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ワインをひと口飲んで、「苦い」と言ったことはないでしょうか。そして、そう言ったあとに、どこか言い当てていない感じが残る。苦いというのとも少し違う気がするけれど、ほかに言葉が見つからない。
その違和感は、正しいものです。ワインが苦いと感じたとき、その感覚はたいてい二つに分かれます。ひとつは苦み、もうひとつは渋みです。そして多くの場合、私たちが「苦い」と呼んでいるのは渋みのほうです。
この二つは、感じる仕組みがまったく違います。苦みは舌が感じる味で、渋みは口のなかが乾く触感です。切り分けられると、苦手なワインを避ける手立ても、飲みやすい一本を選ぶ道筋も見えてきます。
恵比寿で一日ひと組のレストランを営み、毎月ワイン会を開いている側から見て、順にお話しします。
結論:ワインが苦いと感じたとき、その正体は多くの場合、渋みかアルコールの刺激です。 渋みは果皮や種に含まれるタンニンによるもので、味ではなく、口のなかが乾く触感です。 本当の苦みはごくわずかで、ポリフェノール類やアルコールの度数の高さによって立ちます。 苦手な方は、渋みの穏やかなピノ・ノワールやメルローを選び、肉や塩気のある料理と合わせると感じにくくなります。
あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。
「苦い」と「渋い」は別のもの
まず、二つを並べます。
| 苦み | 渋み | |
|---|---|---|
| 感じる仕組み | 味覚。舌が感じる味のひとつ | 触感。口のなかの粘膜がきゅっと乾く感覚 |
| どこで感じるか | 舌の上、のどの奥 | 口のなか全体、歯ぐき、舌の表面 |
| 消え方 | 比較的すぐ引く | しばらく口のなかに残る |
| 身近なたとえ | ゴーヤ、コーヒーの焙煎 | 濃く入れた紅茶、渋柿 |
| ワイン側の出どころ | ポリフェノール類、アルコール | タンニン(果皮・種・樽由来) |
いちばん大切なのは、渋みは味ではないという点です。甘い、酸っぱい、塩辛い、苦いは舌が感じる味ですが、渋みは口のなかのたんぱく質とタンニンが結びつくことで起きる、乾いた感触です。
ですから、見分け方は単純です。ひと口飲んで、舌の上に残るなら苦み、口のなか全体が乾いてざらつくなら渋み。濃く入れた紅茶を飲んだときの、あの口の乾き。それが渋みです。ゴーヤを噛んだときの、舌に残る味。それが苦みです。
ワイン会で「苦いのが苦手です」とおっしゃる方に、この二つを分けてお伝えすると、ほとんどの方が「それなら渋みのほうです」と言い直されます。言葉が一つ増えるだけで、選べる範囲が変わります。
ワインの苦みの正体

では、渋みではない本当の苦みは、どこから来るのでしょうか。出どころは二つあります。
ひとつはポリフェノール類です。ぶどうに含まれるフラボノイドなどの成分は、量によって苦みとして感じられます。果皮や種に多く含まれるため、果皮との接触が長い造りでは苦みが出やすくなります。
もうひとつはアルコールです。アルコールはそれ自体が、苦みと熱っぽさを強調します。度数の高いワインで「飲んだあとに喉の奥が熱く、苦く感じる」のは、この働きによるものです。度数が味わいにどう響くかは、ワインのアルコール度数を扱った記事でまとめています。
ここで、よくある思い違いを一つ解いておきます。苦みと劣化は別の現象です。 濡れた段ボールのような香りがすればコルク由来の汚れを疑い、茶色く色が変わっていれば酸化を疑います。香りが健やかで、口のなかが乾く感覚だけがあるのなら、それは渋みです。劣化の見分け方は、ブショネなどワインの欠陥を扱った記事に整理しました。
渋みの強さで並べた赤の5タイプ
渋みが苦手なら、渋みの穏やかな品種を選ぶのがいちばん確かな手立てです。ワイン診断で使っている赤5タイプを、渋みの弱い順に並べます。
| 順 | 品種タイプ | 渋みの印象 |
|---|---|---|
| 1 | ピノ・ノワール(赤い果実と軽やかさ) | もっとも穏やか。色も淡く、紅茶のような軽さ |
| 2 | メルロ(プラムとまろやかさ) | 中程度。粒が丸く、角がない |
| 3 | シラー(黒胡椒とスパイス) | 中から多め。なめらかで丸い |
| 4 | カベルネ・ソーヴィニヨン(カシスと力強さ) | 多い。きめが細かく、口の奥で締まる |
| 5 | ネッビオーロ(バラと力強い酸) | 強い。酸も高く、料理と合わせる前提で選ぶ |
渋みが苦手な方の入口は、ピノ・ノワールとメルロです。渋みの差が構造から生まれる理由は、カベルネとメルローの違いを扱った記事で詳しくお伝えしています。
この表のどこが自分の好みなのかは、5分のワイン診断で確かめられます。渋みは、診断の味わい4軸(酸味・甘み・渋み・ボディ)のひとつです。
白ワインでも苦く感じることがある理由
苦みは赤ワインだけの話ではありません。白ワインでも、苦みや渋みを感じることがあります。
理由はいくつかあります。果皮との接触が長い造り、強い圧搾、未熟な種の混入。いずれも、果皮と種に含まれる成分が果汁に移ることで起きます。果皮を長く漬け込んで造るオレンジワインでは、白ワインでありながら渋みがはっきり出ます。
ただし、白の苦みは欠点とは限りません。柑橘の皮やアーモンドを思わせる苦みは、品種や造りの個性として扱われます。皮ごと食べる柑橘の、あのわずかな苦み。あれが心地よいと感じる方には、むしろ魅力になります。
苦みは、あるかないかではなく、どれくらいあると心地よいかという軸なのです。
料理と温度で、苦みと渋みは変わる
