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「どんなワインがお好きですか」と聞かれて、答えに詰まったことはないでしょうか。嫌いではない。おいしいと思って飲んでいる。それでも、好みを聞かれると言葉が出てこない。
ワインの好みが分からないという方は、好みを持っていないわけではありません。好みに対応する言葉を、まだ手にしていないだけです。 味は感じているのに、それを指す語がない。だから答えられない。
この記事では、ワインの好みを4つの味わいと7つの香りに整理し、ふだん好きな果物やお菓子から品種を逆算する方法をお話しします。恵比寿で一日ひと組のレストランを営み、毎月ワイン会を開いている側から見て、好みがいちばん早く見つかる順番でまとめました。
結論:ワインの好みが分からないのは、好みがないからではなく、言葉を知らないだけです。 好みは「酸味・甘み・渋み・ボディ」の4つの味わいと、香りの7つの系統で整理できます。 ふだん好きな果物やお菓子から逆算すると、自分に合う品種の見当がつきます。 「白桃と柑橘ならどちらが好きか」という問いには、ほとんどの方が答えられます。好みはあるのに、それを指すワインの言葉がないだけなのです。 最後は、並べて飲み比べて確かめます。ワインの好みは、覚えるものではなく、確かめるものです。
あわせて、ワイングラスを形から選ぶとワインペアリングの組み立て方もご覧ください。
ワインの好みが「分からない」のは、言葉がないだけ
ワイン会で、初めてお越しになった方に「どんなワインがお好きですか」と伺うことがあります。多くの方が、ここで答えに詰まります。
「白桃と柑橘ならどっち」と聞くと、答えが返ってくる
ところが、質問を変えると様子が変わります。「白桃と柑橘なら、どちらがお好きですか」と伺うと、ほとんどの方がすぐに答えてくださいます。
好みは、あるのです。ないのは、ワインの言葉のほうです。
「どんなワインが好きか」は、品種名や産地名で答えることを暗に求める質問です。それを知らなければ答えようがありません。けれども「白桃か柑橘か」は、生きてきた中で何度も口にしたものの話です。だから答えられます。
ワインに慣れていない方がつまずく場所は、だいたい決まっています。品種と産地によって味が変わる、という理解がまだ結びついていないことです。ここが結びつかないまま銘柄を覚えても、選べるようにはなりません。逆に、ここが分かると、銘柄ではなく品種と産地でワインを選べるようになります。
入門全体の見取り図はワイン初心者が最初に持つ三つの軸の記事にまとめました。本記事は、そのうち「好み」の一点だけを扱います。
好みを決める4つの味わい 酸味・甘み・渋み・ボディ

ワインの味わいは、4つの軸で見ます。この4つに自分の好きな側を決めておくと、好みはほぼ言葉になります。
| 軸 | 何を指しているか | 自分に問う形 |
|---|---|---|
| 酸味 | 口の中で立つ酸の量と鋭さ | レモンを搾るのは好きか、酸は控えめがよいか |
| 甘み | 甘さが残るか、残らないか | 甘さが残る一杯は心地よいか、重く感じるか |
| 渋み | 口の中の乾きとざらつき | 渋みがあると引き締まるか、飲みにくくなるか |
| ボディ | 口の中で感じる重さ | 軽やかな一杯か、厚みのある一杯か |
二つ、補っておきます。
辛口は「辛い」ではありません。 甘さが残っていない、という意味です。料理の辛さとは関係がないので、はじめは引っかかりやすい言葉です。
ボディは、狙って選べます。 軽すぎず重すぎないミディアムボディは、品種と産地の2軸でだいたい選定できます。白でも、冷涼な産地より温暖な産地のほうがボディは増し、樽の香りがつくとさらに厚みが出ます。
この4つのうち、どれか1つだけでも自分の側が決まっていれば、お店でも売り場でも相談ができます。「酸が立っているものが好きです」の一言で、選べる範囲はぐっと狭まります。
香りは7つの系統で考える
香りは、覚えるより「どの引き出しを開けるか」を決めておくほうが早いものです。白と赤で、それぞれ7つに分けて考えます。
| 7つの系統 | |
|---|---|
| 白 | 柑橘/ハーブ/白い果実/南国果実/花・ライチ/ミネラル/樽・ナッツ |
| 赤 | 赤い果実/黒い果実/ジャム・ドライ/花/スパイス/土・紅茶/樽・ロースト |
