趣味の欄に書けるものが欲しい。そう考えたときに、ワインが選択肢に挙がる方は多いものです。

一方で、手が止まる理由もはっきりしています。何から始めればいいのか分からない。お金がかかりそうに見える。人に「ワインが趣味です」と言うのが、少し気後れする。

私はワイン会と料理教室で、ワインを趣味にしようとしている方を長く見てきました。続いた方と、途中で離れていった方の両方を見てきて、分かったことがあります。続くかどうかを決めているのは、知識量でも予算でもありません。飲んだものを言葉にする相手がいるかどうかです。

この記事では、ワインを趣味にする始め方を三つのステップに分け、揃える道具と月の費用、本とスクールと資格の使い分け、そして趣味として続く人の共通点をお話しします。

SUMMARY

結論:ワインを趣味にするなら、家で月に二本から四本を飲んで感想を記録するところから始めるのが続けやすい形です。 1本2,000円から3,000円のものを選べば、月の費用は1万円前後が目安になります。 ただし、一人で飲むだけでは比べる相手が記憶のなかにしかなく、違いが分かりにくいまま知識も積み上がりません。 月に一度ほど人と飲み比べる場に出ると、ワインの趣味は知識と仲間の両方を同時に連れてきます。

あわせて、造り方からワインを知るとラベルの読み方を知るもご覧ください。

ワインが趣味として面白い理由

ワインを趣味にする面白さは、三つあると考えています。

ひとつめは、答えが土地と時間に結びついていることです。なぜこの味になるのかを辿っていくと、品種、産地の気候、土壌、その年の天候、造り手の判断へと遡れます。味の背後に、地理と歴史がそのまま入っています。

ふたつめは、終わりがないことです。品種は数百あり、産地は世界中にあり、収穫年は毎年変わります。十年続けても、はじめて出会う一本があります。極めきれないという性質は、趣味としては長所です。

みっつめは、食事と切り離さずに済むことです。毎日の食卓のなかで続けられます。練習のために時間を別に確保する必要がありません。

逆に、短所もはっきりしています。一本開けるたびに費用がかかり、記憶は曖昧になりやすく、一人では上達の実感が得にくい。この三つを前提に始め方を組むのが、現実的な設計だと思います。

始め方の三ステップ 家で飲む、記録する、人と飲む

料理と赤ワインを楽しむ参加者の実写写真
一人で知るだけでなく、同じ卓でワインと料理を話す楽しさの一例です。

順番があります。この順に通ると、無理なく積み上がります。

第一歩は、家で飲むことです。 月に2本から4本を目安に、1本2,000円から3,000円ほどのものを選びます。この価格帯は、品種と産地の違いが素直に出る範囲です。安すぎると違いが読み取りにくく、高すぎると一本の重みが増して気軽に開けられなくなります。

はじめの数ヶ月は、品種を散らさないほうが分かりやすいものです。白はソーヴィニヨン・ブランとシャルドネ、赤はピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨン、それに泡を一本。この五つを軸に置いて、産地を変えながら回します。

第二歩は、記録することです。 ノートでも、スマートフォンのメモでもかまいません。大切なのは、形式ではなく言葉を固定することです。同じ感覚に毎回違う言葉を当てていると、記録が積み上がりません。「酸が高い」「渋みは中くらい」「樽の香りがある」のように、自分のなかで決まった言い方を用意します。

書く項目は四つで足ります。香り、味わい、重さ、余韻。そこに「どんな料理と食べたか」を一行足すと、あとから読み返したときに使える記録になります。

第三歩は、人と飲むことです。 ここが、続くかどうかの分かれ目になります。理由は、のちほどお話しします。

勉強の進め方そのものを整理したい方は、ワインの勉強の順番をまとめた記事を先にご覧ください。

揃える道具と、月の費用の目安

必要なものは、思っているより少ないものです。

揃えるもの目安補足
グラス二脚中型の万能型と、大きめのブルゴーニュ型
オープナー一本ソムリエナイフが扱いやすい
ストッパー一つ残りを翌日に回すため
記録するものノートかメモ形式は問いません
ワインセラー後回しでよい本数が増えてから考えます

