グラスを前にして、思いついた品種名を口に出し、外す。もう一度考え直して、別の品種名を言い、また外す。ブラインドテイスティングの場で、こうした時間を過ごした経験はないでしょうか。
当たらない理由は、知識の量ではないことが多いものです。観察の順番を持たないまま、結論から入っているからです。
ブラインドテイスティングは、名前を言い当てる競技ではありません。目の前のグラスから取れる情報を順に積み上げ、候補を二つか三つまで落としていく作業です。最後の一本に辿り着かなくても、絞れた時点で技術は働いています。
この記事では、ブラインドテイスティングの手順を外観から結論まで表で固定し、品種を絞る三つの判断軸、基準になる六品種、ワインエキスパート二次試験に向けた練習法、家での準備までを順に見ていきます。勉強の全体の進め方から整理したい方は、ワインの勉強の順番をまとめた記事を先にご覧ください。
結論:ブラインドテイスティングは、銘柄を伏せたワインを外観・香り・味わいの順に観察し、品種や産地を推定する方法です。 いきなり品種名を言い当てようとせず、まず「冷涼な産地か、暖かい産地か」「樽を使っているか」を決め、候補を二つか三つに絞っていきます。 練習では、白はシャルドネ・ソーヴィニヨン・ブラン・リースリング、赤はピノ・ノワール・カベルネ・ソーヴィニヨン・シラーという基準の六品種を一本ずつ覚え、そこからの距離で判断します。 ワインエキスパートの二次試験に向けた練習は、同じ品種を二つの産地で並べる形が近道です。
あわせて、造り方からワインを知るとラベルの読み方を知るもご覧ください。
ブラインドテイスティングとは 銘柄を伏せて品種と産地を推定する
ブラインドテイスティングとは、ラベルや銘柄の情報を伏せた状態でワインを観察し、品種・産地・収穫年などを推定する方法です。ブラインドは「目隠し」を意味します。
情報を隠す理由は、人の感覚が先入観に素直だからです。有名な産地名を見てから飲めば、その産地らしさを探す方向に舌が動きます。価格を知ってから飲めば、価格に見合う要素を拾おうとします。ラベルを覆うのは、感覚から判断材料を取り出すためというよりも、判断材料から余計なものを取り除くための操作です。
当てっこの遊びとの違いは、目的の置き場所にあります。遊びであれば、正解したかどうかで終わります。練習としてのブラインドテイスティングでは、正解よりも「どの要素から、どの候補を外したのか」という道筋が残ります。外したときに、どの段階の判断が間違っていたのかを辿れるのは、順番を持って観察した人だけです。
味わい方そのものの考え方については、テイスティングで何を見ているかを扱った記事にまとめています。本記事では、そこから「銘柄を伏せて品種と産地を絞る」部分だけを取り出して扱います。
ブラインドテイスティングのやり方 外観から結論までの手順

手順は、段階ごとに見るものが決まっています。
| 段階 | 見るポイント | そこから分かること |
|---|---|---|
| 外観 | 色の濃淡、縁の色、粘性 | 熟成の度合い、味わいの厚み、アルコール度数の見当 |
| 香り(グラスを回す前) | 立ち上がる香りの強さ | 香りが開いているか、閉じているか |
| 香り(グラスを回した後) | 果実、花、樽、熟成の香り | 品種の系統、樽の有無、熟成の進み方 |
| 味わい | 酸、渋み、甘み、アルコール、余韻 | 産地の気候、造りの方向、収穫年の見当 |
| 結論 | ここまでの整合 | 品種・産地・収穫年の候補を二つか三つに絞る |
外観から始めるのは、情報量が少ないからではなく、後戻りのきかない情報から取るためです。色は、グラスを回しても香りを嗅いでも変わりません。白ワインでいえば、樽の強いアメリカのシャルドネは黄金色に寄り、シャブリのような造りは黄金までいかない黄色が中心になります。色の濃さの差が、そのまま樽の強さの差として現れます。赤ワインでは、熟成が進むにつれて縁の色がレンガ色に近づいていきます。
香りは、二度に分けて嗅ぎます。まずグラスを回さずに嗅ぎ、それからグラスを回してもう一度嗅ぎます。この二回のあいだで香りがどう変わるかが、そのワインの開き方です。回す前から香りが立っていれば、すでに開いている状態です。回してようやく香りが出てくるのであれば、まだ閉じています。閉じたワインを開いたワインとして判断すると、果実味の量を低く見積もる方向に間違います。
味わいでは、酸・渋み・甘み・アルコール・余韻を分けて取ります。ここで大切なのは、それぞれの「多い/少ない」を自分の言葉で言い切ることです。言い切らないまま次の要素に移ると、結論の段階で材料が残りません。