同じ一本でも、何と一緒に飲むかで感じ方は変わります。厨房で使っている手立ては、三つあります。
たんぱく質と脂は、渋みを和らげる
肉の脂とたんぱく質は、タンニンと結びつきます。結びついたタンニンは、口のなかのたんぱく質を奪わないため、渋みが和らぎます。渋い赤を飲みにくいと感じたら、先に肉をひと口食べてから飲む。それだけで印象が変わります。チーズやバターのような乳の脂も、同じ働きをします。
塩は、苦みを和らげる
塩気は、苦みを抑える方向に働きます。渋い赤をそのまま飲んで苦く感じたときに、塩をきかせた料理を挟むと飲みやすくなります。生ハムやナッツ、塩気のあるチーズが手近な例です。
甘い料理は、渋みを強める
逆の方向も知っておくと役に立ちます。甘い味つけの料理やデザートは、渋みを強めます。甘辛いたれの肉料理に渋い赤を合わせると、渋みだけが立ってしまうのです。ワインが苦いと感じた場面を思い返すと、甘いものと一緒だったということが少なくありません。
温度にも手当てがあります。ここは方向を取り違えやすいところなので、分けて書きます。
| いま感じていること | 操作 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 渋みが硬く、尖って感じる | 2℃上げる | 甘みと厚みが出て、渋みが溶けて丸くなる |
| アルコールが立って、熱く苦く感じる | 2℃下げる | 甘みと熱が引っ込み、輪郭が締まる |
渋みは、冷やすと和らぐものではありません。冷やすと酸とタンニンは立ちます。 渋みが尖っているときは、温度を上げるほうです。数値の全体像はワインの適温を扱った記事にまとめました。
自分の「渋み」の好みを知る
苦手は、好みの裏返しです。「渋いのが苦手」と分かっているなら、それは好みの半分が言葉になっているということです。
おもしろいのは、苦手の申告が人によって逆方向に出ることです。渋いのが苦手という方がいれば、甘すぎるのが苦手という方もいます。どちらも実際にある声で、どちらが正しいという話ではありません。だからこそ、単一のおすすめは成り立ちにくいのです。
もうひとつ、現場で感じていることがあります。ワインが苦手だとおっしゃる方の多くは、飲んだことのあるワインの幅が狭い状態にあります。苦みが苦手なのに、ボルドー系の赤しか飲んだことがなかった方がいらっしゃいました。苦手ではなく、まだ合う一本に出会っていないだけだったということです。苦手の正体をもう少し広く扱った話は、ワインが苦手だと感じる理由を扱った記事にあります。
自分が渋みのどのあたりを心地よく感じるのかは、5分のワイン診断で見当がつきます。結果に合わせた品種ガイドは、公式LINEでご案内しています。
並べて飲むと、渋みの差が分かる
診断の結果画面には、こう書いてあります。これはまだ仮説です。グラスを並べて飲み比べて、はじめて分かります。
渋みは、一本だけ飲んでいても強弱が分かりません。基準がないからです。ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンを続けて飲むと、「こちらは口のなかが乾く」「こちらは乾かない」と、その場で言葉が出てきます。並べ方の設計は、飲み比べは一つだけ変えるという記事に書きました。
Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を開いています。コース料理とともに6杯を合わせる会と、10〜15本を並べて立食で楽しむ会の2つの形式があります。料理と一緒に飲むと渋みの印象が変わることは、言葉で聞くより、同じ卓で起きるほうが早く伝わります。これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。
それでも苦手なら、無理に飲まなくてよいと考えています。ワインは、人生に必要な飲みものではありません。合う一本に出会えたときにだけ、置いておけばよいものです。
まとめ
ワインが苦いと感じたときに持っておくと役に立つのは、次の六つです。
- ワインの「苦い」は、たいてい「渋い」です。渋みは味ではなく、口のなかが乾く触感です
- 見分け方は、舌に残るなら苦み、口のなか全体が乾くなら渋みです
- 本当の苦みは、ポリフェノール類とアルコールから立ちます。度数が高いほど出やすくなります
- 渋みが苦手なら、ピノ・ノワールやメルロから始めます。ネッビオーロは料理と合わせる前提で選びます
- たんぱく質と脂は渋みを和らげ、塩は苦みを和らげます。甘い料理は渋みを強めます
- 渋みが尖るときは2℃上げます。冷やすと渋みは立つ方向なので、逆に動かさないことです
次に「苦い」と感じたら、舌の上なのか、口のなか全体なのかを確かめてみてください。その一言が言えると、次の一本は選びやすくなります。
よくある質問
安いワインほど苦いのですか?
価格と苦みは直結しません。ただし手ごろな価格帯では、若いうちに出荷されるものが多く、渋みの角が残っている場合があります。苦手な方は、渋みの穏やかな品種を選ぶほうが確かな手立てになります。
苦いワインは劣化しているのでしょうか?
苦みと劣化は別の現象です。濡れた段ボールのような香りや、酸化による茶色い色の変化があれば劣化を疑います。香りが健やかで、口のなかが乾く感覚だけがあるのなら、それは渋みです。
渋みが好きになることはありますか?
飲んだ本数が増えるにつれて、渋みを心地よく感じるようになる方が多くいらっしゃいます。渋みは口のなかを引き締めて脂を切る働きがあるため、肉料理と合わせる場面で、その価値が分かってきます。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