使い方は単純です。グラスから香りを取ったときに浮かんだものを、この7つのどこかに置きます。「なんとなく爽やかな感じ」で止まっていたものが、「柑橘の系統」と言えた瞬間に、人に渡せる情報になります。
ひとつ、見分けの手がかりをお伝えします。バニラ、ナッツ、トーストのような香りは、果実からは出てきません。樽の由来です。 白ワインは樽の香りがつくとボディ感が増し、色も黄金色に寄ります。樽を使わない造りは、黄金までいかない黄色が中心になります。つまり「樽・ナッツ」の系統が好きかどうかは、好みの分かれ目として大きい軸になります。
香りは、二度に分けて取ると情報が増えます。まずグラスを回さずに嗅ぎ、それから回してもう一度嗅ぐ。この二回のあいだで香りがどう変わるかが、そのワインの開き方です。香りの層そのものについては、ワインのアロマは三つの層に分かれるという記事で詳しく扱っています。
果物とお菓子の好みから、品種が見える
ここが本題です。ふだん好きな果物やお菓子から、合いそうな品種は逆算できます。
| ふだん好きなもの | 近い品種タイプ |
|---|---|
| グレープフルーツ、青いハーブ、すだち | ソーヴィニヨン・ブラン(柑橘とハーブ) |
| 青りんご、白い花、きりっとした酸 | リースリング(キリッとした酸と花) |
| 貝や牡蠣、塩気、後味の切れ | シャブリ(ミネラルとキレ) |
| バターの焼き菓子、ナッツ、クリーム | 樽熟成シャルドネ(バターとコク) |
| ライチ、マスカット、香りの強い花 | ゲヴュルツトラミネール(ライチとバラ) |
| いちご、ラズベリー、紅茶 | ピノ・ノワール(赤い果実と軽やかさ) |
| プラム、ミルクチョコレート | メルロ(プラムとまろやかさ) |
| 黒胡椒、スパイス、燻した香り | シラー(黒胡椒とスパイス) |
| カシス、ビターチョコレート | カベルネ・ソーヴィニヨン(カシスと力強さ) |
| バラ、ドライフルーツ、強い酸 | ネッビオーロ(バラと力強い酸) |
白が5タイプ、赤が5タイプです。好きな果物やお菓子を2つ3つ思い浮かべて、この表の右側を見る。それが、あなたの最初の候補になります。
この表のどこが自分なのかは、5分のワイン診断で確かめられます。30問の設問に答えると、白と赤それぞれの方向が出ます。
好みから逆算して渡す、という順番
私がワインの話をするときの順番は、いつも同じです。
1. どんなワインが好きだったのかを、まず伺う
2. そのワインに含まれていた特徴を、一緒に整理する
3. 「この品種にはこういう味わいがあります」とお渡しする
4. 「あなたが好きとおっしゃった味わいには、この品種が当てはまります」とつなぐ
銘柄のリストを先に渡すのとは、逆の方向です。好みを起点にすると、覚える量が一気に減ります。思い出せる一本が一つあれば、そこから次が決まるからです。
使う言葉は、相手に合わせて変えています。ワインに詳しい方にはワインの用語で話し、品種はあまりご存じないという方には「こういう品種があって」という細かなところから説明します。大切なのは正確さではなく、相手に届くかどうかだと考えています。
好きだった1本から、次の1本を探す
思い出せる一本がある方は、そこから広げるのがいちばん早い道です。
手がかりは2つあります。品種と産地です。同じ品種でも、産地と造り手によって別人格になります。たとえばシャルドネは、樽の有無で香りが大きく変わります。冷涼な産地ではレモンやリンゴ、温暖な産地ではバターやトロピカルフルーツの方向に寄ります。
ですから、「シャルドネが好きだった」で止めずに、「どちらのシャルドネだったか」まで戻ります。バターのような香りが好ましかったのなら、次も樽を使った造りを選ぶ。レモンのような酸が心地よかったのなら、冷涼な産地を選ぶ。ここまで絞れれば、売り場でも外しにくくなります。
品種と産地は、ラベルの裏側に書かれていることが多いものです。銘柄名を覚える必要はありません。裏のラベルで品種と産地の2つだけ確かめる。それで、好みの記録は十分に残ります。
苦手なワインから、好みを逆算する
好きなものが思い出せないときは、苦手なほうから入ります。苦手は、好みの裏返しです。
おもしろいのは、苦手の申告が人によって逆方向に出ることです。渋いのが苦手という方がいます。一方で、甘すぎるのが苦手という方もいます。どちらも実際にある声で、どちらが正しいという話ではありません。だからこそ、単一の「おすすめ」は成り立ちにくいのです。