品種を絞る三つの判断軸
品種名を思い浮かべる前に、決めておきたいことが三つあります。この三つが決まると、候補はおおよそ二つか三つまで落ちます。
ひとつめは、冷涼な産地か、暖かい産地かです。酸が高く、果実の香りが青さや張りを持つ方向なら冷涼寄り。酸が穏やかで、果実が熟した甘い香りに寄り、アルコールの温かさを感じるなら温暖寄りです。同じ品種でも、この一点で表情がはっきり分かれます。
ふたつめは、樽を使っているかどうかです。バニラ、ナッツ、トースト、ココナッツのような香りは、果実からは出てきません。樽の由来です。白で樽の気配があれば、ソーヴィニヨン・ブランやリースリングの可能性は下がります。樽が何を与えるのかは、樽熟成を扱った記事で詳しく扱っています。
みっつめは、酸と渋みのどちらが骨格を作っているかです。赤で、色が淡いのに口の中が締まるなら、渋みではなく酸が支えています。色が濃く、舌の上がざらつくなら渋みが骨格です。この判断は、ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンを分ける最初の分岐になります。
当てられなくても、皿は組める
私はワインの資格を持っていません。現場では、資格を持つソムリエに入ってもらい、案件の性格に合わせて人を替えています。それでも、毎日ワインを嗅ぎ、料理の側から判断を下しています。
そこで分かったことがあります。利き当てとペアリングは、別の技術です。 品種名が分からなくても、香りが三つ取れていれば皿は組めます。逆に、品種名を即答できても、香りを言葉にしていなければ皿は決まりません。
私が実際にやっているのは、香りを主要な三つに絞り、それぞれを実在の食材に置き換え、連想を広げて共通して出てくる食材を主役に据える、という手順です。レモン・潮・青りんごの三つが取れたなら、レモンと海苔の両方から出てくる牡蠣が主役になります。組み立ての詳細は、ペアリングの組み立て方をまとめた記事に書きました。
ブラインドテイスティングの練習も、ここに繋がっています。品種名を言い当てる訓練ではなく、グラスの中身を言葉にする訓練だと考えると、外したときの一杯も無駄になりません。
基準になる六品種
絞り込みを速くするには、比べる基準を体の中に持っておくことです。白三つ、赤三つを覚えておくと、残りの品種は「どれに近いか」で位置づけられます。
| 品種 | 決め手になる特徴 |
|---|---|
| シャルドネ | 品種固有の香りが穏やか。樽や乳酸の香りが前に出やすく、産地で表情が大きく変わる |
| ソーヴィニヨン・ブラン | 青草、グレープフルーツ、ハーブ。酸が高く、香りの輪郭が分かりやすい |
| リースリング | 白い花、石を思わせる香り。酸が鋭く、辛口から甘口まで幅がある |
| ピノ・ノワール | 色が淡い。赤い果実と土の香り。渋みが少なく、酸が骨格を作る |
| カベルネ・ソーヴィニヨン | 色が濃い。カシスと杉。渋みが多く、骨格が強い |
| シラー | 色が濃い。黒胡椒とスパイス。渋みはカベルネより丸い |
この六つを選ぶ理由は、互いに離れているからです。シャルドネとソーヴィニヨン・ブランは、香りの強さがほぼ逆の方向にあります。ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンは、色と渋みの両方で対照的です。離れた基準を先に置くと、あいだに入る品種の居場所が決まります。
たとえばメルローは、カベルネ・ソーヴィニヨンより渋みが柔らかく、果実が丸い方向にあります。シュナン・ブランは、リースリングと同じく酸が高く、甘辛の幅が広い品種です。基準からの距離で覚えると、品種の数が増えても地図は崩れません。各品種の掘り下げは、品種と造り方からワインの種類を整理した記事から辿れます。
ワインエキスパート二次試験に向けた練習法
ワインエキスパートの二次試験は、テイスティングで構成されています。試験時間は50分で、ソムリエと違って三次試験はありません。つまり、二次試験のテイスティングが最後の関門になります。
練習で効くことは、二つあります。
ひとつは、同じ品種を二つの産地で並べることです。シャルドネを冷涼な産地と温暖な産地で、ピノ・ノワールも同じように二つの産地で並べます。品種を固定して産地だけを変えると、変わった要素が気候だけに絞られます。一度に二つ以上を変えると、何が差を作ったのか分からなくなります。並べ方の設計は、飲み比べは一つだけ変えるという記事にまとめました。
