 渋みのない、または軽い方向へ | 白ワイン、ロゼ、スパークリング、渋みの軽い赤 |
| 酸味が苦手 | 果実の厚みが前に出る方向へ | 温暖な産地の白、樽の効いた厚みのある白 |
| アルコールの重さが苦手 | 度数が低く、軽い方向へ | 甘口ワイン、ブルゴーニュ系、日本ワイン |
いくつか補足します。
ロゼは、すでに多くの方が飲み慣れているタイプです。渋みがほとんどなく、白より果実の印象が出ます。渋みが苦手な方の入口として扱いやすい一本です。
酸味が苦手な場合、産地の気候を変えるのが効きます。 白ワインは、冷涼な産地より温暖な産地のほうがボディが増します。樽の香りがつくと、さらに厚みが出ます。酸が前に出た白が苦手でも、厚みのある白なら印象が変わることがあります。
重さが苦手な方には、甘口ワインが向くことが多いものです。 甘口は、甘さがアルコールの刺激を覆うため、アルコールを感じにくくなります。そのうえ、度数が低いものが多いのです。この二つが重なるので、数字で見る以上に軽く飲めます。甘口の選び方は甘口ワインの記事にまとめました。
軽めを希望される方には、ブルゴーニュ系や日本ワインをおすすめすることが多いです。入口の一本としては、ドイツの白から入るのがよいのではないかと私は考えています。
温度とグラスで、同じ一本が変わる
ワインを替えずに印象を変える手段が、二つあります。温度とグラスです。
温度は、覚えることが一つだけです。上げると香りと甘みと厚みが出て、下げると酸と渋みの輪郭が立ちます。 この一方向の関係さえ持っていれば、感じた違和感から逆算して直せます。
| いま感じていること | 操作 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 渋みが硬く、尖って感じる | 二℃上げる | 渋みが溶けて丸くなる |
| 重く感じる | 二℃下げる | 輪郭が締まり、重さが引く |
| アルコールが立って熱く感じる | 二℃下げる | 甘みと熱が引っ込む |
| 香りが出てこない | 二℃上げる | 香りの立ち上がりが強くなる |
道具は要りません。二℃下げるなら氷水に三分から五分浸け、二℃上げるならグラスを手で包むか室温に十分置きます。変化は十分から十五分で体感できます。
グラスは、温度よりさらに速く効きます。注いだ瞬間に変わります。ボウルが大きいほど香りが立ち上がり、飲み口のすぼまり方で、ワインが舌のどこに落ちるかが決まります。前方に落ちれば甘みと果実が先に来て、中央から奥に落ちれば酸と渋みが立ちます。
渋みや酸が気になるときは、小さめのグラスでワインを締めるほうが飲みやすく感じられることがあります。形の違いは価格差よりもはるかに大きく効きます。詳しくはワイングラスの種類の記事でお話ししています。
料理と合わせると、印象が変わる
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
ワインは、単体で飲んだときと、料理と合わせて飲んだときで、印象がはっきり変わります。レストランでは、ワインがあまり好きではなかった方が、ペアリングをきっかけに飲めるようになる場面を何度も体験してきました。
なぜ変わるのか。料理が、ワインの苦手な要素を受け止めてくれるからです。
渋みは、脂と出会うと和らぎます。口の中の脂が渋みを包み、ざらつきが丸くなります。酸は、塩気や油分と合わさると「酸っぱさ」ではなく「後味を切るもの」に変わります。アルコールの熱さも、料理の旨味が隣にあると前に出てきません。
単体で飲むと、ワインの要素は全部こちらに向かってきます。料理があると、その要素が皿のほうへ向かいます。向きが変わるのです。
ペアリングの考え方そのものは、ワインペアリングの基本を扱った記事に整理しました。苦手な方にとっては、理屈を覚えることよりも、一度その変化を体験することのほうが早いと思います。
好きだった一杯から、逆に辿る
私がワインに慣れていない方に向き合うとき、おすすめの銘柄から話し始めることはありません。順番が逆だと考えています。
はじめにお伺いするのは、これまでに飲んで、美味しいと感じたワインはどんなものでしたかということです。甘かったか、軽かったか、香りが華やかだったか。覚えている範囲でかまいません。
そこから、そのワインに含まれていた特徴をお話しします。「この品種にはこういう味わいがあります」「あなたが好きだとおっしゃった味わいには、こんな品種が当てはまります」。好みを起点にして、品種と産地へ接続していく順番です。