グラスを二脚にする理由があります。中型の万能型は、泡から軽い赤までこれ一脚で成立します。大きめのブルゴーニュ型は、香りを開かせたい赤と、樽の効いた白の両方に使えます。この二脚で「締める」と「開かせる」の両方向が手に入ります。 価格差よりも形の差のほうがはるかに大きく効くので、まずは形を二つ持つところから始めるとよいでしょう。詳しくはワイングラスの種類の記事でお話ししています。

月の費用は、次のように見積もれます。

項目月の目安
ワイン2〜4本(1本2,000〜3,000円)6,000〜12,000円
人と飲み比べる場(月に一度)会の形式によって異なります
道具(初回のみ)グラス2脚とオープナーで1万円前後から

ワインだけなら、月1万円前後が目安になります。他の趣味と比べて、特に高い部類ではありません。

学び方は、本・スクール・資格で目的が違う

学び方の選択肢は、優劣ではなく目的で分かれます。

学び方向いている目的費用の目安期間
本全体の地図を持つ書籍代自分の速さで
ワインスクール体系的に積み上げる、資格に備える単発講座と総合コースで大きく異なるため、各校の募集要項で確認一日〜約五ヶ月
資格到達点を形にする年度・受験回数・会員区分で変わるため、協会の当該年度の募集要項で確認受験年による
ワイン会飲み比べる、人と話す会によって異なる単発
料理と一緒の教室料理の側から理解する会によって異なる単発

受験料や日程の具体的な確認先は、ワインエキスパート試験の受験ガイドにまとめています。受験を決める前には、必ず協会の当該年度の募集要項も確かめてください。

補足しておきたいことが二つあります。

ひとつは、スクールに通うことは受験の要件ではないということです。日本ソムリエ協会の募集要項に、講座の受講を求める記載はありません。独学で受験される方もいます。スクールは近道として選ぶものであって、通らなければならない道ではありません。

もうひとつは、どのスクールが優れているかという話ではなく、目的が違うということです。資格を取りたいのか、飲み比べたいのか、料理と一緒に理解したいのか。ここが決まると、選ぶ場所は自然に決まります。

試験そのものについては、ワインエキスパート試験の受験ガイドに整理しています。

資格は取らなかった私が、毎日やっていること

私はワインスクールに通っていたことがあります。ただ、資格は持っていません。

取らなかったのは、料理をつくる側としては、資格の先にあるものより毎日のグラスのほうが必要だったからです。現場では、年におよそ二千種のワインを口にしています。香りを取り、料理に反映させ、また次の一本に移る。この繰り返しのなかで積み上がったものが、いまの判断になっています。

ただ、資格を軽く見ているわけではありません。むしろ、現場で見てきた効き目があります。資格保持者どうしのコミュニティがあって、資格者だからということで輪に入れる印象は強いのです。 資格が直接仕事を運んでくるわけではありません。けれども、人と人の輪に入る入場券としては、はっきり機能しているように見えます。情報の入り方も、声のかかり方も変わります。

Na Team Labにも、ワインエキスパートを持つスタッフがいます。現場に入ってくれるソムリエも複数おり、案件の性格に合わせて人を替えています。資格と経験は、どちらか一方で足りるものではないのだと思います。

趣味として楽しむなら、資格は目的でなくてもかまいません。ただ、どこまで行けるか試したいという気持ちが出てきたときには、ひとつの到達点として用意されています。

ワインの趣味が続く人の共通点

ワイン会を毎月続けてきて、見えてきたことがあります。続く方には、三つの共通点があります。

ひとつめは、記録していることです。書いていない方は、半年後に去年の自分が何を好きだったかを思い出せません。好みの変化が見えないと、成長の実感も生まれません。

ふたつめは、料理と一緒に飲んでいることです。ワイン単体で飲み続けると、評価の対象になってしまいます。料理の隣に置くと、ワインはどう使うかの対象に変わります。使い道があるものは、手放されにくいものです。

みっつめは、人と飲んでいることです。これがいちばん大きいと感じています。

一人で飲むと、比べる相手が記憶のなかにしかいません。一本開けて一品種、翌日にもう一本で別の品種という進め方では、輪郭はどうしてもぼやけます。何人かで集まれば、同じ夜に六本でも十五本でも並びます。他の方が取った香りの言葉を聞けることも、一人では得られないものです。