もうひとつは、言葉を固定することです。同じ感覚に対して、毎回違う言葉を当てていると、記録が蓄積しません。「酸が高い」「樽あり」「渋みは中程度」のように、自分の中で決まった言い方を用意します。試験では、用意された用語から表現を選ぶ形式が取られます。日常の練習から同じ語彙で記録しておくと、本番で言葉を探す時間が減ります。
なお、試飲会やテイスティングの場であれば、口に含んだものは吐き出します。私たちも、お客さまの前では吐き出しませんが、試飲の場では吐き出します。練習で何種類も続けて飲むときは、この作法が集中力を保ちます。
試験の制度そのもの、合格率や費用、一次試験のCBT方式については、ワインエキスパート試験の受験ガイドに整理しています。
家でブラインドテイスティングを準備する
家でも、道具を揃えずに始められます。
- ボトルをアルミホイルか紙袋で包み、ラベルと瓶の形を隠します
- 包んだボトルに番号を書き、グラスにも同じ番号を置きます
- 記録用紙を作り、外観・香り・味わい・結論の順に欄を分けます
- グラスは同じ形で揃えます。形が違うと香りの立ち方が変わります
- 温度を揃えます。冷えすぎた一本は、香りも酸も読み取りにくくなります
隠すものは、ラベルだけではありません。瓶の形と色も情報になります。ブルゴーニュ型かボルドー型か、緑瓶か透明瓶かで、候補はかなり絞られてしまいます。袋で包むか、注ぐ人が別室で注ぐ形にすると、この情報を消せます。
グラスと温度については、それぞれグラスの形と香りの関係とワインの適温の記事で扱っています。練習の条件を揃えるという意味では、どちらも手順の一部です。
記録は、当たり外れだけを書かないことをおすすめします。外したときに、外観でどう見立て、香りでどう判断したのかが残っていれば、次の一杯でその段を直せます。残っていなければ、同じところで外し続けます。
何人かで並べると、覚えるのが早くなる
一人で続けると、本数が足りません。一本を開けて一品種、翌日にもう一本で別の品種という進め方では、比べる相手が記憶の中にしかいません。輪郭は、どうしてもぼやけます。
何人かで集まれば、同じ夜に六本でも十本でも並びます。品種を固定して産地を変えた並びも、同じ産地で収穫年だけを変えた並びも、その場で作れます。他の人が取った香りの言葉を聞けることも、一人の練習では得られないものです。
Na Team Labでは、毎月テーマを立ててワイン会を企画しています。1回あたり6本から15本を並べ、品種別・年代別・産地別のように共通点を作って飲み比べる形を基本にしています。これまでにシャンパーニュだけを集めた会を開き、ピノ・ノワールやシャルドネをテーマにした回も組んでいます。料理はコース形式で7品ほど、ビュッフェ形式では10品ほどをお出しし、8名から30名ほどの規模で開いています。
まとめ
ブラインドテイスティングは、名前を言い当てる競技ではありません。順番を持って観察し、候補を絞る作業です。
- ブラインドテイスティングは、銘柄を伏せて品種・産地・収穫年を推定する方法です
- 手順は外観・香り(回す前と後)・味わい・結論の順。後戻りのきかない情報から取ります
- 絞る判断軸は三つ。冷涼か温暖か、樽の有無、酸と渋みのどちらが骨格かです
- 基準になる六品種を先に置くと、あいだに入る品種を距離で位置づけられます
- 二次試験に向けた練習は、同じ品種を二つの産地で並べ、記録の言葉を固定することです
次にグラスを前にしたときは、品種名を思い浮かべる前に、産地の気温だけを決めてみてください。それだけで、候補はずいぶん減ります。
よくある質問
一人でもブラインドテイスティングの練習はできますか?
できます。ボトルをアルミホイルで包んで番号を振り、数日置いてから順番の記憶が薄れた状態で注ぐ方法があります。ハーフボトルを二本使えば、同じ品種の産地違いも一人で並べられます。記録を残しておくと、次の練習に繋がります。
何本くらい飲むと品種が分かるようになりますか?
本数よりも、同じ品種を繰り返す回数が効きます。基準になる六品種を、産地を変えて何度も通る方が、違う品種を一本ずつ広く飲むより輪郭が残ります。並べて比べた一夜は、別の日に一本ずつ飲んだ記憶より濃く残ります。
ワインエキスパートの二次試験では、どこが問われますか?
二次試験はテイスティングで、試験時間は50分です。ソムリエと違い、三次試験はありません。外観・香り・味わいの表現を選び、品種や産地を推定する形式が中心になります。制度の詳細や学習の進め方は、受験ガイドの記事に整理しています。
一杯の違いを、料理とともに確かめる。
少人数のワイン会で、グラス、温度、料理との関係を実際に比べます。