ワインに慣れていない方の理解は、「ワインはなぜ味が違うのか」というところから始まります。なぜ果実味が豊かなのか、なぜ渋みが強いのか。ここに答えを持たないまま銘柄を覚えても、選べるようにはなりません。品種と産地で味が変わると分かった瞬間から、銘柄ではなく軸で選べるようになります。この入口についてはワイン初心者が最初に持つ三つの軸の記事にまとめました。
苦手という言葉は、たいてい「まだ出会っていない」と同じ意味です。私はそう受け取っています。
無理に飲まなくていい
ここも、はっきりお伝えしておきたいところです。
飲めないものを飲む必要はありません。体に合わないものを無理に重ねても、好きにはなりません。
付き合いの席で困るときは、言い方を一つ用意しておくと楽になります。
- 「乾杯だけ頂いて、あとはお水にさせてください」
- 「あまり強くないので、少しだけ注いでいただけますか」
- 「赤は苦手なので、泡か白があれば嬉しいです」
三つめのように、苦手な方向と飲める方向を同時に伝えるのが、場に角を立てない言い方です。注ぐ側としても、助かります。何も言われないまま残されるより、先に教えていただけるほうが、こちらも組み立て直せます。
会食の席でのワインの扱いについては、ワインの飲み方の手順をまとめた記事もあわせてご覧ください。
少しずつ試すなら、料理と一緒に
苦手の理由が分かって、向かう方向も決まったとして、次は試す場です。
一人で一本を開けると、合わなかったときに残ります。それが続くと、ワインは「失敗しやすいもの」になってしまいます。少量を複数、料理と一緒に、という条件が揃う場のほうが向いています。
Na Team Labでは、料理とワインの教室を恵比寿で開いています。定員は八名、一回六千円で、所要時間は二時間。シェフが三品を実演し、ワインは飲める方に二杯から三杯ほど、飲むスピードを見ながら調整してお出ししています。ワインを飲まない方には、レストランで出しているノンアルコールワインや高級ジュースをご用意しています。入会金はなく、一回で完結します。
もう少し深く味わいたい方には、毎月テーマを立てて開いているワイン会もあります。コース形式では七品ほどの料理とともに味わい、品種別・産地別のように共通点を作って並べるので、「自分はこの方向が好きだ」という輪郭が一夜でつかめます。これまでの会では、七割近くの方がお一人で参加されています。
ご相談は公式LINEにて承っています。苦手な方向を先に教えていただければ、そこを避けた組み立てでご案内します。
まとめ
ワインが苦手だと感じるのは、味覚の問題ではなく、出会い方の問題であることが多いものです。
- ワインが苦手に感じる理由は、渋み・酸味・アルコールの重さの三つに分かれることが多いものです
- 渋みが苦手なら白・ロゼ・泡へ、酸味が苦手なら温暖な産地の厚みのある白へ、重さが苦手なら甘口へ向かいます
- 温度は上げると香りと厚みが出て、下げると酸と渋みが締まります。二℃で調整できます
- グラスは注いだ瞬間に効きます。小さめの形は、渋みと酸を締める方向に働きます
- 料理と合わせると、ワインの要素が皿のほうを向くため、単体より飲みやすくなります
次に一杯を前にしたときは、まず「渋みか、酸味か、重さか」を言葉にしてみてください。それが決まれば、次の一本は選べます。
よくある質問
赤ワインを飲むと頭が痛くなるのはなぜですか?
原因については諸説あり、はっきりと特定されているわけではありません。体質や体調、飲んだ量や速さなど複数の要素が重なります。症状が繰り返し出る方は、ワインの種類を変える前に医師にご相談ください。無理に飲み続けることはおすすめしません。
甘いワインなら飲めそうですが、入口にしてよいのでしょうか?
入口として向いています。甘口ワインは甘さがアルコールの刺激を覆うため感じにくく、度数が低いものも多いためです。コースではデザートに合わせてお出しすることが多い一本です。慣れてきたら、そこから辛口へ少しずつ寄せていけます。
ノンアルコールワインはどうでしょうか?
選択肢になります。Na Team Labの料理教室でも、ワインを飲まない方にはレストランで提供しているノンアルコールワインや高級ジュースをお出ししています。その時々の在庫に合わせたご用意になりますが、料理と合わせる体験そのものは同じように味わえます。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