もうひとつ、現場で感じていることがあります。「ワインが苦手」とおっしゃる方の多くは、飲んだことのあるワインの幅が狭い状態にあります。
苦味が苦手だとおっしゃるのに、ボルドー系の赤しか飲んだことがなかった方がいらっしゃいました。甘口のワインを召し上がって、「こんなワインがあるなんて」と感動された方もいました。苦手ではなく、まだ合う一本に出会っていないだけだったということです。
ワインが苦手だという方には、甘口から始めていただくと喜ばれるケースが多くあります。また、料理と合わせることで飲めるようになった方を、レストランで何度も見てきました。単体で飲んで判断するのと、料理と合わせて飲むのとでは、同じ一本でも印象が変わります。
甘口や酒精強化のワインを並べると、「そんなワインがあるのか」という驚きが生まれます。好みの幅は、知っている種類の数で決まっている部分もあるのです。
好みは「仮説」、飲み比べて確かめる
ここまでの道筋で出てくるのは、あくまで候補です。
診断の結果画面にも、こう書いてあります。これはまだ仮説です。グラスを並べて飲み比べて、はじめて分かります。
仮説を確かめるのに向いているのは、並べて飲む場です。一本ずつ、日を変えて飲んでいくと、比較は記憶の中でしか起きません。記憶は曖昧ですから、違いはぼやけます。何本かが同じ卓の上に並ぶと、「こちらのほうが酸が立っている」「こちらは渋みが穏やかだ」と、その場で言葉が出てきます。並べ方の設計については、飲み比べは一つだけ変えるという記事に書きました。
Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を開いています。形式は2つあります。コース料理とともに6杯を合わせる会と、10〜15本を並べて立食で楽しむ会です。しっかり料理を召し上がりたい方にはコース、交流も楽しみたい方には立食をおすすめしています。開催は19時から21時半が多く、土日も平日もあります。
これまでの会では、7割近くの方がお一人で参加されています。会の最初に自己紹介の時間を設けているので、初めての方でも言葉を交わしやすい形になっています。並べて飲める場は、飲み比べのできる店をまとめた記事でも紹介しています。
診断の結果に合わせた品種ガイドは、公式LINEでご案内しています。日程やテーマのご相談も、こちらで承っています。
まとめ
ワインの好みは、知識の量ではなく、言葉の有無で決まります。
- ワインの好みが分からないのは、好みがないからではなく、対応する言葉がないだけです
- 味わいは酸味・甘み・渋み・ボディの4つ。どれか一つでも自分の側が決まれば相談ができます
- 香りは白7つ・赤7つの系統で考えます。バニラやナッツは樽の由来で、果実からは出ません
- ふだん好きな果物やお菓子から、白5タイプ・赤5タイプのどこに近いかが逆算できます
- 苦手からも逆算できます。幅が狭いだけの場合は、甘口や料理との組み合わせで印象が変わります
- 診断で出るのは仮説です。並べて飲み比べて、はじめて自分のものになります
次にグラスを持ったら、まず果物の名前を一つだけ探してみてください。それが言えたら、好みの半分は言葉になっています。
よくある質問
好きなワインが分からないとき、お店ではどう伝えればいいですか?
品種名ではなく、果物や味の方向で伝えるのがいちばん通じます。「柑橘のような白を」「渋みが穏やかな赤を」「甘さが残らないものを」で十分です。予算と、合わせる料理を添えていただけると、こちらはさらに絞り込めます。
ワインの好みは変わりますか?
変わります。飲んだ本数が増えるにつれて、はじめは苦手だった渋みや酸を心地よく感じるようになる方が多いです。好みは固定された性格ではなく、その時点での現在地だと考えています。半年ごとに確かめ直すくらいの気持ちで十分です。
ワイン診断の結果は当たりますか?
目安としてお使いください。診断で出るのは「おそらくこの方向が合う」という仮説です。同じ品種でも産地と造り手で表情が変わるため、結果をそのまま正解として扱うことはしていません。並べて飲み比べて確かめるまでが、ひと続きの手順です。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