一人で飲む夜の過ごし方については、ワインを一人で飲む人へという記事にまとめました。一人の時間と、人と飲む夜は、どちらも要るものだと考えています。

一人でも仲間ができる場所

人と飲む場には、いくつか形があります。

ワインスクールは、同じ期を通して顔が揃うので、関係が積み上がりやすい形です。ただし、目的が学習に置かれているため、場としての交流は副産物になります。

ワイン愛好家のサークルは、費用が抑えやすく、本数も集まります。運営が参加者の持ち回りになることが多いため、場の回り方は回によって変わります。

ワイン会は、主催者が場を回すので、はじめての方でも入りやすい形です。テーマが先にあるため、飲み比べとしての設計も整っています。

Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。一回あたり六本から十五本を並べ、品種別・年代別・産地別のように共通点を作って飲み比べる形を基本にしています。コース形式では七品ほどの料理とともに、ビュッフェ形式では十品ほどを囲みながら、八名から三十名ほどの規模で開いています。

これまでの会では、七割近くの方がお一人で参加されています。 むしろ、お一人で来ていただくことを前提に会を組んでいます。会の最初に自己紹介の時間を設けているのは、一人で来ても楽しめたという感覚があれば緊張がほどけると考えているからです。

参加者は三十代から四十代が多く、六十代の方もいらっしゃいます。男女の比はおおよそ半々、経営者の方と会社員の方がおおよそ半々という構成です。

三回くらい通うと顔なじみになってくる、という方もいらっしゃいます。実際に、会の外で会っている方々がいます。一緒にワインを飲みに行く関係になった方も、一緒に仕事をするようになった方もいます。月に一度の卓が、会の外の関係に育っていく。これは設計して起こせるものではないと思っています。ただ、場が続いていれば起こります。

大人になってからの習い事や趣味の続け方については、大人の習い事は行く理由が毎回あるかで続くという記事もあわせてご覧ください。

まとめ

ワインを趣味にするのは、知識を集める作業ではありません。飲んで、言葉にして、人に渡す。その循環をつくる作業です。

  • ワインの趣味は、家で月に二〜四本を飲んで記録するところから始めると続けやすいものです
  • 月の費用は1万円前後が目安。グラス2脚とオープナーがあれば始められます
  • 本・スクール・資格・ワイン会は優劣ではなく目的で分かれます。スクール通学は受験の要件ではありません
  • 続く方の共通点は三つ。記録している、料理と一緒に飲んでいる、人と飲んでいることです
  • 一人では比べる相手が記憶のなかにしかいません。月に一度、人と並べる夜をつくると輪郭が立ちます

次の一本を開けるときは、一行だけ書き残してみてください。その一行が、半年後の自分に効いてきます。

よくある質問

お酒に弱くてもワインを趣味にできますか?

できます。趣味として続けるために必要なのは量ではなく、違いを言葉にする回数です。少量を複数試す飲み比べの形なら、総量は一杯から二杯ほどに収まります。試飲の場では口に含んだものを吐き出す作法もあり、量を抑えながら続けられます。

ワインが趣味と言うのは、気取って見えないでしょうか?

言い方で決まることが多いものです。銘柄や格付けから話すと距離が生まれますが、先月飲んだ白が焼き魚によく合って面白かった、のように食卓の話として渡すと、相手も入ってきやすくなります。知識の量より、具体の一皿のほうが伝わります。

何歳からでも始められますか?

始められます。Na Team Labのワイン会は三十代から四十代の方が多いものですが、六十代の方もいらっしゃいます。長く続けている方のなかには、ご自宅にセラーを持ち、とっておきの一本を友人やご家族と開けることを楽しみにされている方もいます。

Na Team Lab オーナーシェフ 川原壯太
ABOUT NA TEAM LAB Na Team Lab|株式会社Na Team

東京・恵比寿を拠点に、出張料理・店舗貸切・料理教室・ワイン会を展開。料理、ワイン、空間、その日の時間までを設計し、食を通して心に残る体験をつくっています。

執筆:(オーナーシェフ)。年間200件を超える出張料理・会食の経験をもとに、現場の視点をお伝えします。

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